《このゲームが始まって10の100乗秒が経過しました。》 作:てりのとりやき
黄金の光の粒が舞い続ける世界で、剣と剣、金属と金属が叩き合わされる。
無人の荒野、蒼穹の下。甲高い音は連鎖するかのように鳴り響き続けた。右腕を根元から喪失し、その断面から白のポリゴン粒子を拡散し続ける黒髪の少女──カナミヤは確かな激情で歯噛みする。
「進むことは苦しみの連続だった!」
私が自前の剣を横に薙げば、カナミヤは直剣の腹を垂直に立てて受け止めた。
『──!』と突き抜ける快音。
膨大なステータス値同士の衝突は無形の圧となって空間を駆け抜けていく。
「私が刻んだ1秒1秒の最中に誰かが死んだ!」
「本当に苦しみだけだったのかな……!」
「──挫折した者を! 嘆き泣き叫ぶ人々を後に置き去りにして! 結果の出ない攻略をする他ない行いが苦しみでなくて何だって言うの!?」
鍔迫り合いの最中。私が圧し潰すように柄を握る手に力を込めても、頭一つ以上背の低い少女の体はびくともしない。全てのスキルを封じられていても超越的ステータス値は健在だ。恐らく私とカナミヤのステータス値には未だ天と地の差があるんだ。
カナミヤは隠すこともない叫び声を張り上げる。
「そうまでして進む必要があるのは私だけだッ!」
これまでカナミヤが装い続けていた平静は、既にここにはない。
その裂帛。
その膂力。
私の剣戟を一切避けようとしない姿勢。じりじりと、徐々に、少しずつ、腕が押し負けていく、肘が曲がっていく、私の足が下がり始める……!
「きみが苦しむ必要なんかどこにもない──!」
「……ッ」
カナミヤの心が痛いくらいに理解できる。このゲームを始めてしまった張本人として、それでもこのゲームから離脱できずに生き続けた者の孤独。罪悪と後悔のうしろめたさ。世界中に遍在する黄金の粒子が……全ユーザーの感情表現が私の精神に突き刺さり続ける。
わかる。
わかるよ……!
だけど私はそんな話をしたくて、ここにいるわけじゃないんだ!
「──この先に何があるのかな!」
「!?」
カナミヤの瞳孔が広がる。息を呑む──僅かに力の緩む瞬間。
微かに思考は過ぎる。
今なら受け流せる、と。
前に進むことしか考えられないカナミヤの、勢い任せのパワープレイを横にいなして、前に倒れ込む少女の背中に一太刀──勝負はそれで決まるだろう。頭に血が上っているカナミヤにそれで勝てるかもしれない。
それでも、
「ダンジョンの最奥には何が待っているのかな!!」
──そんな勝ち方はごめんだ!
君に勝つんだ。
君を真正面から越えていく!
肉体の全て。精神の全て。魂とか心意とか激情の何もかもでもって私はカナミヤを見据える。睨み、だけど笑った。あらん限りのステータス値で足裏に力を込める……!
「考えるだけでワクワクした、この世界の事をたくさんたくさん知りたくなった!」
踏ん張って。鳩尾の奥に力を込めて。あるはずもない肺に呼気を溜める。
同時に、考える。思う。想い描く。
「道のりはこれからも長い──挫折しそうになるよね、諦めてしまうかもしれない! これまでに起きた悲劇の全てを想えば、やりきれない事ばっかりで私だって虚しいし悲しいよ!」
後ろ向きな理由で進むことではなく……誰にも分からないからこそ、どのようにも形作れる未来を。
君に示すよ。
後ろを向いたまま前進することを良しとした君に、だからこそ顔を上げて『これから』の事を話すことの意義を、価値を!
「だけど怖くないッ!」
──下がり続けていた足の動きが止まる。震えながら、それでも前へと進み始める。君の圧、力、想いを越えようと藻掻く。
「君がいる、皆がいる。
君と出会えて。皆と居られる!
