《このゲームが始まって1e+100秒が経過しました。》 作:てりのとりやき
トーギというユーザーが、ゲーム内の全ての時間をかけて製作していたロケットは、飛翔してすぐ爆発してしまった。
「…………」
「……」
「………………」
「そん、な。どうして……」
私達は空の青に混ざって膨れ上がった炎の雲を呆然と、ただ茫然と見つめる他なかった。
そんな、静まり返った広場へと唐突に姿を現す青年が一人。
「──」
灰色のツナギ上下。上半身部分を腰で結び、黒いTシャツ一枚を着た、いつもの出で立ち。浅黒い肌に前髪をかき上げたツーブロック。普段はよく笑いよく動く表情は、陽光を受けて色濃く陰る。
青年ユーザー、トーギが俯いたまま広場に立っていた。
「トーギ、死に戻り……したんだ」
私の一言に、やけに平淡な表情のままトーギは顔を上げる。
「ああ。飛散物が直撃してな。おかげで管制室も瓦礫の山だ……ってなんだこりゃ?」
周囲に居るユーザー数の多さにようやく気付いたのか、トーギは素っ頓狂な声を上げた。
ブラックアウトしたまま何も映さない大型のモニター。乱立するテーブルと椅子、振る舞われていた料理や菓子の皿。対照的に、誰一人として騒ぐことが出来ない、死んだように静かな空間……。
「なんだお前ら……もしかして見てたのか?」
「え、えっと、その、あの……」
トーギを中心にぽっかりと穴が空いていた。誰も彼も、彼に近づくことができなかった。
手の中にあったクラッカーが嫌に重かった。
頬を指で掻いていたトーギは、人々の手の中にあるクラッカーに目を向ける。次いでトーギの瞳は、私を見据えた。静かに。穏やかに。
「そのクラッカー……お前の手作りか?」
「う……うん。そうなんだ。トーギを、びっくりさせたくて、ただそれだけで……」
──頑張って作ったんだ、と。
その一言がどうしても言えなかった。口に出すことが憚られた。尻すぼみになった私の言葉を、トーギは静かに聞いて──。
「……っ」
その時。その瞬間。トーギという青年が見せた表情を私は目に焼き付ける他なかった。
悲しそうな顔を……していた。
一瞬だけ、泣きそうなほど唇が戦慄いていた。眉が歪んでいた。決壊しそうだった。
なのに──次の瞬間には。
「あーあ。やっちまった!」
トーギは、バカみたいな大声を上げた。
奥歯まで見せつけるさっぱりした笑い方を
「ウハハ。いやーやっぱ色々と詰めが甘かったんだろうな!」
「と……トーギ」
「急に燃料漏れのエラーが出やがってさあ! 今までの試験でも燃料漏れなんて発生したことなんてなかったんだぜ?」
「トーギ君……」
「溶接も強度計算も構造の最適化も全部やった。全部やったんだけどなあ……」
今度はトーギの言葉が尻すぼみに掻き消えた。誰がどう見ても空元気にしか見えない声音は一瞬で潰れてしまった。
俯き、少しの時間だけ黙りこくったトーギはややあってから呟く。
「悪い。ちょっと座らせてくれ」
近くにあった椅子にトーギは腰を下ろした。どっかりと、重力に縛り付けられたように座り込み、背筋を曲げ、両膝に腕を当て、首を垂れる。
「ハハハ……いやァ、ほんッとに──なにが悪かったんだろうな……?」
誰独り、その問いに答えられない。ただ誰もが立ち尽くすばかりで──そのうちにトーギは俯いたまま笑い声をあげる。自分だけで答えを見つけてしまう。
「いいや分かってンだ。何がじゃねえ、
千年──エンジン部の試作に費やして。
億単位の時間を材質の検討に費やして。
兆単位の執念で全てを独りで作り続け。
ボルト一本まで手加工だった。私はトーギの誇りが詰まった行いだと常々思っていた。
だけど、今のトーギはそれを『下らないこだわり』だと切って捨てたがっているように見えた。
「時間だけはあるからって限界まで精度にこだわった結果がこのザマだ」
「……大丈夫、ですよ。トーギ君」
ようやくトーギに声を掛けられたのはレイラさんだった。振り絞るような、詰まり切った喉から無理やり引きずり出すような、苦渋の声音。
震えた言葉が青ざめたレイラさんの顔が、それでも必死になってトーギを向いている。
「挑戦に失敗は付き物じゃないですか」
「終わりがあるから、挑戦と失敗にだって価値があンだ」
トーギはレイラさんを見ようともしなかった。
「で、でもッ」
「際限なく失敗しても許されるなら生きる理由なんかねえんだよ……!」
──そして、矯め込んだ数々の情念には火が灯る。
ばら撒いたガソリンに点火したライターを投げ入れるように、トーギというユーザーの感情が決壊する。
「俺の!
