最初は敵として出てくるタイプの魔法少女   作:てんぷらのちぎり

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四話目 手段と目的は遠くかけ離れて

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「ふぅ」

 

 ゆっくりと呼吸をして、気持ちを落ち着ける。

 大丈夫。何も考える必要はない。

 今日も今日とて、お父さんの指示通りにすればいいだけなんだから。

 

「スタンバイ。準備できたよ、パパ」

『わかった。時間が来たら合図を出す、それまで待て』

 

 マギデバイス越しの通信でやり取りをする。

 今日はとある資産家の家に飾られている絵画が目的。

 そこには、パパ曰く隠された宝の所在が印されているみたい。

 だから、その絵を手に入れる必要がある。簡単な話。

 

 全てはママのため。そして、パパに戻ってきてもらうため。

 そう、呼吸を整えながら言い聞かせる。

 罪悪感に、押しつぶされないためにも。

 

 頭の中に浮かぶのは、天ケ瀬さんの顔。

 明るく、元気で……黒鎌の魔女の事を、悪い子でないと思ってくれていた。

 それはとても嬉しくて、同時にとてつもなく苦しい。

 悪い子だと、悪魔だと、産まれるべきでなかったと、全員に言われるだけで楽になれるのに。割り切れるのに。

 そう、楽になりたい自分となりたくない自分が交差している。

 

 だって、私がいなくなったらパパはどうなるの?

 誰がパパを救ってくれるの?

 誰も救ってくれはしない。むしろ、パパを苦しめる人は増え続ける。

 私が守らないと。パパを、家族を。それが、残された私の役目なんだから。

 どんなに辛くても、どんなに苦しくても、どんなにどんなにどんなに――。

 

『定刻だ。準備はいいな』

「――っ! もちろんだよ、パパ」

 

 パパの声で、現実へ意識を戻す。

 そうだ、私の考えなんてどうでもいい。

 全てはママを蘇らせるためなんだから。

 そのための手段は、悪だって構わない。

 最初から、そのつもりだったでしょう? ねぇ、枢木結奈。

 

「魔装起動、『デスサイス』。――ミッション、スタート」

 

 いつも通りの口上を形にして、意識を切り替える。

 ほら、そうすれば、世界はこんなにもクリアになる。

 

 今回の目標は遥か上空、高層マンションの上層階。

 内部を走っていけば無駄な争いは免れない。

 だから――外を飛ぶ。

 

 冷たい空気が肌を撫でる。

 高く高く飛ぶほどに、風が強くなり私を吹き落とそうとする。

 ああ、自然さえも、私たちの敵なんだ。

 

「――ああ、問題ない。準備は万全だからな」

 

 強化感覚で研ぎ澄まされた聴覚が、目標の資産家の声を拾う。

 もう四十階を越えるだろうか。そろそろ、突入の準備を整える。

 

「なあに、撃退したらまた連絡を――」

 

 椅子に腰かけ、誰かに電話をしている資産家と窓越しに視線が合った。

 初めまして。知らない人。

 心の中で、そっと呟く。

 

「デスサイス」

 

 刃の羽が二対舞う。

 高層階の分厚いガラスが、まるで熱したバターのように軽々と切れて、暴風によって建物の内側へと倒れ込んだ。

 風に誘われるままに、私も建物の中へと入り、そっと地面に足をつける。

 

「こんばんは。シュリワエッチの絵画はどこ?」

「お、お前が黒鎌の魔女か!」

「質問に、答えて」

 

 見渡した限り、この部屋の中にはなさそうだ。

 どこかへ隠した? 事前に情報が漏れていた?

 いや、私とパパしか知らないんだから、情報が洩れるなんてありえない。

 なら、予測されていた?

 誰に、どうやって。

 

「護衛ども! さっさとこいつをハチの巣にしてしまえ!」

「あっ」

 

 考えているうちに、資産家は扉の方へと逃げてしまっていた。

 同時に、備え付けられていた警報音が鳴り響く。

 ああ、ここでもこの音を聞くのか。

 

 警報音を聞きつけてやってきたのは、銃を手に持った警備兵みたいな人達。

 傭兵? 兵士の人たちが持ってそうな、細長い銃を持っている。

 

「……日本ではいつから銃の携帯が許されるようになったの?」

「武装している魔女がそれを言うか!」

 

 それもそうだ。

 マギデバイスは法律に引っ掛かるのかな?

