最初は敵として出てくるタイプの魔法少女   作:てんぷらのちぎり

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八話目 無知は甘美で避けがたい罪

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「あぁ~、楽しかった!」

 

 途中からは結奈ちゃんも楽しそうにしてくれて、とっても満足している。

 今は、そんな帰り道。結奈ちゃんとは道が違うから、既に別れている。

 

「最初はどうなるかと思ったけれど、結奈ちゃんもちゃんと楽しんでくれてたみたいだし!」

 

 個人的には百点満点を上げても良いでしょう!

 それに、これをきっかけにどんどん仲良くなっていきたいな。

 

 結奈ちゃん。お父さんとの関係が良くないのか、時々傷を作って学校に来るんだよね。

 本人は何もなさそうに振舞っているけれど。

 きっと、あれは……。

 

 だからと言って、本人は家族の話をするのは嫌がるから、触れないようにしているわけで。

 本当は、手を取って助けてあげたい。

 でも、本人はそれを望んでなさそうだから……うぅ~、もどかしいよ~。

 

「黒鎌の魔女ちゃんと、よく似てるんだよなぁ」

 

 あの子も、きっとあんな悪いことはしたくないんだと思う。

 けれど、しなきゃいけない理由があって、させられてる。

 

『私とパパの事を何も知らないくせに――っ!』

 

 耳の奥には、まだあの絶叫が残っている。

 あの子も、結奈ちゃんも、家族で困っている。

 そして、本人はそれを辛いことだと思っていない。多分。

 

 外からどうにかする、のはあまりにも独善的だってのは私にもわかる。

 どうにか本人が助けを求めてくれないかなぁ。

 そんな思いで、今日は連れ出してみたけれど。

 

「結奈ちゃん。家に帰って何をしてるんだろう」

 

 おうちに遊びに行ってもいいかな? って聞いたことはある。

 その時は、少し気まずそうにして断られた。

 間違いなく、これ以上は言わない方がいいな。

 言いすぎると、関係性を遮断してくるなって、確信があった。

 

 ……結奈ちゃんは、私がどうしてあんなに絡みに行くのか、不思議に思ってるのかな。

 多分、そう。内気な方だし、自分から色んな人に話しかけに行く子でもないから。

 なんで私なんかに、だなんて思ってそうな感じもする。

 自信の無さがにじみ出てるんだよね。

 

「そんなことないのに」

 

 中学校の入学式の日。

 小学校からの友達と一緒に登校してた時に、その光景を見た。

 

『どうしたの?』

 

 迷子になっている女の子に、そっと優しく話しかけている、結奈ちゃんの姿を。

 入学式に間に合わなくなるかもしれないのに、彼女は迷う事なく、人助けに走っていた。

 私は――友達に合わせて、見て見ぬふりをした。

 そう、本当に美しい心の持ち主はあの子なの。

 

 私は、憧れたんだよ。

 結奈ちゃんみたいに、誰かに寄り添えるようになりたいって。

 思えるように、なったんだ。

 

「仲良くなりたいなぁ」

 

 クラスが一緒になったのは、本当に運命だと思ってる。

 これを機に仲良くなれたらって思ったんだけれど……非常にガードが堅い子だった。

 何というか、周囲を良く観察する感じ?

 常に気を張っているというか、何というか。

 

 簡単には踏み入れさせてもらえないなって感じだった。

 だから、最初は挨拶から始めた。

 とにかく声をかけて、声をかけて、声をかけて。

 他の人にも声をかけて、結奈ちゃんだけが特別じゃないってアピールもした。

 

「もうちょっとだと思うんだよなぁ」

 

 今日の感じ、心を開いてくれている感じはする。

 この調子で色々と遊びに誘って、自然と受け入れてくれれば。

 

「そうすれば、きっと家族の事も教えてくれるよね」

 

 結奈ちゃんにとって、家族は聖域なんだと思う。

 他の誰にも踏み込ませられない、大事な場所。

 だから、そこに踏み込めるようになるためには、家族と同じぐらい大事な人にならなくちゃ。

 

「そのために、頑張るぞ。おーっ!」

 

 なんてやってたら、家についていた。

 さっさと扉を開けて、中に入る。

 

「ただいまー」

「……お帰り、遅かったな」

「あれ、お兄ちゃんがいるなんて珍しいね」

 

 普段は研究所仕事で夜遅くまでいなかったり、帰ってこないことの方が多いのに。

 リビングのソファーに、ポツリと座ってた。

 

「ああ、ちょっとな。少し休みを貰ったんだ」

「ふうん。確かに、ちょっと顔色悪いね。大丈夫?」

 

 言われてみれば、確かに元気なさそう。

 お仕事で何か失敗しちゃったのかな?

