最初は敵として出てくるタイプの魔法少女 作:てんぷらのちぎり
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
魔法少女とは、正義の味方だ。
テレビ越しに映る彼女たちはキラキラしていて、いつだって悪に立ち向かう。
でも、同時に、どうしようもない悪には手を差し伸べる。
それが正義の味方として正しいことだから。
だから、ねぇ。
私は、あなたの前に立ちふさがるよ。
黒鎌の、魔女。
「……エンゲージってやつかな?」
「やっぱりいたね。アークライト」
ゆっくりと空から降りてくる彼女は、黒鎌の魔女と呼ばれる女の子。
明らかに、今日は迫力が違う。
これまであった迷い、躊躇い。そういったものが全くと言っていいほど感じられない。
冷たく、研ぎ澄まされている――敵意。
「まずは穏便に話し合いを、なんて雰囲気じゃなさそうだね」
「その後ろの物を渡してくれれば、少しぐらいはいいよ」
やっぱり。
お兄ちゃんたちが言っていた。
今回、黒鎌の魔女はこの遺物を入手しにくるって。
そして、目的もおおよそ判明した。
こことは異なる時空間間の行き来。それが、黒鎌の魔女の最終目標!
私が今守っているのは、別の星から来た隕石の欠片。これには、こことは違う星の力が秘められている。
これまで彼女が奪ってきた代物から逆算しても、目的はそうだと示している。
って、お兄ちゃんが言ってた。
そして、おそらく、この遺物でその研究は完成するとも。
「どうして! 別の世界の扉を開こうなんてしてるの!」
お兄ちゃん曰く、別の時空間への扉を開くのは非常に危険な行為だ。
なにせ、向こう側に何がいるのかがわからない。
開いた扉は両方から通行できる。こちらから行くことも、向こうからくることも。
規格外の怪物が、扉を通ってこちらに来ることすら考えられる。
って、お兄ちゃんが言ってた。
「それを知って、どうにかなるの?」
「少なくとも、分かり合うことはできる」
どうしてそんな危ないことをしようとしてるのか。
信じたくない。この子が事情もなく、そんなことをするだなんて。
――だって、今日のこの子は顔が違う。
いつもと違う、何をしても目的を達成するという、迷いの一切ない目をしているから。
直感でわかる。
私は、今日、この子に勝てない。
「話をしようよ。これが、最後になるのなら」
勝つつもりで挑む。でも、きっと私は今日も勝てない。
だから、最大限できることをする。
それが、きっとこの子のためになると信じて。
「……いいよ。話、してあげる」
あの子が私を見るまなざしは、やっぱり憎悪に塗れている。
マギデバイスを使う事が、たまらなく許せないんだろうね。
本当に、パパとの思い出を大事にしているんだ。
つまり、家族思いのいい子なんだ。この子は。
「あなたの自己満足に、付き合ってあげる」
「ありがとう」
「感謝の言葉はいらないよ。だって、私も嬉しくて嬉しくて――ずっと前から、この日を待ち望んでいたんだから」
ふわりと、一瞬だけ彼女の口元が緩んだ。
纏っていた雰囲気ががらりと変わって、その瞬間だけはまるで天使のようだった。
背中の羽のようなマギデバイス、デスサイスも相まって。
「――私の、私たちの目的は、ママの蘇生。厳密には、もう一度ママと会う事」
――お母さんの、蘇生。
少しだけ気になっていたことではある。
パパの話はしていたけれど、ママは一体?
その答えが、これだ。
「私たちはパパの研究で、ママをこの世界に呼び戻す。そして、もう一度始めるんだ、私たちの幸せな生活を」
「そのために、これまでの事をしてきたんだね」
「そう、そうだよ」
お母さんの、蘇生。
動機としては十分だ。
この子が家族を思う気持ちは十分伝わっているし――いなくなった人に会いたい気持ちは、よくわかるから。
「全てはそのために。全てはパパとママのために」
「よくわかったよ。もう、止まれないんだね」
「元から、止まる気もない」
言いながら、私たちは自然とお互いの戦闘態勢を取る。
私は剣を、彼女は羽を。
お互いへ向けあう。
「行くよ」
「うん、行くね」
お互いに宣言し合ってから――私たちの戦いは始まった。
彼女のは刃の羽を同時に幾つも真っすぐにこちらへ飛ばしてくる。
風切り音が笛のように鳴り響く。
見える。これまでは対応できなかったであろうそれらに対応できる。
一つ一つ、丁寧に。
体捌きと、剣を使って叩き落としていく。
思ったよりかは刃の羽は軽くて、落とすのに力はいらない。
ただ、一度叩き落としてもすぐさま方向転換して、もう一度こちらへ狙いを定めてくる。
――このままだとジリ貧でしかない。
何とかしてこの包囲網を突破して、あの子に近づかなきゃ。
羽を叩き落としつつ、隙を伺う。
同時に、私たちの位置確認も。
狙うのは、羽が同時に襲ってくる瞬間。
すぐには対応できないだろうその瞬間を待つ。
――今!
