「お母さんね、実は元TS魔法少女だったの」   作:性癖でバトルしようぜ!

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2話

 僕と母さんは街へと赴いた。

 視界に映る街並みはいつもと変わらず、至って平和だ。

 こんな平穏な白昼堂々、怪人なんて物騒な悪が蔓延っているはずもない。

 案の定、僕は母さんの壮大な妄想に付き合わされているだけじゃないのか。

 

「……ねえ。さっきから、やたら視線を感じるんだけど。母さん、ちゃんとその衣装隠せてるよね?」

 

 日常の風景に混じる、明らかな違和感。

 すれ違う人々が、示し合わせたように僕たちの方へ遠慮のない視線を送ってくる。

 

 部屋着のまま飛び出すわけにもいかず、僕は手近にあった男物のワイシャツを羽織っている。

 対する母さんは、体のラインを完全に覆い隠すロングコートを羽織っていた。

 さすがにこの季節にしては重装備が過ぎるが、あのフリフリの魔法少女服を晒して歩かれるよりは数千倍マシというものだ。

 

「ちゃんと隠してるわよぉ。注目されてるのは、きっと……ひーくんの方ね♪」

 

「えっ。僕、どこかおかしい……?」

 

 男子用の格好を選んだのが失敗だっただろうか。

 オーバーサイズのシャツを女子が着るスタイルなんて珍しくないし、不自然ではないはずだ。

 

「違うわよ〜? ひーくんが、あまりに可愛いからよ♪」

 

「……は? そんなこと……」

 

「無いと言い切れるかしら? ふふっ、ならTS娘の先輩として教えてあげる。『TS美少女は、無自覚に注目を集めちゃう体質』なのよ〜」

 

 創作の世界では耳にタコができるほど聞いたテンプレ設定だ。

 けれど、実際にその「セオリー」の当事者になると、なんとも言えない複雑な気分になる。

 ナルシストでもないし、容姿をひけらかすつもりなんて毛頭ないというのに。

 

「母さんもTSしたんだよな……」

 

 今さらながら、僕は母さんによく似ているようだ。

 銀糸のような髪色も、顔立ちの端々に残る面影も。

 母さんをそのまま十数年分若返らせたら、きっと今の僕になるのだろう。

 これが親子ってやつだろうか。

 

「もしかして、私たち姉妹に見られてたりして〜♪」

 

「親子な? 親子。それに、僕は男だ」

 

「そうねぇ、私も最初はそう言っていたわ。懐かしいわね♡ でもね、だんだんと女の子でいるのが楽しくなってきちゃうものなのよ〜」

 

 母さんは、自称メス堕ち済みのTS娘だ。

 現に僕という息子を産んでいるのだから、言葉の説得力が桁違いすぎて恐ろしい。

 冗談じゃない! 僕は男だ。一刻も早く、元の姿に戻ってやる! 

 

 決意を胸に歩みを進めていると、不意に周囲の空気が重く澱んだ。

 前方から、人々が何かに怯えるように僕たちとは逆方向へ必死に駆け抜けていく。

 

「ひーくん。どうやら目的地に到着みたい」

 

「……母さん?」

 

 隣を歩いていた母さんが、ピタリと足を止める。

 そして、いつものおっとりとした声色のまま告げた。

 

「あれが、()()()()()()よ♪」

 

「──敵……?」

 

 直後、鼓膜を裂くような轟音と地鳴りが街を揺らした。

 

 立ち並ぶビルの壁面が豪快に崩落して、巻き上がった砂埃が視界を真っ白に塗りつぶす。

 僕が知っている平和な日常は、一瞬で特撮映画の凄惨なワンシーンへと変貌を遂げた。

 

 ……なにあれ。

 

 煙の向こうから現れたのは、生物の理を無視した完全な「異形」だった。

 二メートルを軽く超える山のような巨体。

 隆起した筋肉は人の肌とは程遠く、鈍く光る鱗のような質感に覆われている。

 一歩踏み出すたびにアスファルトが砕け、怪物は冷酷な爬虫類の貌をこちらに向けた。

 

「これが……怪人……?」

 

 頭では理解していたつもりだったけれど、実物はただの悍ましい化け物だ。

 ぎょろりと剥き出しの眼球が僕たちを射抜くと、大気を震わせる凶悪な咆哮を上げた。

 

グォォォォ──!!!! 

