腹痛と焦燥感の中……。
縄張りに侵入する、砂上を滑る珍妙な船。
威嚇すれば、間も無くして神秘を携えた者共が抵抗したから、ビナーはソレを敵と認定、無力化を試みた。
多少すばしっこいが、追いつけない程じゃない。 武装を展開するまでもない。 体当たりをかませば事足りるとして肉薄する。
今に始まった話でもなし。
縄張りを荒らす軍用オートマタの集団と度々交戦してきた。 今回もその手だ、所詮は同じ結末だと疑わない。
早い話、ビナーは相手を侮った。
奴らの装備は何れも貧相。 滅多に装甲を抜いてこない。 逆に向こうは衝撃波で倒れるほど貧弱だ。
神秘の同伴者には驚きだが、それだけだ。 今も彼女達の銃弾が、体表面で虚しく金属音を奏でては、火花と共にへしゃげて砕け、逸れていく。
が、その余裕がひっくり返るのは直後の事。
「捕鯨砲、テェッ!!」
船のオートマタが何やら叫び、船首の大筒から白煙が派手に伸びてきた。
その先頭は銛だ。 鋭く太く、大きな銛だ。
随分と先祖帰りだなもし、という呑気な思考に似合わず、なんと銃撃に耐える装甲に突き刺さる。
刹那、強烈な痺れが機体を包んだ。
───バチバチバチバチバチバチィッ!!!
「───ッ!!?」
銛から電流を流されたと知ったのは、機体の制御が滅茶苦茶になってからだった。
声にならぬ咆哮を上げ散らし、砂上に飛び上がってのたうち回る。
「効いた!? 効いてるぞ!!」
「副砲、続けて撃て!」
この苦痛の束縛から逃れようと暴れ散らし、胴体からミサイルが乱射され、口吻から悲鳴のレーザー光を飛び散らす。
砂塵が激しく舞い、あっという間に周囲は砂嵐の様相へと様変わり。
視界が遮られ、煙の奥でビナーの目、センサーとレーザー、ミサイルの発射炎と爆発が、無数の蜃気楼のように揺らめき光る。
「危ねぇ!?」
「がむしゃらに!」
「取舵! しっかり握ってろ!」
さも、コンサート会場の演出のようで滑稽であろうと、この時の衝撃は双方凄まじい。
片や半信半疑での攻撃が巨体に有効であると知り。 片や取るに足らぬとした小人共に咬まれたのだから。
ビナーは後悔した。 そして認めた。
目前の者共は我が天敵である事を。
幾星霜の果て、劣化した文明のキヴォトス人であろうと、キヴォトスの支配者足り得る存在であると。
「ッ! チャージし始めた!」
ビナーは電撃を受けながら、砂嵐の中央に聳え立つ。 大きく起立し、深呼吸のような動作を開始した。
「デカいのが来る!?」
「退避! 退避ーーーッ!!」
「逃げるんだよぉ!」
船が慌てて逃げていく。
蛇行して狙いをつけ辛いようにしながら。
だが無駄だ。
フルレーザーの破壊力は伊達じゃない。
「奴の口に鉛玉を喰わせて、少しでも妨害を!」
悪足掻きで口周りに撃ってくるが、高低差と蛇行航行故に、まともに当たらない。
少しはやってくれた。 しかし抵抗はここまで。
予言しよう。
貴様らは次の1撃で葬られると!
刹那。
カッ、とビナーの口吻が閃光で包まれ、そこから極太光線が船に伸びる。
直撃せずとも、着弾時に発生する破壊力は凄まじい。 その範囲に捉えての照射。
逃げられまい。 耐えられまい。 ここまでだ。
が、ここでも予想外の結果が生じるのだ。
「私がみんなを守るんだから!!」
翡翠の髪の者が躍り出て、盾を構えた。
すると忽ち、船が半透明な球体に覆われ、我が最上の光線を防ぎ切ったのだ!
「ユメ先輩……?」
「えへへ、いつも守られてばかりだったから。 今度は私の番かなって」
ビナーは畏怖にも似た感情を覚えた。
防いだ……? 岩をも軽々溶かす最高威力を?
あんな小人の、手持ちの小さな壁1枚で……?
他より惝怳していた、最も無害そうな者が、実は最も危険であったか。
ビナーはそう、認識を改めた。
「何が起きたのか知らんが、もう十分だ!」
「ああ! もう帰ろうぜ!?」
ならば、この者共を無事に帰す訳にはいかぬ。
次は無い。 脅威は育つ前に、ここで摘み取る!
