最初は敵として出てくるタイプの魔法少女 作:てんぷらのちぎり
昨日は待ち遠しく思っていた学校も、実際に目の前にすると憂鬱だ。
小学校の時ほどではないけれど、中学校もそれなりに。
授業が嫌なわけじゃない。勉強するのは楽しい。
その他すべてが、憂鬱だ。
教室の中で周りの和気あいあいとした声も、楽しく盛り上がる声も。
全部が全部、当てつけのように聞こえる。
「ねぇ、聞いた? 昨日も出たんだって、強盗少女!」
「怖いよねぇ。早く捕まってくれないかな」
「博物館とか狙ってるらしいから、私たちに被害はなさそうだけど……」
「そう言って! 出会ったら殺されちゃうかも……」
「こわーい!」
――特に、パパの任務を達成した次の日は。
こうやって、私のしたことの話題でいっぱいになる。ニュースにもなっているぐらいだから、仕方がないことなんだけれど。
何気ない世間話を聞かされるだけで、お前がしていることは悪いことなんだぞって言われているみたいで。
こう、少し、辛い。
「何暗い顔してるの、
後ろから不意に話しかけられる。
この明るい声、そして私に話しかけてくる子と言えば、一人しかいない。
振り返れば、予想通りの顔がそこにはあった。
「
「もう、
天ケ瀬小春ちゃん。私なんかにも気軽に接してくれる、優しくて明るい子。
クラスでも人気で、なんで私なんかを気にかけてくれるのかもわからない。
「あっ、私が馴れ馴れしかった?
「ううん。そうじゃないの。その、びっくりしちゃって」
「あちゃー! 考え事邪魔しちゃったかぁ。それはごめんね。次から気を付ける」
両手を合わせて謝ってくれる姿には、他の子と違って私を憐れむような色はない。
そう、私はママがいなくなってから、腫れ物のように扱われてる。パパもあの様子だから、色々と噂話の的になってる。
だから、居心地は悪い。授業の時間だけは、授業の内容に集中できるから好きなんだけれども。
「んー、結奈ちゃん。相当な悩み事みたいだねぇ」
「天ケ瀬さん、そういうのはあんまり……」
「あちゃー! そうだよね。話したくないこともあるよね。じゃあ、別の話をしよう! この間通学中に見かけた犬が面白くってさー……」
そう切り出して、最近あった面白かったこととか、おかしかったこととかを聞かせてくれる。
本当に、色々なことを。よく見てるなとか、そんな些細なことでそんな風に感じるんだなんて、毎回毎回天ケ瀬さんの感受性の高さには驚かされてばっかり。
……家族関係の話だけは、避けてくれているから、本当に気が使ってくれているのが分かる。
心が温かくなるってのは、こういう感じなのかな?
「あっ! ようやく笑ってくれたね!」
「え?」
「ほら、結奈ちゃんには笑顔の方が似合ってるよ」
笑ってた自覚はないんだけれど。笑っていたらしい。
なんだろう、昨日の事を話してる周りの子の事を気にしなくて済んだからかな。
「……ひょっとして、噂の強盗少女の事を気にしてるの?」
「っ!?」
目ざとく、私が何を気にしていたのかを察された。
そんなに分かりやすいのかな。天ケ瀬さんは、すぐに私の考えを読み取ってくる。
「不安だよね。黒鎌の魔女って、SNSとかの目撃証言から呼ばれてるんだって」
「へ、へぇ。そうなんだ……」
「でも、私が思うに、心配いらないんじゃないかなって思うんだ」
意外な言葉だった。
他の子は怖がっていたり、ふざけていたりするのに。天ケ瀬さんは、真剣な面持ちで言うものだから、余計に。
「それは、どうして?」
思わず聞いてしまった。すぐに、不自然じゃなかったかって怖くなったけれど、天ケ瀬さんは顎に人差し指を当てて、少し考えながら話してくれる。こっちを気にしている様子はなかった。
「んー、なんて言えばいいんだろう。ほら、その子って、博物館とかいろんな場所を襲ってるけれど、一般民家とかは壊したことないでしょ? だから、なんか事情があるんじゃないかなぁ……なんて思ったりして」
「そう、なんだ」
「何より、お金目的なら銀行とかを狙うんじゃないかな? なんて。誰かが殺されたみたいな話も聞かないし……悲しそうな目をしてたし」
ぼそりと呟かれた最後の言葉は聞き取れなかった。
なんて言ったの? って聞こうとしたところを、慌てた様子で遮られる。
「ごめんね! 変な事言ってたよね? 気にしないで、あははは……」
誤魔化すように下手な笑いをされて、とてもじゃないけれど聞ける空気ではなくなってしまった。
ああ、でも。さっきまで重かった心の中が、今は少しだけ軽くなっている。
なんでかな。自分のしていることを、少しだけ認めてもらえたみたいに感じたからかもしれない。
「――ううん、気にしてないよ」
「ほんと? ありがとうね! 話し相手になってくれて!」
こちらこそ、ありがとう。
言おうとした言葉は、喉の奥まで出かかって、恥ずかしくなってしまう。
それに、結局のところ私がしていることは悪いことで違いない。
こうして庇ってもらって気を良くして、それすらもなんて自分勝手なんだろう。
なんて、自戒をしていたら、電話の音が。
何だろう、私のじゃない。てことは、天ケ瀬さん?
