最初は敵として出てくるタイプの魔法少女 作:てんぷらのちぎり
本当に流れで、流れで遊びに行くことになってしまった。
しかも、天ケ瀬さんと二人っきりで。
「ほらほら~! こっちこっち!」
「ま、待ってよ~」
学校からの帰りということで、今日は帰り道を少し外れて、ショッピングモールへ遊びに行くことになった。
お金は、持ってるけれど。
パパから日常生活に不自由がないように、お金は貰ってる。
研究の副産物とか、特許? 使用料とかでお金はいっぱい余ってるみたい。
それでも、使おうって気にはならないけれど。
だって、パパの研究が一番大事だもの。私が使って、足りないなんてことになったら嫌だなぁって。
早くママに会いたい……。
「……ねぇ、やっぱり迷惑だった?」
「わあっ!」
俯いていたら、下からにゅっと覗き込むように天ケ瀬さんの顔が、すぐ目の前に。
流石にびっくりした。
「さっきから暗い顔ばっかりしてるんだもの」
「う、ううん。ごめんね、ちょっと考え事してて……」
「それって、学校で聞いてた電話のことで?」
うっ、鋭い。
正確には違うんだけれど、パパについてというところは合ってる。
……私としても、早くこんな日々は終わらせて、家族で温かい時間を過ごしたいよ。
そう、信じたい。終われば、全部幸せになれるんだって。
遊んでると、それが遠ざかる気がして。
「ねぇ、結奈ちゃん」
「……なあに、天ケ瀬さん」
「結奈ちゃんは、私の事嫌い?」
これまた、びっくりした。
だって、天ケ瀬さんの表情は、晴れ渡るような笑顔なんだもの。
申し訳なさそうでも、嫌いって言われるのが怖いって顔でもない。
「――ううん、嫌いじゃないよ」
「うん、知ってる」
凄いやり取りだな。と思った。
それとも、私が知らないだけでこういうのが流行っているんだろうか。
「だって、結奈ちゃんは苦手な人には凄い敏感に反応するもの。知ってた?」
「……そうなの?」
「うん。大声を出す人とか、すぐに手を出してくる怖い人とか、苦手だよね」
――これまた、びっくりした。
学校で、嫌だなと思ってる人の特徴が、まさしくそうだから。
「それで、苦手な人に対しては、凄く冷たい目をするの。気づいてた?」
首を静かに横に振る。
気が付かなかった。
そんな風に、私してたんだ。
「……そういうところが、重なるんだよなぁ」
寂しそうに呟いた言葉は、確かに私の耳に届いた。
重なるって、誰と?
結奈ちゃんはとても寂しそうな表情をしている。
だから、きっと大切な人なんだと思う。
「ねぇ、全部忘れちゃわない?」
「え?」
「今、この時だけは。他の事を全部忘れて、私だけを見て」
そう言いながら、天ケ瀬さんは手を差し伸べてくる。
この手を取ってほしい。そう、切な願いを載せているようで。
「絶対に結奈ちゃんを楽しませて見せる。笑顔にして見せる。だから、今日、今、この時間だけは。私だけを見てほしいな」
真っすぐに見つめてくるその瞳に、嘘や冗談の色はどこにもなくて。
どちらかというと、本当に、断られたら壊れてしまいそうなほど。
切望している、と感じた。
どうして?
どうして、私なんかに天ケ瀬さんはそこまで執着するのだろう。
そんなに大事な人がいるの? 私に誰を重ねているの?