 パパの事だから……いや、今のパパなら気になんてしないか。

 昔のパパなら、そんなことはしなかったのに。

 

「まあ、いいや。絵画の場所を教えて。そうすれば、見逃して上げるから」

「誰が貴様なんぞに私のコレクションをくれてやるか、小娘めが」

 

 穏便に交渉しようと思ったけれど、やっぱり無理か。

 わかってた。

 だから、ここからはいつも通り、実力行使させてもらう。

 

 両翼を広げ、戦闘状態を開始する。

 同時に、銃撃が繰り広げられ、数多の弾丸がこちらへと飛んでくる。

 

 全てが見える。マギデバイスによる身体強化は恐ろしく鋭敏だ。

 弾丸一つ一つを、デスサイスで切り裂いて弾いていく。

 直線的な動きだから対処はたやすい。

 それができるだけの能力も、今の私にはある。

 

 十数秒の弾幕の痕、私は五体満足で立っていた。

 当然、傷なんて一つも負っておいない。

 

「ば、化け物……」

「もう一度だけ聞くね。絵画は、どこ」

 

 周りの人たちは急いで弾薬を再装填しようとしている。

 そんなことは、させない。

 瞬時に銃そのものを切り裂いて使い物にならなくさせる。

 

「はっ……?」

 

 警備兵さんたちが言葉を失い立ち尽くす。

 強化ガラスを切り裂いた刃だよ? その程度の銃、切り裂けないとでも思った?

 数多くの強化扉も切り裂いてきた。

 デスサイスは、パパが作り出した、私のためだけの兵器なんだから。

 そんじょそこらの量産兵器に、負けるはずがない。

 

「デスサイス」

『認証ステータス、フルオープン』

 

 羽の刃が最低限の枚数を残し、私の手元に集まってくる。

 それらは漆黒の鎌の形を模した。

 そっと、柄を握る。

 

「く、黒鎌の魔女……」

「もう、聞かないよ」

 

 もう一度だけ。さっき、そういったから。

 これ以上は、会話をしない。

 ここからするのは、実力行使だけだ。

 

「ま、待て! シュリワエッチの絵画だろう! あんな安物くれてやる!」

 

 一歩、近づく。

 

「他にも金目のものをやる! どうだ、宝石の首飾りだ! お前ほどの年頃ならおしゃれに気があるんじゃないか?」

 

 もう一歩、近づく。

 

「やっぱり現金か? 金なんだな? 幾らだってくれてやる!」

 

 さらに、もう一歩。

 

「いや、むしろお前が私の護衛となれ! それだけの能力があるんだ、言い値で払ってやる!」

「もう、何も言わなくていいよ」

 

 最終宣告はとっくに終わってる。

 なら、何を言われても応答するつもりはない。

 それが、覚悟を決めるということだから。

 

「嫌だ、嫌だ、死にたくない、許してくれぇ!」

 

 殺しはしないよ。邪魔にならないように、動けなくするだけ。

 私は手にした大鎌を振り被り、資産家の足めがけて振りぬ――こうとした。

 

「……間に合っ、たぁ」

「――アークライト」

 

 光で作られたかのようなレイピアを携え、私の黒鎌を受け止めている。

 ……前にはそんな武装はなかった。

 マギデバイスが進化している?

 

 パパが言っていたことを思い出す。

 リバースエンジニアリング。つまり、前回の接敵でさらに学習されたということだ。

 性能は前とは段違いに上がっているのが分かる。

 

「また、あなたなの」

「黒鎌の魔女、いいや、あなたの名前を教えて」

「……どいて、アークライト」

「そう! 私は魔法少女アークライト!」

 

 高らかに宣言しながら、彼女は私の鎌をはじき返してくる。

 その眼はどこまでも真っすぐで、澄み渡っている。

 まるで――何も後ろめたいことなんてないと言わんばかりに。

 私とは、対称的に。

 

「閃光の魔法少女アークライト! あなたを止めに来たよ!」

「どうして、ここに」

「幾つかの候補地があって、待機してたの! 何かあったら駆け付けられるように!」

 

 威風堂々と立ちふさがるのは、相も変わらず正直者の魔法少女。

 ああ、本当に疎ましい。

 そんなに私たちの前に立ちふさがりたいのなら。

 

 存分に、私たちの力を思い知らせてあげる。

 二度と立ち向かう気が起きない程、骨の髄にまで。

 叩き込んであげるから。

 

「デスサイス、本起動」

『起動コマンド確認。デスサイス、本起動します』

 

 禍々しいオーラを放ちながら、私の黒鎌はうねり声を上げる。

 

「後悔しないでね。私の前に立ったことを」

「絶対に、後悔なんてしない! 私も、あなたにもさせないんだから!」

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