最初は敵として出てくるタイプの魔法少女 作:てんぷらのちぎり
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私は、何をしているのだろう。
パパとの約束も守れずに、天ケ瀬さんを殺そうとして。
何一つできずに、今はこうしている。
天ケ瀬さん、アークライトは研究所内の騒がしさを聞きつけて行ってしまった。
パパの事を考えるなら、私も追いかけるべきだった。
けれども、足が動かない。
もう、動く気力がわかない。
「……なんだったのかな。私の人生って」
先生あたりに聞かれれば、若いのになんだと言われるかもしれない呟き。
けれど、私にとっての人生は、パパのためにあるものだった。
だった、はずなのに。
どうしてだろう。今はそうは思えない。
『結奈、今日はおしゃれさんなのね』
大輪の花のように笑う、お母さんの笑顔が好きだった。
『ふむ、ならばよくできているのではないか?』
そんなママを見て、笑うパパが好きだった。
そんな二人が好きだった。
でも、好きなものはそれだけではない。
『ゆーいなちゃん』
気軽に話しかけてくれる、天ケ瀬さんのあの笑顔が好きだった。
何もかもが、好きだった。
けれども、私の好きなものを全部は拾えない。
拾えないんだ。
「ははっ」
乾いた笑いが出る。
中途半端だ。
今更引けないと思いつつ、これ以上進むこともできやしない。
私だけが、ここに取り残されている。
先ほど聞こえてきてたのは、さっき入っていった襲撃者たちの悲鳴だった。
パパはきっと上手くやったんだ。
きっと、今頃ママと仲良く手を取り合っているに違いない。
「なら、もういいのかな」
元通りのパパに戻ってくれたのなら。
例え、そこに私がいなくとも――いいのかな?
「はは、あはははっ」
笑いが止まらない。
なのに、涙も溢れて止まらない。
どうして? 自分で自分の感情がわからない。
私は何のために頑張ってきたの。
私は何のために罪のない人を傷つけてきたの。
何のために、天ケ瀬さんと戦ってきたの。
「あはははは……」
ただひたすらに、むなしい。
必死に目を背けていた現実が、追いついてきてしまった。
「どうすれば、いいのかな」
こういう時、パパなら。あるいは、天ケ瀬さんなら。
答えを、出せるのだろうか。
……? 足音が聞こえる。
大勢だ。何だろう。
入口の方を見ると、襲撃者の人たちがこちらへやってきているのが見えた。
表情を見るに、パパは上手くいったみたい。
それは……良かった。
「黒鎌の魔女! そうか、アークライトがここにいるってことは……」
襲撃者の人たちは私を見るなり、銃を構える。
その程度の武器で私とは戦えない。
彼らもわかっているはずなのに。
でも、もしかしたら。
ここで撃ち殺された方が、幸せなのかな?
「……待て、様子がおかしい」
予想に反して、彼らは攻撃してこない。
少しの間、見つめ合う形になる。
沈黙が、気まずい。
「……何、パパは上手くやったんでしょう? なら、好きにすればいいよ。どこかへ行くなり、私を捕まえるなり」
「君は、それでいいのか」
「いいんだ。もう、何もかも」
全部、全部。
大切だったものは、もう手に入らないから。
パパとママは遠くへ行ってしまった。
天ケ瀬さんとも、もうどう向き合えばいいのかわからない。
小さな私の世界は、粉々だ。
「ならば、助力してはくれまいか」
「おい!」
「だが、この子のマギデバイスなら、あるいは。そうは思わないか」
助力? 何の話をしているんだろう。
もう全部終わったんだよね?
「現在、櫃間博士が残した次元転送ポータルから怪物が出現し、アークライトが対応中だ。が、見る限りおそらくは……」
「天ケ瀬さんが……?」
「正体を、知ったのかっ」
天ケ瀬さんが、戦ってる?
怪物と?
「私の見込みでは、おそらくアークライト単身では危うい。どうか、どうか、助力をしてくれないか!」
襲撃者さんは必死だ。
嘘をついているようには見えない。
いや、つく理由もないか。
「黒鎌の魔女! 君に頼むのは筋違いかもしれない! だが、どうか我々の仲間を、君の学友を、助けてはくれないか!」
今のアークライトは強い。
最初とは見違えるほどに。
「……本当に、アークライトだけでは倒せないの?」
「私の見立てでは……おそらく、難しいだろう」
「お兄さんたちは、どうしてここにいるの?」
「我々では助力になるどころか、邪魔にしかならない」
ああ、そういう事か。
彼女は今も、立派に正義の味方をしている。
魔法少女、か。
物語の中の、正義の味方。なんで、彼女は、そう名乗っているんだろう?