この世界の!!
永遠に終わらないこのゲームのッ!!!!」
「それでも出会えてッ、愛に嘘はなかったんです!!」
「──」
トーギの激情が、止まった。
「ここがゲームの中だとしても愛する事には真実しかなかったんです……!」
「レイ、ラ……」
のろのろとトーギが顔を上げる先。止めどなく涙を流すレイラさんがいた。拭っても拭っても零れ落ちる大粒の涙を、嗚咽交じりに震える喉を、隠すことが出来ないでいる彼の恋人が。
「私、ノルウェーに住んでるんですよ。トーギ君がいた日本じゃないんです。遠いじゃないですか」
「……」
「出会えるはずがなかった。このゲームで、このゲームだからトーギ君と出会えて、よかったって。トーギ君がいたから私は、私はこの永遠を……!」
「……。……………………」
レイラさんの涙を呆然と見る他なかったトーギは、口を閉ざす。のろのろと俯き、ただただ項垂れる。
愛する人の、レイラさんの苦しみが分かってしまうから。
だからトーギは顔を上げることができない。彼の精神は更に自罰を強めていく。
「私が乗っていればよかった……っ」
「 、 」
……青年ユーザーが息を呑む音は、恐ろしくなるほど強く広場中を駆け抜けた。
「私のスキルで、きっと直せました。そしたらこんなことにならなかった。こんな悲しいことを誰も感じずに済んだんです!」
「違う。違うんだよレイラ。そうじゃない。そうじゃねえんだ」
誰一人として二人の会話に割り入ることが出来なかった。
血の気を失った顔でもう一度恋人を見上げた青年ユーザーにも。
泣きじゃくり自責の念に駆られた女性ユーザーにも、声を掛けることができなかった。
「俺は……俺の力で。俺だけの力で、お前に……宇宙を……」
「トーギ君の馬鹿。意地っ張り。そんなの意味ないじゃないですか。壊れちゃったら意味ないじゃないですか!」
「……!」
普段ふざけたことばかりをして日常を過ごしているユーザー達は──私達は、どうしてああまで日々を愉快に過ごそうとしていたのか。永遠に続くこのゲームに目標を持って生きようとするのか。
何故かと言えば恐れているからだ。
人の精神が、対話を経て破滅に向かう様を。
「所詮ゲームじゃないですか!」
「──たかがゲームだからだろッ!!!!」
これまでにも起きた悲劇から目を背けることしか、私達は知らない。
「……っ」
「ここがゲームの中だからだろ……? システムと運営が支配する永遠の監獄だから、
「────」
手を取り合えばよかったのかもしれない。トーギというユーザーと、レイラというユーザー二人が協力すれば起きなかった出来事なのかもしれない。
だけどトーギはひたすらに『一人でやる』ことにこだわった。最終的には作業中に誰しもの声も聞こえないほどのプレッシャーを、自分自身に与えてしまった。
レイラさんは彼を見守ることしかできなかった。優しい彼女は、優しいが故に異常な状態にあったトーギを引っ張り上げることが出来なかった。
「俺が馬鹿やって、間抜けな目に遭って、それで笑ってさえいれば……レイラも笑ってくれると思ったんだけどな……」
……誰も、何も悪くない。悪いはずがないんだ。
なのにレイラさんは泣いている。何も言えなくなって震えるしか出来ないでいる。
トーギはただただ悔いている。自分で自分を追い詰め続け、崖の際に座ってしまった。
