「初陣にしては上々よ」
かくして我がカイザーPMCは、試作兵器でビナーを撃退する事に成功。
ポンコツのユメも、盾を持たせれば使える事が判明した。 よもやビナーの破壊光線を、手持ちの盾で防ぎ切るとは……さすがは神秘を携えたキヴォトス人だと褒めてやりたいところだ。
今回の戦闘データを元に、ホバークラフトや捕鯨砲の改良を重ね、次こそビナーを討ち取らん。
そう張り切る開発部や現場の士気は高い。 シャーレの先生の来訪を待たずして上手く行くのでは?
「フハハハ! 勝ったな! アビドス編完!」
ワシの計画は順調也……!
市街地や高校へのテコ入れ、防砂堤の建設と順風満帆。 ホシノが隙あらばワシに噛みつこうとしているが、この流れは止まらんよ。 1度流れ始めたエネルギーは……!
ビナーといい、猛者足るホシノといい。
そうした格上相手には「勝とう」としない。 どの分野でも良いから「勝てない」と思わせる。
それで相手が引けばワシらの勝ちだ。 元よりその戦略であり、そうやってカイザーは生徒が跋扈するキヴォトスで生き延びた。 これからもだ。
「もうアビドス関係は部下に任せられそうだな。 高校も自発的に回り始めておる、市街地の治安維持は投げてよかろうて」
これで心置きなく発掘作業から、オーパーツが発掘されるのを待つばかり。
高校も復興と更生の恩人たるカイザーPMCに攻撃する理由はない。
それでも、もしホシノが私事で攻撃しようものなら、他の生徒からバッシングを受けて、生徒会長の座から転落するだろう。
だがホシノは分かっている。 ユメへの想いと同じくらい後輩想いだ。 それが不良でも、己の民を裏切る真似は出来まいて。
「ゲマトリアの黒服も文句はあるまい。 ホシノは囲い込んだし、オーパーツの発掘も順調なのだから」
もう今年中にやる事は無いな?
いやぁ、これでやっと心休まるというもの。
後は通常業務をこなしていけば良い……はず。
「ふぅ〜……なんか落ち着かん」
何か、まだ何か出来るのでは?
何か、見落としているのでは?
そんな焦燥感が湧き上がる。 でも何をしろと?
ワシ、頭に指をコンコン当てながら考える。
ビジョンでは……アビドスでは来年も新入生が2人来て、ホシノが黒服に確保されるも先生に奪還される、か。
アレは先生に任せれば良い。 契約云々の問答で、武力によらず黒服が身を引いてくれる。
ワシもそれに倣う事でPMCへの被害を最小限に抑える。 触らぬ神に祟りなし、といこう。
その後、キヴォトスに来訪した「色彩」に抵抗する為に、苦労して発掘した本船を生徒共にパクられる。
この時のドンパチで警備がやられるし、本船は敵との相打ちで消し飛び、発掘の苦労が色々とパァになってしまう。
しかしこれもワシ次第。 自らアビドスにでもミレニアムにでも連絡して「貸与」という形で提供すれば、無駄に争わなくて済む。
本船を喪失したとなったら、賠償金でもなんでもふっかけて、アビドスだけじゃなくミレニアムもワシらに頭が上がらないようにすれば良い。
それと、本船が発掘された情報を即本社に知らせてはいけない。
何故か?
本船を手中に収め、強力な切札としたプレジデントがサンクトゥムタワーを占拠、キヴォトスの支配を試みるガバプレイをするからだ。
別に武力に勝るでもなく、本船の用途や使い方だって分からんのに、早とちりというか。
サンクトゥムだって占拠したところで、行政権はカイザーの手中にはならない。
それを出来るのは先生、そのシッテムの箱だ。 そしてシッテムの箱は先生にしか扱えない。 無理にハッキングを試みると、サーバーがダウンするくらいのオーパーツだ。 詰んでる。
実行部隊を率いるジェネラルは防衛室長の不知火カヤと共謀。
PMCのみならず、子会社であるカイザーセキュリティ等を駒としてサンクトゥムタワー占拠、更には市街地に戒厳令を敷く他、邪魔者となる首席行政官のリンや先生を軟禁してしまうんだったか?