『困っている人を助けたいからだよ!』
幻聴が聞こえた。
でも、あながち間違いではないのかもしれない。
あの子は、そういういい子だから。
「魔法少女、か」
不思議な響きだ。
私も、憧れた時期があったっけ。
アニメを見て、グッズを買ってもらって。
無邪気に変身の真似もして。
「名前、か」
アークライトは言っていた。
私の名前は、なんなのか。
私は枢木結奈。パパの研究の手伝いをする、女の子。
そして、悪い子。
でも、もし。
私も、アークライトのようになれるのなら。
天ケ瀬さんのように、変身したら変われるというのなら。
今だけは、変わってみてもいいかもしれない。
「――任意コード実行。命名変更」
『コード入力を記録。どうぞ』
黒鎌がうなりを上げる。
襲撃者さんたちが構えるけれど、私は気にしない。
できることを、やろう。
それが、残された人の責任だと思うから。
「コードネーム――“カローン”実行」
全てを終わらせて。
その後に――。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
怪物の一撃が、再び地面を破壊する。
隆起するがれきに、飛び散る破片。お兄ちゃんが怪我しないように、弾き落とすので精一杯だ。
「お兄ちゃん! なんか考えて!」
「今考えてる! 避けることに集中しろ!」
アークセイバーのような飛ぶ斬撃は効果があるのが確認できた。
けれど、私じゃ出力が低すぎて有効打になってない。
倒す前に、私の方が力尽きちゃう。
こんな時、結奈ちゃんなら。
あのマンションで見た一撃なら、きっと倒せるのに。
「そっちを見るな! アークセイバー!」
異形の怪物は時折、外へ繋がる通路の方へ関心を向ける。
それはつまり、こいつは外に出ようとしてるってことだ。
そんなことはさせられない。
町中が大混乱だし、死人も出るかもしれない。
だから、必死になって攻撃して足止めをする。
直接攻撃できないってのが、本当に辛い!
「お兄ちゃん!」
「わかってる!」
必死に打開策を考えてもらっているけれど、いい策は出てこなさそう。
あの次元障壁で挟んでちょん切るとかは思いついたけれど、装置そのものを壊されちゃったからできないし。
結奈ちゃんのお父さん、酷い置き土産だよこれは!
「っ、まって。足音が聞こえる」
「どこからだ」
「入口に続いてる通路の方!」
誰かがこっちへ来てる?
足音の大きさ的に、結奈ちゃん!?
「結奈ちゃんが来てる!」
「おいおい! どういうことだ!」
「わからないよ!」
まさか、結奈ちゃんのお父さんが上手くいかなかったと思って、復讐をしに来てる?
もしそうなら、外に逃げた人たちは全員……。
ううん、違う。
結奈ちゃんはそんな子じゃない!
「とにかく、今は怪物を――」
足音が、消えた。
同時に、私の頭上に、影が差す。
「――マギデバイス『カローン』、最大励起」
『カローン、最大励起。オーバーロード』
白色の異形が、瞳のない顔を結奈ちゃんへと向ける。
駄目だ。結奈ちゃんが攻撃される。
咄嗟に構えて援護しようとした瞬間――結奈ちゃんと一瞬だけ視線が合った。
静かに、微笑んでいた。
「斬空列断」
耳鳴りかと間違うくらいに鳴り響く黒鎌の振動音。
前に見た時よりもひと際大きくなったそれは――いともたやすく、異形を真っ二つに引き裂いた。
いいや、異形だけじゃない。
地面も壁も、天井でさえも。
その振りぬいた直線状の全てを、切り裂いていた。
「結奈ちゃ……」
「話はあと、逃げるよ」
「え?」
「逃げるぞ! 研究所が崩れる!」
結奈ちゃんの一撃で研究所の色々が破壊されすぎて、建物が崩れ始めてる!
怪物は?
真っ二つにされたっきり、復活する気配はない。
多分、死んだ?
「いいから、逃げるよ!」
「う、うん!」
結奈ちゃんに急かされて、音を立てて崩れ落ちる研究所を私たちは脱出した。
あの白い異形の怪物の生死は確認できてないけれど……。
ひとまず、私たちの戦いは、ここで終わった。
……と、私は思ってたんだけれども。