エルフィンド山村だより   作:生きるの辛之

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第二回:星暦1030年2月14日

 一月ぶりだね。ダメもとで始めたブログにコメントがたくさんついて驚いたよ。南アファルカの青年さん、そちらは夏でビーチで日光浴しながら読んでくれたってね。いいねぇ、海なんて久しく行ってないよ。片手ではどうにも泳ぎにくいし、そもそも私たちはあまり村から出ないんだ。ちょっとね、シャイなんだよ。

 ヘラジカの角を一本飾りに欲しいっていう麗湾大人さん、申し訳ないね。税関に問い合わせたら検疫に引っかかるって言われたよ。代わりにセーターなんてどうかな。ふふ、毛糸から村のお姉さんたちの手作りだぜ。イカしてるだろ。

 ネマニッチとの戦争で左手を失ったサライヴォズナ人の元義勇兵さんには敬礼を贈ります。いつか答礼を見せてくれ。

 

 それで、一番多かったコメントが私たちがどこで負傷したかって話だよね。いいよ、今ならかける。書けるようになったのもブログを始めた理由だからね。

 皆の想像通り。私たちはベレリアント戦争の復員兵です。47人の村人の内、40人がそう。あとの7人はベレリアント戦争の頃には高齢だったおばばたちが5人と、戦後に産まれた妹たちが2人。へへへ。村の宝ですよ。本当は戦後に白銀樹が産んだのは8人なんだけど、村には学校がないからみんな街に出ざるを得なかった。その中で帰ってきたのが一人いるわけ。あ、もう一人の妹はまだ二十代なんだけど通信教育で大学に通ってる。いい時代になったものだね。

 もちろん、街に出た妹たちのほとんどは仕送りをしてくれてるよ。送ってこないのは二人だけ。一人は世界中ほっつき歩いて暮らしてる不良娘。でもたまに帰省するとお土産を買ってきてくれる憎めない子。

 もう一人はね、第二次星欧大戦のあとにオルクセン軍に入って、アファルカで戦死しました。今は白銀樹の下に還ってます。いや、悲しまないで。彼女の時はちゃんと遺体も全部帰ってきたからね。一緒にファルマリアに行った姉様たちのうち18人は護符だけの帰還になりました。でもね、護符だけでも帰れただけましなんだ。ほかの部隊はそうもいかなかったよ。

 

 それで私たちの戦争の話だよな。私たちはファルマリアの帰還兵です。それも海兵隊の少将とともに戦った勇気ある3000人の方じゃなくて、陸軍少将について逃げ出した5000人の臆病者の方の。

 街を見捨てて逃げ出した意気地なしだって思うだろ。でもね、考えてほしい。あの時オルクセン軍は降伏勧告を送ってきてたんだ。それを独断で破り捨てたのはハルファン少将だよ。

 もちろん、ファルマリアの市民たちには申し訳なかったと思っているとも。このブログは彼女たちにも届くかもしれないからね。それははっきり言わせてもらいます。ごめんなさい。

 でもね、私たちの言い訳をちょっとだけ聞いてほしいんだ。私たちが村に戻らなきゃいけなかった、その理由をね。

 

 戦争の前、村人の数は51人だった。それで一氏族。今の村人と計算が合わない? それは後で話すから待っててくれ。あの頃の村は今よりさらに何百倍も貧しくてね、ふもとの村から多額の借金をしていた。農業なんてまともにできない土地なのに、三圃式農業の収穫量を前提に課税されるようになってね、払えなくてふもとの氏族から借金しまくったってわけ。

 それで戦争の何年か前にとうとう首が回らなくなって、街のやつらの代わりに軍に入ることになったわけだよ。ふもとの氏族は割り当て分をうちの氏族で賄うことにしたってわけ。私は生れてなかったけど、ロザリンドの時もそうだったらしいよ。兵営で姉様から聞いた話。

 それでうちの村からは45人が軍隊に行くことになった。51人の村で45人だよ。すごいよね。村に残ったのは6人のおばばたち。今もこの村に残ってる5人と、90年前に白銀樹の下に還った当時の長老ね。長老は初代女王の船団が西へ旅立っていくのを港で見送ったらしいよ。ほんとかどうかは知らないけどね。でも長老が三代目女王の時代より前の暮らしの知恵に詳しかったのは本当。だから三圃製農業のできないこの村で、私たちは生きてこれたってわけ。

 

 それでおばばを残して軍隊に入った私たち45人はそのまま一個小隊になって、訓練に明け暮れてると思ったら戦争がはじまりファルマリアにいたってわけさ。もうこれで私たちがなんとしてでも村に戻らなきゃいけなかった理由が分かったでしょ。おばば6人だけでは氏族が成り立たないし村も滅亡。敵前逃亡は村の存亡をかけた闘争だったのです。

 で、結果的には45人で出征して18人が死んで、41人で帰ってきました。45から引くことの18が41。これがエルフィンド式魔法算術。なんてね。ほかの部隊の残存兵を連れてきちゃったのです、はい。村の人出は多いに越したことがないし、助けを求める負傷兵を見捨てられるほど私たちは冷酷じゃなかっただけです。

 

 さて、今日もこれから雪かきだからね。この辺で終わりにしておきます。そういえば今日は星聖教では恋人の日なんだってね。白銀樹に還った愛しいねぇ様、今でも愛してます。愛する者は愛されますよう、愛せぬものは愛しますよう。

 

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