最初は敵として出てくるタイプの魔法少女   作:てんぷらのちぎり

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十話目 魔法少女を名乗る意味

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 魔法少女とは、正義の味方だ。

 テレビ越しに映る彼女たちはキラキラしていて、いつだって悪に立ち向かう。

 でも、同時に、どうしようもない悪には手を差し伸べる。

 それが正義の味方として正しいことだから。

 

 だから、ねぇ。

 私は、あなたの前に立ちふさがるよ。

 黒鎌の、魔女。

 

「……エンゲージってやつかな?」

「やっぱりいたね。アークライト」

 

 ゆっくりと空から降りてくる彼女は、黒鎌の魔女と呼ばれる女の子。

 明らかに、今日は迫力が違う。

 これまであった迷い、躊躇い。そういったものが全くと言っていいほど感じられない。

 冷たく、研ぎ澄まされている――敵意。

 

「まずは穏便に話し合いを、なんて雰囲気じゃなさそうだね」

「その後ろの物を渡してくれれば、少しぐらいはいいよ」

 

 やっぱり。

 お兄ちゃんたちが言っていた。

 今回、黒鎌の魔女はこの遺物を入手しにくるって。

 そして、目的もおおよそ判明した。

 

 こことは異なる時空間間の行き来。それが、黒鎌の魔女の最終目標!

 私が今守っているのは、別の星から来た隕石の欠片。これには、こことは違う星の力が秘められている。

 これまで彼女が奪ってきた代物から逆算しても、目的はそうだと示している。

 って、お兄ちゃんが言ってた。

 

 そして、おそらく、この遺物でその研究は完成するとも。

 

「どうして! 別の世界の扉を開こうなんてしてるの!」

 

 お兄ちゃん曰く、別の時空間への扉を開くのは非常に危険な行為だ。

 なにせ、向こう側に何がいるのかがわからない。

 開いた扉は両方から通行できる。こちらから行くことも、向こうからくることも。

 規格外の怪物が、扉を通ってこちらに来ることすら考えられる。

 って、お兄ちゃんが言ってた。

 

「それを知って、どうにかなるの?」

「少なくとも、分かり合うことはできる」

 

 どうしてそんな危ないことをしようとしてるのか。

 信じたくない。この子が事情もなく、そんなことをするだなんて。

 ――だって、今日のこの子は顔が違う。

 いつもと違う、何をしても目的を達成するという、迷いの一切ない目をしているから。

 

 直感でわかる。

 私は、今日、この子に勝てない。

 

「話をしようよ。これが、最後になるのなら」

 

 勝つつもりで挑む。でも、きっと私は今日も勝てない。

 だから、最大限できることをする。

 それが、きっとこの子のためになると信じて。

 

「……いいよ。話、してあげる」

 

 あの子が私を見るまなざしは、やっぱり憎悪に塗れている。

 マギデバイスを使う事が、たまらなく許せないんだろうね。

 本当に、パパとの思い出を大事にしているんだ。

 つまり、家族思いのいい子なんだ。この子は。

 

「あなたの自己満足に、付き合ってあげる」

「ありがとう」

「感謝の言葉はいらないよ。だって、私も嬉しくて嬉しくて――ずっと前から、この日を待ち望んでいたんだから」

 

 ふわりと、一瞬だけ彼女の口元が緩んだ。

 纏っていた雰囲気ががらりと変わって、その瞬間だけはまるで天使のようだった。

 背中の羽のようなマギデバイス、デスサイスも相まって。

 

「――私の、私たちの目的は、ママの蘇生。厳密には、もう一度ママと会う事」

 

 ――お母さんの、蘇生。

 少しだけ気になっていたことではある。

 パパの話はしていたけれど、ママは一体?

