最初は敵として出てくるタイプの魔法少女   作:てんぷらのちぎり

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十二話目 そして魔女は正体を知る

「パパ、後一分でそっちに到着するよ」

『三十秒で来い。リソースを研究の方に回したい』

「わかった。急ぐね、パパ」

 

 敵が研究所に来てしまった以上、その原因を追究するのは無駄だ。

 なら、やるべきことは研究を完成させて、相手が到達しても徒労に終わらせること。

 パパの研究は、邪魔させない。

 

「デスサイス」

『速度限界超過、オーバーロード』

「問題ない」

 

 元々この定められた速度限界は、私が安全に移動できる速度だ。

 今は一刻も争うのだから、安全速度を超えても気にしない。

 多少の無茶は必要だ。

 何があっても、これが最後になるんだから。

 

「――見えた」

 

 山奥の、私たちの秘密の研究所。

 光が木々の隙間から見える。

 きっと銃撃のそれらだ。

 自動防衛のロボがそれに応対しているはず。

 

「デスサイス、励起」

『高速振動斬撃――消波瞬撃』

 

 ロボと襲撃者の間の空間に、巨大な斬撃を叩きこむ。

 その瞬間生まれる空白にて、身を滑り込ませる。

 

「なんだ!」

「これ以上は、先に進ませない」

「黒鎌の魔女だ!」

「クソっ、早すぎるぞ!」

 

 襲撃者たちは私の事を知っているのかな。

 こちらを見る目が……なんだか……。

 いや、考えないようにしよう。

 

「引いて。そうすれば、攻撃はしない」

 

 言いながら、私は黒鎌――デスサイスを襲撃者たちへ突き付ける。

 今日で終わりなんだ。

 これ以上、誰も傷つく必要なんてない。

 引いて欲しい。

 引いてくれれば、戦わなくて済むから。

 

 願いを込めて、言葉を紡いだ。

 襲撃者たちは一瞬の迷いを見せた後、そのうちの一人が一歩だけ前に出てきた。

 

「――黒鎌の魔女。いいや、枢木結奈だな」

「そうだよ」

 

 ああ、やっぱり、知ってるんだ。

 じゃあ、別に取り繕う必要もないよね。

 

「この先にいるのは、お前の父親である枢木櫃間で間違いないな」

「……そうだね」

 

 この人は何が聞きたいんだろう。

 いや、私の役目は時間稼ぎ。

 話で時間を潰してくれるのなら、それは好都合なはず。

 

「そこをどいてはくれないか。我々の目的は枢木櫃間であり、君ではない」

「それはできない相談だよ。私は、パパの研究のためにここにいるんだから」

 

 何を言ってるんだろう。この人は。

 私が退くわけないのに。

 

「逆に、そっちこそ帰ってくれたら、危害は加えない。約束するよ」

「はっ、それはありがたいことだな」

 

 でも、そうはいかねぇんだと、彼は呟く。

 どうして。

 どうして、そんなに私たち家族の再会を阻もうとするの。

 

「君は、君の父親が何をしようとしているのか知っているのか」

「知ってるよ。ママを蘇らせる。その研究だって」

「そのために、罪のない人が犠牲になっても?」

 

 ……。

 どういうこと?

 

「今更、じゃないかな」

「君が傷つけた人々に関しては、そうだろうな。だが、これからもそうなる可能性があるとすれば、どうだ?」

 

 これからもそうなる可能性がある?

 どういうこと。

 もう、終わりじゃないの?

 

「……どういう、こと」

「その様子だと、研究の危険性についてまでは、教えてもらってないみたいだな」

 

 待って。

 待って。

 

「どういうこと!?」

「お前の父親の研究は、この世界に不可逆の変革をもたらす可能性がある。そして、同時に多大な危険性を孕んでいるんだ」

「そんなことない。パパは、そんなことは私に言ってない」

「異次元とこの世界を繋げるということは、今後その次元とこの次元の行き来が容易になるということだ」

 

 ……向こう側から、こちら側に何かが来る可能性があるって言う事?

 それは、信じていいのかどうかわからない。

 パパがミスをするとは思えない。

 でも、パパはママさえ蘇るのなら。

 きっと、なんだってする。

 

「だから、何」

「いいのかって聞いているんだ。君のお父さんは、世界を破滅させるかもしれないんだぞ!」

 

 世界を破滅させるかもしれない。

 そうしたら、パパとママと幸せに暮らすことは、もうできないかもしれない。

 

「――だから、どうしたっていうの?」

「……なんだって?」

「今更引き下がれ? 止めろ? そんなことができるのなら! こんなところまできていない!」

 

 私はデスサイスを振り被り――同時に彼らは構えを取る――地面を思い切り切りつける。

 地面には巨大な切り傷が生まれ、まるで校庭に引かれたラインのように私たちの間を分け隔てる。

 

「この線を越えないで。越えたら、攻撃する」

 

 そう言って、私は一歩だけ下がる。

 これが、私にできる最大限の譲歩。

 もう引き下がれないんだ。後戻りするなんて道は、残されていないんだ。

 だから、前に進む。例え、それが滅びの道だとしても。

 

「――その覚悟は、間違っているよ!」

「っ!?」

 

 それは、彗星のごとく飛んできた。

 純白の軌道、あまりの速度に一瞬目で追えなかった。

 私はとっさに大鎌を構え、彼女の剣戟を受け止める。

 

「止めに来たよ! この、私が!」

「アーク、ライトォ!」

 

 前よりも出力が上がっている?

