最初は敵として出てくるタイプの魔法少女   作:てんぷらのちぎり

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九話目 かくして物語は終幕へ向かう

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「解読が終わった」

 

 学校が終わった後、短い電話で研究所へ呼び出された私を出迎えたのは、パパの冷たい一言だった。

 解読、っていうのは絵画についてだよね。

 あれには、今後必要になるもののありかについて記されてるって話だったっけ。

 なら、目標物の回収に行かないとかな?

 

「なら、今すぐ回収に向かう?」

「そうしたいところだが、今回はやや問題がある」

 

 ――問題がある。

 パパが問題っていうぐらいだもん。

 大変なことだよね。

 

「――おそらく、今回に関しては先手を取られている」

「え?」

「私としたことが、解読に時間をかけ過ぎた。私に劣る愚物共といえど、今回は先回りしてくると予測できる」

 

 そんな、パパが遅れを取るだなんて。

 いや、きっと数が大事な分野だったんだよ。

 でなければ、パパが遅れを取るわけがない。

 パパは誰よりも頭が良い、凄い天才なんだから。

 

「……で、だ。そちらはそこまでの問題ではない」

「そうなの?」

「お前に渡したマギデバイスを越える代物はこの世にない。故に、お前の邪魔をできるものはいない。先手を打たれることはそこまで痛手ではないのだ」

 

 ――っ!

 パパから、信頼されている。

 私ならできるって。信じてもらえてる。

 えへへ、嬉しいな。

 

 僅かに笑顔になる私を見ても、パパの表情は動かない。

 淡々と、説明を続けるだけだ。

 

「今回回収に向かってもらう目標物の説明に入る。こちらが問題だ」

 

 なるほど、回収するもの自体が問題なんだね。

 何かあるのかな?

 

「解読の結果、とある村の祠に祭られている代物が目標物だと判明した。村自体が秘匿されているが故に、場所の特定には難儀したが……」

「とにかく、それを取ってくればいいんだね」

「最後まで話は聞くように。調査の結果、ただ運搬することが不可能な代物だと発覚した」

 

 どういうことだろう?

 私が馬鹿すぎてわからないや。

 パパの娘なのに、どうして私はここまで頭が悪いんだろう。

 

「エネルギー純度が高すぎるのだ。粗末な村だから問題になっていないが、周囲へ多大なエネルギー被害をもたらしている」

「ごめん、パパ。私が馬鹿すぎるから……」

「わかりやすく言おう。目標物の周囲では、ありとあらゆる電子デバイスの使用が制限される」

 

 つまり、普段パパと繋いでいる通信とかも使えなくなるってこと?

 いや、それだけじゃないよね。

 そんなものを普通に持ち歩いてたら、ここにいるって発信し続けてるようなものだもん。

 

「じゃあ、研究所の場所がバレちゃうってこと?」

「その理解は大きくは間違っていない。加えて言うならば、これまでの研究成果を全て破壊しつくす可能性も秘めている」

 

 ……そんなっ!

 パパのこれまでの努力の結晶がなかったことになるなんて、そんなことあってはいけない。

 許されちゃいけないよ。

 

「そこでだ。時間はかかったが、エネルギー波を解析し、それを防ぐカプセルを開発した」

「……そのカプセルを、どうすればいいの?」

「カプセル内部に目標物を入れ、研究所に持ち帰ってくるのだ。そうすれば、今回の理論が正しければ――私の研究は完成する」

 

 なるほど! そのカプセルを作ってたから遅れたんだね!

 流石パパ! そこら辺の人に負けるわけないもんね、そうだよね!