「馬鹿だな、俺。はは、結局泣かせちまってる」
呻く声。
「……最低のクソ野郎が」
瞳孔の開き切った両眼。
「何一つレイラは間違ってなんかねえんだ」
顔を抑える、震える両手。
「俺が、馬鹿だから。俺が……クソだから」
トーギの全身が、暗がりに沈んでいく。それは比喩でなく事実として、陽の光が隠れてしまったことによるもので。
曇り空……。
広場に居たユーザーの誰かが顔を上げる。
これはゲームなのだから。決して雨など降るはずもない、青いばかりだった空は、気付けば曇り切っていた。
まるでトーギというユーザーの精神状態を示すかのような、
「あァクソ……」
空は暗く。
重く。
曇り、陽は陰り、そして。
トーギは最後のスイッチを自ら押した。
◇
「死にてぇなあ……」
◇
トーギの口から柔らかな声が──どのユーザーにも似ていない美しい女声が、流れた。
「《私達は、》
《望み合い、》
《求め合い、》
《幸福ばかりを追い求め、》
《だけど独りで決めつけて、》
《だから傷つけあうことしか知らず、》
《何を間違えたかもわからないまま間違い続ける。》」
ひッ、と。誰かが悲鳴を漏らす。誰もが恐怖に打ち震える。
私達全員がトーギの口を使った声音の主を知っている。
『彼女』の姿を知らなくとも、『彼女』がサービス開始時、私達に向けて囁いたアナウンスを覚えている。
「《あなた達はそれさえ真に自由です。》」
『運営』による強制詠唱。
数億年ぶりの、レイドボスイベントの事前告知……。
「トーギ、君。……トーギ君っ!」
項垂れ顔を抑えたままトーギが微動だにしていない。生理的な身じろぎ一つない彼の体は、まるで時が止まってしまったかのように固まっている。そして徐々に……徐々に、トーギの全身が黒に染まっていった。
色としての黒ではない。
その黒は、情報として知覚できないからこその『黒』だ。
「レイラ。俺……俺さあ……」
トーギというユーザーの肌が。着ている服が。
何もかもがどす黒く沈んでいった。立体的な凹凸を何一つなくした絶色の黒き人型へと変貌し。
レイラさんが悲鳴を上げた。
「──嫌! 嫌です! トーギ君!」
……レイドボスイベント。
それはユーザーが
ユーザーデータを一時的に敵対モンスター……
レイドボスとしての討伐を終えた時、ユーザーが辿る末路は二つに一つしかない。
一つは、人格と記憶のリセット。
二つに、ユーザーデータの消失。
生物的な死が存在しないユーザー達において唯一の破滅。
唯一、非稼働状態へ陥る可能性を秘めたこのゲームにおける真の“死”。
「お願いだから私を見てください! 私を、私はここに……!」
「俺は……いつから……」
この、ゲームという名の永遠の監獄の中にいる私達は、運営が用意した最悪のゲームイベントをこう呼ぶ。
「トーギ君────」
「
“理性破砕”と。
■―■
《レイドボスイベントが発生しました》
《イベント開始まで、あと300秒……》
《299秒》
《298秒》
■―■
そして、イベント開始を告げる事前アナウンスが駆け巡り。
「まだ1回目ですらないわよクソガキ」
──立ち上がる女性ユーザーがいた。
赤い髪を、燃えるような豊かさを持った、貴意ある顔立ち。烈火の如く逆立つ眉と眦。気の強さが形になったかのような紅い瞳。そして何より、その腰裏から生える装備品。先端が二股になった蛇の尻尾、装備型スキル《
