西に沈む太陽を背に浦部達は幹線道路を走っていた。次なる目的地にて要人を回収、愛国者の目を欺くため碓氷の愛車、トヨタ製のクイックデリバリーに乗っていた。外観を簡潔に言ってしまえば黒猫がトレードマークの宅配便がよく使っているタイプのものである。それを荷台が見えないように碓氷がメーカーに発注していたのだ。
荷台にはちょっとしたベンチが向かい合わせに二つあり今は左側のベンチで浦部が仮眠を取っている。当然、ほぼ無休に近い彼にとっては如何なる時でも決まった時間寝ていられ、寝ていても周囲を警戒する本能だけは常に起きていることもあるのだとか。
「目的地って結構遠いのね。」
反対側のベンチに座っている吸血鬼のレミリアは呟いた。彼女は彼女でいろいろと神妙な顔立ちで物事を考えている。特に仲間の安否に加えて銃というものを理解しようとするのには関心を持っていた。最初がらくた呼ばわりしたものの、中身を知るにつれて興味が沸いたのだ。かつて最強だった鬼を駆逐した人間がここまでの文明を築き上げたのだ。武器も発達しているに違いない、と。
「仕方ないっすよ。都心を中心として千葉の反対側に住んでる俺たちですぜ。」
碓氷は特別に気を使うことなくフランクにレミリアに応じた。基本的に彼の依頼者とは仲が良く、時には大企業の社長にさえ一人称を俺のままでも許された。
しかしそれはあくまで人間の話。カリスマ漂う吸血鬼には向いてなかったようで。むすっとして口を開いた。
「馴れ馴れしい。殺めてもいいのかしら?」
「虚栄を見せるよりはマシだよ。ところで弾幕はこの世界でも使えるのかい?」
脅し文句にも冗談と理解して屈することなく自分の流れを維持しながらクイックデリバリーを首都高速に入れる。千葉までのひとっ走りも楽になると頬を緩める傍らレミリアはその問いかけに応じるかのように弾幕の一部を生成しようとする。過程はレミリアには至極簡単であったのだが今は弾幕の気配すらない。
「駄目みたい。」
「でも生きているってことは種族そのものの能力までは影響なし…と。」
碓氷は思いを巡らせた。この世界による影響なのか、ほかに何かが関係しているのか。しかしあの談義の後の紫は平然と彼女特有の能力によるスキマワープで移動している。そこまでの理解が出来た時点でレミリアの一言が耳に入る。
「この国に不敬罪ってあるのかしら。」
「ありますが何故?」
「あなたをそれで牢獄に放り込める。」
得意げにレミリアは言った。不敬罪とは普通皇室の方々を辱めた際に適応される罪だ。いくらレミリアがカリスマ貴族とはいえ適応外に値するだろう。しかし彼女が言えば捕らえる行動にまで移させることが出来るほどのカリスマ性を持っていたため冗談とは捕らえきれなかった。
「きつい冗談だ。」
でもレミリアの不敬罪なら受けてみたいかもと心の中で思った自分に苦笑して碓氷はアクセルを踏んだ。
その時、彼の仕事用のスマートフォンが鳴る。普段からプライベートと使い分けている彼はスマートフォンを二台携行している。
「はい。」
「私よ。」
「紫さん?どうしたんですか?」
「今回だけちょっと回収してほしいものがあるの、いいかしら?」
「本当にあるものであれば。さすがにないものねだりされても困りますので。」
苦笑いしながら碓氷はミラーを見た。怪しい動きをする車があれば今すぐ振り切らなければならないが、今はその様子もない。話を続けた。
「で、品物は何ですか?」
「黒曜石の飾りね。保護対象の近くにあると思うわ。」
「了解しました。」
そう言うが先か、電話は切れてしまう。
女性と付き合うって、本当に大変だな。溜息を吐きながら碓氷が看板を見ると千葉に入っていた。
世界は変わって幻想郷は博麗神社へと移行する。白黒の魔法使いの霧雨魔理沙と紅白の巫女の博麗霊夢はようやくここ数日で変わったことについての調査が済んだらしく霊夢の仕事場であり住処である博麗神社にて魔理沙と共に情報を持ち寄った。彼女たちは先日異変がきっかけで知り合った友好的な方面全てに対して情報提供等の協力をあおいだ。その結果、村人からは奇妙な形の杖が多く入った箱や真鍮製の坐薬のようなものが入った金属の箱が見つかっていることがわかり、新聞記者の烏天狗に聞けば地霊殿や妖怪の山の麓で怪しい動きが見られているようだ。
