最初は敵として出てくるタイプの魔法少女   作:てんぷらのちぎり

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二話目 愛とは求めるものではなく

「ただいま、パパ……」

 

 山奥の廃工場を改造した、パパの研究所に戻ってきた。マギデバイスの機動力を使えば、この程度の移動はすぐにできる。

 他の誰にも知られてない私たちだけの秘密基地。

 ここに来ると、ほっとできる。他の人が誰もいないってことは、私だけがパパに信頼してもらえてるってことだから。

 私だけが、パパの味方でいられているってことだから。

 

 入口の認証システムを通過して、長い廊下を通って、いつもパパがいる研究室を目指す。

 厳重に管理されているこの施設では、私でも自由に出歩くことはできない。

 このマギデバイス「デスサイス」のおかげで、認証されている部分の入室が許されている。

 

『ピーッ。マギデバイス認証。呼称「デスサイス」。ロックを解除します』

 

 機械音が鳴り響き、研究室の扉が開く。

 部屋の奥には、よくわからない機械を動かしているパパの姿があった。

 

「戻ったか。目標物は?」

 

 パパは振り返らない。ずっと、機械をいじくっている。

 今は忙しいんだと思う。パパが忙しくないときなんて、ないから。

 

「うん、取ってきたよ。テミスティア」

「そうか。持ってこい」

 

 言われた通りに近づいて、テミスティアを手渡す。

 この手渡す一瞬だけ、本当に一瞬だけ、パパは私の方を見てくれる。目と目が合う。

 ああ、私はこの人の中にまだいられているんだって、実感できる。

 

「ふむ、これがテミスティアか。思っていたよりもただの石だな」

 

 受け取ってさえしまえば、もう私には興味がないとばかりに自分の世界に閉じこもってしまう。

 寂しい、なんて。これも何も全部ママを蘇らせるためなんだから。

 パパは一秒も無駄にできないっていうだけ。全部上手くいった後は、きっと、昔みたいに……。

 

「じゃあご飯作ってくるね」

「ああ」

 

 帰ってくるのは生返事。実際、パパがまともにご飯を食べてくれたことの方が少ない。

 倒れてないってことは、私が見てないところで食事はとってるんだろうけれど……。

 でも、邪魔をするのが一番悪いことだからね。

 

 研究所内には、食糧保管庫と一応の調理室もある。

 ときたまの在庫状況を確認する限り、パパは素材のまま食べてるのかもしれない。娘としては、温かい料理を食べてほしいのだけれど……それすら気にする余裕がないってのは、知ってるから。

 

 調理場に立っていると、ママの事を思い出す。

 食べてくれる人の事を考えながら作るのが楽しいのよ、と和やかな表情で言っていたママの姿を。

 ……ママさえ。ママさえ帰ってきてくれれば。そうすれば、きっとパパもまた元通りの家族に戻れるはず。それまでの我慢、我慢なんだから。

 

 あまり凝ったものを作っても、パパは無駄にするなと怒るから、質素なサンドイッチを作る。

 このぐらいなら手間もかからないし、片手間で食べやすい。

 今のところ、怒られない数少ない選択肢。

 完成したらお皿に乗せて、パパの元へと運ぶ。

 

「パパ――」

「まただ! またこの反応だ!」

 

 ダンッ! と強く拳を叩きつける音。

 驚いてびくりと体が縮こまる。お皿に乗せたサンドイッチは、何とか落とさずに済んだ。

 

「何が、何が間違っているんだ! 素材が足りないというのか? 根本から理論が間違っているというのか? 一体、何が不足しているというのだ!」

「パ、パパ……?」

 

 恐る恐る声をかける。

 こういう時のパパには近寄らない方がいいってのは、よく知ってる。

 でも、今日は聞きたいこともあるから、少しだけ引き下がろうと勇気を出してみた。

 ――大きな間違いだった。

 

「お前か!?」

「きゃあっ!?」

 

