浦部達はリビングに入る。そこにはあの金髪の貴婦人がソファに座っていた。まるで浦部を待っていたかのように優雅な佇まいで紅茶を嗜んでいた。しかしそこに差し込む日の光はなく、吸血鬼の事を配慮してか雨戸が閉まっていた。
「約束は守ってくれたみたいね。」
「お陰様でお気に入りのジャケットと契約がパーだよ。」
苦笑いしながら浦部は皮肉を込めて貴婦人に応えた。150万円という大金を逃しとお気に入りのジャケットを捨てたのだ。悔しくない訳ない。
「でもあなたのお陰で私は助かった。その事は感謝するわ。浦部。」
レミリアは浦部に微笑みかける。浦部はそっと頷くだけだ。貴婦人の話に耳を傾けている。
「紹介が遅れて申し訳ないわ。私は八雲 紫。話せば長くなるけどいいかしら?」
「改めての契約の話なら別に構わない。しかし報酬は高くつく。」
余程不機嫌なのか浦部の口調からは普段契約時には使わないような攻撃的な口振りを使っていた。彼女は詳しい話もせずに唐突に依頼を押しつけてきたのだ。それほどレミリアが重要なのだろう。
碓氷がティーカップに紅茶を丁寧に注ぐと紫はそれを受け取り話を進めた。
「報酬の話は後で話すとして今は全てを語らないといけないわね。疑うも信じるもあなたの常識に任せるわ。」
その後、紫との話し合いは時折碓氷の解説も交えて延々と続き、太陽が南中を超えた頃合いまで続き、レミリアはリビングのソファで横になり睡眠を取っていた。
話をまとめる。
元々紫やレミリアは幻想郷と呼ばれる異世界の住人でそこで平和に暮らしていたがその中で異変が起き、首謀者を懲らしめるために捕まえようとするが逃げられた数日後、現実と幻想郷を隔離する境界がほんの一部、崩壊していた。何か原因があると思い仲間にそれぞれ調査してもらった。内部の人間が主犯の可能性もあり異変解決のプロフェッショナルの二人は中で調査をするが外の世界にいるという可能性も考慮してレミリアの仲間たちに調査を依頼し現実に送ったところレミリア達が何らかの要因で能力と弾幕の発現能力がなくなったところを愛国者に襲われ、別々になってしまい、困った紫は外の世界の人間の浦部や碓氷に助け船を求めて現在に至る。
浦部に頼みたい依頼というのは今日から一週間後にレミリアの仲間たちを助け出し、東京ビックサイトにて待っている紫の元へ行く。それだけだ。
それだけだとはいうもののこの依頼を遂行する際四六時中愛国者の連中に狙われるためリスクは高い。しかし碓氷はそのリスクも関わらず、是非とも引き受けたいと紫にせがむ傍らで浦部は話を続けた。
「報酬は。」
「150万の依頼を蹴ってくれた上に裏の界隈では有名人だもの、300万で手を打たせてほしいわ。」
契約額を知っているということはあの契約の時の気配はまさかと眉をひそめる傍らそれを浦部は不敵な笑みを浮かべて返した。確かに悪くない金額だが今一つ物足りない提案するときの仕草だ。しかし今回のリスクと出費が馬鹿にならない。そのために浦部は紅茶を啜った後、口を開いた。
「その倍の600万で、支払いは金でいい。お嬢様達を預かっている際に出る費用は?」
金にしたのには理由があり浦部の思う幻想郷には今の日本の円が到底流通しているようには思えなかったためである。これはよくある措置で裏社会では現金ではなく価値の高いもので取引すること常套手段のひとつでもある。あるところでは金、あるところではダイヤモンド、酷いときは核といったようにである。
紫は少し額をつねりながら渋々答えた。お金に関して困っているわけでもないが、出費のことを考えたのだろう。
「…わかった。私が現金に換金して受け持つわ。」
「決まりだな。」
