「・・・みや・・・・・さん!・・・・・龍宮さん!!」
「ふぁいっ!!」
授業中に名前を呼ばれて夢の中から覚めたのである。
よだれを拭いながら立ち上がる姿に先生はため息をつきながらも黒板を指差す。
「ここの答えをお願い出来ますか?」
「えっと・・・あ、あの・・・・・わ、わかりませんっ!!」
「居眠りは程々にお願いしますよ?」
「・・・・・ごめんなさい」
「それでは・・・・・酒寄さん!」
「はいっ!!」
次の人が選ばれている中で崩れ落ちるように座るものの紅莉はまた清々しい風に誘われて夢の中へ。
勉強が出来ないわけではないのだが、これ程までに体たらくになってしまったのには訳がある。
それは・・・・・ツクヨミである。
あの日以来夜遅くまでツクヨミ内ではしゃぎすぎていつの間にか深夜になってしまい慌てて寝るのが繰り返されているのである。
今までずっと遊べていなかった反動で起きている現状が影響して授業中は大半が夢の中となっている。
「(生活リズム・・・崩れちゃってるなぁ~・・・・・スマコンを手に入れる前は受験勉強頑張ってたからちゃんとした生活してたけど、ツクヨミ辞められねぇんだけど!!・・・・・あれ?ちょっと待てよ?アタシってば・・・大事な事を忘れているような・・・・・)」
目を瞑って必死に過去の自分を思い出す。
ゲームが大好きで毎日ゲームしてたっけ・・・・・。
ゲーセンにも通ってゲームしまくってて・・・・・。
ゲー友に配信を勧められて・・・・・。
・・・・・配信?????
「うあぁぁぁぁっ!?!?!?」
「おぉっ!?た、龍宮さん!!どうかしたのか!?」
「重大なミスを・・・見つけてしまいました」
「重大な・・・ミス?」
そう・・・・・龍宮紅莉はこう見えてもストリーマーなのである。
しかし、受験勉強やらツクヨミやらツクヨミやらツクヨミがあったせいでほぼ1年ほど活動休止していたのである。
「・・・・・って事が今日あった訳よ~♪」
「いや、笑いながら話すことじゃないでしょ?授業中に何してんだよ」
「・・・同感」
ツクヨミ内にて今日の出来事をドヤ顔で語る紅莉に対して2人は馬鹿を見るような目でいた。
「配信再開するならあんたがやりたがってた・・・アレ、始めたらどうよ?」
「・・・・・紅莉にピッタリ♪」
「えっ?何かあったっけ???」
「「KASSEN」」
「・・・・・あっ!?ああぁぁぁぁっ!!!!!」
紅莉の反応と共に千聖は指を鳴らすとウインドウが3人の前に現れた。
「KASSENには・・・・・基本的に1対1による対戦格闘ゲームの『SETSUNA(刹那)』、3対3による陣取り合戦の『SENGOKU(戦国)』、7対7によるバトルロイヤルの『KASSEN(神戦)』の3種類のモードがある」
「へぇ~・・・1つじゃないんだ」
「それに・・・現在では『KASSEN』専門のプロゲーマーも数多く存在するほど大人気なゲームなんだ」
「プロゲーマーねぇ~・・・それはそれは大層ご立派ですこと」
「私はあんまりやらないけど、千聖はかなりの腕前だよ」
「なるほどねぇ~・・・・・どうりでめちゃくちゃ早口で語ってると思ったのよ」
「・・・・・っ!?あぅ・・・・・」
顔を真っ赤にしてフードを深くかぶる千聖。
そんな彼女を横目に紅莉は無言で準備運動に入る。
「う~ん・・・今日はまだVR感覚がわからないから肩慣らしにSETSUNAをチャレンジしよっかなぁ~?」
「それってさ・・・私達とやるつもりなのか?」
「えっと・・・ちーちゃん!NPCモードとかってないの?」
「あるにはある・・・・・確か・・・難易度は6段階ある」
「じゃあそのチャレンジを配信しちゃいますかねぇ~♪」
配信が開始されるものの始まりの挨拶もなく紅莉は一番レベルの低い『簡単』を選択。
NPCが現れて試合開始の合図があったものの紅莉は離れた位置まで下がると色々と動きを確認している様子であり、ぶつぶつと何かを言っているようにも見えた。
「久し振りに見たな・・・アイツのあの姿」
「・・・・・本気」
「いっつも新しいゲームする時の癖だよな」
「・・・・・うっしぃぃぃっ!!!!」
2人が談笑していた最中に「ダンッ!!」と大きな音が響いたかと思うとNPCが一撃でKOされていました。
「千聖・・・見えた?」
「・・・・・」
「紅莉!!」
「な~に~?」
「さっきのもっかいやってぇ~!!」
「わかった!!・・・よぉぉっ!!っとと」
2本先取なので2人は紅莉に先程の再現を申し出た。
すると笑顔で右手を挙げた紅莉はNPCの攻撃を紙一重で回避すると・・・。
最速かつしなやかなハイキック・・・それを軽々と繰り出せてしまう女性は他に居るのだろうか・・・・・。
「どうっ!どうっ!!身体がイメージした通りに動くんだよ!!やっぱりツクヨミサイコォォォォォ!!」
「一撃で倒しちゃうとか・・・あんた、もしかしてゴリラな訳??」
「・・・・・スゴい」
「馴染むっ!!実に馴染むぞぉぉぉ!!!!」
レベル『普通』のNPCに対してはリズムゲームを見せられているように相殺が連続して繰り広げられている。
「格ゲー・・・だよね」
「・・・・・でも、楽しそう」
「フルコンボだドンッ!!!!」
「また瞬殺してるし・・・・・」
満面の笑顔で両手をぶんぶんっと振る紅莉。
しかし、2人はチラッと何かを確認するような素振りをしていた。
「身体もあったまって来たぁぁぁ!!次は難しいに挑戦だぁ~!!」
「・・・ねぇ、千聖・・・気付いてる?」
「・・・・・さっき」
「この配信・・・本日のピックアップに取り上げられてる」
「・・・・・人気者」
ツクヨミ内ではライバー配信が毎日ピックアップされて繫華街などの巨大スクリーンモニターで取り上げられて映し出されるのだ。
そんな中でも紅莉は・・・鉄山靠からの浮いたNPCの顎下に拳を突き上げてのアッパーカット!!
