最初は敵として出てくるタイプの魔法少女   作:てんぷらのちぎり

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十四話目 零れ落ちた雫を拾いに

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 私は、何をしているのだろう。

 パパとの約束も守れずに、天ケ瀬さんを殺そうとして。

 何一つできずに、今はこうしている。

 

 天ケ瀬さん、アークライトは研究所内の騒がしさを聞きつけて行ってしまった。

 パパの事を考えるなら、私も追いかけるべきだった。

 けれども、足が動かない。

 もう、動く気力がわかない。

 

「……なんだったのかな。私の人生って」

 

 先生あたりに聞かれれば、若いのになんだと言われるかもしれない呟き。

 けれど、私にとっての人生は、パパのためにあるものだった。

 だった、はずなのに。

 

 どうしてだろう。今はそうは思えない。

 

『結奈、今日はおしゃれさんなのね』

 

 大輪の花のように笑う、お母さんの笑顔が好きだった。

 

『ふむ、ならばよくできているのではないか?』

 

 そんなママを見て、笑うパパが好きだった。

 そんな二人が好きだった。

 でも、好きなものはそれだけではない。

 

『ゆーいなちゃん』

 

 気軽に話しかけてくれる、天ケ瀬さんのあの笑顔が好きだった。

 

 何もかもが、好きだった。

 けれども、私の好きなものを全部は拾えない。

 拾えないんだ。

 

「ははっ」

 

 乾いた笑いが出る。

 中途半端だ。

 今更引けないと思いつつ、これ以上進むこともできやしない。

 私だけが、ここに取り残されている。

 

 先ほど聞こえてきてたのは、さっき入っていった襲撃者たちの悲鳴だった。

 パパはきっと上手くやったんだ。

 きっと、今頃ママと仲良く手を取り合っているに違いない。

 

「なら、もういいのかな」

 

 元通りのパパに戻ってくれたのなら。

 例え、そこに私がいなくとも――いいのかな?

 

「はは、あはははっ」

 

 笑いが止まらない。

 なのに、涙も溢れて止まらない。

 どうして? 自分で自分の感情がわからない。

 

 私は何のために頑張ってきたの。

 私は何のために罪のない人を傷つけてきたの。

 何のために、天ケ瀬さんと戦ってきたの。

 

「あはははは……」

 

 ただひたすらに、むなしい。

 必死に目を背けていた現実が、追いついてきてしまった。

 

「どうすれば、いいのかな」

 

 こういう時、パパなら。あるいは、天ケ瀬さんなら。

 答えを、出せるのだろうか。

 

 ……? 足音が聞こえる。

 大勢だ。何だろう。

 

 入口の方を見ると、襲撃者の人たちがこちらへやってきているのが見えた。

 表情を見るに、パパは上手くいったみたい。

 それは……良かった。

 

「黒鎌の魔女! そうか、アークライトがここにいるってことは……」

 

 襲撃者の人たちは私を見るなり、銃を構える。

 その程度の武器で私とは戦えない。

 彼らもわかっているはずなのに。

 

 でも、もしかしたら。

 ここで撃ち殺された方が、幸せなのかな?

 

「……待て、様子がおかしい」

 

 予想に反して、彼らは攻撃してこない。

 少しの間、見つめ合う形になる。

 沈黙が、気まずい。

 

「……何、パパは上手くやったんでしょう? なら、好きにすればいいよ。どこかへ行くなり、私を捕まえるなり」

「君は、それでいいのか」

「いいんだ。もう、何もかも」

 

 全部、全部。

 大切だったものは、もう手に入らないから。

 パパとママは遠くへ行ってしまった。

 天ケ瀬さんとも、もうどう向き合えばいいのかわからない。

 小さな私の世界は、粉々だ。

 

「ならば、助力してはくれまいか」

「おい!」

「だが、この子のマギデバイスなら、あるいは。そうは思わないか」

 

 助力? 何の話をしているんだろう。

 もう全部終わったんだよね?

 

「現在、櫃間博士が残した次元転送ポータルから怪物が出現し、アークライトが対応中だ。が、見る限りおそらくは……」

「天ケ瀬さんが……?」

「正体を、知ったのかっ」

 

 天ケ瀬さんが、戦ってる?

 怪物と?

 

「私の見込みでは、おそらくアークライト単身では危うい。どうか、どうか、助力をしてくれないか!」

 

 襲撃者さんは必死だ。

 嘘をついているようには見えない。

 いや、つく理由もないか。

 

「黒鎌の魔女! 君に頼むのは筋違いかもしれない! だが、どうか我々の仲間を、君の学友を、助けてはくれないか!」

 

 今のアークライトは強い。

 最初とは見違えるほどに。

 

「……本当に、アークライトだけでは倒せないの?」

「私の見立てでは……おそらく、難しいだろう」

「お兄さんたちは、どうしてここにいるの?」

「我々では助力になるどころか、邪魔にしかならない」

 

 ああ、そういう事か。

 彼女は今も、立派に正義の味方をしている。

 

 魔法少女、か。

 物語の中の、正義の味方。なんで、彼女は、そう名乗っているんだろう?

