地球人と魔族の混血はサイヤ人を超えたい   作:抹茶好きの紅茶

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ハンノウ

 

 そこは第1魔界、王宮の執務室。

 豪奢な椅子に身を任せ、そこに坐すは頬杖をつく王。相対する幼き姿の家臣は、片膝をつき、頭を下げ、眠る赤ん坊を抱えて言葉を発す。

 

「──という訳、です。養育の許可を、お願い、します」

 

「………………」

 

 王は家臣の願いを聞くと金色の眼を目蓋で閉ざす。そうして、ピタリと石のように動きが固まった。

 

 暗黒魔界の王、ダーブラは困っていた。

 

 なぜなら、1年の長期休暇経て仕事に帰ってきた者が仕事場に赤ん坊を連れてきたのだから。

 説明を受けたゆえ、理解が出来ないわけではない。ただ私を悩ませている理由は、此処が大魔界であること。そして、ホオズキの精神的負担である。ホオズキが住んでいるのはこの王宮であるが……幼児、それも赤ん坊を育てるとなると、仕事中も世話をしなければならんだろう。

 

 ここは魔界、邪悪に溢れた危険な世界だ。外の世界から連れてきた人間が、それも赤ん坊が容易に生きていける環境ではない。

 本来であれば、元の場所に返してこいと言うべきなのだろうが……いかんせん目の前のホオズキは甘い。魔族にあるまじき甘さだ。

 私の命令であれば聞くだろうが、その後が問題だ。赤ん坊のその後を気にして、却って仕事が滞る可能性がある。

 ならば、養母でも雇うべきか?しかし、魔族である以上、完全な安心は出来ん。弱き身内は弱点になり得る。

 

 困った。なまじ優秀な所為で本当に困っている。これが他の部下などであれば無理矢理にでも命令を下すのだが……

 

「……本当にキサマが、十全に赤ん坊の世話を出来ると?」

 

「はい」

 

「この大魔界で、糞尿の処理も、飯も、夜泣きも、風呂も、我が儘も、仕事をこなしつつ全てに対応せねばならんのだぞ」

 

「魔術がある。ので、大丈夫、です」

 

「……キサマは人に近しいが、同時に魔族の血も入っている。寿命は、魔族に近しい。理解できるな?」

 

「………………はい」

 

 目の前のホオズキは間を置き、確かな覚悟をもって言葉にした。しかし真に理解できていない。

 いずれ来る別れに、はたしてホオズキは耐えきれるだろうか。

 

 ……情というものは厄介だ。この私であっても、トワを人質にでも取られれば瞬刻は動揺する。

 

 ホオズキは若い。肉体もそうだが、精神も成熟しているようで未だ青い。だが今や、戦闘技術、身体、魔力、キリ、全てにおいてゴマーを超え、この私に迫らんとする程なのだ。

 もし。もしだ、ホオズキが私に殺意を向けてきた時、私はヤツを止められるだろうか。

 

「…………フンッ、面を上げよ──1年だ。それまでに三度、キサマが見るに耐えん行動をした、その瞬間。その者を外の世界に戻したうえで、養子に出す。良いな?」

 

「っ、はい……!」

 

 大方、心配だったのだろう。ホオズキは声色を明るくし、喜んでいる。相変わらずの無表情であるが、なんと分かりやすいことか。

 

 社交辞令的な応対を繰り返し、ホオズキは赤ん坊を連れ、部屋を去る。重厚な扉が閉まると同時に、無意識からため息をついた。

 

 全く、我ながら甘い。これでは、極悪非道である暗黒魔界の王の名が廃るというもの。

 

「……フッ」

 

 そんな風に考え、頬杖をついたまま鼻を鳴らす大魔王。その口角は、ほんのり上がっていた。

 

 

 

 

 

 

「赤ん坊の育成方法。教えて欲しい……!」

 

「「は?」」

 

 そんな風に頭を下げたのは、暴れる赤ん坊を魔術で押さえるホオズキだった。思わずデゲスと目を合わし……いやいやいや待て待て待て待て!

 

「なぁぜそうなったぁ! そもそも、ダーブラ王から許しは得たのか!?」

 

「さっき、得てきた。ただ、暴れん坊で……とても、困っている」

 

「見れば分かりますよ……大体、何処の星で拾ってきたんですか。薄橙色の肌をした、黒髪ボサボサ頭の尻尾の生えた赤ん坊なんて」

 

「地球──」

 

「地球ぅ? んー何処かで聞いたことのあるような、そうでもないような」

 

「……ああ、アナタが生まれ住んでいた星ですか。確か、魔人ブウが封印されているという」

 

「なぁにぃ!? ま、ま、まま、魔人ブウー!? ソイツは確か500万年前に第7宇宙で暴れまわっていた魔人じゃないか!」

 

「その後は、界王神である愚兄愚姉が命を掛けて封印したとかなんとか。ま、偉そうにしていたツケですよ。唯一ナハレだけが生き延びて、未だのうのうとでしゃばっているようですが……すみません、話がズレましたね。その赤ん坊は地球人ですか」

 

「──に、宇宙船が降ってきて、その中に居た」

 

 遅すぎる補足に思わずデゲス共々その場で盛大にずっこける。ええい!数百年経ってもその喋り方は直らんのか!

