都内某所、愛国者の日本支部長は昨夜の浦部について頭を悩ませた。裏切って荷物を分捕られた。このままでは、自分の祖国の為の計画が音を立てて崩れてしまう。抹茶を啜り新しく作られる巨大な黒曜石のオブジェの完成を祝う式典について取り上げた新聞の一覧を無造作に置き書類を持った部下に問いかける。
「状況は。」
「只今指示を送ったところです。今動かず、予定通り夜を待ってそれぞれの港に行くことになります。」
「港の間の距離は。」
「列島を挟んでいます。もし姑獲殺しが片方を助けようとももう片方は船により本国へ運ばれます。」
「ふむ。下がってよい。」
部下は部屋を後にしてぎいいと音を立てて扉が閉まる。まずリーダーのレミリアを取り戻されたのは大きいがまだ三人だ。それにいざとなれば彼女に向こうの世界から拉致してもらう。そして此方の手に落とす。メリットとしてはこちらに強力な面々が手に入る。そうボスは言ったのだ。奮起せねばとネクタイを締めて、その場から去った。
藤本が岐路につき浦部と碓氷が支度に慌ただしくなる中、紫とレミリアは紅茶を片手に情報交換もとい談笑に耽っていた。
「やっぱり、天邪鬼の仕業と考えていいのね。」
「早合点はよくないわ。この世界に仲間を作り共闘しているということは考えられないこともないけども…。」
確かに今回の誘拐事件に現れていたのは普通の人間だ。それも底辺の極限を歩んでいるような人ばかりだ。しかし、それでは何故レミリアの仲間たちが現れる時刻、場所がわかったのか。
「偶然にしては気になるわ。もし私達が来るのを知ってなければあそこまでは動けない。」
「もしかしたら、幻想郷から出てきた不届き者は一人じゃないのかも…」
「…その意見も気に留めておかなくてはならないわね。」
レミリアは他人事のように呟きながら紅茶をすする。そんな彼女の態度とは対照的に紫は神妙な表情を浮かべていた。もし仮にも幻想郷の化け物が外の世界に現れた際、もしくなその逆のケースにしてもその各々の被害は場所にもよるが決して小さくはないだろう。どちらにせよ血塗れた地の上で戦うことになるのだから。
そこへ自分の準備は一通り終えた浦部が入ってくる。彼は今礼服に身を包んでいる。到底運び屋をやっているようには見えない。もし運び屋だったとしたらかなりの腕の持ち主だろう。
「お嬢様、ガラクタについてのレクチャーは必要でしょうか?」
「あれだけで済ませたら逆に不安だった?」
「半分当たりです。」
以前のレクチャーでは時間も限られていたため不足がちだったため苦笑いする浦部を見つつ紫は腰を上げて立ち呟いた。
「それじゃあ、私はお暇しようかしら。またなにかあったら連絡するわ。電話番号とメールアドレス、教えてくれない?」
「構わないが…」
浦部は自身のスマートフォンを、紫は一昔前の折りたたみ式のガラパゴスケータイを出して電話番号とメールアドレスを教え合った。
「変な使い方しないでくれよ?」
「そんなに胡散臭い人に見える?」
いや、十分見えるからと後ろでレミリアが苦笑いする。あまりにもミステリアスすぎる故の弊害の片鱗を浦部は感じ取った。
「じゃあ、健闘を祈るわ。」
そう言って浦部の家を後にする。間もなくエンジン音と共に遠ざかっていった。恐らく碓氷に乗せてもらって使えるところで能力を用いるのだろう。
「下に簡易射撃場があります。そこで教えますね。」
「達人になるまで付き合って貰おうかしら。」
「ちゃんと銃について自分で考えられるようになってからその言葉を言って下さい。」
「ならそこもレクチャーしてよね。こっちも努力するわ。」
レミリアが我が儘なことはさておき浦部が気にかけていたのはやる気がいつまで持つのかであった。途中でやる気を損なわれては講師としてのモチベーションも下がるからである。
「畏まりました。キツめになりますよ。」
「望むところよ。」
この気構えなら大丈夫だろうなと浦部は微笑む。逆にレミリアからしたらそれほどキツいものになることを示唆しているようにも見え、言葉は嘘ではないことを再確認する。
二人は台所の床下収納にカモフラージュされた隠し扉を介して地下の簡易射撃場に向かった。
地下の射撃場は全面コンクリートで覆われていて辛うじて的の向こう側に土嚢が壁を保護している程の差しかない。射座は一畳分の広さでレンジ幅は25mしかないがその割には暖房、空調設備は整っている上に隣にはあらゆる武器の入ったダッフルバッグの詰まった武器庫がある。バッグに詰められている理由はいざというときに全て詰め込めるからだという。
「狭いわね。」
レミリアの入ってすぐの一声がこうであったように、とにかく狭いのである。
「銃を持つことは違法なんです。そのため少しでもその証拠は小さくしないといけません。」
「でもあなたには法律なんて関係ないんでしょう?さ、教えてくれないかしら?」
浦部は当然ですと頬を緩ませて肩をすくめた。これほど意欲的なら教える側としてのやる気も俄然出てくる。
「それでは、今回はハンドガン、拳銃について教えさせていただきます。その前に一つ、心がけてほしいことがあります。」
「まどろっこしいことはやめて頂戴。もったいぶらずに教えてよ。」
「引き金に指をかけるときは、本当に撃つ気でかけろ。」
語気が自然と強くなる。その時の目はどこか狩人を思わせる鋭さと冷徹さを宿らせていた。
その後、浦部による銃器講習は予定の出発時間までの余暇をめいいっぱい消費してレミリアの銃器技術のレベルアップに貢献した。
テコ入れ済み(2015・5・23)