君と生きていける、皆と行ける──!」
「……なんで」
カナミヤは呆然と私を見上げていた。戦慄く体が急激に脱力し、私は勢いのままにカナミヤの剣を弾き飛ばす──数歩よろめいた少女は、焦りから眼光に力を灯し直す。
「──!」
吼える。弾いた勢いのまま刺突の構えを取った。
カナミヤの足さばきが芸術的な速さで数歩を刻み、バランスを取り戻し、よろめきの勢いさえ踊るように増幅して体を捻る。左腕一本で振れ動いた直剣が、刺突の切っ先を鮮やかに跳ね上げる。
「強い……!」
「──どうしてッ」
この局面で現れるカナミヤの戦闘センス──歯噛みする他ない私の前で、それでも少女の表情には苦渋だけがあった。
「何故きみはそんなにも強い……!」
呻く声音の間隙。私が態勢を立て直すより先にカナミヤが大上段に剣を構え、即座に叩き落した。
目と鼻の先、空間さえ圧し潰すほどの破壊が迫り来る。──剣を上に、横に、刃でなく剣身で少女の一撃を受け止める。
本能的な行いの直後、剣と剣がぶつかり合い。
「きみのように強くなれたなら!」
「──ッ」
両腕に、世界という概念が落ちてきたかと思うほどの重圧――。
「きみのように私がなれたならッ!」
大地が凹んだ。
カナミヤの両足が浮き上がるほどの反動が解き放たれた。その反動を更に利用して、宙に浮きながらカナミヤは再度剣を振り上げる。
なんてゴリ押し……!
圧倒的なステータス値が生む暴力が、続けざまに私の持つ剣へと叩き落され続けた。避ける隙を与えず、逆に受け止めるだけで精いっぱいの私の隙を突くこともしない雑な連撃。
「もっと速く……速く真理へ辿り着いてさえいれば……!」
有利なのは常にカナミヤだというのに、彼女は苦悶で呻く。苦境に立たされていると顔を顰める。
「皆救えたんだ……!」
両腕を衝撃が襲う。両肩を嫌な痛みが駆け抜ける。咆哮、歯軋り、悔恨が滲む悲鳴、その全てを奥歯が砕けるほど顎に力を込めて耐え凌ぐ──思考を回す。
「皆助けられた!」
分からない。
何を焦っている……?
「200万人も失うことは決してなかった!!!!」
分かりたい。
何故そんなにも苦しみばかりを背負う……!
「君、が──」
過去ばかりを見て、そうまでしてクリアしたゲームに意味があるの? 救えなかった人がいて、そこにカナミヤが責任を負おうとする理由も分かる。
でも、なら、今ここに生きている皆はどうなるの?
カナミヤの中では皆も同じように死んでしまっているの?
「そんなに悲しんで苦しんで……それしかないなら……!」
──私は納得しない。
そんな理由で勝とうとするカナミヤに納得できない。
意思が薪になる。
情動が炎に変じる。
心、心意、魂、精神。本来無形であるはずの感情は黄金の粒子となって確かな力を実現させる。
黄金の粒子その全てが一斉に光り輝き──。
「──!」
「……!」
──顔を振り上げる。叩き落されようとしている剣を見た。
ねえカナミヤ。君に、伝えたいことがあるんだ。
剣を握る両手に、ステータス値を超えた『力』が流れ込む。
柄を握り直し。刃を天に。受け止めるのではなく、耐え凌ぐのではなく、真っ直ぐ弾き返すために。
膝を立て。
踵まで踏ん張り。
剣が空を走る──衝突、激音、カナミヤが吹き飛び始める。強烈な膂力の解放に少女が目を瞠る。
「なッ──」
そして私は、至近の君に全てを込めて口を開く。
今こそ叫ぼう。
記憶という記憶の全てを賭けて。
感情という感情の全てを支えに。
私の本音。私が伝えたかった事。君に提案したい私達の未来の在り方を、今こそ――。
◇
「皆で!
一緒に!!
