無惨地獄革命記   作:みそそ

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謎

無惨に促され、猗窩座は重い瞼を持ち上げた。

視界の端に映ったのは、無惨だけではなかった。

その後ろには、大勢の人の影が立ち並んでいる。

相変わらず不敵な笑みを浮かべ、こちらに手を振る童磨。沈黙のまま、ただ圧倒的な威圧感を放つ黒死牟。かつて無限城に集った上弦の鬼たちが、地獄の亡者として再びその形を成していた。

 

だが、その並びの最果てに立つ「一人」を認めた瞬間、猗窩座の心臓は、再生したばかりの肋骨を突き破らんばかりに跳ねた。

「……な、ぜだ……」

そこにいたのは、煉獄杏寿郎であった。

 

あの日の夜、朝日を背に自分を死の淵まで追い詰め、人間の尊厳を貫き通した男。

猗窩座が鬼としての強さを追い求める中で、唯一「至高の領域」に近いと認め、同時にその真っ直ぐな正義に自身の醜悪さを突きつけられた、魂の宿敵。

 

天国。そうでなければ、これほど残酷な仕組みの輪からは外れた、別の清らかな場所。

煉獄は当然、そこにいるべき存在だった。それなのに、彼は今、この悍ましい腐敗臭に満ちた地獄の風を、自分たちと同じように受けている。

ショックだった。

煉獄がここにいるということは、自分が最後に見た「正義」さえも、この地獄のゴミ溜めに捨てられたということか。

 

「煉獄……杏寿郎……」

 

煉獄はこちらを見据えているが、その瞳に宿る熱量は、かつてのそれとはどこか異なっていた。

 

無惨への恨みが、急速に冷めていくのを感じる。いや、消えたのではない。今の猗窩座にとって、無惨という男の処遇など、煉獄がここにいる理由を突き止めることに比べれば、あまりに些末なことだった。

 

なぜお前がここにいる。

お前が信じた正義は、お前を救わなかったのか。

 

「……いいだろう。貴様についていく」

 

猗窩座は地を這うようにして立ち上がった。

無惨の差し出した「救い」の手を掴んだわけではない。ただ、その背後にある「真実」を暴くために、彼は再び鬼舞辻無惨の配下としての道を選んだ。

 

無惨の後を追い、地獄の最下層から少し外れた「空白地帯」へと足を踏み入れる。

そこは、本来なら獄卒による絶え間ない凌辱が行われているはずの場所だった。だが、ここには悲鳴も、鞭が空を切る音もない。あるのは、死んだように静かな、しかし濃密な「軍隊」の気配だけだ。

「やあやあ猗窩座殿! また君と肩を並べて戦えるなんて、俺は本当に嬉しいよ。地獄での再会なんて、なんだかロマンチックだと思わないかい?」

隣から、まとわりつくような声が降ってくる。童磨だ。

彼はまるで現世の万世極楽教にいた頃と同じような、軽薄で温度のない笑みを浮かべていた。猗窩座の肩に馴れ馴れしく手を回し、地獄の窮状を愉快な土産話のように語り続けている。

「……触るな。殺すぞ」

猗窩座は反射的にその手を振り払った。

いつもの光景だ。だが、その苛立ちの奥で、冷徹な疑問が頭をもたげる。

地獄に、自由などあるはずがない。

ここは全方位が監視され、魂が摩耗するまで責め苦を受けるための檻だ。それなのに、なぜこの場所だけは、獄卒の姿が消え、自分たちの「領土」として機能しているのか。無惨は何を「書き換えて」、この安全圏を構築したのか。

童磨の饒舌な冗談を聞き流しながら、猗窩座の視線は軍列の端を歩く背中を捉えた。

煉獄杏寿郎だ。

彼は他の亡者たちと群れることもなく、ただ一点を見つめて歩いている。その背中からは、かつての快活な熱量ではなく、凍てつくような静かな殺気が漂っていた。

「童磨、失せろ。俺には確かめねばならんことがある」

しつこく食い下がる童磨を突き放し、猗窩座は迷いのない足取りで煉獄の隣へと並んだ。

 

「……煉獄杏寿郎」

名を呼ぶ声が、血の混じった風に溶ける。

煉獄は足を止めなかったが、わずかに視線を動かし、金の瞳で猗窩座を射抜いた。

「一つ聞きたい。お前ほどの男が、なぜここにいる。……あの夜、お前が守った『正義』は、一体どこへ消えたんだ」

その問いは、猗窩座自身の魂を削るような響きを持っていた。答え次第では、彼がこれまで抱いてきた世界の理(ことわり)が、音を立てて崩れ去る。

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