降格回避√カイザーの野望   作:ハヤモ

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前書き
ユキノと面談。正義とは。悪とは何か。
パワポケの黒野博士の受け売りですね。


正義と正義/善と悪

デスクで文字や数字と睨めっこし続けるのは疲れるからと、現場視察と称して、防砂堤沿いに散歩しておったある日のこと。

目前に女狐がおったから、ギョッとした。

 

 

「こうして会うのは初めてですね、カイザーPMC理事。 ご存知でしょうが、私はSRT特殊学園2年生、FOX小隊長の七度ユキノと申します」

 

 

…………は?

 

え、ナンデ? ユキノナンデ?

 

まさかワシを逮捕しに!?

いやしかし、法案は可決されたのだ。 大手を振って歩いて問題無い筈だ!

 

 

「ご心配なくカイザー理事。 あなたを拘束する意図はありません、私1人です」

 

「ほざけ……! サーモバリックの件は容認され話は終わった、貴様らSRTに話す事なんて何もない、尻尾巻いて失せろ!」

 

 

頬を汗……冷却水が流れていく。

早くこの場から逃げ出したい。 女狐の言う事が本当でも、敵を前に緊張が走る……!

 

くっ、護衛も無しに出歩くのは流石に非常識が過ぎたな……。

生徒の世話を焼く内に油断しておったわ!

 

ワシ、せめての抵抗で、情けない威嚇口撃で牽制するも、ユキノは怯む事なく会話を続けてきおった。

 

 

「あなたの仰る通り長居はしません。 連邦生徒会がサーモバリック弾の使用を認めた以上、SRTが及ぶ権限ではなくなりました」

 

「分かっとるなら、何故話しかけた?」

 

「はい、それは……」

 

 

言い淀むユキノ。

その目は光が無く、寂寥感が宿っている。

 

 

「あなたにとって、正義や悪とは何でしょうか」

 

「…………は?」

 

 

唐突!

それもユキノの口からとは、よもやよもやだ。

 

正義ウーマンの彼女が、世迷言を吐くとは。

それは来年の心境であろうに。 ワシの所為でこうもアッサリ堕ちるメンタルとか、特殊部隊長の姿か、これが……。

 

 

「カイザーは違反をしている、だから制圧に動きました。 結果は周知の事実です────しかし貴方のお陰でアビドスは復興し、市民は感謝している。 私のした事は正義なのか、それとも悪なのでしょうか」

 

 

それ悪徳企業に属するワシに聞く?

その為にわざわざここまで来たの?

 

はぁ〜、アホくさ。 辞めたらこの仕事。

……とか言って追い払ったら、闇堕ちが加速しそうなので、思考回路に電流を走らせる。

 

人の受け売りだが……言葉を掛けるべきだろう。

シャーレの先生ならば、もっと気の良い言葉を投げられたであろうが。

 

 

「フンッ、それなら簡単な話よ。 『正義』の反対は何だと思う?」

 

「悪なのでは?」

 

 

先ず互いの認識を擦り合わせるところか。

ワシは仮にも大人として、子に諭すように言葉を選んだ。

 

 

「悪の反対は善、善の反対は悪だ。 『正義』の反対は別の『正義』或いは『慈悲・寛容』だよ」

 

「なぜ正義に相反する正義があるのですか?」

 

 

疑問に思うと言う事は、皆が守るべき道理を基本とするあまり、それ以外は悪という潔癖症になっているのか?

 

 

「正義とは人の従わねばならぬ道理を言う。 ヴァルキューレ警察や、貴様らSRTが『正義を行う』となれば道理を守らせる、という事になる」

 

「それは良い事なのですか?」

 

「無論、必要な事。 問題は道理が1つでは無い事だ。 『殺すな・奪うな』までは多くの思想で共通だが、その先は分岐する。 『男女は平等』かも知れないし『女性は守るべきもの』かも知れん」

 

 

あと来年に備えて釘を打っておこう。

……ワシが言う程度じゃ効果は無いかもだが。

 

 

「『どんな命令でも忠実』が正義なら『悪い命令に逆らう』のもまた正義だ」

 

「では、何が正しいのですか?」

 

「皆が正しい。 道理に関する限り、正しい事は1つとは限らない」

 

「それでは困ります。 私達は、私は……何が正しいのか分からない」

 

「だから『法』がある。 何をしてはいかんかの約束だ……"人"が作る以上、コレも正しいとは限らんがな」

 

 

法は絶対的な正義ではないとも言っておく。

法律の曖昧さ、矛盾は前にも述べた通りだ。

ユキノのような聡明な子が、盲信しているとは思えないが、一応言葉に起こさねば。

 

 

「───であるから、結局のところはその時々に何が正しいのか、よく考える必要があるというのだよ。 最終的には皆にとって最も良い事を模索して選択するのが『善』なのだ」

 

「皆で考えたのが善なら、個人の正義は善とは限らない?」

 

「そうだ。 ともすれば己の信じる道理、理屈を相手に押し付ける事になるからな」

 

「……時折聞く理屈でしたが、より掘り下げられた気分になりました。 座学で忘れていた知識が覚めたような面持ちです」

 

「その上で最初の質問に戻ろう。 君達はやらなきゃならんと思ったから、やったのだろう?」

 

「はい。 命令以前に、正しいからと信じて動きました」

 

「本当にそれが正しかったのか、最善のやり方だったのか、時々反省してみるのだな。 いずれ自分で納得できる時がくる」

 

「では、悪とは何ですか」

 

「一般的な定義から言うと、世の中のルールを破って他に迷惑をかける行為を指す」

 

「その理屈だと、理事は『悪』ですよね? どうして理解しておきながら、その道を選択したのですか?」

 

「フハハハ! 一般的と言ったろう? ワシにとっては青春なのだよ! 青春、わかるかね?」

 

 

いきなりオッサンロボが青春だなんだと言ったからか、ユキノは面食らっていた。

表情に乏しい彼女が、ここまで変わるとは。 他のメンバーにも見せてやりたい。

さりとて、ワシは続ける。

 

 

「ルールに囚われない事! 希望、出世、突破口、新しい渇望! 何より己が幸福になりたいという欲望!」

 

「そう、なのですか?」

 

「昔は自由も人権も平等も、みーんな『世の平和を乱す悪』だったのだ! ワシの功績も、何れ正義とされるかもなぁ?」

 

「まさか」

 

「なぁに、ちょいと歴史の教科書を紐解けば分かる話だ……どうだ、悩みは幾許か払拭されたか?」

 

「ええ。 突拍子もなく、話に付き合って頂きありがとうございます」

 

 

ユキノの顔は心なしか、綻んで見える。

目の前の大人が滑稽だからか、だとしても機嫌を損ねて撃たれなくて済んだな。

 

 

「若い内は悩みたまえ。 ある種、それも生徒の本分という奴だな! フハハハ!」

 

 

そしてワシ、誤魔化し笑いでその場を去る。

そう……逃げるに如かず!

 

 

 

───────────────────

 

 

 

悪党というのは、基本的に自分の利益の事だけを考えるが故に、他人や社会に害なす存在と考えていた。

それらを駆逐し、秩序ある世界を守るのが正義だとも信じてきた。

 

でも今回の件、理事は考える切掛をくれた。

 

法に触れていても、多くの人の為になったのならば、それは正義ではないかと。

そして青春だのと。 ロマンという奴か?

 

けれど、悪く無い響き。

 

早歩きで離れていく、理事の背中。

私はその情けなくも大きな背中に呟くのだ。

 

 

「貴方のような汚い大人は嫌いです」

 

 

憑き物が取れた、莞爾とした微笑みで。

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