降格回避√カイザーの野望   作:ハヤモ

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理事、ユメとホシノを確保する。

 

 

「ユメ会長。 借金返済まで、その身柄を預かる」

 

「えぇ!?」

 

 

ワシの素晴らしい提案を前に、梔子ユメは目を白黒させて驚き返す。

いくら中身ゆるふわおバカでも、最低限の倫理や危機感は持ち合わせているようだ。

 

 

「許せユメ。 ワシが助けなかったら御主は干からびておったし、また野放しにして命の危機に陥っても困る」

 

 

というのもユメはアビドス高等学校3年生、生徒会長……「だった」というのがワシのビジョンの光景だ。

 

本来彼女は脱水症状で死亡し、ホシノの心に深い傷を残す。 その後悔から、新入生やアビドスを一層守ろうとする。

まぁそれだけなら美談だが、ユメの遺品を回収するとなると、暴走するのが問題なのだ。 その道中にカイザーがいるばかりに、悉く被害を出してしまう。

 

カイザーは大企業だ。 基地や施設、戦車隊の1つや2つが破壊されても潰れやしない。

だが被害額は相当なものだし、それも個人に好き勝手されたとなれば、他企業や客から見下されて信頼は下がり、ワシのような現場責任者の首が飛ぶ。

 

これを回避する為には、ユメが必要だ。

 

ユメ自体は無能だが、ホシノを制御下に置く上では強力なカードとなる。

これで拉致られたから助けて、なんて事案であれば、ホシノに容赦無く攻撃されるが、遭難した所を助け、ユメ本人から定期的に連絡をさせればその限りではない。

 

学校に返す事も考えたが、その程度でホシノが納得するとは思えない。

あのピンクチビの他人、特に大人への不信感は相当で、善意は信じず、裏があると勘繰り、さてはマッチポンプだなオメーと疑惑の目を強め、不信感を益々募らせにくる事は間違いない。

 

そうなって助けた労力がパァになるくらいなら、ユメを人質として手元に置いて、チラチラさせつつ、こちらの言う事を聞かなきゃユメに酷い事しちゃうぞと脅せば良い。

暴力で解決できないよう、ユメの首にチョーカー型ヘイロー破壊爆弾(偽装)をつけ、ワシの意志や、何かあった時、或いは許可のない動きがあったらドカンといくと脅しておく。

 

そうなれば、いくら強いホシノもカイザーに従わざるを得ない。

ゲマトリアの黒服としても、主目的である暁のホルスが手に入り易くなるし、そうじゃなくてもカイザーが先に手中に収めたとなれば、向こうもワシらに手を出し難い。

 

その為に契約書をスッ、とユメに出す。

カイザーと雇用契約を結ばせ、ユメは仮にもワシの所有物とする。

 

神秘の地キヴォトスにおいて、契約や宣言は重要な意味を持つ。 当事者のみならず外部、いかなホルスといえど割り込みによる反故は不可能だ。

 

その代わり、契約に使用した書類や手順が曖昧だったり、不備がある場合はその限りではないのだが。

ビジョンで見えた例だと……ホシノが後輩を庇う形で退学届かナニかを先生に出して黒服に自ら捕まるのだが、そこに先生が来て、了解するサインが無いのを理由に無効だとしたところ、黒服は抵抗せずそのルールに従った。

他にはトリニティあたり、エデン条約の締結時に起きた事件か……個人が儀式に割り込み、口頭による宣言で契約したり、或いは上書きできた……特別な生徒じゃなくても、条件次第で強力な力を従えたり、弱体化させる事ができるのがキヴォトスだと考えている。

 

まあ、そういうのは特例だ。 今はユメとワシで契約させて、ホシノを抑えるのが先決よ。

 

 

「これにサインしてくれたら、借金の殆どを帳消しだ。 しかも残りの返済期間は設けないし、返さない月があっても良い。 踏み倒しの意志さえ示さなければなぁ」

 

 

破格……! 好条件……!

裏があるからお持て成し(表無)……じゃない!

 

しかしゼロにしないところに、金の貸し借りの危険性や重要性をさりげなく示し教育とする!

具体的には、ビジョン通りアビドスの新入生が来たと想定し、皆で2年くらい頑張ってれば返済できるくらいの借金だけ背負わせておく。

 

 

「本当に!? あ、でもホシノちゃんが、こういうのはちゃんと読まないと駄目って……」

 

「なら読め。 そのポンコツ頭でも理解できるように簡略化してある、それでも駄目なら正真正銘のバカだと自己証明するだけだ」

 

「ひぃん、イジワルしないでぇ……えーと……うん、変に極小の文字で注意書きもないし、難しい言い回しもないし、はい、サインしたよ!」

 

 

眩い笑顔と共に、契約書をワシに返すユメ。

フハハハ! やはりバァカめ!

 

 

「宜しい。 ではこの瞬間より、貴様は仮にもワシらカイザー側な。 契約違反を犯したら借金は全額払って貰うぞ」

 

「ふぇ? でも私、まだ卒業してないよ?」

 

 

あかん、やはりこの女、栄養が頭ではなく胸に持ってかれてるのでは?