が、特殊部隊の学校ことSRTの生徒らの活躍でジェネラルやプレジデントの野望は砕かれる流れだったか……。
というか、そもそも色彩が来なければ多くの面倒は回避できる。
だが来ない事にも問題があるなら厄介だ。
別世界のアロナことプラナが、シッテムの箱にインストール? されなくなってしまうのだ。
そうなると先生が助からない。 アロナだけでは力不足な場面が多々ある。
人の意志を誘導できる能力を持つ、地下生活者への牽制にも必要だ。
それらをワシがカバーするなんてのは、荷が重い。 超常現象には超常存在をぶつけるんだよ。
「色彩が来るのって、ベアトリーチェが中途半端な儀式をしたり、クロコが呼水となったからだったか?」
仮に色彩の来訪を止めるとしても、黒服に予言だなんだと忠告するのが限度か。
アリウス分校の存在や、そこを支配するベアトリーチェ、その儀式を警告するだけ。
いや、今度はその情報源を疑われるか……。
ワシがアビドスを離れて、トリニティ自治区に首を突っ込むのも大変な労力だ。
本社の目もある。 アビドス放置してナニヤッてんだお前ぇ! と怒鳴られて降格やクビになるのは面白くない。
「はぁ〜……アビドスから離れる口実があれば、他の自治区の問題にも首を突っ込んで、販路を確保、私腹を肥やすチャンスなんだがなぁ」
ボヤいても仕方なし。
大人は大人しく、粛々と発掘指揮をする忠実な理事として仕事に復帰するべきなのだ。
それが安牌……降格回避ルートとなるはず。
「いや待てよ」
ワシ、他の身内が起こす事件を思い出したわ。
それもまた、SRTが絡む事件であり。
しかも今年に起きる事件だった。
「カイザーインダストリーの第2工場に、FOX小隊が突入するんだった……」
その要因となったのが、昨年インダストリーが発表した旧サーモバリック手榴弾の改良事業……。
《A.N.T.I.O.C.H.》
これに託けて、違法となる弾道ミサイル用サーモバリック弾を製作、試作品ができていた。
試作品なので正確なデータは無いが、起爆すれば、被害範囲は数kmにも及ぶものと思われており、強力な武器になり得ると期待されていた。
ところが匿名に通報された結果、SRTの精鋭特殊部隊「FOX小隊」に制圧される事件が起きるのだ。
これはカイザーだけでなく、連邦生徒会の役員も噛んでいた事業であったから、黙認されるか、トラブルになっても揉み消してくれると思っていたが……甘かった。
連邦生徒会長とSRT生徒は下らん正義を掲げ、情け容赦なく制圧してきおるのだ。
おのれぇSRT……!
そやつらとの因縁はここからか?
これに対抗して、カイザー側も特殊部隊を設立するのだが……それでも1年にあっさりやられる咬ませ役という。
やはりキヴォトス人、生徒は脅威過ぎる。
「味方になれば……ならずとも被害は抑える」
青臭い正義感を掲げるSRTの懐柔は困難だ。
されど、ワシは事件が起きるのを知っている。 ならば被害を回避する術はある筈だ。
ワシは電話を手に取り、インダストリーに指示を出す。
「ワシだ……例のヤツがバレとるぞ、第2工場は放棄しろ! そうだ、そっちが製作した試作品は解体するか移動させろ! そしてSRTの狐共を歓迎するウェルカムパーティの準備だ!」
サプライズといこう。
別に勝てるとは思わんよ。 だが実戦データを得る良い機会ではある。
「なに、プレゼントも用意しとくとも。 TV向けのパフォーマンス用にな。 そうじゃないと、新入生が来なくなり、歴史が変わる可能性もあるからな」
具体的にはFOX小隊のインタビューを見てSRTに入学する月雪ミヤコが、SRTではなくヴァルキューレ警察学校に行ってしまうかも知れない。
ミヤコはRABBIT小隊長となる生徒だ。 此奴がおらんと、先生の救出やテロリスト化したFOX小隊をシメる役割がいなくなってしまうからな。
PMC兵を差し向けても恐らく鎧袖一触、相手にもならず全滅させられそうだし。
「フハハハ! 楽しませて貰おう!」
瞬殺されるオチは回避したいが。