最初は敵として出てくるタイプの魔法少女   作:てんぷらのちぎり

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六話目 知らぬが花とはよく言われるが

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「ゆーいなちゃん!」

「ひっ!」

 

 学校でまた天ケ瀬さんに話しかけられた。

 ここ数日、連続でだけれど。なんでだろう。

 私、天ケ瀬さんに何かしちゃったっけ。

 

「ちょ、そんなに驚くことないでしょ~」

「い、いや。ちょっと、いきなり大きな声で話しかけられるとびっくりする、から」

 

 大きな声で話しかけられる時と言えば、パパの機嫌が悪い時だ。

 だから、体が反射で強張ってしまう。

 パパの機嫌が悪いと、大体殴られるか首を絞められるか。痛い思いをするから。

 つい、癖が出てしまっている。

 

「ごめんね」

「ううん、私こそ。次からは声の大きさ気を付けるね」

 

 謝ると、天ケ瀬さんも申し訳なさそうな顔をする。

 ああ、やっぱり私は駄目だな。せっかく話しかけてくれたのに。

 

「あ、あの」

「ん、なあに?」

「天ケ瀬さんに、聞きたいことがあって」

 

 天ケ瀬さんはこてりと不思議そうに首をかしげる。

 こういう仕草もわざとらしさがなくて、凄く可愛らしい。

 私には、絶対に真似できないなと思う。

 嫌味もなくて、とても自然なんだもの。

 

「どうして、私に話かけてくれるの?」

 

 しかも、ここ数日毎日。

 他にも天ケ瀬さんと喋りたい子はいっぱいいるはずなのに。

 その子たちよりも私を優先してくれているように思える。

 

「んー、そうだなぁ」

 

 なんて言おうか迷っている、というよりも言葉を選んでいる感じの間だった。

 

「結奈ちゃんが、何か悩んでそうだったから、かな」

「悩んでそう……?」

「うん。ここ数日、ずっと」

 

 確かにここ数日はずっと考え事をしていたけれど。

 何せ、絵画を手に入れてもすぐに目標の物の場所がわからず、パパでも解読に時間がかかるみたいだから。

 空き時間が生まれてしまったのだ。何もできることがない。

 パパには、研究所には来るなと言われてしまったし。

 次の指示が来るまでは、本当にやることがない。

 

 そうなると、色々と考えてしまうわけで。

 

「私で良ければ、話を聞くよ? もちろん、無理にとは言わないけれど。話して楽になることってあると思うから」

「……ありがとう」

 

 天ケ瀬さんは、やっぱり他人思いのいい子だ。

 そんな子が踏み込んでくるぐらい、私は酷い顔色をしてたんだろうか。

 だって、前は引き下がってくれたもんね。

 

「でも、ううん、大丈夫だから」

「本当に? 先生にも、誰にも言わないって約束するよ。本当に」

 

 天ケ瀬さんなら本当に喋ることはないと思う。

 でも、話せるわけないよ。

 噂になっている黒鎌の魔女が私のことで、そのことで悩んでいるだなんて。

 話しても、軽蔑されるだけだ。

 

 人を倒して、物を奪って。

 挙句の果てに、正義の味方に八つ当たりをした。

 わかってる。間違っているのは私で、正義の味方がアークライトだって。

 盗人だとか、そういうのは感情論で。

 外から見た時、悪人はどうしても私たちの方なんだから。

 

「……なんていうかね。最近放っておけない子がいるんだ」

「うん?」

 

 天ケ瀬さんが、急に話を変えてきた。

 放っておけない子って、私の事じゃないよね。

 話の流れ的に。

 

「その子はとても悲しい目をしていて、やりたくないことをさせられてるみたいなんだ」

「そうなんだ」

「うん、どうにかその子の力になってあげたいんだけれど。その子にも事情があるみたいで」

 

 中々難しくって、と気まずそうに笑う。

 天ケ瀬さんはいい人だから、放っておけないんだね。

 

「天ケ瀬さんは、優しい人なんだね」

「そんなんじゃないよ。私はただ、自分勝手なだけ」

 

 でも、その自分勝手で他人を救おうとしてるんだから。

 やっぱり、立派な人だ。

 

「不思議だよね。その子と結奈ちゃんが重なるんだ」

「……私と?」

「うん。放っておいたら、壊れてしまいそうな気がして」

 

 壊れてしまいそうな。

 胸の奥が痛くなる。

 まだ私は壊れていないのだろうか。とっくに壊れているのだろうか。

 パパの言う通りにして、ママさえ戻ってくれば元通りになると信じているけれど。

 パパが壊れているのか、それとも私が壊れているのか。

 そんなのは、誰にもわからない。

 

「ごめんね、失礼な事言ったね」

「ううん、大丈夫だから。気にしないで」

 

 少し暗くなってしまったからか、天ケ瀬さんは更にこちらの顔色を伺うような感じになってしまっている。

 どうしよう。

 どうにかして、この場を無事にやり過ごす方法はないかな。

 

「そうだ! いいこと思いついた!」

「え?」

 

 パンっ、と手を叩いて。

 天ケ瀬さんは明るい顔で、悪戯気味な笑みを浮かべる。

 

「ふふふ、結奈ちゃん。今日って学校の後暇?」

「ひ、暇だけれど」

 

 ぐいっと顔を寄せてくる天ケ瀬さんの迫力に負けて、つい答えてしまう。

 

 黒鎌の魔女としての活動がない時は、基本的にやることがない。

 パパの指示がいつ飛んでくるかわからないし。

 だから、暇と言えば暇なのだけれど。用事があると言えば用事はある。

 

「ならさならさ! 今日の放課後遊びに行かない? 二人で!」

「え?」

 

 遊びに? 私と?