 

 いや、あり得ない。

 これは悪夢なんかじゃなく、紛れもない現実なんだ。

 現代社会にこんな生物が存在していいわけがない。

 

「なんだ、まだ逃げてねェやつがいたか」

 

「喋った!?」

 

 いや、「怪人」と呼称するなら喋るだろうけどさ! 

 

 履修済みのバトル漫画の知識を総動員して、なんとか混濁した思考を追いつかせようと足掻く。

 だけど僕が知っているのは、画面や紙の中に閉じ込められた化け物だけだ。

 肌を刺すような死の予感に満ちた、こんな生々しい現実は知らない。

 

 爬虫類の怪人は僕が呆然としている隙を見逃さず、その巨大な片手を天高く振り上げた。

 それは丸太よりも太く硬くて、容易に人を肉塊へと変える凶器だ。

 

「ひーくん、危ない!」

 

「ッ!」

 

 母さんの鋭い叫びによって、僕の意識は強制的に現実に引き戻された。

 同時に衝撃が体を走って、僕は歩道へと無様に倒れ込む。

 

 直後、僕が立っていた場所が凄まじい音を立てて爆ぜた。

 アスファルトが細かな礫となって舞い散り、僕の頬を容赦なく掠めていく。

 

「大丈夫? ひーくん」

 

「かあ、さん……?」

 

 ぐっと両頬を母さんの温もりに包まれた。

 いつもふんわりとした柔らかい空気を纏っている母さんは、今だけは酷く真剣な眼差しで僕を見つめていた。

 

「ん……大丈夫。てか何あれ。怪人って本当に実在してたの!?」

 

「……えぇ。社会への破壊行為で罪のない人々を困らせる、悪い人たちよ」

 

 どっからどう見ても、人知を超えた化け物ですが? 

 あんなのが街で暴れているなら、とっくにニュース速報で世間を賑わってるはずだ。

 政府による徹底的な情報規制か、あるいはピカッと光で記憶を消去されちゃうやつなのか。

 

「そして、そんな救えない相手を倒すのが『魔法少女』よ♪」

 

 母さんが力強く立ち上がり、怪人の前へと迷いなく歩みを進める。

 驚く素振りすら見せないその態度は、まるで近所のスーパーにでも行くかのようだ。

 

「あなたはこの魔法少女・ルナリアが引導を渡してあげるわ!」

 

「なっ!? 魔法少女だと!? 早い、早すぎるぞ! まだ建物一棟を破壊しただけだってのに!」

 

 狼狽える怪人。

 相手が魔法少女を名乗った途端に、先程までの圧倒的な迫力は嘘のようにしぼんでいく。

 母さんは悠然とロングコートへ手をかけると、一気にそれを脱ぎ去った。

 そして、どこからともなくリボンを取り出し髪をツインテールに結ぶ。

 

 なんだか急に恥ずかしくなってきた。

 せめてもの救いはこの場に居るのは3人だけだということ。

 

「コネクト……オン♡」

 

「ねっとり言わんでいいから!」

 

 恍惚な表情でマジカルなポーズを完璧にキメる、三十代の人妻。

 ピンクと白を基調としたフリル過多な衣装が、白日の下にその全貌を晒す。

 実母のこんな羞恥プレイを至近距離で見せられる息子の身にもなってほしい。

 社会的尊厳が限界を突破して、いっそこの場で泡になって消えたくなる。

 

「ふっ……決まったわね……!」

 

 対照的に母さんは、この上なく満足そうな悦びに満ちた表情を浮かべている。

 うん、もう母さんが幸せならそれでいいよ。

 

「それに、ちょっとキツイかも……うぅっ!」

 