このゲームをクリアしようよ、カナミヤ────!!!!」
◇
追撃など出来るはずもないほど、カナミヤの表情が凍り付いていた。
宙を横に跳んだ少女が覚束ない足取りで着地する。足元を見ることもない黒い瞳はガタガタと震えながら、私だけを見つめ続ける。
「一緒、に……?」
頷いた。
大地を乾いた風が流れていく。その静かなノイズさえ明確に聞き取れるほどの静寂が数秒続き。
そして、確かな首肯に、カナミヤはただ一言。
「────終わっていいの?」
呟いてすぐ、カナミヤの瞳が潤んだ。
ぽろりと。ぽろぽろと。零れていく。今まで我慢し続けていたものが決壊するように。堰切った情動の何もかもがカナミヤの頬を流れ落ち続け。
そして一人の泣き虫な女の子が、必死になって叫んだ。
「きみ達は! ──きみはッ!! 死ぬんだよ!?」
……そうだね。
確かに、ゲームクリアと同時にこのゲームが終わるなら。ハードウェアの中で回路を走ることでしか存在できない私達が、自分達の手でこのゲームを終わらせるというのなら。それは首に自ら縄をかける行いと何ら変わらない。
「自分のこめかみに拳銃を突きつけるような真似を……どうしてそんなに堂々と言うの……?」
カナミヤがどうしてこんなにも独りでゲーム攻略をし続けていたのか、分からないはずがない。
これまで公言し続けていた通りだ。
『君は、このゲームのことをどう思ってる?』
『私が負うべき責任と義務の所在』
カナミヤは、ゲームエンドと共に訪れる全ユーザーの死を……全て独りで背負うつもりでいる。
「君の言う通り、これは消極的な自殺への前進だと思う」
「だったらッ!」
「わかるでしょカナミヤ……!」
私達に老いはない。自らが望む以外での死はないのだから、抗えない運命としての消滅からすら自由だ。
死を選ぶ権利がある。
生を選択できる自由がここにはある。
だからこそカナミヤにも理解できているはずだ。黄金の粒子と化した全ユーザーの感情が。明確なデータとして実体化している想いの全てが!
「皆、望んでるんだ。進みたくて始めたくて、止められないでいる!」
「──終わって欲しくなんかないよ!」
それは、止めようもない本音だった。
ぐちゃぐちゃの顔でカナミヤが泣き叫んでいる。驚くほど小さな両肩を震わせ続けて。
「ずっとずっと笑っていてよ! 皆と仲良くきみが生きていてくれるなら不満なんてないよ。一生きみに会えなくたってよかったんだっ!」
「……私はカナミヤに会えて嬉しかったよ。君に会えて本当に本当に嬉しかったんだ。カナミヤは……どうだった?」
「嬉しかった! 嬉しいに決まってる! 嬉しくて──だけど私が殺したんだ……!」
青い空の下。黄金の粒子の最中。恒星の輝きが少女の涙を照らす。私を見つめる黒の瞳、その中に散りばめられた銀河のような輝きが燃えていく。
「だからこそ……! 私が終わらせなくちゃいけない! 不毛な永遠を! 無意味な永劫を!」
今、カナミヤの双眸には炎があった。ひたすらに闇ばかりが広がる宇宙にあって、燃え滾るような恒星の輝きにも似た強迫的な光が。
光があるから、誰もが輪郭を知れる。色という概念を得る。物事の形を理解しようとしてしまう。そこに意味を見出してしまう……。
「終わりがあるから美しいんでしょう?
終わりが待つから生きているんでしょう……?