再度、発射を試みる。
口を大きく開けて───。
「巻き込まれるなよ!」
口が、爆ぜた。
「───ッ!?」
口から黒煙を吹きながら、ビナーは砂漠に横倒しに。 何事かと首を捻れば、そこには新たな刺客の姿。
「ゴリアテ? パイロットはPMC理事!?」
「待たせたな諸君! 真打のワシ登場よ!」
黒々とした人型兵器が、ブースター/スラスター、機体制御バーニアを蒸しまくり、青藍の空を縦横無尽に飛翔中。
両腕は多砲身、リーゼントのように頭部には大砲が伸びている。 茹って白煙が天に昇っているのを見るに、それに攻撃されたようだ。
……さっきから何の冗談か。
「うおおお!! 親父が来たぜ!」
「てか、こっそりついて来てたんだ!?」
「フハハハ! 現場視察という奴だ! 金を払って手間暇をかけてる以上、貴様らがサボってないかとな!」
「とかいって助けてくれる! そこに痺れる憧れるぅ!」
「勘違いするな、コイツのテストだ。 しかし試作とはいえ、超最新鋭機の火力は中々だ! それとユメェ!!」
「は、はいぃ!?」
「よくやった! ビナーの光線を防いだのをワシは見ておったぞ! まさかの事態で驚いたが……元々盾持ちなだけに『守る』という点においては、ホシノより上だと褒めてやりたいところだぁ!」
「え、えーと……ありがとう? 理事さんから、こんなに褒められるのは初めてかも?」
小人の騒ぎからして親玉か。
コイツが諸悪の根源か。 倒さねば明日は無い。
「2人とも、話してる場合じゃないよ」
「ッ! ビナーからミサイル!」
「避けてくれおやっさん!?」
誘導弾全射出。
全て親玉にぶつけ、起死回生を図る。
だが───。
「そんなヘナチョコ弾が当たるかぁ!」
なんと、両腕からのガトリングで全弾撃ち落としてしまった!?
恐怖。 恐怖。 恐怖。
コイツらは何なのだ。 何故ここまでする?
憎き侵略者め。 信奉なき神秘共め。
何故、何故。 何故なのだ!?
「いけぇ親父!」「スゲェよ親父!」
「劇場の特等席にいる気分だ!」
「理事さん! 頑張ってー!」
「……皆親父だ理事だって。 私は騙されない」
嗚呼、そうか。 理解した。
皆に慕われる親玉が。
彼女達と信奉し合う……『信頼』があるから。
互いに答え合わせを重ねたのが今なのか。
その信頼を、意図せずとも崩す者は脅威。 つまり己の事。
故にこの者らは、我を狩り立てるのだ。
大事なもの、結束を守る為に。
体良く、舞台装置にされたものだ。
ならばせめての抵抗で劇を台無しにしてやろう。
役者が逃げれば、劇は続かない。
後は幕を閉じるだけ。
……つまり、今度は己が逃げる番となった。
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ビナーめ、砂の中に逃げおった!
音響装置類で探査するも、みるみる遠ざかっていくのが分かる。
うぬぅ……! うぬぬぬぅ……! ビナーめぇ!
ワシが直々に出向いたのに、これ以上は危険だと無視して行きおったか!
なんたる屈辱!
それかワシらを脅威とも感じていないか。
……いや、それはありえん。 見ていた限りだが、ビナーは捕鯨砲を打ち込まれて以降は割と本気で戦っていたように思える。
それに破壊光線を防ぎ切ったユメといい、ワシの攻撃で一時的に倒れた様子といい、心身共にショッキングであった筈だ。
……まぁ相手はロボットだが、高度なAIが積まれているらしいので、己でアレコレと思考して原始的な感情や判断くらいは抱いている可能性はある。
なんでそう言えるかって?
ワシや兵のオートマタもロボだからな。
「理事! 奴は少なくない痛手を負った筈です! 我々に追撃の許可を!」
砂上戦闘艦の兵士から通信がきた。
追撃ねぇ。 そうしたいがなぁ、お互い弾薬や燃料を浪費しまくった。
継戦できるか怪しいし、手負の獣は何をしてくるか分からん凶暴さを秘める。 そこから砂漠の真ん中で遭難というダブルパンチは笑えんので却下だ。
「ならん、撤退しろ。 ワシもそうする」
「しかし」
「帰ろう。 帰ればまた来れる。 あと金も出す」
「分かりました帰りましょう!」
現金な奴らめ。 ぺっ。