「フェフォ──」
「トーギ。このクソアホ傷心ぶったバカガキ。アンタが泣けばそれだけで悲しむ人がいるってわからないワケ?」
問いかける先の青年は既にかつての姿を失っていた。
目も鼻も口もなくした、ひたすらに黒い顔。立体感を失っている『かつてトーギというユーザーだったモノ』はゆっくりと顔を上げた。
瞬間。
フェフォが叫んだ。
「──全員クラッカーを捨てろッ!」
本能で動いた。クラッカーを全力で空に投げつける。
そうして僅かな時間が流れた後。
空を舞った一つのクラッカーと、フェフォが『トーギだったモノ』に投げつけたクラッカーを含む、全てのクラッカーが一斉に爆発。紅蓮の炎に包まれ、広場に居た私とフェフォ以外のユーザーが消滅した。
「──!」
『!!!!!!!!!!』──音という音を塗り潰す強烈な爆発の連鎖が起きた。私の体が衝撃で地面を転がる。フェフォでさえ全身を蛇尻尾で覆い防御態勢を取った。
その爆発力はパーティグッズの域を超えた冗談じみたもの。まるで、そう、
「チッ……物理現象の『直接操作』に『過剰表現』。もうレイドボスになりかけてるじゃない」
防御態勢を解いたフェフォがうんざりした様子でそう言う。瓦礫だらけの荒地と化し、人気の失せた広場を見回した。
普段なら死亡後即座に復帰するはずのユーザー達が蘇ってこない。まるでシステムが制限を課しているかのように。
「……『復活遅延』も機能してるってワケね。なによクソガキ、意外とレイドボスの適正あるのね」
引火した残骸が辺り一面を真っ赤に染める。
「レイラ、あとはワタシに任せなさい。あのガキを“理性破砕”になんかさせないから」
曇天の下、フェフォは今この場にはいない女性ユーザーに向けて呟いた。
「まだ間に合う」
「で、出来るの……!?」
「簡単じゃない。300秒以内にクソガキを殺し切ればいいだけよ」
……フェフォは、レイドボスイベントが開始する前にトーギを一度破壊するつもりでいるのだ。
このゲームに囚われた私達が長い時間を掛けて編み出した唯一の救出策。だけどあまりに現実味がないのも事実だった。
何故なら、レイドボスは強い。
レイドボスはそもそも単独ユーザーでの討伐を前提としていない。レイドボスになりかけているトーギでさえ通常ユーザーを即死させるほどの強さを持つ。
レイドボスイベントの事前アナウンス中にユーザーを倒し切れた回数は、数えるほどしかないのだ。
「理性破砕に陥るほど重度の精神失調なんてのはね、完膚なきまでにボコボコにされれば治るものよ」
だというのに、フェフォの声音には微塵も怯えがなかった。焦りも震えも恐れも何一つなかった。
ただただあるのは、フェフォという女性ユーザーが持つ圧倒的な自信。苛烈な言動を裏打ちするだけの激烈な実力。
「お子ちゃまも下がっていなさい」
「え……」
言われてから私はようやく自分が足手まといになっているのだと気づく。
フェフォの背中を、追い縋るように見つめてしまった。
「でも……! 私だって何かできるよ!」
「アナタに必要以上の戦闘経験を積ませるわけにはいかないのよ」
──なにそれ。
言葉の意味を問いただすよりも先に、フェフォの蛇尻尾がブレ──腹部に重い衝撃。
視界は放射線状に伸びていく。
一気に、フェフォの凛と伸びた背中が遠ざかる……!
