最初は敵として出てくるタイプの魔法少女   作:てんぷらのちぎり

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一話目 魔法少女たちは出会う

 上手くいかないことの全ての原因は、己の実力不足である。

 呪いのような言葉だと思うけれど、私のパパはその呪いに囚われてしまった人だった。

 私の目から見ても、パパは優秀な人だった。だからこそ、諦めきれなかったんだと思う。

 何があったとしても、何とかできると信じている。そのために必要なことなら、なんでもする。

 ――その結果、今の私がいる。

 

「……目標地点に着いたよ、パパ」

 

 返事はない。パパが任務をくれて、返事をくれたことなんてなかった。

 だから、これもいつも通り。

 目をぎゅっとつぶる。寂しくなんて、ない。

 目的を達成して帰れば、きっとまたこっちを見てくれる。だから、大丈夫。

 

 今日の任務は、博物館の襲撃。その中に飾られている特別な鉱物――テミスティアを奪うのが目的だ。

 パパの研究で必要だから、私が取ってくる。

 死んでしまったママともう一度会うために、あの温もりを知るために、必要だから。パパがそう言ってた。

 それだけ。そう、それだけ意識すればいいの。いつもの通り、いつものように、他の事を考える必要なんて、ない。これが悪いことだとか、なんだとか。誰がどうとか、全部、全部どうでもいい。

 

「じゃあ、始めるね――魔装起動、『デスサイス』」

 

 小さなマギデバイスを起動して、私は戦闘装束へと変身する。

 手の先から黒の茨が肌の表面を這いまわるように、私の全身を包み込む。

 無理やり体を作り替える痛みに耐えながら、茨の暴虐が終わるのをただただ待つしかない。

 やがて形作られるのは、黒いゴシックドレス。背中には、金属質な黒の翼を模った刃が追従するように浮いている。

 

 マギデバイスはパパが開発したもので、使用した人間の身体能力を大幅に引き上げてくれるし、認識阻害効果もあるから身バレの心配も少ないという凄いアイテム。

 これのおかげで、非力な私でも警備が厳重な博物館を襲ったりすることができている。

 パパの研究に必要なものは、大抵国や別の組織が大事に保管しているものだから。

 

「――ミッション、スタート」

 

 意識を目の前へ切り替え、それまで立っていたビルの屋上から、一歩踏み出す。

 ふわりと足の底の感覚が消えて、地面へと一直線へ自由落下が始まる。

 目の前の建物こそ、目標の博物館。入口であくびをしていた警備員は上空から迫りくる私にまだ気が付いていない。

 

「ごめんね」

「がっ……!」

 

 滑空したまま、翼の一撃を当て、一瞬で警備員さんの意識を奪う。

 殺しまではしない。今回は殺す意味が、ないから。

 警備会社とか、そういうのも気にしない。今回も真正面から突入して、奪って逃げる。

 正面扉を切り裂いて、そっと中に侵入する。

 

 私の侵入を知らせるアラートが鳴り響いている。ここは警備室にアラートがいくだけじゃなくて、博物館全体に流れるところなんだ。

 最初の慣れていない頃に行ったところは警備室だけに流れてたから、アラートならないんだって思って入って行って、取り囲まれたときにびっくりした覚えがある。今となっては懐かしい思い出だ。

 

 ただ、警備員さんが出てきたところで、私を止めることはできない。

 パパが作ったマギデバイスは何よりも優れているんだから。

 そこらの人が、太刀打ちできるはずがないんだから。

 

 事前に博物館内の構造は頭に入れてあるから、テミスティアの場所までは真っすぐ向かう。

 道中の警備員さんには入り口の人と同じように気絶してもらって、ただただ静かに歩みを進める。

 もう、何も感じない。何回も同じことをやれば慣れてしまった。

 最初は感じていた罪悪感も、もうない。ママのためだからと言い訳することもなくなった。

 

「……これがテミスティア、だよね」

 