 前回のは本気じゃなかったというの?

 いや、違う。

 これは、私の出力が下がっているんだ。

 どうして、なんで。

 

 ――来る途中、デスサイスの出力を引き上げ過ぎた?

 思い当たる節は、それしかない。

 

「お兄ちゃん!」

「っ!? 全員、アークライトが足止めしている間に進め!」

「させなっ――」

 

 私がアークライトに気を取られている間に、襲撃者たちが研究所へと向かっていく。

 止めようとしても、アークライトが邪魔をしてくる。

 流石に、まともに攻撃を食らったら動けなくなる。

 相手せざるを得ない。

 

「その大鎌状態の時には、あの羽での攻撃はできないみたいだね!」

「アーク、ライトォ!」

 

 なんで、どうしてここに、このタイミングで!

 パパの研究がもう少しで完成するって言うのに。

 どうして!

 あの時、お前は、諦めた表情をしただろう!

 

 激しく打ち合う私たちの攻防の余波で、周囲の木々が倒れていく。

 木々で隠されていた研究所の入り口は既に露わになっており、誰が見てもわかるようになってしまった。

 

「今更! 何をしに来た!」

「あなたを止めに!」

「負け犬が! 今更しゃしゃり出てくるなぁ!」

 

 もういい。

 ここで終わりなんだから。

 全力を出そう。

 

「デスサイス! 過重負荷!」

『魔装励起。オーバーローデッド』

 

 空間すらゆがめるほどの振動を、デスサイスが発する。

 アークライトもこれを受けられないと判断したのか、打ち合いから避ける方向へと動きをシフトした。

 

「お前をすぐに殺して! あいつらも全員殺してやる!」

「駄目だよ! そんなこと、あなたにさせない!」

 

 させない?

 どうして、そんなことを言う。

 どうして私の邪魔をする。

 どうして私を止めようとする。

 

 私はもうとっくに――崖から飛び降りているというのに!

 

「まだ! 間に合う!」

「うるさい、うるさいうるさいうるさい!」

 

 叫ぶがままに鎌を振るう。

 けれども、虚空を切り裂くばかりだ。

 触れた木がへし折れ、音を立てて倒れていく。

 

「本当は誰も傷つけたくはないんでしょう!」

「うるさい!」

 

 大鎌を振るう。

 どうしてこんなに当たらない?

 視界が歪む。どうしてこんなに、感情的になっている?

 

「大丈夫、大丈夫だから! まだ間に合う、間に合わせてみせるから!」

「もう遅いんだよ、何もかもが!」

 

 そうだ、もう遅いんだ。

 私は崖から飛び降りることを選んだ。

 パパと一緒に。

 地獄への道だと知っていたとしても。

 

「私は人を傷つけすぎた、奪いすぎた! そんな私が今更、どの面して許されたいと願えっていうの? 誰も納得してくれはしない!」

 

 そうだ。誰も納得してくれやしない。

 私にできることはただ一つ。

 最後まで、パパの道具として準じることだけ。

 パパの特別であり続ければ――それだけが、私がパパの娘だって証拠になるから。

 

「私が許すよ!」

「ふざけたことを言うなぁぁぁぁああああああ」

 

 叫びとは裏腹に、私の心は静かになっていた。

 全てがゆっくり動いているように見える。

 距離が近すぎるのに、私は振り被りすぎた。

 

 アークライトが隙を見逃さず、踏み込んでくる。

 あっ、これは駄目だ。

 今の私は攻撃に割り振っている状態。

 彼女の一撃を耐えられる自信はない。

 

「――大丈夫だよ。結奈ちゃん」

 

 予想した衝撃は来ずに。

 暖かな、温もりが私を包み込んだ。

 

「……えっ。何を」

「大丈夫。大丈夫だよ、結奈ちゃん。全部、私が何とかするから」

 

 名前、私の。

 いや、さっきの襲撃者たちも知ってた。

 アークライトが知っていても、不思議じゃない。

 

 でも、この違和感は何?

 

「私が誰だか、わからない?」

「わかる、わけが」

「本当に?」

 

 至近距離で、抱き着かれながら。

 私たちの、視線が合う。

 アークライトの瞳は、凄く、見知った気がして――。

 

「天ケ瀬、さん?」

 

 最悪の予感を、想起させた。

 違う、違う、そんなはずない。

 だって、もしもそうなら、私は。

 

「変身、解除」

 

 私からゆっくりと距離を置き、彼女は変身を解除する。

 そこにいたのは――私と一緒に下校していたはずの、天ケ瀬小春ちゃんだった。

 

「あ、あ」

「私だよ。結奈ちゃん」

「あ、ああ」

 

 私は、私は。

 天ケ瀬さんを、殺そうとしていた。

 

「ああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 私は、その場に膝から崩れ落ちた。

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