 パパの形相は血に迷っていて、まるで赤ずきんに出てくる狼のよう。

 首元を強く抑えられ、抵抗もできないまま地面に引き倒される。

 カランと音を鳴らして皿が地面に落ち、無様にサンドイッチが中身をぶちまけた。

 強い力で、首元がぎゅっと閉まる。呼吸が、できない。くる、しい。

 

「お前が、お前が残っているのが原因なのか? お前がいるから彼女は答えてくれないのか?」

「パ、パ。おち、つい、て」

「……いや、いや。それでは整合性が取れない。ならば――」

 

 人が変わったように落ち着いて、パッと手を放してくれる。

 何度かせき込んで、喉に空気が通る感覚を味わう。

 パパの様子は、もうすでに別の事を考え始めているみたいだった。

 何を考えているかなんて、私には到底予想もできない。パパは天才なんだから。

 

 思考を遮っちゃうけれど、今しか聞けるタイミングはなさそう。

 とても大事な、今日の出来事を。

 

「……パパ、私以外に、マギデバイスを渡した?」

「――ん? どういうことだ」

 

 反応してくれた。

 パパは興味がないことには反応してくれないから、これは少しだけ、嬉しい。

 もしも気に障ったのなら、また襲われるかもしれなかったから、余計に。

 

「今日、私以外にマギデバイスを持ってる子と会ったの。それで、パパが渡したのかなって……」

「それはない。私が作ったのは、お前に渡したアレだけだ」

 

 断言してくれて、ほっとする。

 私だけがパパの特別だってことはまだ変わってないんだ。

 じゃあなんであの子はマギデバイスを持っていたんだろう……?

 

「ふむ、予測はできるが、思ったよりも早いな」

「えと、その、早いってのは?」

「リバースエンジニアリングだろう。これまでお前が残した痕跡から逆算して、私が作り出した技術の模倣品を作り出したのだ。どこの馬の骨の仕業かは知らんがな」

 

 パパの技術を……?

 それって、すごいことなんじゃ。

 

「お前が気にする必要はない。これまで通り、私の指示に従って素材を収集してくればいい」

「う、うん。でも」

「でもではない。他に考える必要なんてない。現場で問題ならば、その都度対応しろ。それだけだ」

 

 暗にできるだろう? と言われてしまえば、静かに頷くしかない。

 パパの期待は裏切れない。そうしたら、パパの特別じゃいられなくなる。

 それだけが、本当に怖い。

 

「うん。わかったよ、パパ。あの、サンドイッチ作ってきたけど、落としちゃったから作り直してくるね」

「必要ない。今日はもう家に帰っていいぞ」

 

 冷たく突き放される。でも、これもいつものことだから。

 

「……わかった。落ちた分は私が食べるね。じゃあ、また来るね、パパ」

 

 落ちたサンドイッチを拾って、研究室の出口の前に立つ。

 開いた扉の向こうは無機質で、私の寂しさを代弁してくれている気がした。

 一縷の望みをかけて、振り返る。けれども、パパはもう自分の世界に戻っていて、そこには私が入る余地なんてどこにもなかった。

 

「じゃあ、またね。パパ」

 

 最後に、もう一度だけ。反応がないのが分かっていても、言わずにはいられなかった。

 ボロボロに崩れたサンドイッチを食べながら、こみ上げる涙を堪えつつ、研究所を後にした。

 

 もう、早く帰ろう。帰って、寝よう。

 そうすれば明日が来る。明日が来れば、学校がある。学校があれば、やることができて、今の辛さも忘れられる。

 

 大丈夫。大丈夫。大丈夫。

 私だけがこの研究所の場所を知っている。パパの仕事を手伝っているのは私だけ。私が素材を持ってきているから、パパは研究を続けられる。

 そうやって、必死に自分に言い聞かせて、家の近くまで夜空を飛んで行った。

 

 涙だけは、最後まで流さないで済んだ。

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