地球人と魔族の混血はサイヤ人を超えたい 作:抹茶好きの紅茶
「──美味しい。コレ もう1セット 追加 お願い」
「は、はい! 只今お持ちしますので少々お待ちを」
そこはジャパナイズ風の中華料理が売りの店。
忙しなく動き続ける厨房のスタッフを横目に、全客の視線は、メニューに記された全ての料理が並んでいる壮観なテーブルに注がれていた。
巨大なテーブルが埋めつくされる程の料理群が、まるで手品のように消えていく。増えゆく空皿。「追加」の一言で補充され続ける料理の数々。
そんなテーブルを前に座るは、たった1人の子供。
耳の尖った白髪紅眼の中性的な見た目の子供である。
その身体の何処に収まっているのか理解が出来ない量の料理の数々が、あっという間に胃袋へ消えてゆく。
そうして出された料理を粗方平らげ、腹の5分程が満たされた頃、近づいてきた懐かしい
「──ッんぐ、ゴクン……久しぶり、武泰斗様」
「なんの騒ぎと思い来てみれば、おぬしか。10年振りかの、息災そうで何よりじゃ」
入店して私に近づき声をかけたのは、左胸に武と描かれた白い胴着を見に纏い、立派な口髭を携えたお爺さん。
現在から10年ほど前に出会い、私に修行のなんたるかを説いた武泰斗という名の武道家であった。
「……食べる?」
「よい、気にするな。町の者が騒がしくての、様子を見に来ただけじゃ。それにしても、相変わらずよう食べるのお」
「うん。食べるのが 好きだから──あ、ここのギョウザ 珍しい けど、美味しいよ。食べてみて」
「む……では、お言葉に甘えてお一つ頂戴しよう──ほお」
焼き目はカリっと、ひだはもっちり。
噛む度に溢れ出る肉汁と、甘い野菜の素晴らしい旨さは、多幸感を与えてくれる。
特に、この餃子はキャベツが多い。甘くてジューシー、シャキシャキとした食感もあって飽きが来ない。ニンニクと生姜も良い味を出している。
「この店、肉の扱いが うまい」
「ふむ。他店と変わった料理ゆえ敬遠していたが、これはこれでよいものじゃの」
この地域は本格的な中華料理店が多く、こういった日本式の中華料理店は少ない。どちらの店も美味しいのだが、魂的には日本式の方が安心するから好きだったりする。ともあれ、本格的な中華料理も違った美味しさがあるので、基本的にはその時の気分なのだが。
ギョウザを平らげた後、自然と横に置いてあった汁物に手を伸ばし、ゴクリと飲む。
鳥ベースの出汁がよく効いているスープだ。ネギのシャキシャキ食感と溶きふわ玉子の食感が奇跡的にベストマッチしている。心地よい塩味、口の中いっぱいに温かな旨味が広がった。
口の中が空になれば、中華蒸籠の中にある熱々の肉まんを手に取り頬張る。
一口噛めば口いっぱいに旨味抜群の肉汁が爆発的に広がり、モッチモチでほんのり甘い皮と肉。そして、タケノコのコリコリとした食感が素晴らしいアクセントとなって絶妙なハーモニーを奏でていた。
もう一つ──と、手を伸ばしたその時。
店の外から、多くの悲鳴と大勢が逃げ惑うような足音が聞こえてきた。
「……相変わらず 治安最悪 だね」
「うむ。いつになっても狼藉者は跡を絶たん」
店員に少し席を立つと言ってから、武泰斗様と共に店の外へと出る。 店前の大通りでは、ドラゴンに似た風貌のモンスター型地球人が家を壊しながら暴れていた。
「金だ! 金を寄越せ! 酒と女もだ! 逆らえば──グギャッ!?」
状況を理解し、瞬時に距離を詰めてボディブローをくらわす。そうすればあっさりと、暴れていた者はバタリと地面に倒れた。
悪・即・拳である。
暴れていた奴が気絶したのを確認した後、直ぐに店内に戻り食事を再開。ここからは警備隊とかの領分だし、なにより飯が冷めるのはごめんだ。
この世界ではよくある事。ここよりも大きな街では1日に数十件以上の事件が起きていた。そんな事件の対処も幾数千、最早流れ作業の域である。
「全く。中々泰平の世にはならんのぉ」
「うん。馬鹿なこと やってないで、働けば 良い」
「その通りじゃ。してお主、今は何の仕事をしておるのじゃ?」
そんな言葉に、思わずピタリと食事の手を止める。
逡巡の後、ギギギと錆び付いたロボットのような動きで食事を再開しながら こう答えた。
「……賞金稼ぎ」
「安定しておらぬの」
「うぐ……の、農作業 とか、手伝ってる から。たまに」
転生してから数十年。放浪、食事、鍛練、睡眠を繰り返す毎日。物語を鑑賞している時は他人事のように純粋サイヤ人共を無職煽りをしていたものだが、今は自身がその対象になりうる生活をしていた。だが、しかし、少し待って欲しい。