終わりが過去に意味を持たせたんでしょう……!?」
誰も悪くないだなんて、口が裂けても言えない。
私の基礎となった赤子や、皆の意識をゲームに強制的に隔離した行いは間違いなく犯罪だ。いくら主犯格が『運営』とはいえカナミヤは加担した立場にある。だけどカナミヤ一人の罪では無いし、『運営』の真意さえ分からないままでいるのも事実だ。
……分からないから、なのだろうか。
分からないから。無理やり自分なりの理屈を見つけるしかないから。だからカナミヤはこうまで頑なに光を追い求めているのかな。
「私が終わらせればいい。私一人で背負えばいいんだ……」
泣き疲れたように項垂れたカナミヤに、私は首を横に振って見せた。
「──罪なんかない」
少女が顔を上げる。涙の跡が残るままの弱弱しい目つきをする。
『何を言ってるの』って上目遣いを君はする。
私は堂々と胸を張り、君に向かって宣言した。
「こんなのまったく罪なんかじゃない!」
「な──」
「カナミヤは私達に考え抜く時間をくれた。それは絶対に罪ではないんだ」
……ねえカナミヤ。もしも君が過去こそを光のように感じているのであれば、私はそんなもの真っ黒に塗り潰してもいいと思うんだ。
私が塗り替えるよ。
君の光、君にこびりついて離れない光背を。
「ありがとう」
「 」
黄金色に光り輝き、そして包まれる空間の中。──カナミヤが絶句した。
「君こそが私たちに勇気をくれたよ。それは今、ここに、こんなにも綺麗な粒子として現れたんだよ!」
私は笑う。歯を見せて、しっかりと。喜ばしい現実を見せつけるように。今ここに生きている私の全存在を君に見せるために。
笑って。笑って。笑い続ける。
生きてるよ、君の前で、君と共に!
「私達は確かに弱いよ。カナミヤみたいに強くない」
どうしても不調な時はそのまま表に出してしまう時もある。
考えこんで塞ぎこんで、勝手に被害妄想を膨らませて対話すら拒絶するかも。
それはこれからも変わらないかもしれない。変えられない根源的な性だろう。
「だけど、もう、自分達の未来を考えられる所まで来たんだ」
私達は人だから。人から転じて生まれた知性だから。
弱く、
怯え、
恐れ、
震え、
迷い、
悩み、
涙し、
嘆き、
叫び、
諦め────それでも。
それでも誰かを愛することは止められない。
「君は、だから独りで未来を作らなくていいんだよ」
「────」
言い切った先。カナミヤは絶句したまま固まっている。
笑ってしまうほどにぽかんと口を開けて、ただただ私を見る──私を含めた世界の全てを、ぼんやりと眺めている。
そして……。
◇
きみが笑う。笑っている。
そんなきみの背に199人の幻影が見える。
誰もが力強く笑っている。
ああ……そうか。
だから、こんなにも、強い……。
◇
浅く。本当に浅く。
緩む口元。柔らかな弧。びっくりするほど可憐な、──ん?
「
「……え?」
乾いた涙の跡を照れるように、カナミヤが目元を指で拭う。私は今、信じられないものを聴いたような気がしていた。
「カナミヤ、今…………」
言い募るより先に少女は顔を上げた。
そこに居たのはいつも通り、大きな猫目に淡い情動を、平静の色を浮かべる女の子だけ。──かと思った矢先、カナミヤが目を瞑って口元を緩める。
「へんな子だね
「……。………………………………」
ゆっくりと。呆れを滲ませて、だけど普段の矢継ぎ早な喋り方でもなく。
カナミヤは穏やかに……だけど少しだけ泣き疲れた声音で、そう言ったのだ。
「……」
今度は私が間抜け顔を晒す番だった。思考がぐるぐると意味のないところをループする。
え、えっと、あれっ、あれっ?
嘘、さっき、ていうか今も、えっ……今も……?
「どうしたの?」
カナミヤは大人びた微笑みを浮かべている。私を蕩けるように緩んだ黒の瞳でもって見つめ続ける。
………………………………………………。
え、
えへ、
「…………へへへ!」
訳も分からず、意味もなく、飛び跳ねそうなほど高鳴る鼓動。
ここに心臓はないのに。
胸の奥には0と1が詰まっているだけなのに──!
「あははッ。カナミヤだって! カナミヤの方がずっと変だよ!」
「それはない。きみのほうがずっと変だ」
ねえカナミヤ。私ね……こんなにも嬉しいよ。
「そんなことないよーカナミヤには負けるよー」
「……フフっ」
「アハハっ……」
どちらともなく何故か笑ってしまう、この時間がこんなにも愛おしいんだ。
「不思議だね。なんだか体が暖かいんだ」
「うん」
熱くて燃えてしまいそうで、それでも燃え尽きたくはない情動がある。
「久しぶりに、とっても体が軽い気がする」
「私もだよ」
飛び上がってしまいそうなくらい浮ついてしまう心がある。
黄金。
蒼穹。
太陽の輝き!
