最初は敵として出てくるタイプの魔法少女   作:てんぷらのちぎり

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十三話目 終わりの始まり

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「いいか、発見次第射殺しろ」

「いいんですか?」

「枢木櫃間はもう止まらん。止められるとすれば、殺すしかない」

 

 ……妹の友人の父親を殺すのは忍びないが、仕方がない。

 ただ、違和感がある。

 研究所に入ってから、まるで導かれているかのようにすんなりと進むことができている。

 これは、遅かったかもしれないな。

 

「ようこそ! 諸君!」

「撃て!」

 

 姿を確認すると同時に、銃撃が鳴り響く。

 しかし、彼我の間には見えない壁が張られているらしく、銃弾は空中にて動きを止めた。

 これは、次元隔離の応用か?

 

「なんだ、つまらんな。仮にもあれを突破してきたのだから、もう少し何かあると思ったのだが……」

「ぐっ」

 

 今回特殊な武装を持ってこなかったのは、電撃作戦として察知される前に行動したかったからだが。

 高度にカモフラージュしたのにも関わらず、こちらの動きは筒抜けだったらしい。

 こいつの性格を考えると内通者の線すらない。

 完全に、科学者として負けている。

 

「まあ、良い。記念日を祝う連中は多ければ多いほど良いからな」

 

 言いながら、彼は奥にあった隔壁を開き始める。

 その先に会ったのは――。

 

「馬鹿な! 既に次元間ポータルが開通しているだと!」

「ご名答! 祝してくれたまえ。これで、愛するべき我が妻と私を阻む障壁はもはやない!」

 

 まさか、これほどまでに早いとは。

 こちらの想像をはるかに超えてくる天才。

 これが、枢木櫃間。

 

「ではな、諸君。私は行くとするよ」

「待て!」

 

 待つはずがない。

 と、思いきや。

 枢木櫃間はその場で足を止め、ゆっくりとこちらを振り返った。

 その表情には、不敵な笑みが浮かんでいる。

 

「今、私はご機嫌だ。少しぐらいは要望を聞いてやるとしよう。それで、何かね?」

 

 何かね? だと。

 こいつは、どれだけ……っ!

 

「お前には娘がいるだろう! その子を置いていくつもりか!」

 

 そうだ。

 少なくとも、お前が愛する妻と生み出した娘がいるだろう。

 それを置いていくのか?

 そんなことが、許されていいのか?

 

 俺の怒声に対して。

 あまりにも、冷静に、いや。

 櫃間は、つまらなさそうに顎をかいてみせた。

 

「なんだ、あれのことか」

 

 思わず、耳を疑った。

 あれ。あれ、だと?

 己の肉親を、娘を、あれだけの献身を尽くした子を、よりにもよってあれ呼ばわりだと?

 

「どこまで性根が腐ってやがる……っ」

「私が愛するのは妻であり、まあ、あれは付属品のようなものだ。大した意味はない」

 

 ただ淡々と。

 用事が済んだものをゴミ箱に捨てるように捨てるだけだと。

 言い放ちやがった。

 

「お前はぁ!」

「なにかね」

「マギデバイスをリバースエンジニアリングした! あれには、使用者に高度な負荷がかかる様になっている!」

「当たり前だ。あれが耐えられる限界まで出力を調整したのだから」

「それがどれほどの苦痛か、お前にわかるか!」

 

 そのデメリットを排除するために、出力を落とす羽目になった。

 あれは使用者のためを全く考えられてない、暴力的な装置だ。

 

 怒りのまま殴り飛ばそうと近づいても、次元障壁によって阻まれる。

 クソ、これは発生源の装置を破壊するか、より高出力の攻撃で打ち砕くしかない。

 発生源は向こう側。つまり、なすすべはない。

 

「……どうでもいいだろう。それとも、君は実験動物のラット一匹一匹に名前を付けてかわいがる性質かね? 心を砕く性質かね?」

「……っ!?」

 

 許していいのか。

 こんな外道を、こんな非道を。

 俺は科学者だが。あえて言い切ろう。

 これでいいのか、神よ!