交渉は成立した。あとは蟠りも起こさずに依頼を達成、そして報酬をもらう。しかもそれは以前のマフィアの依頼より4倍の提示額だ。頬を緩ませて茶菓子を口に含んだその途端にチャイムが鳴る。昼間は寝る習慣を持つレミリアはベッドで横になっていて、彼女に布団を掛けた碓氷が出ていくのが見えた。
「次の目的地を彼が示してくれるわ。」
「彼?」
「今来たお客さんのことよ。」
すると玄関からA4サイズの封筒を抱えた黄土色のコートに茶色のハンチングを着けた新聞記者のような面立ちの男が入ってきた。
「失礼します。紫さん、頼まれたものの写真と居場所を把握しました。」
「ご苦労様。できたらどう動くかも知りたかったけど」
そのやりとりの中でふと男のハンチングの陰に隠れていた目が見えた。碓氷のお得意様で碓氷に次ぐ親友であり、商売敵の国家権力の手先の上位クラスの警視庁公安部に所属している藤本保正だ。碓氷と浦部の裏仕事に目を瞑ってもらう代わりに公安に情報を送っている。公安そのものが国家権力の一端を担っているため他の組織からも下っ端の表情一つに至るまでにマークされているため情報収集は問題ないが実力行使も碌にできない。そのため浦部や碓氷を利用しているのだ。
「藤本…?」
藤本は気さくに右手を挙げて挨拶する。見た目と振る舞いからフレンドリーに見えるがそうして演じて、時折警察と一芝居打ち対象に近づいて情報を得、検挙に上げる。しかし彼は浦部も碓氷も検挙しない。いい取引相手だからだ。
藤本の資料に目を通していた紫が顔を上げた。
「知り合いだったの?なら話が早いわね。彼は情報面でバックアップしてもらうわ。」
「限度はありますからね?国家権力を私利私欲の為に使うのは抵抗あります。」
これだから国家の犬はと浦部は口に出すことなく鼻で笑い一蹴した。かつて自衛隊だった浦部は国家権力の元にいれば安定した生活が得られるが浦部の思うものと全然違っていた。故にこうして表上ツアーコンダクター、裏で運び屋をやっている。
おもむろに彼女は地図をテーブルの上に開く。全て関東と関東周域に3つの印が上がっており、浦部の行ったコンビナートにはチェックマークが記されていた。
「これは?」
「動きのあった愛国者のアジトだ。捜査員が潜り込んでいていて動きがあれば逐次報告してくれる。」
「でも今回のレミリアの一件で焦り出すと思うわ。」
「そうですね、紫さん。ただ裏切ったのは浦部独りです。スケジュールは変わらないでしょう。ただ…」
すると藤本の懐のスマートフォンが鳴る。それと同時に藤本は画面を見てから部屋を後にする。
「失礼。捜査員からだ。」
「吉報を待ってるわ。」
藤本が退室し一時期とはいえリビングには紫、レミリアに浦部、碓氷の四人のみになる。そして寝ていたレミリアも身を起こす。
「ところで、今回拉致されたのは?」
「元々来ていた面々についてはこの資料を見た方が早いわ。」
浦部は紫が手に持っていた資料を目に通す。そこに何故か詳しい碓氷が背中から覗き見る。
「どう?どこにいるかわかるかしら?」
「今はわかりません。只、貴方の仲間さんがどんな方かを覚えました。」
浦部は資料を軽く振って見せて答える。資料の中にはレミリア含む拉致された4人が書いてあった。
多く見積もっても愛国者に攻撃するのはあと三回か。正直なところ浦部は無駄な血も流れて欲しくないと思っていた人の一人である。だが彼は平和主義ではない。むしろ人道的な面よりも直接自分に降りかかる罪業を軽くしたく、目立った証拠は0に近付けたかったのが本望だ。
そのとき、藤本が入ってきて。次に動きのある愛国者達のアジトの位置を述べた。場所は千葉の山奥の倉庫。そうとなればと浦部は準備にとりかかった。
テコ入れ済み(2015・5・23)