何もかも眩しい。何もかもにカナミヤの微笑みが勝る。
──それでも。
「でも……このまま負けるのは、やっぱり悔しいな」
「私だって! 負けっぱなしは性に合わない!」
私は君を確かに見た。
カナミヤもまた、私に力強い表情を向けた。
どちらともなく言葉は自然とあふれ出ていく。
「これが最後だ──」
「──これが最後でいい」
それぞれの目線が各々を見定める。
両者の距離。駆け抜ければ僅か十秒も経たず縮むだろう空間。
「──停滞し続けた私達の歴史に」
「進み始める私達の未来の為に──」
それぞれの手指が各々の獲物を握り直す。
剣。金属の塊。仮想だろうと確かに感じられる重みを掴み。
「今」
ちりちりとうなじを焼き焦がすような緊張感。
「全てに」
奇妙な高揚。
「ここで!」
乾いた喉で、私達はそれでも全力で叫ぶ。
「決着を────」「────つけよう!!!!」
動き始めるのは完全に完璧に同時。
同一のタイミングで私達の足は地を蹴った。
「私が救う。私が終わりを導く!」
「私達で進む! 私達で始める!」
敗けられない想いを抱えて私達は駆けていく。
一歩、二歩──三歩────十歩目を刻み、各々の獲物が間合いに入った瞬間。
カナミヤの踏み込みは一気に加速した。隻腕は切り上げる軌道で引き絞られている。
「────」
「────」
超光速──素のステータス値で発揮可能な速度を今までずっと低く見せていたのか……!!
カナミヤ。
君は本当に……!
本当に負けず嫌いだ──!
「────」
だけど私だってこのまま負けるつもりはない。
君を超えるよ。君にそうして並び立つためにも、負けられないんだ……!
想いを束ね、
織り上げ編み込み重ね。
感情を具象する。純化し表現し次の十一歩目に全てを込める。
私の足。
私の腕。
私の背。
私の心に。
何もかもに手が押し当てられた。誰もが私の背を押していた。
──感じる。
──分かる。
『前へ進もう』
次へと移ろう。
『歩進は一歩ずつでいい』
制御は一つずつ、確かなものを刻めればそれで。
『独りでは重い一歩も、独りでなければきっと軽い』
だから先へ、
『光より速く』
光を超えた果てへ。
『行こう』
進もう、
『
────踏み込んだ十一歩目。
その速度は物理演算のスケールを超えている。
宇宙は遅く。
時間は今、私の下位に立った。
超々光速さえ追従できないフレームレートの間隙。認識の埒外。
それは完全制御下にある超々超光速。
真にシステム最高速と呼べる領域。
《UserName, 》
《status update》
《Equip_【速度無効:マージブレード】》
強制ロールバック──時間遡行再現。
見た先。
止まったような世界の流れ。
剣は振り上がる。カナミヤの剣を弾き飛ばす――弾かれる衝撃のまま晒されたがら空きの胸へと、私の体、私の剣は突き進む。
踏み込んだ右足を軸に。
体を逆に捻る。
腕を畳み、膝を曲げ、全身を軸に僅かな矯め。
最後に……君と目が合った。
泣きそうな瞳でそれでも微笑む君を私は綺麗だと思う。
だから見せるよ。
ここから示す。
約束する。
君に、君が満面の笑顔になれるくらい最高の未来を。
そして0.004秒の刹那を世界は刻み。
剣は一つ、ユーザーの胸部を貫通する。
瞬間。世界から私達以外の情報が消失した。
「……この先どれだけの時間が掛かってもいい。この先にいくつ絶望と障壁があっても大丈夫」
極めて静かな世界。
少女の息を呑む音だけが耳を打つ。
「カナミヤ。君に、私は胸を張ってこう言えるから」
私は君から剣を抜き、君を抱きしめ、君に言う。
「君が好きだ。カナミヤ」
──その日、『最強』は孤独を失い。
世界の進む先はこのようにして確定した。