エルフィンド軍は氏族の寄せ集めだ。戦争が始まったら氏族ごとに兵を出しあって、それを適当にくっつけて中隊を作り、そうしてできた中隊をさらにまとめていき旅団ができ軍ができる。あの時のファルマリア軍のように。道洋の作家は、オルクセンの参謀から見たらエルフィンドは近代軍制を理解していないように見えたと書いていた。
だが、そんなことはどうでもいい。氏族ごとに団結して生き延びる。信頼できる姉妹に背中を預ける。なにがあっても姉妹を白銀樹の下へ連れ帰る。それがエルフィンド軍の根幹であり、だからこそ私たちはあの地獄から帰ってくることができたのだから……
星暦1030年1月。にぎやかな冬至祭が始まった祭りの季節は、新年の宴で終わる。はるか昔、ヴィラールたちが伝えたとおりに。ベレリアント半島北部の山岳地帯、かつてキャロットの女流冒険家が訪れたことぐらいしか歴史に登場しない山村に私はいる。ここは私の故郷であり、こここそが私の暮らすべき場所である。
日が昇らないうちから屋根の雪を降ろし、玄関から道路までの道をつける。日が昇り切ったころに一区切りつき、右手に固定したスコップを外して部屋に戻る。あぁ、私は右手がないのでね。別に不自由はしていないよ。私の生涯のうち右手のない時間は、もう右手のある時間より長いのだからね。
本当さ、強がりじゃない。今だってこうやって片手でキーボードをたたいている。パソコンというのは便利なものだね、タイプライターの頃は左手だけでは何とも使いにくかったものだが、今は片手用キーボードってのがあるんだよ。知らなかったかい? 華国の会社の物なんだけどね、うちの村にはかなりの使い手がいるんだよ。
今この文章を読んでいる君はどこにいるのかな。インターネットというのはいいものだね。こうしてエルフィンドの山奥にいても世界中に文章を届けることができるのだから。そうだよ、エルフィンドだ。私の中では、いつまでもね。いや、うちの村に光回線を引っ張ってくれたオルクセン通信公社にももちろん感謝はしているよ。まぁやつらはしっかりお代は徴収してくがね。
私の文章に変なところがあったら許してほしい。私は今でもアールヴ語で書いていて、君たちは機械翻訳で読んでいるんだから。もし私の文章が気に入ってくれたら、コメント欄に何処から何語で読んでいるか残していってくれ。あと、投げ銭もしてくれると嬉しいな。村の暮らしはだいたい自給自足とはいえ、現金だって必要はあるのさ。ほら、このブログを君たちに届けるための回線料とかね。
実をいうとこのブログを始めたのは金のためなんだ。投げ銭目当ての乞食ってわけじゃないよ。傷痍軍人だけど私たちはそういう部類じゃない。村の井戸が枯れてきちゃってね。新しいのを掘りたいんだ。クラウドファンディングっていうんだっけ? 悪いけど税額控除の役には立たないよ。でも、篤志家の皆さんには返礼品は約束しよう。秋に仕留めたヘラジカの角でできたキーホルダーなんてどうかな。こういうのは最近税関がとやかく言ってくるかな。誰か詳しい人はコメントしてほしいね。
それで、結局大事なのはこの村はどういうところかってことだよね。エルフィンドの山奥の山村で、住んでいるのは47人の白エルフ。私みたいに片腕しかないのが15人で、片脚がないのが3人。片腕と片脚がないのも1人いるよ。30年前まで両腕と両脚がないのがいたんだけどね、今は山を下りてエルドインの施設で暮らしてるよ。雪が解けたら会いに行きたいものだね。その旅費は君たちの投げ銭にかかってるので、よろしく。
それから村民のうち半分は耳が聞こえないよ。だから今流行りの動画じゃなくてブログをしたためてるってわけさ。
いや、老化じゃない。外傷性さ。そうだよ、私たちは傷痍軍人だ。君たち中に傷痍軍人はいるかな? いたらどこの戦争で負傷したか教えてほしい。いやなに、詮索しようとか哀れもうとかそういうんじゃないよ。ほら、軍人ってのは戦傷を自慢するものだからね。
じゃあ、初回はこの辺で終わりにするよ。ブックマークをよろしくね。クラウドファンディングのページは近いうちに作るからちょっと待っててね。ははは、エルフというのはゆったりした生き物だからね。大丈夫、君たちの腰が曲がる前には始まるから。