「……なーにが魔法少女だボケ! ただのコスプレした痛い主婦じゃねーか! ビビって損したわ!」

 

「失礼ね、これが正装よ♪」

 

 コスプレした主婦、というのは実に言い得て妙である。

 実際、この魔法少女衣装は母さんのコスプレ衣装なんだよ。

 

「そんな減らず口を叩いていられるのも、今のうちだけよっ!」

 

「ただの変態に何できるってんだ!」

 

「変態て。一応僕の母親なんだぞ。僕だってその格好は今すぐやめて欲しいと思っているけれどさ」

 

 母さんは持っていたステッキを悠然と構え、何かを溜め始めた。

 先端へと光が集中していき、眩い輝きを放ち始める。

 え、あの玩具にしか見えないやつ、本当に本物だったの? 

 

「──いくわよ。マジカル・シャイニングスター☆」

 

 フェンシングのような鋭い動作で、ステッキを突き出す母さん。

 収縮した光が、音もなくスッと虚空へ消えた。

 

「……」

「……」

 

 光の弾丸か。それとも一撃必殺の極大レーザーか。

 怪人と僕は固唾を呑んで、その魔法が顕現する瞬間を待った。

 

「──くらえっ! マジカル☆パンチ!!」

 

ドゴォォォ──!!!!

 

 爆音とともに、母さんの小さな拳が怪人の腹部へ深くめり込んだ。

 

 

いや物理!!!! マジカル要素、微塵もないんだけど!?

 

 思わずツッコまずにはいられなかった。

 

「グォォォ──!?!?」

 

 ステッキを豪快に地面へ投げ捨て、全力で踏み込んで殴りつけただけ。

 魔法少女という単語から想起される幻想が、音を立てて崩れ去っていく。

 怪人は弾丸のような勢いで吹き飛び、背後の雑居ビルへとめり込んだ。

 

『やはり、キミの母親は変身することが出来ないね』

 

「あ。ノエル」

 

 いつの間にか隣に来ていたノエルが、冷徹な響きの声を出す。

 

「でも、あれ怪人を一撃でふっ飛ばしたぞ。倒したのには変わらないだろ」

 

『確かに魔法少女は契約した時点で身体能力が極限まで向上し、常人離れした怪力を発揮するよ』

 

 基本スペックの暴力的な底上げ。

 母さんのあのデタラメなパワーを見れば、納得せざるを得ない。

 あんな巨体を片手で吹き飛ばしたのだから。

 

『だが、それだけで怪人を完全に討伐できる訳ではないんだ。それに本来の魔法少女はあんなキラキラしたものではないからね。自己主張が激しすぎるよ』

 

「だ、だってぇ! 憧れてたんだもんっ! みんなキラキラした魔法少女なのに、私だけ地味だったからっ! 友達はみんな派手で色々な魔法を使ってたのに、私なんか地味なやつだから誰も気づかないし……少しくらいキラキラ魔法少女を擬似体験させてよお!」

 

 まるで子供のように駄々をこねる母さん。

 

 どうやら母さんの現役時代は、今よりずっと殺伐とした魔法少女だったらしい。

 

 フィクションでの魔法少女の歴史には、いくつかの大きな転換期というものが存在する。

 最初期はファンタジックで夢のある「魔女っ子」がメインストリームだった。

 

 そこから時代が進み、今度は年端の行かない女児たちをターゲットにした正義の味方へとシフトした。

 明確な勧善懲悪の図式と、派手なバンクシーンが完成したのがこの頃だ。

 

 最近のは、ひたすらに凄惨で殺伐としている。

 ドロドロした人間模様や残酷な展開が好まれる、大人向けジャンルへと変貌を遂げたのだ。

 こっちはまだ大人向けとして定義されており、子供が見たらトラウマモノだろう。

 

 ……なんでそんな昔の話を知っているかって?

 オタク舐めんなこんにゃろー。魔法少女モノも履修済みじゃい。

 

 




熟女なキャラがうわ、キッツ…みたいな格好するキャラが性癖ですよろしくお願いします
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