腑に落ちないのは白狼天狗に聞いたときだ。以前に追いかけていた天邪鬼はこの幻想郷にはいないと言うのだ。まさか死んだのかと魔理沙は疑ってみるがそれに関してはもう地獄の方々に聞いてみたが死神曰く見てないとのことだ。
「もしかしたらあの天邪鬼をさ、取り逃がしたからか?」
魔理沙は決まり悪そうにため息を吐いた。やはりあの獲物のせいと睨むのは妥当なのだろうなと思った。多少とはいえその天邪鬼の起こした異変解決に関与していたため、そう睨むほか無かった。
「それもあるけど魔理沙、他に気にならない?協力者がいたとかさ。」
本来巫女は信頼ありきのものだがここ幻想郷ではこの巫女は大体問題解決に回されるため人を疑うということを覚えてしまったのだ。当時は天邪鬼を捕まえる為に包囲網を敷いて目的達成まで時間の問題だった。それなのに逃げられるのにはなにかある。
「でもよ、霊夢、あのあたりに協力できる余地なんてあったか?」
胡散臭そうに目を細めて見つめてくる魔理沙に反論するように霊夢は口を開こうとした。しかしそれが先か、軒先にいつものスキマ、所謂境界の裂け目が現れ、そこから紫が当然のように現れる。彼女もまた胡散臭いが外の世界に行ける数少ない人なのだ。
「お待たせ。お二人さん。」
「で、どうだったの?」
「あの天邪鬼の仕業かどうかは知らないけどが向こうにもコミュニティを形成していてどう言うわけか貴方達の常套手段、いわゆる魔法や弾幕が使えなくなってるわ。そのせいで紅魔の面々が拉致されたわ。」
霊夢と魔理沙は驚いた。
「それ本当かよ!」
話はまだ終わってないと言わないばかりに手を突きだして見せて人差し指を立てる。
「でも外の世界に協力者がいるわ。現に彼らはレミリアを確保してくれている。だけどもこの事は紅魔の関係者には内緒よ?」
無論、身内が攫われたと聞けばあの門番は黙ってないだろうから、紫は口止めを促した。霊夢も魔理沙もそのことを理解した。
そこにふと霊夢が問いかける。しかし内容は当然紅魔についてではなかった。
「もしかしたら犯人が向こうにいるのも否めないけどその場合は?」
霊夢が心配していたのは、弾幕から空を飛ぶ能力までも使われない状況の下、どのようにして犯人を確保するのかの手段だった。
紫はあたかも待ってたかのように切り返した。
「これの扱いを習っておいて頂戴。魔法も弾幕も御札も使えない領域に出るから、役に立つと思うわ。」
そう言って再び小さなスキマを生み出し、そこから小さな鉄のからくりの塊二つが厚紙の箱と共に現れる。当然、霊夢も魔理沙もあまり見覚えのない代物であった。
「これは?」
「これは『銃』と呼ばれる武器で火薬を用いて『弾』を発射するためのからくりね。月にも似たような物はあるけどこれは火薬で強引に打ち出すものね。向こうの時間軸じゃあ100年以上前からある武器よ。ただ、当たったら致命傷よ。」
紫はそれぞれ二つの茶色のアンティーク感漂う革製のチェストホルスターに収まった二つの拳銃を一つずつ手に取り説明していった。片方は外の世界の昔の軍隊の将校が護身用にと持っていたもので型番は後期型の南部14年式拳銃。もう一つは外の世界の独裁政治を築いていた国で作られたというワルサーP38である。どちらも性能に差はないからどちらにも優劣はつけがたいのだ。ちなみに何故ここ幻想郷にあるのかと霊夢が問えば、”銃も進化していくから性能が良かれ悪かれ古いものは不要になって忘れられてしまう”と微笑み付きで返されたそうな。
話し合った末、霊夢が南部14年式を、魔理沙がワルサーP38を取ったのであった。
「扱いに慣れるまで練習よ。今竹林の空き地に射撃場を作ってもらってるから出来るまで待機でお願いね。」
「分かったわ。」
「OKだぜ。」
テコ入れ済み(2015・5・23)