 

『困っている人を助けたいからだよ!』

 

 幻聴が聞こえた。

 でも、あながち間違いではないのかもしれない。

 あの子は、そういういい子だから。

 

「魔法少女、か」

 

 不思議な響きだ。

 私も、憧れた時期があったっけ。

 アニメを見て、グッズを買ってもらって。

 無邪気に変身の真似もして。

 

「名前、か」

 

 アークライトは言っていた。

 私の名前は、なんなのか。

 私は枢木結奈。パパの研究の手伝いをする、女の子。

 そして、悪い子。

 

 でも、もし。

 私も、アークライトのようになれるのなら。

 天ケ瀬さんのように、変身したら変われるというのなら。

 今だけは、変わってみてもいいかもしれない。

 

「――任意コード実行。命名変更」

『コード入力を記録。どうぞ』

 

 黒鎌がうなりを上げる。

 襲撃者さんたちが構えるけれど、私は気にしない。

 できることを、やろう。

 それが、残された人の責任だと思うから。

 

「コードネーム――“カローン”実行」

 

 全てを終わらせて。

 その後に――。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 怪物の一撃が、再び地面を破壊する。

 隆起するがれきに、飛び散る破片。お兄ちゃんが怪我しないように、弾き落とすので精一杯だ。

 

「お兄ちゃん! なんか考えて!」

「今考えてる! 避けることに集中しろ!」

 

 アークセイバーのような飛ぶ斬撃は効果があるのが確認できた。

 けれど、私じゃ出力が低すぎて有効打になってない。

 倒す前に、私の方が力尽きちゃう。

 

 こんな時、結奈ちゃんなら。

 あのマンションで見た一撃なら、きっと倒せるのに。

 

「そっちを見るな! アークセイバー!」

 

 異形の怪物は時折、外へ繋がる通路の方へ関心を向ける。

 それはつまり、こいつは外に出ようとしてるってことだ。

 

 そんなことはさせられない。

 町中が大混乱だし、死人も出るかもしれない。

 だから、必死になって攻撃して足止めをする。

 直接攻撃できないってのが、本当に辛い!

 

「お兄ちゃん!」

「わかってる!」

 

 必死に打開策を考えてもらっているけれど、いい策は出てこなさそう。

 あの次元障壁で挟んでちょん切るとかは思いついたけれど、装置そのものを壊されちゃったからできないし。

 結奈ちゃんのお父さん、酷い置き土産だよこれは!

 

「っ、まって。足音が聞こえる」

「どこからだ」

「入口に続いてる通路の方!」

 

 誰かがこっちへ来てる?

 足音の大きさ的に、結奈ちゃん!?

 

「結奈ちゃんが来てる!」

「おいおい! どういうことだ!」

「わからないよ!」

 

 まさか、結奈ちゃんのお父さんが上手くいかなかったと思って、復讐をしに来てる?

 もしそうなら、外に逃げた人たちは全員……。

 ううん、違う。

 結奈ちゃんはそんな子じゃない!

 

「とにかく、今は怪物を――」

 

 足音が、消えた。

 同時に、私の頭上に、影が差す。

 

「――マギデバイス『カローン』、最大励起」

『カローン、最大励起。オーバーロード』

 

 白色の異形が、瞳のない顔を結奈ちゃんへと向ける。

 駄目だ。結奈ちゃんが攻撃される。

 

 咄嗟に構えて援護しようとした瞬間――結奈ちゃんと一瞬だけ視線が合った。

 静かに、微笑んでいた。

 

「斬空列断」

 

 耳鳴りかと間違うくらいに鳴り響く黒鎌の振動音。

 前に見た時よりもひと際大きくなったそれは――いともたやすく、異形を真っ二つに引き裂いた。

 いいや、異形だけじゃない。

 地面も壁も、天井でさえも。

 その振りぬいた直線状の全てを、切り裂いていた。

 

「結奈ちゃ……」

「話はあと、逃げるよ」

「え?」

「逃げるぞ! 研究所が崩れる!」

 

 結奈ちゃんの一撃で研究所の色々が破壊されすぎて、建物が崩れ始めてる!

 怪物は?

 真っ二つにされたっきり、復活する気配はない。

 多分、死んだ?

 

「いいから、逃げるよ!」

「う、うん!」

 

 結奈ちゃんに急かされて、音を立てて崩れ落ちる研究所を私たちは脱出した。

 あの白い異形の怪物の生死は確認できてないけれど……。

 ひとまず、私たちの戦いは、ここで終わった。

 

 ……と、私は思ってたんだけれども。

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