黒服と会談。ガバガバ理論。
「アビドスで発生している事象について説明を求めます、カイザー理事」
ビジネススーツを着た黒い異形、黒服がカイザー理事にお尋ねする。
口調や声の揚々は一切変わらない。 不快に感じさせない対外的な対応は、一見すると私情を挟まない合理性を纏っている。
しかしその意図は明確で、暁のホルスを手に入れるのを妨害、或いは横取りし、契約違反をしているのか? と暗に述べていた。
「分からぬか」
だが理事は慌てない。 同様に落ち着き払った態度のまま順序を立てて語り始めた。
「アビドスを掌握し、小鳥遊ホシノ……暁のホルスの力を封じるのが目的だ」
「ここまで大掛かりにする必要がおありですか」
当然の疑問、疑惑を投げかける。
何故、発掘だけ黙々としていれば良いところを、衰退した地にテコ入れするのか?
何故、外から人を集めて騒ぎを大きくし、機密が漏洩するリスクを高めるのか?
何故、ホルスの行動を抑制するのに、ここまでの行為を私財を投げてまで行うのか?
何故、何故、何故……と。
黒服が理事の真意を探る為、疑問を投げ続ける。 理事は説明を続けた。 予めそう決まっていたかのように。
「確かに、アビドスは風前の灯。 碌に出来る事はなく、2年ほど砂に漬けておけば勝手に消える。 だがそうなればお互いに困るのだよ」
「と、いいますと?」
「神秘を内包する生徒は、学園という器に属しているからこそ形を保てる。 それが無くなれば、如何に強靭な神秘も忽ち霞み、下手すれば卒業……霧散するのではないかね?」
「! なるほど、そのようなお考えでしたか」
黒服は唸った。 盲点であったと。
確かに崇高を観測する上で、最高の神秘を持つホルスを手に入れねばならない。
しかし、その神秘が弱体化してしまったら、観測できるものは果たして崇高と呼べる代物なのだろうか。 否、きっとゲマトリアの誰もが納得しない。 劣化品や模造品で妥協せずに済むなら、その方が良いに決まっている。
それをカイザー理事は察して黒服に配慮、自発的に行動してくれていたのだ。
恐れ入る洞察力、思考。 話は続く……。
「ワシとしては、彼奴らが借金を返済できるとは思っとらん。 だが神秘を完全に消失した土地は恐らく荒廃が加速する。 中身の無い器は脆いからな。 そうなれば拠点を置く以上、発掘作業に支障が出る。 それを防ぐ為にも、中身を詰めてやったのだ。 その際にホルスを核とし、安っぽい神秘を固めて置けばそれなりではないかとな。 同時に奴の神秘は外へ逃げる余力を失う。 意志も消えるだろう。 それこそ卒業、キヴォトスの外へ行く事もない」
「一理ありますし面白い考えです。 確かに、あなた方カイザーが倒れてしまうのも困りますね。 自己防衛の範疇、という事ですか」
どうやら理事は、アビドスというホルスの器を他の神秘で保持する事で、弱体化や喪失を防ぐ考えのようだ。
カイザーとしてもその方が都合が良いから、そのように仕向けた。 これが得体の知れない、一方的な独善であれば訝しんでいただろう。
「それだけではない。 神秘や器はそれ1つで自己完結していない、というワシの考えもある」
「といいますと?」
「神秘同士は完全に混ざらずとも、互いに影響を与えているのではないかね。 ホシノがユメの為に力を増減させるように」
「ふむ、彼女を助け手元に置く理由はそれですか」
「ホルス避けの光り物には違いないが……自治区、器同士も干渉し合う。 消え逝こうとしていた神秘を多くアビドスに集めるのは、ホルスを固めるばかりが目的では無い。 河原で他より綺麗な石がより目立つように、今よりより輝かせる為の研磨でもある。 ハイランダー鉄道学園とコンタクトを取り、人口流入を後押ししたのも、その辺が理由の1つだ」
「なるほど……今まで無い発想でした。 最高の神秘を、より昇華させる為だったとは……お恥ずかしながら、目の前に用意された晩餐を手に取るだけに注力しておりました」
改めてカイザー理事には恐れ入るばかりだ。
だがまだ話は終わらない。 理事は畳み掛けるように、カイザーとしてではなく、己の立ち位置についても語り聞かせてくれた。
「ワシ個人としても、これらの流れには意味がある。 カイザーという組織での立場もさる事ながらな」
「是非お聞かせ願いたい」
「キヴォトスにおいて学園は国であり、生徒は国民。 何度も言ったような事だが……では教師、先生、それこそ学園長のような生徒の上にある立場とは王……神の隠喩になるのではないかね?」
「……! 理事は自らをその座に置くと?」
「貴様らゲマトリアのいう崇高、そこに至る道が数多あるならば……ワシのしている事はキヴォトスのルールに適した、実に正当な立ち位置だ。 信頼は信仰へ、入学という洗礼を神秘に施す上位存在。 そしてワシは神の位置に立ち、世界の真理を垣間見たい」
黒服は絶句する。 よもやカイザー理事が、ここまでの探究者であったとは。
そしてそれがゲマトリアより先に果たされようとしている気配に、彼の理論の正しさを垣間見た。
「クックックッ……恐ろしいですね、貴方は」
「縁を切るかね?」
「寧ろ逆です……改めて、貴方をビジネスパートナーに選んで本当に良かった」
不敵に笑む理事。
黒服は恐れ畏まり、感嘆した。
彼より多くを学び、願わくば崇高へ導いてくれるパイオニアとなってくれると確信する。
ともすれば、理事という名前だけでは事足りない。 形容するなら、それこそ……。
「ではまたお会いしましょう、先生」
きっと、この名が相応しい。
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「あっぶねええええええッッ!!?」
ワシ、絶叫! 悶絶! 理事危機一髪!
ホルスだの崇高だの神だの知るかバーカ!?
ワシ自身、咄嗟に有る事無い事適当にホラ吹きまくって、よく黒服を退けられたと思うわ。
本当に幸運を引き当てたって感じ。 下手しなくても降格どころか異次元に幽閉とかナニかの実験台とか、死ぬより恐ろしい目に遭わされると思っていたもんね!
「ふ、フハハハ……! これもユメの幸運にあやかれた結果か? ワシ自身の力か? なんにせよ延命には成功したぞ……!」
とりま、なんか勝手に黒服が納得してくれたっぽいんで、今後ともアビドスで好き勝手するのは許されるだろう。
「生きているってマジ最高だなぁユメ?」
「う、うん。 遭難した時はありがとうね?」
フハハハ! ここからはワシの独壇場!
降格も先送り! いや、出世街道まっしぐらか?
ホルス様々、カイザー万歳だなオイ!?
「あっ、不良が重機の部品を盗んで逃げたって」
「ナニやってんだクソガキ共があああ!!」
弊害として、ガキ共の世話は増えたが……。
後書き
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