最初は敵として出てくるタイプの魔法少女 作:てんぷらのちぎり
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふぅ」
ゆっくりと呼吸をして、気持ちを落ち着ける。
大丈夫。何も考える必要はない。
今日も今日とて、お父さんの指示通りにすればいいだけなんだから。
「スタンバイ。準備できたよ、パパ」
『わかった。時間が来たら合図を出す、それまで待て』
マギデバイス越しの通信でやり取りをする。
今日はとある資産家の家に飾られている絵画が目的。
そこには、パパ曰く隠された宝の所在が印されているみたい。
だから、その絵を手に入れる必要がある。簡単な話。
全てはママのため。そして、パパに戻ってきてもらうため。
そう、呼吸を整えながら言い聞かせる。
罪悪感に、押しつぶされないためにも。
頭の中に浮かぶのは、天ケ瀬さんの顔。
明るく、元気で……黒鎌の魔女の事を、悪い子でないと思ってくれていた。
それはとても嬉しくて、同時にとてつもなく苦しい。
悪い子だと、悪魔だと、産まれるべきでなかったと、全員に言われるだけで楽になれるのに。割り切れるのに。
そう、楽になりたい自分となりたくない自分が交差している。
だって、私がいなくなったらパパはどうなるの?
誰がパパを救ってくれるの?
誰も救ってくれはしない。むしろ、パパを苦しめる人は増え続ける。
私が守らないと。パパを、家族を。それが、残された私の役目なんだから。
どんなに辛くても、どんなに苦しくても、どんなにどんなにどんなに――。
『定刻だ。準備はいいな』
「――っ! もちろんだよ、パパ」
パパの声で、現実へ意識を戻す。
そうだ、私の考えなんてどうでもいい。
全てはママを蘇らせるためなんだから。
そのための手段は、悪だって構わない。
最初から、そのつもりだったでしょう? ねぇ、枢木結奈。
「魔装起動、『デスサイス』。――ミッション、スタート」
いつも通りの口上を形にして、意識を切り替える。
ほら、そうすれば、世界はこんなにもクリアになる。
今回の目標は遥か上空、高層マンションの上層階。
内部を走っていけば無駄な争いは免れない。
だから――外を飛ぶ。
冷たい空気が肌を撫でる。
高く高く飛ぶほどに、風が強くなり私を吹き落とそうとする。
ああ、自然さえも、私たちの敵なんだ。
「――ああ、問題ない。準備は万全だからな」
強化感覚で研ぎ澄まされた聴覚が、目標の資産家の声を拾う。
もう四十階を越えるだろうか。そろそろ、突入の準備を整える。
「なあに、撃退したらまた連絡を――」
椅子に腰かけ、誰かに電話をしている資産家と窓越しに視線が合った。
初めまして。知らない人。
心の中で、そっと呟く。
「デスサイス」
刃の羽が二対舞う。
高層階の分厚いガラスが、まるで熱したバターのように軽々と切れて、暴風によって建物の内側へと倒れ込んだ。
風に誘われるままに、私も建物の中へと入り、そっと地面に足をつける。
「こんばんは。シュリワエッチの絵画はどこ?」
「お、お前が黒鎌の魔女か!」
「質問に、答えて」
見渡した限り、この部屋の中にはなさそうだ。
どこかへ隠した? 事前に情報が漏れていた?
いや、私とパパしか知らないんだから、情報が洩れるなんてありえない。
なら、予測されていた?
誰に、どうやって。
「護衛ども! さっさとこいつをハチの巣にしてしまえ!」
「あっ」
考えているうちに、資産家は扉の方へと逃げてしまっていた。
同時に、備え付けられていた警報音が鳴り響く。
ああ、ここでもこの音を聞くのか。
警報音を聞きつけてやってきたのは、銃を手に持った警備兵みたいな人達。
傭兵? 兵士の人たちが持ってそうな、細長い銃を持っている。
「……日本ではいつから銃の携帯が許されるようになったの?」
「武装している魔女がそれを言うか!」
それもそうだ。
マギデバイスは法律に引っ掛かるのかな?