 

「うん! きっと、パーっと遊べば悩みも少しは良くなるよ!」

「そ、そうかな?」

「一人で悩んでいても、ふさぎ込んじゃってどうしようもないんだから!」

 

 そんな時には遊びに行くに限るよ! と天ケ瀬さんは言う。

 周りの注目を集めるのも気にしないで。

 

「なになに~。小春遊びに行くの~」

 

 うちらも一緒に行きたーい。なんて言いながら、クラスの別の女子たちがやってくる。

 天ケ瀬さんは本当に人気者だなぁ。

 

「ふっふっふ。残念ながら、今日は結奈ちゃんと二人っきりでデートなのだ!」

「ちぇー。デートならしょうがないかぁ。楽しんできてねー」

「また今度遊びに行こうねー!」

「約束だからねー」

 

 す、すごい。

 凄い勢いで既成事実が作られている。

 もう、遊びになんていけないなんて言えない雰囲気だ。

 

「枢木さんも、小春に変な事されたら後でうちらに言いなよね」

「デートと称して裏路地とかに連れてくなよ~」

「変な事なんかしないよ! もう!」

「どうだか。耳年増なところあるからな小春ぅ~」

 

 わ、わ。

 親し気に話しかけられて、何て返せばいいのかわからない。

 これまであんまり喋ったことないのに、こんなにフレンドリーに接されて。

 これが、普通なのかな?

 

「もう! それで、結奈ちゃん。遊びに行くの? 大丈夫?」

 

 無理だったら遠慮なく言ってね。

 なんて言われて。

 

 一瞬だけ、どうしよう。って迷ってしまった。

 冷静に考えれば、パパの指示が飛んでくるかもしれないんだから、断るべきだ。

 私がパパの特別でいられてるのは、ママの蘇生のために私が必要だからで。

 その役割を一回でも拒否したらどう思われるかわからない。

 

 いや、パパなら絶対別の子を見つけてくる。

 もう、私には見向きもしてくれないかもしれない。

 それは、恐ろしい。

 

「……大丈夫!」

「天ケ瀬、さん?」

 

 勢いよく、天ケ瀬さんが私の手を両手で覆うように掴んできた。

 温かい手のぬくもりが、直接伝わってくる。

 

「絶対に楽しい時間にしてみせるから!」

「で、でも」

「お願い! それとも、私と遊びに行くのは嫌?」

 

 うっ……。

 天ケ瀬さんの純粋な瞳で見つめられると、こちらが悪い気がしてくるから本当に不思議だ。

 

 ……この目を見ていると、アークライトを思い出す。

 彼女ものこのぐらい真っすぐな瞳をしていた。

 天ケ瀬さんも、アークライトも、正しいのは向こう側だ。

 そして、間違っているのは私側。

 そんなことは、わかっているのに。

 

「ごめ――」

 

 謝罪の言葉を口にしようとして、電話が鳴る。

 私のだ。

 

「ごめん、ちょっと出るね?」

 

 いったん断って、電話に出る。非通知でかかってくる。

 これは、パパからの電話だ。

 

『用件だけ手短に伝える。適当に相槌をうて』

「うん」

『解読だが、時間がまだかかる。一週間の間は自由にしろ、以上だ』

「わかった。またね」

 

 パパ、という単語は出さない。

 ここは聞いている人が多すぎるから。

 短いやり取りだったけれど、胸の奥が温かくなる。

 パパはまだ私の事を気にしてくれている。その事実が、たまらなく嬉しい。

 

「……何か、用事がある電話だった?」

「ううん、むしろ――」

 

 あっ。

 上機嫌になって、口を滑らせてしまった。

 

「むしろ?」

 

 天ケ瀬さんはきちんと追求してくる。

 これは……。

 

「……むしろ、しばらく用事はないっていう電話だったよ」

 

 嘘を吐こうかどうか一瞬だけ迷って、正直に答えることにした。

 天ケ瀬さんの表情が、ぱぁっと明るくなる。

 

「じゃあ、今日遊びに行ける?」

「……うん」

「やったぁ! デートだデート!」

 

 断る理由が、なくなってしまった。

 遊びに行く、だなんて。

 お母さんが、生きてた頃以来かもしれない。

 

 喜んでる天ケ瀬さん。祝福する周囲のクラスメイトの子たち。

 私だけが、少しだけ暗い気持ちを抱えていた。

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