最初は敵として出てくるタイプの魔法少女   作:てんぷらのちぎり

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七話目 深まれば深まるほど悪くなるは傷

 本当に流れで、流れで遊びに行くことになってしまった。

 しかも、天ケ瀬さんと二人っきりで。

 

「ほらほら~! こっちこっち!」

「ま、待ってよ~」

 

 学校からの帰りということで、今日は帰り道を少し外れて、ショッピングモールへ遊びに行くことになった。

 お金は、持ってるけれど。

 パパから日常生活に不自由がないように、お金は貰ってる。

 研究の副産物とか、特許? 使用料とかでお金はいっぱい余ってるみたい。

 

 それでも、使おうって気にはならないけれど。

 だって、パパの研究が一番大事だもの。私が使って、足りないなんてことになったら嫌だなぁって。

 早くママに会いたい……。

 

「……ねぇ、やっぱり迷惑だった?」

「わあっ!」

 

 俯いていたら、下からにゅっと覗き込むように天ケ瀬さんの顔が、すぐ目の前に。

 流石にびっくりした。

 

「さっきから暗い顔ばっかりしてるんだもの」

「う、ううん。ごめんね、ちょっと考え事してて……」

「それって、学校で聞いてた電話のことで?」

 

 うっ、鋭い。

 正確には違うんだけれど、パパについてというところは合ってる。

 ……私としても、早くこんな日々は終わらせて、家族で温かい時間を過ごしたいよ。

 

 そう、信じたい。終われば、全部幸せになれるんだって。

 遊んでると、それが遠ざかる気がして。

 

「ねぇ、結奈ちゃん」

「……なあに、天ケ瀬さん」

「結奈ちゃんは、私の事嫌い?」

 

 これまた、びっくりした。

 だって、天ケ瀬さんの表情は、晴れ渡るような笑顔なんだもの。

 申し訳なさそうでも、嫌いって言われるのが怖いって顔でもない。

 

「――ううん、嫌いじゃないよ」

「うん、知ってる」

 

 凄いやり取りだな。と思った。

 それとも、私が知らないだけでこういうのが流行っているんだろうか。

 

「だって、結奈ちゃんは苦手な人には凄い敏感に反応するもの。知ってた?」

「……そうなの?」

「うん。大声を出す人とか、すぐに手を出してくる怖い人とか、苦手だよね」

 

 ――これまた、びっくりした。

 学校で、嫌だなと思ってる人の特徴が、まさしくそうだから。

 

「それで、苦手な人に対しては、凄く冷たい目をするの。気づいてた?」

 

 首を静かに横に振る。

 気が付かなかった。

 そんな風に、私してたんだ。

 

「……そういうところが、重なるんだよなぁ」

 

 寂しそうに呟いた言葉は、確かに私の耳に届いた。

 重なるって、誰と?

 結奈ちゃんはとても寂しそうな表情をしている。

 だから、きっと大切な人なんだと思う。

 

「ねぇ、全部忘れちゃわない?」

「え?」

「今、この時だけは。他の事を全部忘れて、私だけを見て」

 

 そう言いながら、天ケ瀬さんは手を差し伸べてくる。

 この手を取ってほしい。そう、切な願いを載せているようで。

 

「絶対に結奈ちゃんを楽しませて見せる。笑顔にして見せる。だから、今日、今、この時間だけは。私だけを見てほしいな」

 

 真っすぐに見つめてくるその瞳に、嘘や冗談の色はどこにもなくて。

 どちらかというと、本当に、断られたら壊れてしまいそうなほど。

 切望している、と感じた。

 

 どうして?

 どうして、私なんかに天ケ瀬さんはそこまで執着するのだろう。

 そんなに大事な人がいるの? 私に誰を重ねているの?

 わからない。

 

 だって、私には大事な人はパパしかいないから。

 天ケ瀬さんは、羨ましくは思うけれど。ただのクラスメイトで。

 本格的に話し始めたのだって、最近なのに。

 

「……やっぱり、駄目、かな」

 

 ――その悲しそうな表情を見て、酷く罪悪感を覚える。

 ああ、やっぱり。

 でも、私なら。

 そう、できる。私がここで頷いて、何もかもを忘れて楽しめば。

 天ケ瀬さんは、それで満足できる。

 

 私はなんて自分勝手な人間なんだろう。

 天ケ瀬さんの気持ちも考えないで、ずっと自分の事ばかり考えてる。

 なんて卑怯な人間なんだろう。気持ちの一つも打ち明けないで。

 言わないと、私の気持ちを

 