「あ、悪人 倒して、修行にもなって、お金も 貰える。一石三鳥……!」
「否定はせぬよ。人助けであることに変わりはあるまい。安定した収入とは言えんが、食うに困らんのならば良い仕事じゃろう。しかしまぁ、相変わらず修行を続けておるようじゃの。随分と見違えたわい」
「ふふん。アドバイスの お陰。ありがとう、ございました」
感謝の言葉を告げ、ペコリと頭を下げる。
あれ以来、行き詰まっていた気のコントロールは驚くほどスムーズに成長し、私の戦闘力は右肩上がり。それに伴って身体能力も向上したし、空も自由に飛べるようになった。いやまぁ、たまに筋斗雲は使うが、それはそれ。
目の前の御老体は、ある種、今の私の在り方を教えてくれた師匠と言っても差し支えないだろう。武泰斗様マジリスペクトっす。
「なに、そこまで大層なコトはしておらぬよ。なにより、その力は、おぬし自身の努力によるものじゃ」
「だとしても、あの考え方は、私じゃ あんまり、思い付かなかったから。お陰で、今は とても 楽しく 生きてる。
改めて、ありがとう ございました」
本当に、感謝してもしきれない。
アドバイスのお陰で、修行以外に色々と楽しみが増えたのだ。食巡りの旅を通じて、恐竜のような人間や、アニマリン関係無しの純粋な獣人、人魚とも出会った。旅路の最中に絶景の風景を見つけた。正に、摩訶不思議アドベンチャーである。息抜きに強さや戦い以外に目を向ければ、そこには面白おかしい楽しげな世界が広がっていたのだ。
それは、あの短い会話がなければ、見つけられていない世界だったろうから。
「──そうか」
私の言葉に武泰斗様は朗らかに微笑み、私の頭を優しく撫でた。少しふくよかな体格とは裏腹に、鍛えられた硬い掌の感触が伝わってくる。
少し面食らったが、なんというか、こう。心の底がポカポカと暖かくなる。前世のことは、もう詳細には思い出せないし、今世においては孤児だったもんだから、ちょっと、こういう扱いは新鮮である。
「ふぅ、よお食べたわい。お勘定をしなくてはな」
武泰斗様が席を立ち、会計カウンターの方へと歩いてゆく。それに慌てて私が払おうと札束の入った財布を取り出すが、武泰斗様は手で私を制止させた。
「よいよい。こう見えて門下生が多くての、そりゃもう使いきれん程のゼニーがあるのじゃよ。貯めておいても、盗まれかねぬしな」
「……わかった。ありがとう 御馳走様 でした」
申し訳ない気持ちになるが、ここでの押し問答はあまりにも失礼だろう。
武泰斗様は涼しい顔で会計を済まし、外へと出る。いつの間にか日は傾いてきており、水平線は黄金色に染まっていた。
「御馳走様 でした。それじゃあ、また」
「うむ、またの。なに、おぬしは若い。生きていれば、その強さもより磨きがかかるであろう。さすれば、もっと人生を、面白おかしく生きてみせい」
「うん。武泰斗様も、お元気で」
そんな別れの言葉を伝えあい、私は沈みゆく太陽の方向へ歩みを進める。
それが、武泰斗様との最後の邂逅だった。
「────!」
「────!」
彼、ないしは彼女と出会った数日後。馬の合わない門下生の2人が、いつものように言い合いをしている。
両者、才能ある門下生ではあるのだ。成長すれば、わしをも越す逸材。欲に忠実なのが玉に瑕なのだが、それもご愛敬と言うものだろう。
「これ。鶴、亀──」
わしはもう、後先長くはないだろう。
何故だか最近、無性にそんな気がするのだ。
目の前の険悪な2人、優秀ではあるものの危うさも持ち合わせている。もし、わしが皆を置いて先立ってしまえば、どうなるか。
「──最近、良い店を見つけての。どうじゃ、これから共に夕食を食わぬか」
食とは、身体と心を作る源だ。
共に食べる仲間が居れば、更に精神は豊かになる。
よく食べて、よく動き、よく学び、よく休む。
強さとは、それらの行為に付随して身に付くモノなのだ。
それを忘れなければ、きっと、彼らは健全な精神を保てるであろう。
あの見違える程立派になった幼子を見て、わしはそう悟ることができた。
この先、わしの考えつかぬほどの強者が現れ続ける。そんな、確信に近しい予感がある。
しかし、あのような者が居るのならば安心だ。
より望むのであれば、健全な心の持ち主達が、全員で己を高め合うことが出きるのなら──
「──鶴、亀。おぬしらも、この武泰斗を超えてみせい」
願わくば、わしの亡き世が、泰平であらんことを願って。