「お母さんね、実は元TS魔法少女だったの」 作:性癖でバトルしようぜ!
「お母さんね、実は元TS魔法少女だったの♪」
母の口から飛び出した衝撃の告白に、僕は思考を停止させた。
『キミに起こった異変について、オイラから説明させてもらおうかな』
追い打ちをかけるように、飼い猫のノエルが流暢な人語で──しかも一人称「オイラ」で喋りだす。
夢であってくれという願いも虚しく、視界に入る鏡の中には──呆然と口を開けた一人の美少女。
状況を整理しよう。僕は朝、起きたらとんでもなく美少女な身体になっていた。
「…………いや、情報量の過積載だっての! 頭追いつかないって!」
叫びながら、何度目か数えるのも嫌になる
……うん。赤くなるほど痛い。紛れもない現実だ。
「それでね〜、昔は社会を守るために悪いやつらと戦ってて〜」
頬に手を添え、のほほんと語る母さんはいつも通りのマイペースだ。
あー、うん。ちょっと待って。一回ストップ。
──なんでこうなった?
一旦、記憶を巻き戻そう。じゃないと、脳が考えるのを放棄したまま物語が勝手に進んでいってしまう。
そう、事の始まりは、ほんの数分前に遡る──。
◆
『あさおん』という言葉を知っているだろうか。
「朝、起きたら女の子になっていた」というシチュエーションを指す俗称だ。
古くから漫画やアニメの導入に使われてきた、いわゆる『TSもの』の王道。
サブカルチャーが盛んなこの国では、もはやお馴染みの様式美とさえ言える。
冴えない男子だった主人公がある日突然、絶世の美少女に変身する。
「どうせ変わるなら美少女の方がお得でしょ?」という、読者の願望を具現化したようなお決まりの設定だ。
当然だが、それはフィクションの中だけの話だ。
現実に起これば、お得どころかパニック以外の何物でもない。
学校や職場への説明、戸籍の扱い、何より誰がそんな話を信じてくれるのかという絶望的な問題が山積みになる。
だからこそ最近では、しがらみのない異世界転生や逆行転生に付随する形でのTSが主流だと聞く。
そして、なぜ僕が今さら『あさおん』の定義なんて語っているのか。
「……これ、誰だよ」
ある日の早朝。僕、
どこにでもいる、ごく普通の男子高校生。
成績は平均点、運動神経も人並み。
容姿はパッとしない「地味め」で、趣味は読書──とは言っても中身はアニメや漫画ばかりで文学男子とは言えない。
友達は少なく、かといって浮くほど孤立もしていない。
クラスメイトからは「星宮? ああ、いたねそんな奴」程度の認識で終わるようなモブの存在だったはずだ。
客観的に自分を分析すれば、そうなるはずだった。なのに。
鏡に映るその姿は、どこからどう見ても、一分の隙もない『美少女』だった。
髪は漫画やアニメのキャラクターじみた青みがかった銀色で、肩のあたりまでしなやかに伸びている。
陶器のように滑らかな肌に、長く伏せられたまつ毛。
そして──昨日まで平坦だった場所には慎ましい膨らみがあった。
「お……」
わなわなと震える瞳が、限界まで見開かれる。
ペチペチと頬を叩けば、鏡の中の美少女も同期して同じ動作をする。
「──女の子になってるぅぅぅ!?」
絶叫は、自分でも驚くほど可愛らしい声になって鼓膜を揺らした。
「待て、夢だ。これは絶対に夢……っ、いひゃい!」
縋るような思いで頬を強く抓ってみたが、やはり、ただ痛いだけだった。
「おかしい。これは絶対に現実だ。人間がある朝起きたら美少女になるなんて、そんなものはフィクションだけの話だろ!」
昨日まで僕は正真正銘の男子だった。
記憶違いなはずもない。
17年間を男として生きてきた実績とプライドがある。
だというのに……。
この腕、あまりに細すぎる。
手もちっさくて、どこからどう見ても美少女に変身している。
混乱が収まらない中、部屋の外から騒がしい音が響く。
ドタドタと階段を駆け上がってくる足音。
きっと先程の絶叫のせいだろう。
「しまった」と思った時には、もう手遅れだった。
「ひーくんどうしたのぉっ!? すっごい声が聞こえたけ……ど……?」
勢いよく扉を蹴破らんばかりに現れたのは、僕の母さんだ。
今の僕と同じような銀髪を揺らしながら、心配そうに部屋を見渡す。
当然、そこにいるはずの息子の姿はない。
代わりに佇んでいるのは、見知らぬ美少女が一人。
「あ、えと、これは……」
「……」
母さんとバッチリ目が合う。
彼女の視線は素早く僕の服へと移り、また顔に戻ってきた。
数秒の沈黙。
母さんは考えをまとめるように唸る。
やがてポンと手を叩くと、あっけらかんと口を開いた。
「あの子ったら、いつの間にこんな可愛らしい彼女さんを連れ込んで……」