順調に進んでいるのだが、お気付きの方もいらっしゃると思いますが・・・・・ノーダメージ。
無傷での連勝記録が打ち立てられているのです。
「小さい頃からゲームばっかしてるのは一緒に居て気付いていたけど・・・こうやって目の前で見せられるとスゴい事をやってたんだな」
「・・・・・次は鬼」
「うっわぁ~・・・・・本当に鬼なんだ」
2m以上ありそうな赤鬼が出現して右手には約1m程の金棒が備わっていた。
「リーチ差えっぐぅぅぅ!!チートだろう!チート!!」
「大丈夫・・・スピードはかなり遅いから・・・あっちゃんなら大丈夫」
「自称ゲーマーなんだからパパっとやっちゃいなよ」
「ふふふっ・・・格ゲーなら圧倒的に不利・・・・・だけど、この逆境を覆すのがゲーマーってもんよっ!!」
試合が開始されたと同時に赤鬼は棍棒で薙ぎ払う。
それに反応した紅莉は、上体を後ろに反らせ、頭部を後ろに下げて紙一重で躱す。
しかし、それで終わらないのが紅莉・・・その場で身体を一回転させると薙ぎ払っていた棍棒を後ろから蹴飛ばしたのだ。
その一撃で薙ぎ払う勢いが増して赤鬼はぐるんっと一回転して大の字に倒れてしまう。
「なに寝てんだごらぁぁぁっ!!」
「寝かせたの・・・アンタじゃん」
「・・・・・同意」
紅莉は赤鬼の両足をがっつりと両脇にホールドすると軽々とジャイアントスイングを決める。
大ダメージが入った赤鬼が立ち上がろうと片膝を付いたが、その隙を逃さずにシャイニングウィザードが赤鬼の顔面に突き刺さりKOを手に入れた。
「ゲームだから簡単に出来るんだと思うけど、こう目の当たりにしたらえげつない事してるわよね」
「・・・・・常人には無理だと思う」
次のラウンドは試合開始と同時に走り出すと赤鬼の股の下を滑り込むと背後からの・・・。
「ジャーマン!!」
そして、間髪入れずに・・・。
「ジャーマンッ!!!!」
最後には抵抗させる事すらなく・・・。
「ジャーマンスープレックスだぁぁぁっ!!!!!」
ちゃっかり3カウントももぎ取ってレベル『鬼』もなんなくクリアである。
周りにはちらほらとギャラリーも集まりだして、視聴数もかなりの人数を叩き出していた。
しかし、当の本人は集中しているのかこの状況に気付いてもおらずに次の難易度の為に一旦休憩を入れていた。
「確か冷蔵庫に・・・・・あった、あった!月見チャージ!!」
「・・・あの子配信してるの忘れてない?」
「・・・・・完全に忘れてる」
「疲れた時には月見チャージ♪五臓六腑に染み渡るぅぅぅぅぅ!!!!!」
そして・・・次のレベルは、『武人』。
両目を黒い布で覆っている武人は今までとは違った空気に紅莉は腕を組んで悩む。
「う~ん・・・どうしたものか」
「さっきみたいにさドカーンッと行っちゃったらいいんじゃない?」
「・・・・・未知数だからあまり単純では・・・・・」
「そいつは超反応でカウンターを仕掛けてくる!この情報だけでどうにか出来そうか?」
「そっちのタイプか・・・・・わかった!!なんとかやってみる!!」
不意にフードを深く被った人物からのアドバイスに頭の中で考えがまとまったのか紅莉は構える。
真琴と千聖は謎の人物に首を傾げていたが、フードの男は正体を明かさないように自分の唇に人差し指を当ててみせた。
紅莉は大きな深呼吸をすると大胆な行動に出た。
武人に近寄るとそっとお互いの手の甲が触れそうな位置に構えると睨み合うように動きを止めた。
ピクリとも動かなくなった両者の空気の中静寂が続く・・・。
「・・・・・い、息が詰まる」
「・・・・・」
「・・・・・来るっ!!」
謎の人物が目をカッと開いた瞬間。
紅莉はくるっと手首を捻り、武人の手首を掴んで引き寄せると同時に肘を鳩尾に一撃!
