ポケットモンスター 窓際警部の逆転劇。あなぬけのヒモ一本で、悪の組織を全滅させて、壊れた世界を繋ぎ直す話   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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ウルトラビースト掃討指令

アローラの空が、まるでガラスにひびが入ったかのように歪んでいく。極彩色の夕闇を切り裂いて現れたのは、この世界の生態系には決して存在し得ない、異形の輝きを放つ軍勢だった。

 

「……俺はハンサム。世界で一番、不釣り合いな名前の男だ」

 

波打ち際に立ち、俺は震える手でホルスターの横を叩いた。潮風に混じって、あの10年前と同じ、鼻を突くような次元の焦げ付いた臭いが漂ってくる。

 

「各員、戦闘配備! 住民の避難を最優先に! これよりウルトラビーストの掃討、および確保作戦を開始する!」

 

通信機から響くリラの声は、かつてないほど鋭く、そしてどこか悲痛だった。彼女は「フォール」としての本能で、目前の脅威がどれほどの絶望をもたらすかを理解しているのだろう。

 

「ゲコッ……!」

 

足元のグレッグルが、低い姿勢で喉を鳴らした。その瞳には、10年前、自分の同胞であり、当時の相棒であった先代のグレッグルを奪ったあの白き怪物への、根深い殺意が宿っている。

 

「わかっているさ、相棒。今日こそは……誰も見捨てさせない」

 

砂浜の奥から、白銀の甲殻を持つ巨大な「UB:01」が、浮遊しながらこちらへ迫ってくる。その透明な触手が揺れるたび、周囲の空間が震え、現実の輪郭が曖昧になっていく。

 

「ハンサム! 下がって!」

 

白光を背負って、リラが駆け寄ってきた。彼女の傍らには、彼女の相棒であるフーディンが浮いている。

 

「局長! ここは俺とグレッグルで食い止めます! あなたは後方の指揮を!」

 

「いいえ。私が『餌』である限り、奴らは私を追ってくる。……ハンサム、わかっているはずです。これが私の『役割』なのだと」

 

リラの瞳は冷たく、そして空虚だった。組織によって「UBを惹きつけるフォール」として定義された自分の運命を、彼女は呪うことさえ忘れている。その姿が、10年前に彼女をこの絶望へ叩き落とした俺の無力さを、容赦なく突きつけてくる。

 

「役割なんて言葉で、命を投げ出すな! あなたには……あなたには、もっと別の未来があったはずなんだ!」

 

「未来? 私にあるのは、断片的な記憶の欠片と、組織からの命令だけです。フーディン、サイコキネシス!」

 

フーディンの放つ強力な念動力がUBを押し戻すが、異世界の怪物はその衝撃を吸収し、さらにその輝きを増していく。10年前と同じ光景だ。法の守護者として、正義の執行者として立ち向かっても、次元の壁を越えてきた理不尽の前では、すべてが虚無に帰していく。

 

「ゲコォッ!」

 

グレッグルのどくづきがUBの触手を弾く。だが、後方の次元の裂け目からは、さらに別の影が、細長い手足を持つ漆黒の怪物が這い出そうとしていた。

 

「数が多すぎる……。リラ局長、撤退の指示を!」

 

「……できません。ここで食い止めなければ、メレメレ島の集落が壊滅します。ハンサム、あなたは市民の避難誘導へ。これは命令です」

 

リラは俺に背を向け、フーディンと共に異形の軍勢の中へと歩みを進めた。その背中は、あまりにも小さく、そして脆い。

 

「……またか。また俺は、この背中を見送るだけなのか……」

 

トレンチコートのポケットの中で、俺は1本のあなぬけのヒモを握りしめた。

カロスでマチエールに預けようとした、過去との決別。しかし、結局手放せなかったこの古いヒモは、今、俺の手の中で冷たく、重い現実を伝えてくる。

 

組織は、リラを使い捨ての駒としか見ていない。

10年前、俺の相棒を「餌」として使い捨てた時と同じように。

そして今、彼女自身がその論理を受け入れ、自ら「餌」になろうとしている。

 

「……ふざけるな。そんなものが、正義であってたまるか!」

 

俺は通信機を砂浜に叩きつけ、グレッグルと共にリラの隣へ駆け抜けた。

 

「ハンサム!? 命令違反です! 下がりなさい!」

 

「あいにくですが、リラ局長。俺はもう、組織の犬はやめたんです。俺の名前はハンサム。世界で一番不釣り合いな名前を、あのお節介な街の人たちがつけてくれた日から、俺の正義は、俺自身が決めることにしたんだ!」

 

俺はあなぬけのヒモを、拳に固く巻きつけた。

10年前、俺はこのヒモを使って穴から抜け出した。だが、今は違う。

このヒモを、リラという大切な存在を繋ぎ止めるための、命綱にする。

 

「グレッグル、ドレインパンチ! 奴らのエネルギーを奪い取れ!」

 

「ゲコォォッ!」

 

グレッグルの拳がUBの核を捉える。リラが驚愕に目を見開く中、俺は彼女の腕を強く掴んだ。

 

「リラさん。記憶がなくても、名前が違っていても、俺だけは知っている。あなたは、誰よりも気高い魂を持った『刑事』だ。……餌になんて、死んでもさせない!」

 

異形の咆哮がアローラの海を揺らす。

10年前と同じ地獄の中で、だが俺の心は、かつてないほど透き通っていた。

正義の仮面を剥ぎ取り、組織の論理をかなぐり捨てた時、ようやく俺は、本当の意味で「ハンサム」な男になれたような気がした。

 

掃討作戦という名の、残酷な儀式が続く。

だが、このアローラの夕闇が明ける時、俺は必ず、彼女を光の中へ引き戻してみせる。

たとえ、その代償に俺のすべてを捧げることになろうとも。

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