「フェ、フォ──!」
横殴りに駆け抜けた蛇尻尾が、貧弱なステータス値しか持たない私に戦線離脱を余儀なくさせた。一切の反応を許さない殴打は、だけど痛みが薄い。
何度も地面を転がって、無数の建築物を貫通し、破壊し、どうにか態勢を立て直そうとしても体が動かなかった。
瓦礫に圧し潰されている。身動きが、取れない。
「安心しなさい」
遥か彼方で、首だけを巡らせたフェフォはいつも通りに薄く鋭く笑っていた。
「ここはアナタの愛する世界なんだから。
アナタが愛するものはすべてワタシが守る。
それって当然のことでしょう?」
よく見ておきなさい。──そう言って、フェフォは首の向きを正した。
彼女の前には、自動的に迎撃を行う絶色の半レイドボス。
単独のユーザーでは勝てるはずのない怪物を前に、フェフォはただ一言。
「スキル保有者の戦い方っていうのはね、こういうものよ」
──視界の隅で、今日何度目かも分からないアナウンスが踊り狂う。
■―■
スキル実装:《
Tips_其はスキル《
■―■
アナウンスが流れてすぐに、フェフォの腰裏、蛇にも似た尻尾に変化が現れた。
燃えていく。
赤く、紅く、まるで太陽のように。
それは、装備型スキル《
「クソガキ。悪いけどワタシ、手加減とか苦手だから」
どこか喜びに満ち満ちた嗜虐の声音。フェフォの笑い声に『トーギだったモノ』が黒いばかりの顔を向ける。
直後、フェフォの頭上へとロケットが降り注いだ。
前後の出来事など無視したロジックの通じない現象。『物質創造』──ゲームシステムによるオブジェクト生成権能の発動。
直撃すればそれだけでフェフォは死ぬ。……だというのに。
「荒療治でいいでしょ?」
フェフォは無事だった。ノーモーションで叩きつけられたロケットを、『速度』という時限を超えた動きで蛇尻尾が貫通していた。
その速度。
その反応。
全てが普段の動作とは桁違いに速い。そして、二段階解放の仕様を持ったユニークスキルが、ただ速いだけで済むはずがない。
「腐り切った根性なんて壊して燃やして叩き潰さないと直らないんだから」
蛇尻尾がロケットをそのまま空へと放り投げる。曇天を吹き飛ばすかの如く真っ直ぐに打ち上げられた可燃物の塊に、先端が二股に裂けた蛇尻尾は矛先を向けた。
「アホガキ。以前のアンタなら分かるんじゃない?」
何を、とも。何が、とも。『トーギだったモノ』は応えない。答えるための口がない。
そんな半レイドボス状態のトーギへとフェフォは悠々と語る。貫かれた穴から液体燃料を撒き散らしつつ落下するロケットへと、蛇尻尾の先端を向けながら。
「ロケットの推進剤に使われる液体燃料は多量の水素原子を含む。だから何? って思うかもしれないけど、例えば
「答えは簡単よ」、と。
フェフォは諳んじるように続けた。
「水素原子の同位体選定も、素粒子の位置・運動・スピン・量子状態を任意に制御することも、強制的な核融合のトリガーを発動させることも。今のワタシに出来ないことなんて何一つないワケ」
蛇尻尾は空を睨む。裂けた二股の先端はまるで鋏のようであり、同時に
──不意に、空を飛散する液体燃料へと蛇尻尾がゆっくりと振り払われ。
それから一瞬のこと。
遥か頭上で金色の閃光が迸った。
大地全てが激震に包まれる。
それは《テクスチャー領域》のありとあらゆる場所まで膨大な熱量を巻き散らす爆発だった。圧倒的な熱量が、圧倒的な光量が、純粋なエネルギーの奔流の代替表現として咆哮を上げていた。
燃焼などという生温いプロセスを超えた爆光。
素粒子直接操作による、強制核融合反応。
「さあクソガキ。覚悟しなさい」
……かつてトップユーザーの地位をカナミヤと争った、元『攻略組』が居る。
スキル保有数3。
レベル1。
「ワタシはレイラほど優しくもなければお子ちゃまほど甘くもない」
スキル発動時の全ステータス平均値3+3極。
「徹底的に嬲るわ。徹底的に壊す」
素粒子に直接触れることが出来、素のステータス値だけで光速到達可能な装備品を持つフェフォが。単一スキルのみでカナミヤと互角に戦闘可能なアンフェルフェフォビアが。
いつも通りに全てをせせら笑って、燃えるように美しい赤髪を揺らした。
「消えたいだなんて考えられないほどワタシがグチャグチャにしてあげる」
──レイドボスイベントの開始まで、残り100秒を切った。