わからない。
だって、私には大事な人はパパしかいないから。
天ケ瀬さんは、羨ましくは思うけれど。ただのクラスメイトで。
本格的に話し始めたのだって、最近なのに。
「……やっぱり、駄目、かな」
――その悲しそうな表情を見て、酷く罪悪感を覚える。
ああ、やっぱり。
でも、私なら。
そう、できる。私がここで頷いて、何もかもを忘れて楽しめば。
天ケ瀬さんは、それで満足できる。
私はなんて自分勝手な人間なんだろう。
天ケ瀬さんの気持ちも考えないで、ずっと自分の事ばかり考えてる。
なんて卑怯な人間なんだろう。気持ちの一つも打ち明けないで。
言わないと、私の気持ちを
「――ううん、そんなことないよ」
言いながら、天ケ瀬さんの手を握る。
びっくりしたように、彼女の目が大きく開かれた。
「誘ってくれて、嬉しかった。これは、本当」
いつも明るい天ケ瀬さんを見て、いつも羨ましかった。
私もああなれたらなって、ずっと思ってた。
その理由は、パパのためだけじゃない。
私自身、変わりたいんだ。
「ねぇ、何もかも忘れて遊んだとして、バチが当たるような気がしたの」
「――もしもバチが当たるのなら、その時には一緒に受けてあげるよ」
ぎゅっと、強く手を握り返される。
もう離さないと言われているようだった。
「だから、遊ぼう。今日は思いっきり、何もかもを忘れて」
「――うん!」
ショッピングモールの真ん中で、周りの視線も気にせずに、私たちは手を繋いで歩きだした。
本当に、何も考えず。
今だけは、目の前の子だけを考えて。
ひたすらにおしゃべりしたり、スイーツを食べたり、カラオケをしてみたり。
プリクラなんかも撮ってみたりして。
本当に、楽しい時間が過ぎ去っていった。
ああ、本当に。
こんな時間が、いつまでも続けばいいのにと思ってしまったほど。
罪深い、私でさえも。
また、こんな風に遊べる時が来るといいな。
心の底から、そう願えるほどに。
楽しい、時間でした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――
「……すみません、主任。ぼーっとしてました」
ここは特別犯罪対策用研究所。その本部の一室で、俺はマギデバイス研究主任と一対一で話をしていた。
「お前らしくもない。いや、気持ちは分かるがな」
「……」
マギデバイスを使った犯罪行為。通称、黒鎌の魔女事件について対抗策を研究している俺らだが、ついにその主犯と思われる人物を特定するに至った。
しかし、あくまでも疑いでしかない。
確たる証拠は何一つないし、黒鎌の魔女が漏らしたパパという言葉を頼りに推測しただけ。
つまり、何の意味もない憶測とすら言える。
その憶測ですら、俺の意識を一瞬宙に飛ばすのには十分すぎる情報だった。
「今回の件を天ケ瀬小春さん――アークライト本人に伝えるかどうかは、お前に一任する」
「……ありがとうございます」
これは主任からの慈悲だろう。
もしもこの情報を耳にしたとして、一番傷つくのはきっと小春だ。
「確固たる証拠があればよいのだがな」
「もしも彼だとして、そんなものを残す男だとお思いですか?」
「ありえん。だが、だからこそ彼しかいない」
証拠がないことが証拠となりえる男。
かつて、日本の研究会を一人で牽引し、世界にも名をとどろかせた大発明家。
間違いなく歴史に名を残したであろう男でありながら、最愛の妻を亡くし狂った男。
――枢木
我々はほぼ確信している。
そして、黒鎌の魔女というのは枢木櫃間の娘――枢木結奈である可能性が非常に高いことも。
「学校の友人が、まさかこのような凄惨な事件を起こしているとは……。我々では、想像もできん」
「だから、話すタイミングぐらいは、俺に決めさせてもらえるってことですよね」
静かに頷かれる。
もしも、このことを聞いて小春はどう思うだろうか。
悲しむだろうか。友人の思いを察知して、泣くだろうか。
それとも、止めなければと一掃奮起するだろうか。
……きっと、表では止めなければと動くが、気づけなかった自分自身を強く責めるだろう。
兄として、妹にそんな悲しい選択はさせたくない。
「主任。確認なのですが、枢木櫃間本人を捕まえられれば、問題ないんですよね」
「ああ。あくまでも枢木結奈の方は手先だろう。あの年頃の子に、そこまで判断能力があるとは思えない」
父親の都合で好き勝手に使われる娘。
そんなことが許されていいのか。
俺はいいとは思えない。
「絶対に、見つけてみせます」
「ああ、頼んだぞ、良助」
どうか、小春には知られないで済むように。
俺は、俺の最善を尽くそう。