ワシ、訝しんだ。 都合が良いから良いが。

 

 

「契約書をちゃんと読んだのか? では聞くが、バイトしてたらソイツは学生じゃないのか?」

 

「あ〜! バイトなんだね!」

 

 

取り繕うように、いや、安心した笑顔になる。

フハハハ! 馬鹿相手は疲れるが助かりもする!

こんな奴が生徒会長で、ホシノは苦労するなぁ?

 

 

「ほれスマホだ、学校のホシノにこの事を連絡すると良い」

 

「うん! あ、もしもしホシノちゃん!」

 

『ッ! ユメ先輩!! 無事なんですか!?』

 

 

ああ、さて……ユメだけじゃ説明不足か。

ワシからも伝えておこう。 ユメはワシの女になったんで手出し無用となぁ!

 

 

 

───────────────────

 

 

 

「ッ! ユメ先輩!! 無事なんですか!?」

 

 

スマホが震え、ユメ先輩の字を見た瞬間、私は直ぐに出た。 電話越しの声は間違いなくユメ先輩だった。

 

 

『うん! ごめんね、心配かけちゃったね』

 

「今どこですか? 迎えに行きます!」

 

『大丈夫! あのね、砂漠で倒れちゃったんだけど、カイザーの理事さんに助けられて、会社のビルにいるんだ!』

 

「え……?」

 

 

何を言っているんだろう。

カイザーに助けられた?

 

 

『理事さんはとっても優しい人だから安心してね! それでね、暫くカイザーで働く事になったんだ』

 

「ちょ、学校は!? また騙されてますよソレ! とにかくカイザーの建物ですね、今から乗り込んで……」

 

『おっとそこまでだ小鳥遊ホシノ』

 

「ッ!」

 

『電話を変わった、ワシはカイザーの理事。 貴様らアビドスの借金相手でもある、予め言っておくが言葉は慎めよ?』

 

 

突然声が変わり、悪そうな中年男の声になる。

コイツがユメ先輩を拉致った犯人か!

 

 

『ユメはワシらカイザーと契約し、ユメは承知の上で居残っている。 詳細はモモトークか何かで送るが、まぁ悪いようにはせん。 彼女や君がワシらに従順な内は借金を苦にして生きずに済む、大変素晴らしい提案だぞ』

 

「ふざけるな!! 私は承知してない!」

 

『生徒会長は君じゃない、ユメだ。 権限はユメの方にあるし、契約もした。 素晴らしい決断力だったよ、お陰でアビドスは救われたようなものだ。 君は先輩を下に見ているようだが、ここいらでリスペクトしてあげたらどうだね?』

 

「話にならない、私が今からお前を───」

 

『そうなると契約違反だ』

 

「お前らの、大人のルールなんて知るか!」

 

『ユメのヘイローが壊れるとしてもか』

 

「ッ!?」

 

 

滾った血の気が、引いた。

ヘイローが壊れる。 それは永遠の別れの意。

 

 

「は、ははは……大きく出るね。 でもヘイローの保証は簡単には崩せない」

 

 

声が震えるのを必死に抑え、言い返した。

いくら悪徳企業でも、ヘイローを破壊するなんてのは重罪だと理解しているはずだ。

それを堂々いうなんて、許される筈がない。 倫理観、道徳でも……そんなものに縋ってしまう。

 

 

『理解しているよ? 戦車砲の直撃にも耐えるのが君たち生徒だ。 気絶はしても、昇天するには今ひとつだ。 しかし永遠と攻撃を受けたら? 飢えたら? 溺れたら? それか、脱水したらどうかな?』

 

「ッ、さては先輩を行方不明に───」

 

『砂漠で遭難したのは彼女の問題だ。 それを偶然、ワシが助けただけだが?』

 

「そんな都合の良い偶然があるか!」

 

『本当に偶然なんだがなぁ。 アビドスの視察でヘリ移動中に見つけたのだ。 人命救助、道徳的な行い。 それを非難とは、随分と人間不信者だ。 そんなんじゃ将来苦労するぞぉ?』

 

「くそっ!」

 

 

あれを言えばコレを言う!

汚い大人め、だから私は嫌いなんだ!

 

 

『とにかくユメは預かる。 返して欲しくばワシの言う事に逆らわず、借金を返済するんだな。 そうだな、新入生がきて、皆で2年くらい頑張れば返せるくらいには免除してやった。 それまでは従順でいろ。 さもなくばユメに未来は無いと知れ』

 

「……大企業が私に、アビドスに何故拘る?」

 

 

せめて、せめてコイツらの意図を探る。

しかし帰ってきた答えは実に曖昧で、ロマンチストで、ふざけたものだった。

 

 

『ふむ……それこそ未来と「夢」の為だ』

 

「は?」

 

『切るぞ。 また連絡する』

 

「おい待て! くそっ!?」

 

 

リダイヤル、掛け直すも繋がらなかった。

とにかくユメは生きている。 それは希望だ。 同時に人質に取られた。 アビドスを、私に首輪をかけたつもりでいる。

 

その通りだよ……ちくしょう!

 

 

「いつか、いつかチャンスは来る……」

 

 

ユメ先輩は、いつか必ず取り戻す。

盾を強く握り……そう、誓った。

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