「っ!? デスサイス!」
「はぁーっ!」
怪我を覚悟に、真っすぐ彼女へと突撃する。
羽を叩き落とすのは最低限、残りの羽は致命傷にならないと判断して、真っすぐ。
私の剣は彼女には届かない。
残してあった羽が幾つも重なり、壁のようになって防がれる。
ただ、これでもう距離は詰められた。
距離さえ詰められれば、こちらの方が有利だ。
羽を動かす余裕なんて与えない。
周囲へ回り込むようにステップを踏んで、攻撃を仕掛ける。
それに対して、彼女は羽で防御を間に合わせるのが精いっぱい。
攻撃と防御が反転して、今度は彼女がじり貧だ。
「ほらほら! どうしたの!」
「……くっ! デスサイス!」
このままではダメだと彼女も悟ったのか、その場で垂直に飛びあがる。
空を飛ばれる? それはまずいと思ったけれども、私の予測とは違った。
彼女の手の中に、黒い鎌が形成されていく。刃の羽が重なり変形して、一つの武器へと変わっていく。
そうして、落下してくる彼女は私の命を刈り取ろうと、容赦なく振り被った一撃を見舞ってきた。
激しい金属音が鳴り響く。火花が散る。
弾き飛ばされたのは――私だった。
「……デスサイス!」
「アークセイバー!」
お互いにお互いのマギデバイスの名前を叫ぶ。
スピードは多分私の方が僅かに上。でも、パワーは圧倒的に向こうの方が上。
やっぱり、まともな戦いでは勝ち目がない。
黒鎌が銀の軌跡を描いて、私へと襲い掛かる。
それを一つ一つ受け流すようにして、何とかやり過ごす。
一撃でもまともに貰えば終わり。
その緊張感が、限りなく私を集中させる。
あのマンションで使われた大技は、きっと使ってこない。
ここは祠に近すぎる。遺物を吹き飛ばすような真似は彼女にはできないはずだ。
だから――、私に勝ち目があるとすればそこしかない。
「アークセイバー、インプット」
『認証、アークセイバー待機』
マギデバイスが返答する。
同時に、何かが来ると悟ったのか、彼女はその場から大きく飛びのいた。
距離を取って何をしてくるのか見極めるつもりなんだと思う。
その行動は、好都合!
「アーク、セイバーぁぁああああああ!」
私の持つ剣が光輝く。
そして思い切り――振りぬく。
光り輝かう剣の軌跡の通りに、光波が飛んでいく。
ただそれだけの技。ただそれだけの攻撃。
大事なのは、攻撃目標が彼女ではないってこと。
「しまっ!」
そう、私が狙ったのは祠の遺物。
壊しちゃうのはもったいないけれど、最悪はただ奪われること。
当然、あの子は反応する。
「デスサイス!」
『マギデバイス、励起』
祠を守るためにアークセイバーの光波の前に立ち、彼女も叫ぶ。
以前聞いた激しい振動音が鳴り響く。
彼女は大鎌を振り被り、横に薙ぎ払った。
光波はいともたやすくかき消されてしまう。
あまりにも、あっけなく。私の一撃は、霧散した。
――この瞬間だけを、待っていた
「マギデバイス、本出力ぅ!」
『音声認証完了。マギデバイス:アークセイバー、出力最大』
隙を見せるこの一瞬だけ。
この一瞬だけが、私の勝機。
大きく見開かれた彼女の、黒鎌の魔女の目が、私を映す。
「アーク、ジャッジメントぉぉぉぉおおおおおおお!」
光が剣に集中して、夜なのに太陽のごとく輝きを放つ。
私が今持つ力を全部込めて、この一撃を叩きこむ。
「デスサイス!」
『音声認証完了。マギデバイス:デスサイス、出力全開』
振動音がさらに大きくなる。
黒鎌の刃の周囲の空間が歪む。
ああ、この勝負。
私の、負けだ。
武器と武器が交差する。
激しくぶつかり合ったエネルギーの拡散で視界が白く埋まる。
次の瞬間、倒れていたのは――私だった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
でも、彼女も消耗している。
無傷では、なさそうだ。
「――強かったよ。アークライト」
そう言って、彼女は祠の方へと向かう。
扉を開き、その中身を取り出そうとして――私は彼女の足首を掴む。
「……お願いだから、行かないで」
情けない懇願だと分かっている。
だとしても言わずにはいられない。
「……」
その手を、彼女は軽く足を振るって蹴り飛ばす。
わかってた。わかってたけれど……。
「話を聞いてくれたお礼として、殺さないであげる」
これは彼女の温情なのか。
それとも、殺したくないからの言い訳なのか。
私には、わからない。
「じゃあね。魔法少女、アークライト」
もう会うことはないと、そう彼女は言って。
飛び去ってしまった。
残された私は、ただその場に倒れるまま。
彼女が完全にいなくなったのを確認して、通信を起動する。
「お兄ちゃん、私、やったよ」
『それよりも無事か、小春!』
「うん。つけたよ、発信機」
最後の最後、彼女の足に縋りついた瞬間。
持っていた発信機を、取り付けられた。
これで、彼女の本拠地が分かる。
あの子のパパの研究を、すんでのところで止められる。
『――よくやった。後は、俺たちに任せてくれ』
「お願い。あの子を、解放してあげて」
これ以上私にできることはない。
ここからは、お兄ちゃんたちの戦いだ。
そう思いつつも、私は割り切れないでいる。
気が付けば、目の前が歪んでいる。
大粒の涙が、私の目から零れ落ちていた。
悔しい、悔しい、悔しい。
最後の最後まで――私は彼女を救えなかった。
正義の味方なのに、魔法少女なのに。
名乗っておきながら、私は無力だった。