「――ううん、そんなことないよ」

 

 言いながら、天ケ瀬さんの手を握る。

 びっくりしたように、彼女の目が大きく開かれた。

 

「誘ってくれて、嬉しかった。これは、本当」

 

 いつも明るい天ケ瀬さんを見て、いつも羨ましかった。

 私もああなれたらなって、ずっと思ってた。

 その理由は、パパのためだけじゃない。

 私自身、変わりたいんだ。

 

「ねぇ、何もかも忘れて遊んだとして、バチが当たるような気がしたの」

「――もしもバチが当たるのなら、その時には一緒に受けてあげるよ」

 

 ぎゅっと、強く手を握り返される。

 もう離さないと言われているようだった。

 

「だから、遊ぼう。今日は思いっきり、何もかもを忘れて」

「――うん!」

 

 ショッピングモールの真ん中で、周りの視線も気にせずに、私たちは手を繋いで歩きだした。

 本当に、何も考えず。

 今だけは、目の前の子だけを考えて。

 ひたすらにおしゃべりしたり、スイーツを食べたり、カラオケをしてみたり。

 プリクラなんかも撮ってみたりして。

 

 本当に、楽しい時間が過ぎ去っていった。

 ああ、本当に。

 こんな時間が、いつまでも続けばいいのにと思ってしまったほど。

 罪深い、私でさえも。

 

 また、こんな風に遊べる時が来るといいな。

 心の底から、そう願えるほどに。

 楽しい、時間でした。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「――良助(りょうすけ)。おい、聞いているのか天ケ瀬良助」

「……すみません、主任。ぼーっとしてました」

 

 ここは特別犯罪対策用研究所。その本部の一室で、俺はマギデバイス研究主任と一対一で話をしていた。

 

「お前らしくもない。いや、気持ちは分かるがな」

「……」

 

 マギデバイスを使った犯罪行為。通称、黒鎌の魔女事件について対抗策を研究している俺らだが、ついにその主犯と思われる人物を特定するに至った。

 しかし、あくまでも疑いでしかない。

 確たる証拠は何一つないし、黒鎌の魔女が漏らしたパパという言葉を頼りに推測しただけ。

 つまり、何の意味もない憶測とすら言える。

 

 その憶測ですら、俺の意識を一瞬宙に飛ばすのには十分すぎる情報だった。

 

「今回の件を天ケ瀬小春さん――アークライト本人に伝えるかどうかは、お前に一任する」

「……ありがとうございます」

 

 これは主任からの慈悲だろう。

 もしもこの情報を耳にしたとして、一番傷つくのはきっと小春だ。

 

「確固たる証拠があればよいのだがな」

「もしも彼だとして、そんなものを残す男だとお思いですか?」

「ありえん。だが、だからこそ彼しかいない」

 

 証拠がないことが証拠となりえる男。

 かつて、日本の研究会を一人で牽引し、世界にも名をとどろかせた大発明家。

 間違いなく歴史に名を残したであろう男でありながら、最愛の妻を亡くし狂った男。

 

 ――枢木櫃間(ひつま)。その男が、今回のマギデバイスを用いた黒鎌の魔女事件の主犯であると。

 我々はほぼ確信している。

 そして、黒鎌の魔女というのは枢木櫃間の娘――枢木結奈である可能性が非常に高いことも。

 

「学校の友人が、まさかこのような凄惨な事件を起こしているとは……。我々では、想像もできん」

「だから、話すタイミングぐらいは、俺に決めさせてもらえるってことですよね」

 

 静かに頷かれる。

 もしも、このことを聞いて小春はどう思うだろうか。

 悲しむだろうか。友人の思いを察知して、泣くだろうか。

 それとも、止めなければと一掃奮起するだろうか。

 

 ……きっと、表では止めなければと動くが、気づけなかった自分自身を強く責めるだろう。

 兄として、妹にそんな悲しい選択はさせたくない。

 

「主任。確認なのですが、枢木櫃間本人を捕まえられれば、問題ないんですよね」

「ああ。あくまでも枢木結奈の方は手先だろう。あの年頃の子に、そこまで判断能力があるとは思えない」

 

 父親の都合で好き勝手に使われる娘。

 そんなことが許されていいのか。

 俺はいいとは思えない。

 

「絶対に、見つけてみせます」

「ああ、頼んだぞ、良助」

 

 どうか、小春には知られないで済むように。

 俺は、俺の最善を尽くそう。

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