「いや、テンプレート通りの反応はいいから! 絶対わかって言ってるよね!? 僕の服装を見て結論出した顔してたよね!?」
母さんは天然なところもある。
けれど、状況証拠的に僕本人だと気づかないはずがない。
そもそも僕に彼女なんていない。
過保護な母さんなら、そんな浮いた話があれば即座に家宅捜索を始めるはずなのだ。
「やっぱり、ひーくんなの……?」
「う、うん……。僕は正真正銘、星宮朝日だよ」
「お母さん、ひーくんは男の子だと思っていたんだけど。やっぱり女の子だったのね♪」
「やっぱりってなんだよ! 昨日までどこからどう見ても息子だったでしょうが!」
とりあえず、現状の悲劇だけは共有しておく。
「あさおん」なんて、あまりに現実離れした事態だ。
いくらなんでも母さんだって腰を抜かすはずだ。
「とりあえず、可愛いお洋服を買いに行かないと♪」
「いや、順応早すぎるよ!? もう少し驚いて!? 息子が娘になったんだよ!? 性別ひっくり返ってるって!」
混乱する僕をよそに、母さんは完全にエンジョイ勢だ。
この人、ある意味で全知全能のバグキャラなんじゃないだろうか。
「そのことなんだけど〜……」
母さんは苦笑いぎみに続けた。
「実は……心当たりがあるのよね〜」
「え? そうなの?」
まさか「実はドッキリでした」なんて言わないだろうな。
この母ならやりかねないが、残念ながら自分に備わったこの胸の感触は本物である。
ごほん、と咳払いをした母さんの表情が、いつになく強張る。
つられて僕も、ごくりと唾を飲み込んだ。
「お母さんね、実は元TS魔法少女だったの♪」
「……は……? TS……? 魔法少女……?」
「そうよ~メス堕ち済み♪」
「メス堕ち済み!?!?!?」
想像の斜め上を音速で突き抜ける告白。
僕は完全にノリにおいていかれている。
その時だ。
部屋に飼い猫のノエルがトコトコと入ってきた。
いつも僕を起こしに来てくれる、唯一の癒やし。
ごめんな。今日は状況がカオスすぎて、構ってあげられそうにないんだ。
『キミに起こった異変について、オイラから説明させてもらおうかな』
…………は?
今、なんと?
ノエルが、喋った……?
理解の範疇を超えた事象が、渋滞を起こして止まっている。
あさおん、元魔法少女と告白する母、そして一人称オイラで喋る飼い猫。
脳内の処理回路が、音を立ててショートした。
──こうして、冒頭の地獄絵図へと繋がるのだ。
「えっと、つまり世界には悪がいて、魔法少女の母さんが戦っていた……と」
あれから思考を戻すのにも数分かけた。
もうドッキリやら夢であってほしい。
ようやく話が進むってわけ。
「厳密に言えば、もう引退済みなのよ~♪」
『10年以上も前に、キミの母親は引退した身だからな』
なぜか二足歩行で立ち上がるノエル。
腕を組みながら相槌を打つ姿は、あまりにシュールすぎて直視できない。
そもそもお前は何者なんだ。
「それで。僕の性別が変わった心当たりってなんなのさ」
手の込んだドッキリの類ではないことは、この体を見ればわかる。
けれど「魔法少女」なんて単語を、はいそうですかと飲み込めるはずもない。
『キミの母親は元男性だったということさ。それがどういうわけか、キミに遺伝したってわけだね』
「……TSって遺伝するもんなの!?」
僕の叫びに、母さんは肯定するように頬を染めて照れてみせた。
ノエルが言うには、母さんはかつて魔法少女として活動していたらしい。
本来は少女たちが選ばれるはずが、突然変異的なあれで『TS魔法少女』になったのだとか。
「そんな、漫画やアニメじゃあるまいし……」
「でも、実際ひーくんは女の子になっちゃってるでしょお?」
「……う。いや、まあ、そうだけどさぁ」
自分の母親が「元男のTS娘」だったなんて、衝撃のキャパシティを超えている。
その体質が遺伝して、息子である僕までTSしたなんて。
もう、わけがわからないよ。
「仮にそれを受け入れるとして。僕は元に戻れるのか?」
『オイラが元に戻してやろう』
「ノエルが? というか、お前は結局なんなんだよ」
器用に前足を人間のように使う姿は、どう見ても普通の猫ではない。
思えば、ノエルとはいつから一緒にいただろうか。
僕が物心つく前から、当たり前のように傍にいた気がする。
15年以上は確実に生きてるだろう。
『オイラはただの猫じゃあない』
そりゃあ、見ればわかるよ! 喋る猫がいてたまるか!
『オイラは魔法少女専属の妖精さ!』
「お前、妖精だったのかよォ!?」
いや、アニメとかではお馴染みの設定だけどさ!
マスコット枠ってそういった物語には付き物だけどさぁ!?
実家の飼い猫がそれだったなんて、普通は思わないじゃん!
あれか? 「オイラと契約して魔法少女になってよ」とか言い出すタイプか!?