 それとも、良くない知らせでも貰っちゃったのかな。

 

「その休みって、マギデバイスに関係してる?」

「――いや、関係ないさ。安心してくれ」

「なら、いいけど」

 

 マギデバイス、つまり黒鎌の魔女関連じゃないなら、私が無理に聞くのも悪い話だよね。

 でも、ううん、元気ないお兄ちゃんを見続けるのもなぁ~。

 というわけで、隣に座って寄りかかる。

 

「……なんだ」

「いやあ? 元気ないお兄ちゃんのために、かわいいかわいい妹が一肌脱いであげようかなって」

 

 こうやって人とくっついてると、幸せな気持ちになれるんだって!

 好きな人と抱き合ったり、くっついたり!

 お兄ちゃんは私の事大好きなはずだから、きっと幸せな気持ちになれるはず!

 

 だなんて思ってたら、大きなため息を吐かれた。しかも呆れたって感じの奴。

 

「ちょっと!」

「ははっ、いや、ありがとうな」

 

 顔を上げたら、お兄ちゃんがこちらを見てきていた。

 その眼は疲れ切っていて、心配になる。

 しょうがないからぎゅーって抱きしめてあげる。ぎゅー!

 

「おいおい、今日は随分と優しいんだな」

「小春ちゃんはいつだって優しいんですー!」

「それに上機嫌だ。何かいいことがあったのか?」

 

 お、気が付いちゃいました?

 なら語らないのは嘘というものでしょう。

 ふふん。

 

「今日ね、今日ね。ずっと仲良くなりたいって思ってた子と、ようやく二人で遊びに行けたの!」

「おお、そうなのか。よかったな」

「でしょでしょ。それに、その子も楽しそうにしてくれて、笑ってくれたんだ!」

 

 今日は本当にいい日だった。

 あ、でもこの説明だと男の子と勘違いされるかも。

 念のため言っておいた方がいいよね。

 

「……因みに、女の子だよ」

「安心しろ。お前に男ができるとは思ってない」

「ちょっと! お兄ちゃん、それは暴言だよ!」

 

 はははと誤魔化すように笑う。

 良かった。お兄ちゃんに元気が戻ってきた。

 明るい方がいいに決まっているもんね。

 

「――なぁ、小春」

「なあに、お兄ちゃん」

「もし、お前の友達が悪いことをしてたら、どうする」

 

 なるほど?

 ははーん。わかったぞ。

 お兄ちゃん、友達が悪いことしてたんだなぁ。

 それで落ち込んでたんだ。

 私に相談するだなんてわかってるじゃん!

 

「当然、止めるよ!」

「向こうには向こうの事情があるとしてもか?」

「それは……それ! 悪いことをしてるなら、まず止める! で、原因があるなら、それも何とか解決する!」

 

 友達なんだから、そのぐらいはしてあげないと!

 クラスに万引きしてる子がいるって噂があるけれど、万引きなんて私の友達には絶対にさせないもん。

 もしも私に隠れてやってるなら、絶対に怒る。

 そして、二度とやらないように説得する!

 

 それが、私の目指した道だから。

 

「……だよな。お前なら、そう答えるよな」

 

 お兄ちゃんはどこか疲れ切った様子で、呟いた。

 どこか違和感を覚える。

 お兄ちゃんは、私の行動を参考にしたくて聞いたんじゃないの?

 なんだか、それとは違う感じがした。

 

「――よし、覚悟はできた。ありがとうな、小春」

「なあに、小春ちゃんに感謝するならアイス二つで手を打ってあげよう」

「お前、虫歯になるぞ」

「歯は毎日完璧に磨いてます!」

「太るぞ」

「さいてー! ちゃんと運動してるから!」

 

 なんてデリカシーの無いお兄ちゃんを持ってしまったのでしょう!

 でも、今はお兄ちゃんは笑ってるし、目に光が戻ってる。

 覚悟、決まったのかな。

 

「とりあえず、明日からはまた頑張らないとな」

「そうだね。ここ数日は黒鎌の魔女も動いてないみたいだし」

「ああ。絵画の解読に時間を費やしているんだろう。――こちらも、事前のコピーから解析を試みているが、どちらが先に解析できるかは五分五分って所だろうな」

 

 つまり、先手を打てるかもしれない唯一のチャンスってこと。

 

「しっかりものにしてよね、お兄ちゃん」

「任せろ。そのぐらいしか、俺達にはできないからな」

 

 お兄ちゃんたちがしっかりやったら、次は私の番。

 今度こそ、彼女を止める。

 戦って、打ち勝ってみせる。

 そうして、話をするんだ。

 

 あなたはどうしてそこまで追い詰められているのって。

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