 その答えが、これだ。

 

「私たちはパパの研究で、ママをこの世界に呼び戻す。そして、もう一度始めるんだ、私たちの幸せな生活を」

「そのために、これまでの事をしてきたんだね」

「そう、そうだよ」

 

 お母さんの、蘇生。

 動機としては十分だ。

 この子が家族を思う気持ちは十分伝わっているし――いなくなった人に会いたい気持ちは、よくわかるから。

 

「全てはそのために。全てはパパとママのために」

「よくわかったよ。もう、止まれないんだね」

「元から、止まる気もない」

 

 言いながら、私たちは自然とお互いの戦闘態勢を取る。

 私は剣を、彼女は羽を。

 お互いへ向けあう。

 

「行くよ」

「うん、行くね」

 

 お互いに宣言し合ってから――私たちの戦いは始まった。

 彼女のは刃の羽を同時に幾つも真っすぐにこちらへ飛ばしてくる。

 風切り音が笛のように鳴り響く。

 

 見える。これまでは対応できなかったであろうそれらに対応できる。

 一つ一つ、丁寧に。

 体捌きと、剣を使って叩き落としていく。

 思ったよりかは刃の羽は軽くて、落とすのに力はいらない。

 ただ、一度叩き落としてもすぐさま方向転換して、もう一度こちらへ狙いを定めてくる。

 

 ――このままだとジリ貧でしかない。

 何とかしてこの包囲網を突破して、あの子に近づかなきゃ。

 羽を叩き落としつつ、隙を伺う。

 同時に、私たちの位置確認も。

 

 狙うのは、羽が同時に襲ってくる瞬間。

 すぐには対応できないだろうその瞬間を待つ。

 ――今!

 

「っ!? デスサイス!」

「はぁーっ!」

 

 怪我を覚悟に、真っすぐ彼女へと突撃する。

 羽を叩き落とすのは最低限、残りの羽は致命傷にならないと判断して、真っすぐ。

 

 私の剣は彼女には届かない。

 残してあった羽が幾つも重なり、壁のようになって防がれる。

 ただ、これでもう距離は詰められた。

 

 距離さえ詰められれば、こちらの方が有利だ。

 羽を動かす余裕なんて与えない。

 周囲へ回り込むようにステップを踏んで、攻撃を仕掛ける。

 それに対して、彼女は羽で防御を間に合わせるのが精いっぱい。

 攻撃と防御が反転して、今度は彼女がじり貧だ。

 

「ほらほら! どうしたの!」

「……くっ! デスサイス!」

 

 このままではダメだと彼女も悟ったのか、その場で垂直に飛びあがる。

 空を飛ばれる? それはまずいと思ったけれども、私の予測とは違った。

 彼女の手の中に、黒い鎌が形成されていく。刃の羽が重なり変形して、一つの武器へと変わっていく。

 

 そうして、落下してくる彼女は私の命を刈り取ろうと、容赦なく振り被った一撃を見舞ってきた。

 激しい金属音が鳴り響く。火花が散る。

 弾き飛ばされたのは――私だった。

 

「……デスサイス!」

「アークセイバー!」

 

 お互いにお互いのマギデバイスの名前を叫ぶ。

 スピードは多分私の方が僅かに上。でも、パワーは圧倒的に向こうの方が上。

 やっぱり、まともな戦いでは勝ち目がない。

 

 黒鎌が銀の軌跡を描いて、私へと襲い掛かる。

 それを一つ一つ受け流すようにして、何とかやり過ごす。

 

 一撃でもまともに貰えば終わり。

 その緊張感が、限りなく私を集中させる。

 あのマンションで使われた大技は、きっと使ってこない。

 ここは祠に近すぎる。遺物を吹き飛ばすような真似は彼女にはできないはずだ。

 

 だから――、私に勝ち目があるとすればそこしかない。

 

「アークセイバー、インプット」

『認証、アークセイバー待機』

 

 マギデバイスが返答する。

 同時に、何かが来ると悟ったのか、彼女はその場から大きく飛びのいた。

 距離を取って何をしてくるのか見極めるつもりなんだと思う。

 その行動は、好都合!