『むしろ朝日は不思議に思わなかったのかい? こんなパステルブルーの猫なんて、この世に存在しないだろう?』
「うぐぐ……。そう言われると言い返せない」
ノエルの毛並みは、鮮やかな青色をしている。
尻尾だけモフモフの縞々模様。
冷静に考えれば、生物学の限界を突破したビジュアルだ。
アニメや漫画ではお馴染みのあり得ないカラーリングの動物、履修済みさ。
母さんも周囲も普通に可愛がっていたから、疑問を持つ機会を失っていた。
「じゃあ、さっさと元に戻してよ」
『……できない』
「は?」
『朝日。キミを元に戻すことは、今のオイラには不可能なんだ』
「さっき『戻してやる』って言ったのは嘘かよ!」
『キミの母が魔法少女を引退したように、オイラも妖精を引退して10年以上経ってるんだ。魔力が枯渇しているんだ』
「ねえ、妖精に引退とかあるの???」
『しかたないよ。これも時代さ』
やれやれといった仕草をするノエルはどこかオヤジ臭さがにじみ出ている。
「ということは、僕は一生この姿のままなのか?」
ふと母さんが言った「メス堕ち」という不穏な単語が脳裏をよぎる。
……冗談じゃない! 僕は男だ!
見た目がどう変わろうと、17年培った男のプライドがあるんだよ!
『解決策がないわけじゃないけどね』
「何っ!? あるの!? どうすればいいんだよ!」
藁にも縋る思いで、僕はノエルに食いついた。
『現代社会における敵、いわゆる「怪人」の血液があれば魔力を取り戻せる』
「怪人……?」
『そいつらの魔力源を回収すれば、キミを元に戻せる。理論上はね』
ノエルが神妙な顔で、とんでもない解決策を提示した。
要するに、怪人を狩れというわけだ。
非日常のバーゲンセールに、僕の頭痛は増すばかり。
すると突然、背後から凄まじい「圧」を感じた。
「……じゃあ、お母さんの出番ね♪」
振り返った僕は、その場で石化した。
そこには、フリルとレースを限界まで盛り付けた衣装の母さんがいた。
きゃるん☆とか擬音が聞こえてきそうだ。
ピンク色を基調とした、あまりに魔法少女すぎるフル装備。
「押入れに入れたままのコスプレ衣装が日の目を見る時ね♪」
「……年齢考えろよぉぉぉ!」
「失礼ね♪ 魔法少女に年齢制限なんてないわよ?」
「あるわ! 法律にはなくても、世間の目っていう高い壁があるんだよぉぉッ!」
「多様性の時代よ~?」
「便利だなぁその言葉! 母さんが良くても僕の社会的地位が爆発四散するんだけど!?」
17歳の息子の前で、30代の母親がミニスカフリル。
地獄絵図なんて生易しい言葉では言い表せない。
母さんは可愛らしいステッキを振り回し、鼻息荒く宣言する。
「母さんが怪人をボコボコにして、魔力を取ってきてあげるわ!」
『待て。キミが行くのは、色んな意味でオススメしない』
ノエルが冷ややかな声で制止した。
珍しく意見が一致して、僕は激しく同意する。
だが、ノエルが次に向けた肉球は、僕を射抜いていた。
『適任は朝日だ。キミがやるんだよ』
「は? ……いやいや、無理に決まってるだろ!」
『朝日。キミには母親の「TS体質」が遺伝していた。なら、「魔法少女としての素質」もガッツリ遺伝しているはずさ』
ノエルの解説によれば、TS体質が遺伝したのなら魔力の適正も受け継いでいる可能性が高い。
つまり、僕こそが次世代のTS魔法少女というわけだ。
わぁ。ふざけるな。
「断る。絶対に嫌だ。女子になっただけでも最悪なのに、フリルまで着て戦うとか死んでもごめんだ」
「あら。じゃあ、お母さんがやるしかないわね♪」
母さんが笑みを浮かべて、痛々しいティンクルポーズを決める。
あんた、30代の人妻だぞ。しかも息子の前だぞ?
母親のコスプレを見させられる息子の心情を述べよ。
想像してしまう。
近所のおばさんが、魔法少女の格好で不審者探しをしている母さんの姿を目撃した光景を。
間違いなくご近所の噂になる。「星宮さんの奥さんは……」と、近隣の主婦連中の陰口が聞こえてくる。
あああああ!!!!
僕の社会的地位が! 物理的に消滅する未来しか見えない!
「……わかった。わかったから。その格好で外に出るのだけはやめて!」
『決まりだな。話が早くて助かるよ』
「じゃあ、お手本を見せてあげるわね♪ レッツ、怪人探しよぉ!」
「母さんも行くの!?」
「あら、魔法少女として何をすればいいか分かる? 変身は? 魔法はどうすれば使えるか、ちゃんと出来る?」
「うぐぐ……、ならせめてコートか何かを羽織ってくれ!」
母さんは僕の手を引き、意気揚々と部屋を飛び出す。
隣には人語を話す青い猫。
僕の姿は、銀髪美少女。
──もう、どこにツッコめばいいのか分からない。
こうして僕は、最悪の「初陣」へと強制連行されることになった。
雌落ち済みTSママっていいよねって性癖開示でした
性癖に賛同してくれた方はお気に入り高評価よろしくお願いします
皆さんの性癖開示も待ってます(?)