 ケースの前に立つ。月の女神が流した涙だという逸話がある宝石、透き通る姿はなんちゃら。

 長い説明文を無視して、ケースをデスサイス――背中の翼で切り裂く。

 バラバラになったケースから、拳大の大きさのテミスティアをそっと手に取り、今回も無事に終えられたと息を吐く。

 後は帰るだけ――そのはずだったのに。

 

「そこまでよ! 黒鎌の魔女!」

 

 いつもと違う、異物が現れた。

 声がした方向へ振り返って、自分の目を疑った。

 そこにいたのは――まるで、反転した自分自身。白の清楚なドレスを身にまとった、少女がそこにいた。

 

 認識阻害、されてる。コスプレ、じゃない。誰かは、わからない。

 一つだけ分かるのは、目の前の相手は、マギデバイスを使っているということ。

 パパが作った、私のためだけにあるのはずのマギデバイスを。

 背中に翼、デスサイスがないからまったく同じじゃないにしても。私たちの、ものなのに!?

 

「私は魔法少女アークライト! 貴女を止めにきたよ!」

「アークライト……? 黒鎌の魔女……?」

 

 何を言っているのかわからない。そんなことよりも、どうやってそのマギデバイスを手に入れた。

 それは、それは私とパパの、私だけがパパからもらったものなのに!

 

「……許せない」

 

 ぽつりと、言葉が漏れた。

 

 知らない奴が、何も知らないやつが、私たちのマギデバイスを使ってる。

 その事実に、どうしても堪えられないぐらい嫌悪感を感じる。

 理性は、こんな子無視してさっさと脱出するべきだって言っている。このテミスティアをパパに届けるのが一番大事なことだって。

 

 でも、でも!

 この子は何も知らない顔して、私たちの物を奪っている! 私たちの絆を踏みにじっている!

 私は覚えてる。パパがマギデバイスを渡してくれた、初めて頭を撫でててくれた、あの時の事を。

 なのにこの子は――。

 

「その盗んだものを大人しく――きゃあ!」

 

 デスサイスは刃で作られた翼だ。

 もちろん、刃を飛ばして攻撃することも可能。飛ばした刃はアークライトの顔の横すれすれを通り過ぎ、円弧を描いて元の場所に収まった。

 今のは警告だ。私はそちらを傷つけることをためらわないという意思表示。

 

「……遊びのつもりなら、今すぐ消えて。そして、二度と私の目の前に現れないで」

「遊びのつもりなんてないよ! 私は本気で――っ!」

 

 再びデスサイスを飛ばす。今度は避けられた。

 本気という割には、一向に攻撃してくる気配がない。

 なら、もう倒してしまおう。

 

「が……っ!」

 

 まどろっこしいことはせずに、真っすぐ正面から全速力で突撃して、羽を打ち付ける。

 ただそれだけの事なのに、この子は反応することもできずに、警備員さんと同じように昏倒してしまった。

 本当に、本当に、弱い。

 

「――ずるい、ずるい、ずるい」

 

 私がどれだけ頑張ったと。このマギデバイスを貰えるまでに、どれだけ特訓したと。

 なのに、こんな弱い子が同じものを持っていることが堪らなく許せない。

 いっそ、この場で殺してしまおうか。マギデバイスは変身中は奪えないけれど、殺してしまえば奪える。

 そう思い、翼の先端をアークライトの首筋に当てて――。

 

「でも、もし、この子がパパからマギデバイスを貰ったのなら――」

 

 勝手に殺したら、きっと怒られてしまう。余計なことをするなと。計画が狂うだろうと。

 それは、嫌だ。

 私に何も教えてもらえてなくても、パパはすごいから。何か、考えているかもしれない。

 殺せない。殺して、見捨てられるのが一番怖い。

 

「……帰ろう。パパが待ってる」

 

 確認するまでは、何もしない方がいい。

 ママもいない。私には、もうパパしかいないんだから。

 パパの邪魔になりそうなことは絶対にするべきじゃない。

 

 そう、心の中で強く念じ直して、私はこの場を後にする。

 魔法少女アークライト……彼女の真っすぐな瞳だけが、少しだけ頭の中に残っていた。

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