 

 渡されたカプセルは結構大きくて、筆箱を二つ重ねたぐらいの大きさをしている。

 結構頑丈そうな作りだから、多分早々壊れたりはしないと思う。

 

「幸いなことに、奴らではあれを動かすことはできないだろう」

「つまり――せいぜい守りをつけるぐらいってこと、だよね?」

「で、あろうな」

 

 ……それなら、絶対に彼女がいるはずだ。

 魔法少女、アークライト。

 魔法少女をどうして名乗っているのかは知らないけれど、彼女は強敵だ。

 前回は勝てたけれど、次はどうなるか……。

 

 ううん、弱気になっちゃ駄目だ。

 パパが任せてくれている、パパが期待してくれている。

 なら、私はやらなければならない。そうだよね、パパ。

 

「そういえば、マギデバイスは問題ないの?」

「波長を解析した限りでは、問題ない。お前に渡してあるそれは、そもそも既存の技術の範疇を越えたものだからな」

 

 パパが大丈夫っていうなら大丈夫だよね。

 私も良くわかっていないけれど。

 

 でも、パパがここまで言うものを劣化とはいえ作れた人たちも、まあ凄いのかな。

 なんて。ううん、こんなことは考えるべきじゃないよね。

 考えるべきは、任務が完了した後の事だよね。

 

「……もしも、今回の任務が成功したら」

「ああ。真奈美と会うことができる。より正確には、真奈美が現在いる次元への扉を開くことが可能となるはずだ」

 

 そっか、お母さんと。

 ようやく、会えるんだね。

 

 胸の前で、ぎゅっと拳を握る。

 ついにここまでやってきた。

 長い道のりだったけれど、確信を持って言える。

 パパは間違ってない。パパは正しい。

 だから、私は全力でパパを助ける。

 

「準備ができ次第、出動しろ。途中まではナビゲートする」

「うん。わかった」

「アークライトとの交戦が予測されるが、あの不出来なまがい物には負けるまいな?」

 

 カプセルを腰につけて、軽く動いて落ちないことを確認する。

 マギデバイスを握りしめる。

 これで、ついに終わりなんだ。

 そう考えると、自信が湧いてくる。

 

「もちろんだよ、パパ」

 

 あんな子に、私は負けない。

 苦労も何も知らないで。勝手に私の感情を知った気になって。

 私たちの努力の上を土足で歩き回るような、あんな子には。

 

 きっと、変身前も失礼な子だよ。

 人の気持ちなんて知らないまま、自分勝手に振舞って。

 ――天ケ瀬さんみたいに、優しい子とは大違いの。

 嫌な子だよ。絶対に。

 

 だから、私は負けない。負けてはならない。

 パパの願いを叶えるため。ママともう一度会うため。

 幸せな生活を、取り戻すため。

 

「……結奈」

「え?」

 

 耳を疑った。

 パパが、私の名前を呼んでくれた?

 驚いてパパの顔を見るけれど、表情の変化は分からない。

 いつも通りの、淡々とした無表情だ。

 けれど、私の聞き間違いではないと、そのぐらいは分かる。

 

「最後まで、付き合ってくれるな?」

「――もちろんだよ! パパ!」

 

 だから、私は満面の笑みを浮かべて。

 パパの言葉に応じる。

 

 ――例え、表情の裏には。

 何の感情が込められてないことに、気が付いていても。

 この言葉は、私を従えるためのただのポーズだと分かっていても。

 私には、嬉しくて嬉しくてたまらない。

 

 パパは私の意志を確認し終えると、そのまま背後の機械へ向かう。

 ――私には、背を向けて。

 

「では、目標地点へと迎え。今晩が勝負だ」

「そうだね。向こうもパパと同じようなカプセルを作るかもしれないもんね」

「わかっているならば、迅速に動け」

「はい、パパ」

 

 もう迷いはない。

 誰かを傷つけることも、今回で終わり。

 パパの願いは、ようやく叶う。

 パパの喜びは私の喜びだから。

 

「見ててね、パパ。絶対に持ち帰ってくるから」

「それは前提条件だ」

「そうだよね。うん、それじゃあ、行ってくるね」

 

 マギデバイスを強く握りしめる。

 そして、いつも通りの言葉を口にするのだ。

 

「魔装起動、『デスサイス』。――ミッション、スタート」

 

 さあ、最終局面だ。

 戦おう、アークライト。私たちの、譲れないものを賭けて。

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