ポケットモンスター 窓際警部の逆転劇。あなぬけのヒモ一本で、悪の組織を全滅させて、壊れた世界を繋ぎ直す話   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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国際警察、最後の審判

アローラの夜明けは、すべてを暴き出すような残酷なまでの白さに満ちていた。ウルトラビーストとの死闘を終えたメレメレ島の海岸線には、異世界のエネルギーが焦げ付いた嫌な臭いと、波の音だけが虚しく響いている。

 

「……俺はハンサム。世界で一番、不釣り合いな名前の男だ」

 

俺は砂浜に膝をつき、砂塗れの通信機を拾い上げた。身体中の節々が悲鳴を上げ、視界は端から煤けていくようだったが、胸の奥に灯った怒りの火だけが、俺を現世に繋ぎ止めていた。

 

「ハンサム特捜官……。無事だったのですか」

 

背後から声をかけてきたのは、リラだった。彼女の手には、俺が託した「あなぬけのヒモ」が固く握られている。その表情には、部下を囮にして生き延びたことへの自責と、組織の論理に裏切られ続けてきた者の乾いた絶望が混ざり合っていた。

 

「……局長。いや、リラさん。あんたのフーディンに無理をさせてすまなかったな。だが、おかげで目が覚めたよ。俺たちの戦うべき相手は、あの異形の怪物たちだけじゃなかったんだ」

 

俺はよろけながら立ち上がり、通信機のスイッチを入れた。そこから漏れ聞こえるのは、国際警察本部の幹部たちの冷徹な音声だ。

 

『——特捜官ハンサムの信号消失を確認。フォール2名の接触によるUBの誘引データは期待値を超えた。リラ局長の精神安定性は限界に近いが、次なる作戦への転用を検討せよ』

 

「……聞こえるか、リラさん。これが、俺たちが命を懸けて守ってきた組織の正体だ」

 

「知っていました……。薄々は。私が記憶を失い、異界の毒を浴びたあの日から、私はただの『装置』として扱われていた。でも、それが世界を守るための犠牲だと言い聞かせて……」

 

リラの拳が震えている。俺は彼女に近づき、その肩に手を置いた。

 

「犠牲の上に成り立つ平和を、正義とは呼ばない。カロスで出会ったマチエールという少女も、イッシュで対話した賢者たちも、みんな自分の人生を懸命に生きていた。組織の駒として使い捨てられていい命なんて、この世界のどこにもないんだ!」

 

俺は通信機の暗号化回線をバイパスし、全チャンネルへと接続した。国際警察の全特捜官、そして世界中の主要メディアが受信可能なオープン回線だ。

 

「ハンサム! 何をするつもりですか!?」

 

「告発だよ、リラさん。刑事の矜持を懸けた、最後の大立ち回りだ」

 

俺は深呼吸をし、マイクに向かって声を張り上げた。

 

「国際警察本部に告ぐ! 私は特捜官ハンサムだ! 現在、アローラ地方で行われたUB掃討作戦における、組織の非人道的な隠蔽工作、および『フォール』と呼ばれる人間を餌とした実験的運用の全記録を、私は手中に収めている!」

 

通信の向こう側が、一瞬で凍りついたのがわかった。

 

「我々は法の番人であるはずだ! だが、貴様たちがやっていることは、かつてのギンガ団やプラズマ団と何ら変わりはない! 命を数字で測り、都合の悪い真実を闇に葬る……そんな組織に、正義を語る資格はない!」

 

『ハンサム特捜官、通信を切れ! これは反逆行為だ! 直ちに武装解除し、出頭せよ!』

 

幹部の怒号が響くが、俺の口は止まらない。

 

「反逆? ああ、大いに結構! 俺は今日、国際警察の『犬』であることを辞める! 俺が信じるのは、組織の命令じゃない。目の前で泣いている人の涙を拭い、苦しんでいる相棒の手を取る……そんな、泥臭い人間の意志だ!」

 

俺は隣で立ち尽くすリラを見た。彼女の瞳に、少しずつ、だが確かな光が戻っていく。

 

「リラさん、あんたも選ぶんだ。組織が用意した『役割』を演じ続けるのか。それとも、失った記憶以上の価値がある、自分自身の未来を掴み取るのか」

 

リラはゆっくりと、手の中にあった「あなぬけのヒモ」を見つめた。

そして、そのヒモを自分の手首に固く巻き直すと、凛とした表情でマイクに向き直った。

 

「……こちら、リラ局長です。特捜官ハンサムの告発を、現場責任者として全面的に支持します。本件に関するすべての生データは、すでに私の個人サーバーから全世界の独立調査機関へ送信を開始しました」

 

「……リラさん」

 

「私はもう、餌ではありません。……一人の人間として、あなたと共に審判を下します」

 

朝日が、二人の影を砂浜に長く引き伸ばした。

国際警察という巨大な壁を相手にした、たった二人の反逆。カタルシスなんて呼べるほど爽快なものじゃない。明日からは追われる身となり、これまで築き上げてきた名声も居場所もすべて失うだろう。

 

だが、俺の心は驚くほど軽かった。

トレンチコートのポケットに手を入れると、そこにはもう、自分を縛り付けていたヒモはない。代わりに、マチエールが淹れてくれたココアの温もりを思い出すような、確かな勇気が宿っていた。

 

「……俺はハンサム。世界で一番、不釣り合いな名前の男だ」

 

俺は通信機の電源を切り、それを海へと放り投げた。

組織の闇を暴き、使い捨ての正義を終わらせる。

刑事としての最後の仕事は、今、最高の結果で幕を閉じた。

 

「行きましょう、ハンサム。新しい明日が、すぐそこまで来ています」

 

「ああ。……まずは、最高に美味い朝飯でも探しに行こうか、上司殿」

 

グレッグルが「ゲコッ」と笑ったような気がした。

アローラの海は、汚れのない純白の光に包まれ、静かに輝いていた。

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