 

「……では、何処の星から来たかも分からないと?」

 

「待て、さっき宇宙船といったな。なら、宇宙船に手がかりがあるんじゃないか?」

 

「ん……壊れた」

 

「「──はぁーー」」

 

「む、心外……!」

 

 額に手を置き、思わずデゲスと目を合わせる。何故壊した。重要情報だろう、ソレは。

 デゲスとわたしが呆れた目で見ていると、焦ったように尻尾をつかんで大人しくさせた赤ん坊を、此方へ見せながら説明を始め出す。

 

「こ、この子が、満月を見たら、大きくなって、大きな猿に。丁度、宇宙船の、中に居たから、潰れた」

 

「はぁ、それを先に言って下さいよ。満月を見ると大猿に、ですか。でしたら……確かサイヤ人といった種族では?」

 

「サイヤ人? ふぅむ、聞いたことがないな」

 

「ええ、数百年前までは惑星サダラに生息する野蛮な狩猟民族でしたから。愚かしくも内戦まで起こして、今や少数民族に……ああ、ですが惑星プラントに住むツフル星人がサイヤ人を取り込んだようですよ」

 

「へぇ、詳しい」

 

「最下級戦士であってもサイバイマン並みの強さだとか。更に一定条件下で10倍の強さに変身すると……満月を見て巨大化したというのも、1700万ゼノ超えのブルーツ波を浴びたからでしょうね」

 

「……なるほど、ありがとう。星の、座標とか、分かる?」

 

「ええ、共有しておきますか」

 

「うん、お願い」

 

 ホオズキは赤ん坊を此方へと渡し、デゲスと魔術で情報交換を始めた。全く、外の世界から人間の赤ん坊を連れてきて世話をするなど……ダーブラ王は何を考えているのやら。

 

「……っ! だぁーー!」

 

「のぉわぁっ!?」

 

 力無げにしていた赤ん坊を抱えていると、急に豹変し、その体をジタバタとさせ、此方へと襲いかかってくるではないか。驚きつつもなんとか対処するが……中途半端に力が強い。困ったぞ、押さえ込もうとうっかり強く持てば赤ん坊が潰れかねない。

 

「、ゴマー様!」

 

「ぐっ……! ホオズキ! お前の赤ん坊だろう! なんとかしろーッ!」

 

「あ、ごめ──」

 

「だぁー!」

 

「──ぐはっ!? あだだだだだ!? くっ、コ、コイツめぇ!」

 

「ま、待って! ほら、捕まえた……!」

 

 コイツ!抜け出したうえに、わたしの顔を遠慮なく叩いたぞ!?逃げ出そうとする赤ん坊をホオズキが魔術で捕まえたが……!

 

「……えーっと、ごめん、なさい」

 

「──二度と連れて来るなぁーッ!」

 

 

 

 

 

「と、いうことが、あって……」

 

「ふふ、それで私達のところにね」

 

「はぁ。全く、放っておけば良いものを」

 

 王宮内の研究室。茶会をしつつ、久し振りに帰ってきたホオズキからの相談に、私とアリンスは各々の意見を出し合う。赤ん坊の世話は大変だ。そのうえ魔族と比べ成長は早い。衣類や寝具、オムツやケア用品。入浴グッズに離乳食の用意、玩具や絵本も必要になる。ホオズキの仕事量を鑑みて、正直育児は不可能に近いだろう。

 

「はぁ、もう子守りなんて、お前の部下達に任せたらいいだろう」

 

「……それは、考えた。けど」

 

「「けど?」」

 

「……悪影響」

 

『((((えー!? そりゃないっスよぉ!))))』

 

 ……騒がしい幻聴が聞こえた気がする。顔をしかめて話すホオズキの話に納得しアリンスと共に頷いた。憲兵特選隊といい、どうして癖の強いヤツが多いのか。

 

「お兄様から許しが出たのは良いけれど、問題は山積みね」

 

「言っておくが、私達は世話なんてしないからね」

 

「……うん。わかった」

 

「──まあ、相談ぐらいなら乗ってやらない事もないけど」

 

 目に見えてションボリとした様子のホオズキを見かねて、アリンスは付け加えるように、そっぽを向いて語る。その言葉を聞いたホオズキは、パァっと無表情ながらに顔を明るくさせた。なんとも分かりやすい。利用されないか心配になるぐらいだ。それにしても──

 

「ふふ、相変わらず優しいのね」

 

「ふん」

 

 ──アリンスに関わらず、ゴマーもデゲスも、お兄様ですら甘くなった。いや、お兄様のソレは父性に近いしいかしら。かくいう私も、影響を受けていない訳じゃない。

 既に200年以上は関わり続けているのだ。思い返せば、最初は名前すら持たないホオズキを傍観しているだけだったが──

 

「──あら、そういえば名前は無いのかしら?」

 

「え?」

 

「……まさか、未だ決めてなかったのかい?」

 

 アリンスはキョトンとした顔のホオズキを見て、頭を抱える。まあ、あまり名前に頓着しないから仕方がないのかもしれない。50年も経って名前すら無かったのだから無理もないが。

 その反応を見たホオズキは、少し考えた後に赤ん坊を持ち上げて視線を合わせる。

 

「……キドニィ。うん、この子の名前は、キドニィ」

 

「──うぁー!」

 

「……気に入らなかったみたい」

 

「「………………」」

 

 ホオズキが腕の中で暴れまわる赤ん坊をあやそうとしている姿を眺め、呆れながらホオズキと赤ん坊のこの先を憂うのだった。

 

 

 

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