 

「まあ、言いたいことがそれならば、もはや問題ない。さらばだ、諸君」

「待て、櫃間。待てぇぇぇぇぇええええええええええ!」

 

 俺の叫びもむなしく、次元ポータルへと歩いていく。

 そして――その向こうへ、姿を消した。

 別次元へと、転送されていった。

 

「……ミッション、失敗ですか」

「……ああ。すまない。俺の落ち度だ」

「いいや、良助さんのせいじゃないですよ」

 

 励ましてくれてるが、全ては俺の見通しが甘かったせいだ。

 この程度の戦力でどうにかなる男ではなかった。

 どうにか、彼女を味方にできていれば、話は変わったかもしれないが。

 黒鎌の魔女――枢木結奈ちゃんを。

 

「撤退しますか?」

「その前に研究所の破壊、および研究成果の回収じゃないか」

「――待て。何かおかしいぞ」

 

 ヴヴヴと地鳴りのような音が鳴り響いている。

 これは、空間が鳴動している?

 次元間ポータルが、異物を取り込んだことで不安定化しているのか!?

 

「おい! この次元壁どうにかする手段はないか!」

「現状の火力では……アークライトがいればもしくは!」

「あいつは今黒鎌の魔女の足止め中だろう。クソ、何が起こってやがる」

 

 次元ポータルの色合いが次々に変容し、バチバチとエネルギーが電気へ変換されて放出されている。

 何かが、来るっ!

 

「総員、戦闘たいせ――」

 

 ぬるりと、腕が生えてきた。

 白く、ぬめりのある腕だった。

 指は三本で、節は四節。異形と呼ぶに相応しい歪な形態に、その手だけで俺たちの身長を上回る大きさ。

 

 何と形容すればいいのかわからない。

 幼稚園児が作り出した粘土細工のような推定生物が、ポータルをくぐって姿を現した。

 

「なんだ、あれは……」

「う、動いているぞ」

 

 異形はその長い腕を振り回し、周辺機器を壊していく。

 その影響で、俺たちを阻んでいる次元障壁も、取り除かれた。

 

「一斉射撃!」

 

 明らかにまずい。

 見るからにまずい。

 これは、野放しにしていてはいけない存在だ。

 

 もしも、これが外に出たとしたら。

 考えるだけでも、おぞましい。

 

 俺たちの銃撃音が鳴り響く。

 異形に当たるも、全て表面を覆う粘液で勢いを殺される。

 この程度の装備では、意味がないという事か。

 

 クソ、人を殺すつもり来たんだこっちは。

 怪物退治なら、相応の武器を持ってくるさ!

 

 攻撃を受けたからか、綿棒のように白く何もない推定頭部分がこちらへ向いた。

 知覚能力はあるのか!

 

「一時退避だ! 入口を死守するぞ!」

「ですが!」

「今の装備じゃ何もできない! 死人を出すだけだ!」

 

 せめて、マギデバイスなら――。

 そう思った矢先、白き円弧が怪物へと飛んでいった。

 

「お兄ちゃん! なにこれ!」

「小春!」

「とりあえず攻撃したけれど、倒してもいい奴なのあれは」

 

 助かった。小春――アークライトがやってきた。

 だとするとあの子は?

 いや、今は気にしている余裕はない。

 

「他の奴らは撤退しろ! 俺は小春のオペレーティングをする」

「……わかりました! ご武運を!」

 

 周りの奴らが撤退していくなか、俺は異形を観察する。

 表面の粘液が地面にしたたり落ちては、煙を上げている。

 直接触れるのは危険そうだ。

 

「小春! 接近戦はやめておけ。捕まったらただじゃすまないぞ」

「そうだね。そういう見た目してるもん」

 

 かといって、アークライトは接近型のマギデバイスだ。

 くそ、遠近両用の黒鎌の魔女のデバイスがあればもっと打つ手があるっていうのに!

 

 とにかく、今は遅滞するしかない。

 対策本部から応援が到着するまで。

 

「気合の見せどころだ、小春。これが最終局面のようだぜ」

「それなら、張り切らないとね! 結奈ちゃんを待たせてるし!」

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