「ちょっとごめんね? あー。はい、小春だよー。……えっ、これから授業始まるって! 嘘でしょ、もーしょーがないなぁー」
「あ、天ケ瀬さん……?」
「ほんっとーにごめん! 先生に家庭の事情で早退しましたって伝えておいてくれない? 急いで出かけなきゃいけなくなっちゃった!」
こんなに必死に頼み込んでくる天ケ瀬さん初めて見た。
家庭の事情、うん、家族の事なら仕方がないよね。
「わかった。私から先生に伝えておくね」
「ありがとう! それじゃ、またね!」
そういうなり、自分の席の荷物を持って廊下へ出て言ってしまった。
「あっ、先生だ。すみません、授業リスケさせてくださーい!」
「おいこら天ケ瀬! 何がリスケだふざけるな!」
「家庭の事情でーす!」
廊下からは先生と出くわしたのか、元気なやり取りが聞こえてくる。
「……あはは」
思わず笑うしかなかった。私も、天ケ瀬さんぐらい明るければ、少しぐらいは……パパの心を癒せたのかな?
そう思うと、少しだけ羨ましい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「もー。先生にまた怒られちゃうよー」
「小春には悪いが、すぐに調整結果をしりたくてな。これはお前にしか使えないんだから」
家に帰って、真っ先に目にしたのはお兄ちゃんが調整した不思議な機械。
マギデバイス。ってのが解析した結果の名称なんだって。へーって感じ。
「今回、お前が黒鎌の魔女と実際に交戦したことでより多くのデータが取れた。今回は見せかけだけじゃなくて、十分な内容が詰まってるはずだ」
「……そうだよね。やっぱり、戦わなくちゃだよね」
「ああ。何をしようとしているかはわからんが、これまで持ち去った素材からろくでもないことを企んでいるのは確かだ。必ず、止めなきゃいけない」
お兄ちゃんは国が作った特別犯罪対策用の研究所所属の、とくべつかんりぎし? って職業らしい。
最近は、相次ぐ黒鎌の魔女被害に研究所中が大騒ぎなんだって。
なんでも、向こうの黒鎌の魔女が使っている技術レベルが高すぎて、研究所の人たち全員でも追いつけてないぐらいらしい。
どのぐらい凄いのかっていうと、国が集めた天才十数人がそろいもそろってわからないってお手上げ状態ってこと。とんでもない相手ってのが、あまり頭がよくない私にだってわかる。
でもでも、今回この向こうが使っているマギデバイスを解析して、似たものを作ったことで、ようやく対抗できるようになるかもしれないってところまで来たんだ!
ただ、その解析したマギデバイスそのものが特定の人にしか使えないように作られてたらしくて、再現するにあたってそこら辺の制限も一緒に再現せざるを得なかった。
んで、その特定の人ってのが、中学生ぐらい、つまり私ぐらいの女の子ってこと。
身内に年頃の女の子がいるのが私ぐらいだから、私に白羽の矢が立ったってわけ。
「具体的には研究所に移動して、試験してもらうが……どうだ、変わった感じはするか?」
「……うん、なんか力強さを感じる、かも?」
「かも、って。お前……」
「しょうがないじゃん! 変身もしてないんだから!」
そんなやり取りをしつつも、私の頭の中は彼女――黒鎌の魔女の事でいっぱいだった。
昨日会った時、あの子の表情は忘れられない。
泣きたくて、泣けなくて、苦しくて、でも助けは求められなくて。どうしようもなさでいっぱいでぐちゃぐちゃになっていた感じだった。
お兄ちゃんたちは大変なことをしようとしているって言っているけれど、私はそうは思わない。
あの子はきっと、悪い子じゃない。
だから、私が突き止めないといけないんだ。突き止めて、本当に悪いことなら止めてあげる。
そうしないと、あの子はどこまでも突き進んでしまうと思う。
そういう子を、一人だけ知っているから。
天ケ瀬小春――魔法少女、アークライトとして。私は、私の正義のためにあの子と戦うよ、お兄ちゃん。
「ほらほら、性能テストするんでしょ! 早く車に行こうよ~」
「せっかちだな」
「中学生に授業までほっぽり出させたのはどっちかなぁ~?」
「ぐっ。わかったよ。後でアイス買ってやるから」
「わあい。お兄ちゃん大好き~」
「現金な奴め……」
待っててね。黒鎌の魔女。
あなたの悲鳴、確かに私には届いたから。