降格回避√カイザーの野望   作:ハヤモ

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ひと時の休息/柴関ラーメンにて

 

 

「続いてのニュースです。 サーモバリック弾は特例での使用が認められました」

 

 

野次馬が霧散する中。

ワシは現地視察と銘打ち、群衆に塗れておった。

夜食にとアビドス自治区にある柴関ラーメンなる店でラーメンを啜っていると、アビドスの名が急に出てくる。

 

カウンター越しの厨房に置かれたラジオから、キヴォトス規模の情報が音声のみで流されていた。

 

客がワシしかおらず、厨房が比較的静かだった為に良く聞こえる。

 

倣って麺で奏でるのを止め、電波越しに女性アナウンサーが語る詳細を傾聴した。

 

 

「連邦生徒会によりますと、生徒が通常持ち得る携行火器では撃退が困難な脅威と認められる状況に限り、特別に許可されるとの事です」

 

 

ガタッ!

ワシ、立ち上がり両腕を上げコ◯ンビア!

 

 

「フッ……予想はしていたがな?」

 

 

勿論、メディアの語りが全てではない。

前にも述べたが、数多の利権関係が絡み、それらを天秤に掛けての判断である。

 

復興を通り越し、発展の域がチラチラし始めているアビドスの経済基盤及び人員……これらを欲する部署は少なくない。

 

カイザーという悪徳企業が絡むにせよ、全体の経済を回している大企業には違いないしな。

 

生徒会内にも、サーモバリック事業の利権に絡んだ役員もいる。

ソイツらからしても今回の件が悪とされたならば、芋蔓式に責任を問われて不名誉の除名ルート。

母校に帰っても肩身が狭いだろう。 学校の看板に泥を塗る事になるからな。

イジメのような排斥が起きてもおかしくない。 最悪、停学どころか退学ルートだ。

そして経歴が傷だらけに……するとこの程度では終わらない。 転校やバイトも困難になり、部屋も借りられず、どこぞの小兎小隊みたいに公園生活、いや、それ以下に凋落する可能性も秘めている。

とにかく人生転落、青春オワタというワケだ。

 

ならば仲良くなるか、放置プレイする方が得という話になるね、合理的ってヤツだ。

 

SRTだの、その創設者の連邦生徒会長のような者は悪・即・斬という思考だろうが、他勢に無勢、多数決の原理……!

組織である以上、独断には限界がある……!

 

同時にワシ、アビドスがここまでさせるくらいの勢力に返り咲いた事に涙がで、でますよ……。

 

諸君、我々の勝利だ!(感涙)

 

まぁ勝ったといっても、予想通りなら今後、連邦生徒会の各部署から人員や金の無心の為の接待や取引が始まるのだが。

 

それを政治力が無く、腹芸の出来ぬアビドス高校に出来るとは思えないし、連邦生徒会も察して、殆どの話はワシに回す筈。

 

一応、来年に入学してくる眼鏡エルフ……奥空アヤネに期待は出来るが、それでも経験不足の内は怪しいところ。

 

それでもユメよりは断然マシには違いない。

在学中、カイザー以外の奴にも騙されまくっていたらしいからな。

ハイランダーとの取引中、機密をお漏らしするガバさもある。

このままではどこに出しても恥ずかしいポンコツ女子だから、穴掘りはバイト戦士に任せて、書面の書き方などの教育を施しているものの。

 

……そのレディーススーツが似合う日は来るのだろうか。

 

上手くいくなら、来年設立される連邦捜査部シャーレに教育実習生だなんだと押し売って、キヴォトスの権力者となる先生に恩を売りつつ、パイプを繋げたいところだが。

 

 

「……これからも忙しくなりそうだ」

 

 

先が思いやられる。

意気消沈するように席に座り直し、伸び冷めた麺を啜り直していく。

 

てかさ……アビドスの自立を促して楽する筈が、その為に労力を払い続けてるワシは一体?

 

あいや、自分が蒔いた種だがね?

 

……これ以上はよそう。

考えたら負けかなと思っている。

 

 

「……お客さん、もしやカイザーの理事かい?」

 

 

これからの事に不景気な顔になっていると、片目に傷を負った店主の柴犬……柴大将がワシに話し掛ける。

仮にも理事、人の上に立っている身としてキリッと真顔で肯定、すると。

 

 

「おお! ウチに来てくれるなんて、光栄だ!」

 

「偶然寄ったに過ぎん。 あと気に入っているのは値段だ」

 

 

なんか喜ばれたが、人の笑顔の裏を変に勘繰る。

処世術に対する嫌な現実味、雑味を感じてしまうのはワシの悪い癖。

 

故に突き放す態度をついとってしまうが、ううむ。

 

1杯680円のラーメンは言葉の通り……安過ぎるだろ。

 

この業界には千円の壁という言葉がある。

4桁台に突入すると、客の財布の紐が固くなる為、如何に990円台までに抑えるか、という戦い。

特にこの御時世だ、何でも値上げラッシュで、どの業界も苦しい生活を余儀なくされている。

材料費のみならず、光熱費の高騰……閉店ラッシュが起きているとも聞く。

昔は1コインか、500円台で食えた気がするんだがな。 これも時代か。 この先どこまで値上がるのか、未来は青空のようにいかず薄暗い。

 

だというのに、この店は良くやっている。

値段の割に量もあり、味も良き。

貧乏学生や社会人にとってもありがたい。

 

だがこれで店主やルールが厳しかったら、忌避する者もいただろう。

勘違い系殿様商売は滅びる。 てか滅べ(ブーメラン発言)。

 

 

「だとしても嬉しいぜ! ありがとうございます!」

 

 

その点、柴大将は平気そうだ。

職人気質か、私語と敬語混じりながらも笑顔を向けてくれる人柄の良さを持ち合わせているからな。

ワシが、やや後ろめたさを感じるくらいには。

昔、アビドスの地上げをしていたもんで……この店も例に漏れなかった。

 

怨まれても仕方ないのに、こうにも心底から嬉しそうな笑顔を向けてくれるとは。

なんという……優しいおじさん……!

 

 

「……益々、一層努力奮戦しろと」

 

 

この店、柴大将、値段を守る為にも。

 

アビドスはまだ働かせる気らしい。

……ワシ、いつ休めるんだろうな?

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