 

「アーク、セイバーぁぁああああああ!」

 

 私の持つ剣が光輝く。

 そして思い切り――振りぬく。

 光り輝かう剣の軌跡の通りに、光波が飛んでいく。

 ただそれだけの技。ただそれだけの攻撃。

 大事なのは、攻撃目標が彼女ではないってこと。

 

「しまっ!」

 

 そう、私が狙ったのは祠の遺物。

 壊しちゃうのはもったいないけれど、最悪はただ奪われること。

 

 当然、あの子は反応する。

 

「デスサイス!」

『マギデバイス、励起』

 

 祠を守るためにアークセイバーの光波の前に立ち、彼女も叫ぶ。

 以前聞いた激しい振動音が鳴り響く。

 彼女は大鎌を振り被り、横に薙ぎ払った。

 

 光波はいともたやすくかき消されてしまう。

 あまりにも、あっけなく。私の一撃は、霧散した。

 ――この瞬間だけを、待っていた

 

「マギデバイス、本出力ぅ!」

『音声認証完了。マギデバイス:アークセイバー、出力最大』

 

 隙を見せるこの一瞬だけ。

 この一瞬だけが、私の勝機。

 

 大きく見開かれた彼女の、黒鎌の魔女の目が、私を映す。

 

「アーク、ジャッジメントぉぉぉぉおおおおおおお!」

 

 光が剣に集中して、夜なのに太陽のごとく輝きを放つ。

 私が今持つ力を全部込めて、この一撃を叩きこむ。

 

「デスサイス!」

『音声認証完了。マギデバイス:デスサイス、出力全開』

 

 振動音がさらに大きくなる。

 黒鎌の刃の周囲の空間が歪む。

 

 ああ、この勝負。

 私の、負けだ。

 

 武器と武器が交差する。

 激しくぶつかり合ったエネルギーの拡散で視界が白く埋まる。

 次の瞬間、倒れていたのは――私だった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 でも、彼女も消耗している。

 無傷では、なさそうだ。

 

「――強かったよ。アークライト」

 

 そう言って、彼女は祠の方へと向かう。

 扉を開き、その中身を取り出そうとして――私は彼女の足首を掴む。

 

「……お願いだから、行かないで」

 

 情けない懇願だと分かっている。

 だとしても言わずにはいられない。

 

「……」

 

 その手を、彼女は軽く足を振るって蹴り飛ばす。

 わかってた。わかってたけれど……。

 

「話を聞いてくれたお礼として、殺さないであげる」

 

 これは彼女の温情なのか。

 それとも、殺したくないからの言い訳なのか。

 私には、わからない。

 

「じゃあね。魔法少女、アークライト」

 

 もう会うことはないと、そう彼女は言って。

 飛び去ってしまった。

 

 残された私は、ただその場に倒れるまま。

 彼女が完全にいなくなったのを確認して、通信を起動する。

 

「お兄ちゃん、私、やったよ」

『それよりも無事か、小春!』

「うん。つけたよ、発信機」

 

 最後の最後、彼女の足に縋りついた瞬間。

 持っていた発信機を、取り付けられた。

 これで、彼女の本拠地が分かる。

 

 あの子のパパの研究を、すんでのところで止められる。

 

『――よくやった。後は、俺たちに任せてくれ』

「お願い。あの子を、解放してあげて」

 

 これ以上私にできることはない。

 ここからは、お兄ちゃんたちの戦いだ。

 そう思いつつも、私は割り切れないでいる。

 

 気が付けば、目の前が歪んでいる。

 大粒の涙が、私の目から零れ落ちていた。

 

 悔しい、悔しい、悔しい。

 最後の最後まで――私は彼女を救えなかった。

 正義の味方なのに、魔法少女なのに。

 

 名乗っておきながら、私は無力だった。

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