パパの事だから……いや、今のパパなら気になんてしないか。
昔のパパなら、そんなことはしなかったのに。
「まあ、いいや。絵画の場所を教えて。そうすれば、見逃して上げるから」
「誰が貴様なんぞに私のコレクションをくれてやるか、小娘めが」
穏便に交渉しようと思ったけれど、やっぱり無理か。
わかってた。
だから、ここからはいつも通り、実力行使させてもらう。
両翼を広げ、戦闘状態を開始する。
同時に、銃撃が繰り広げられ、数多の弾丸がこちらへと飛んでくる。
全てが見える。マギデバイスによる身体強化は恐ろしく鋭敏だ。
弾丸一つ一つを、デスサイスで切り裂いて弾いていく。
直線的な動きだから対処はたやすい。
それができるだけの能力も、今の私にはある。
十数秒の弾幕の痕、私は五体満足で立っていた。
当然、傷なんて一つも負っておいない。
「ば、化け物……」
「もう一度だけ聞くね。絵画は、どこ」
周りの人たちは急いで弾薬を再装填しようとしている。
そんなことは、させない。
瞬時に銃そのものを切り裂いて使い物にならなくさせる。
「はっ……?」
警備兵さんたちが言葉を失い立ち尽くす。
強化ガラスを切り裂いた刃だよ? その程度の銃、切り裂けないとでも思った?
数多くの強化扉も切り裂いてきた。
デスサイスは、パパが作り出した、私のためだけの兵器なんだから。
そんじょそこらの量産兵器に、負けるはずがない。
「デスサイス」
『認証ステータス、フルオープン』
羽の刃が最低限の枚数を残し、私の手元に集まってくる。
それらは漆黒の鎌の形を模した。
そっと、柄を握る。
「く、黒鎌の魔女……」
「もう、聞かないよ」
もう一度だけ。さっき、そういったから。
これ以上は、会話をしない。
ここからするのは、実力行使だけだ。
「ま、待て! シュリワエッチの絵画だろう! あんな安物くれてやる!」
一歩、近づく。
「他にも金目のものをやる! どうだ、宝石の首飾りだ! お前ほどの年頃ならおしゃれに気があるんじゃないか?」
もう一歩、近づく。
「やっぱり現金か? 金なんだな? 幾らだってくれてやる!」
さらに、もう一歩。
「いや、むしろお前が私の護衛となれ! それだけの能力があるんだ、言い値で払ってやる!」
「もう、何も言わなくていいよ」
最終宣告はとっくに終わってる。
なら、何を言われても応答するつもりはない。
それが、覚悟を決めるということだから。
「嫌だ、嫌だ、死にたくない、許してくれぇ!」
殺しはしないよ。邪魔にならないように、動けなくするだけ。
私は手にした大鎌を振り被り、資産家の足めがけて振りぬ――こうとした。
「……間に合っ、たぁ」
「――アークライト」
光で作られたかのようなレイピアを携え、私の黒鎌を受け止めている。
……前にはそんな武装はなかった。
マギデバイスが進化している?
パパが言っていたことを思い出す。
リバースエンジニアリング。つまり、前回の接敵でさらに学習されたということだ。
性能は前とは段違いに上がっているのが分かる。
「また、あなたなの」
「黒鎌の魔女、いいや、あなたの名前を教えて」
「……どいて、アークライト」
「そう! 私は魔法少女アークライト!」
高らかに宣言しながら、彼女は私の鎌をはじき返してくる。
その眼はどこまでも真っすぐで、澄み渡っている。
まるで――何も後ろめたいことなんてないと言わんばかりに。
私とは、対称的に。
「閃光の魔法少女アークライト! あなたを止めに来たよ!」
「どうして、ここに」
「幾つかの候補地があって、待機してたの! 何かあったら駆け付けられるように!」
威風堂々と立ちふさがるのは、相も変わらず正直者の魔法少女。
ああ、本当に疎ましい。
そんなに私たちの前に立ちふさがりたいのなら。
存分に、私たちの力を思い知らせてあげる。
二度と立ち向かう気が起きない程、骨の髄にまで。
叩き込んであげるから。
「デスサイス、本起動」
『起動コマンド確認。デスサイス、本起動します』
禍々しいオーラを放ちながら、私の黒鎌はうねり声を上げる。
「後悔しないでね。私の前に立ったことを」
「絶対に、後悔なんてしない! 私も、あなたにもさせないんだから!」