相手の態勢が崩れた瞬間に肘を斜め上に打ち上げると紅莉は叫んだ。
「紅莉百裂拳っ!!!!」
言葉の通りに無数の拳を繰り出すと武人は成す術もなく吹っ飛ばされてしまった。
だが、1ラウンドを取ると武人は目隠しを取り除くとさっきの見から攻めに転じて来たのである。
「さっきと動き違うじゃん!?」
「・・・・・あっちゃん!?」
武人の勢いのあるストレート。
しかし、体を最小限で捻って回避したのか見事な反撃のフックが武人の顎を射抜く。
「ひゅ~♪・・・超反応で返すか・・・見せてくれるな」
一発では沈まないのか武人は再び身構えようとするが紅莉は待たない。
相手の頭を自分の両足首あたりで飛びついて相手の頭を挟んだまま自身の体を旋回して反り、その勢いを使って相手を投げ飛ばしたのだ。
その技が決まった瞬間に観客達からの熱い歓声が木霊する。
「観客をここまで魅了するか・・・本当に面白い女」
武人は勝機を諦めずに立ち上がろうとした。
無残にも体を起こした先には渾身の一撃を構える紅莉の姿があった。
「一・撃・必・殺!!!!」
見事な正拳突きが突き刺さると勝利の二文字が頭上に浮かび上がる。
5ステージノーダメージノーコンティニューの偉業にすべての人達が熱狂していた。
「さぁて・・・ラストステージの相手は・・・「ちょぉぉっと待ったぁぁぁ~♪」えええっ!?!?」
上から声がしたと思えば、姿を見せたのはなんと・・・月見ヤチヨであった。
「えっ!?も、もしかして・・・最後の難易度って月見ヤチヨ!?!?」
「違う違う!私はその最後の難易度ついて伝えに来ただけだよ~」
「それってどう言う・・・?」
「最後の難易度はイベント用に準備していたモノだから現在ではレベル5の『武人』が最高難易度って訳♪」
「・・・・・って事は?」
「コングラッチュレーション!!おめでとう!龍宮紅莉!!君に完全制覇の栄誉を称えよ~♪」
言い終われば盛大に打ち上げ花火が上がり、紅莉の周りには紙吹雪が舞っていた。
「まさか・・・ここまでの偉業を達成する者が現れるとは思っていなかったけど、賞金として10万ふじゅ~となんでもやっちょがひとつまでなら聞いてあげられるよ~♪」
「10万も・・・!?!?・・・ってか、なんでも!?な、なな、なんでもいいの!?!?」
「うんうん♪紅莉のお願い聞かせて、聞かせて~♪」
「そ、それなら・・・・・月見チャージを1年分くださいっ!!!!!」
「おぉ~♪かしこまり~週末には届くと思うから期待しててねぇ~♪それじゃあ、やっちょはもう寝ちゃうけど~君達も早く寝るんだよ~♪」
やちよがウィンクと同時に消えると真琴と千聖が寄って来た。
「何かあったの?」
「いいや、ご褒美をもらえただけ~♪」
「・・・・・にしても、ツクヨミに来たばっかアンタがこんな大記録を叩き出すなんてね~」
「いやぁ~日頃の研鑽の賜物ですなぁ~♪」
「・・・・・時間」
「・・・時間?うわぁぁぁぁぁぁぁ!!ヤバい、ヤバい!!寝なきゃじゃん!!明日の宿題もやらなきゃいけない!!それよりも起きれるかな・・・・・そ、それじゃあそんな事だから!!2人共お先っ!!!!」
マシンガントーク後に何の前触れもなく落ちた紅莉。
ログアウトと同時に勝手に配信は閉じてしまい・・・ハチャメチャな配信の幕切れを迎えた。
「台風か・・・アイツは・・・・・」
「・・・・・元気だった」
「そうだねぇ~・・・ちょっと前のアイツと比べたら・・・今のアイツが本当のアイツか」
「・・・うん」
「それじゃあ私達も寝なきゃだねぇ~・・・もう起きとこうかな」
「・・・・・おやすみ」
2人もログアウトすれば、その後ツクヨミ内では・・・《最強の美少女降臨っ!!》や《無名の凄腕ライバー現る!!》などとお祭り騒ぎであったが・・・彼女、龍宮紅莉は知る由もない。
「帝・・・どうだったの例の女の子は?」
「・・・未知数だ、オレでもあの子は計り知れねぇよ」
「・・・・・要注意と言う訳か」
「へへっ・・・楽しくなりそうだっ!!」
とある場所では3人組が今回の新人について興味津々。
「FUSHI・・・・・あの子は危険な存在となり得るか・・・それとも、まだ見ぬ光への案内人なのかな・・・・・?」
不安そうに月見ヤチヨはFUSHIにポツリとこぼして眠りについたのであった。