数分前、浦部は碓氷に配電盤をジャックさせて電気的なトラブルを演じてもらい、その隙に倉庫の中へ侵入した。構成員とはいえ練度はさほどなかったのだろうがすんなりと奥に入れた。さすがにこのざまなら構成員の一人を装ったほうがよかったんじゃないかと浦部が愚痴った程である。
そして今事務所でリストのデータを写真に撮って碓氷に送る傍ら、嫌な情報を見た。今晩に横浜から咲夜が船で送られるらしい。浦部はその旨を碓氷だけに話した後、トラックへ向かった。
14tトラックの荷台に入った浦部は中の木箱を吟味していった。すると奥に大人二人が裕に入りそうな木箱が二つあった。それらには分かりやすく黒曜石のアクセサリーがはめ込まれていた。蓋には何の仕掛けもない。周囲を見て頷くと木箱を四回叩く。すると中からも応答してくる。help…、モールス信号で助けを求めてきた。紫の言うとおりだ。浦部は道中にて手に入れたバールを用いてみしみしと蓋を引っ剥がす。
中には紫色の長い髪に寝間着のような服を着た少女が入っていた。帽子には月のアクセサリーがついていた。間違いない。
「あんたがパチュリーノーレッジか?」
「ええ。」
すると外から愛国者の声が聞こえてきた。やれやれと神妙な顔でバールを物陰に隠しパチュリーに言う。
「すまない、一回入るぞ。」
ちょっととパチュリーが制止するのもつかぬ間、浦部はパチュリーの箱に入り、箱を閉じる。中はとても窮屈で下手したらパチュリーの胸元に触れるどころがべったりくっついてしまいそうな空間にいた。顔まで真っ黒になった男と鮨詰めされる。そんな事案が現在進行形で起こっていた。
目の前に愛国者が二人来る。中国語なのかよくわからない言葉を使っている。
「どういうつもり?まさかストーカーか変態?」
「レミリアお嬢様の命で助けにきたと言えば納得するか?」
「レミリアが…?無事なの?」
「安全な所にいる。大丈夫だ。」
「外の世界は幻想郷よりひどい扱いをする輩が多いってドウジンシで読んだことあるわ。貴方もその口?」
浦部は内頬杖を噛みちぎる思いになった。同人誌はよく碓氷が買ったりするが浦辺本人は読んだことすらない。今ここで同人誌とはどういったものかを知り、少々黙りこくった。
「あいつらはそうかもしれんが、俺はそこらの屑じゃない。そうでなけりゃこんな白馬の王子様の役は引き受けられねえよ。」
言い終えるのが先か話が終わったのか愛国者達はトラックを出て扉を閉じていた。それを知ると浦部は真っ先に箱から出てパチュリーを箱から出す。押し問答している内にトラックは動き出していたようだ。
「言っておくけど、今は魔法は使えないわ。」
「知ってる。」
幸か不幸かまだ人を傷つけていない白刃のボウイナイフを抜きそれで黒曜石のアクセサリーを木箱から二つとも外す。
「それ、魔道書で見たことあるわ。魔力そのものを封印する石ね。」
「知っているのか?」
「ええ、かつて月の都で治安維持のために研究されていた技術よ。今は結界で賄うことができるから不要になってたけども…それが何でここに…」
「幻想郷の連中が持ってきたんだろう。」
そう一蹴しながらもう一つの木箱をバールで開ける。中では蝙蝠の翼を背中に大きなそれを一対、頭に小さなそれを一対生やした長髪の少女が爆睡していた。
「呑気なものね…」
どうやらこの子が小悪魔のようだ。拉致されたら心に余裕ができなくなるのは当然だ。もしあるのならそれは桃姫並に誘拐されて慣れてしまっているか洗脳されているか、はたまたマイペースのいずれかだ。恐らくマイペースなのだろう。
「責めるのはここを出た後でだな。」
すると浦部は無線機を使い碓氷に連絡を取る。尚、英語での応答が繰り返されるが、これは襲撃者が日本人ではなく外国の諜報機関だと思わせるための言わばカモフラージュである。効果の有無は分からないが特定されるのを防ぐのには一役買えるだろう。
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「
無線をしまうとパチュリーは訝しげに問いかけてきた。あまり聞き慣れないのだろうか。もっとも、幻想郷で英語が話されているのかと問われるとこれまでの様子を見たところ日本語が公用語になっているのだろう。
「何を言ってたの?」
「この状況を打開する魔法さ。」
訝しげに問いかけてくるパチュリーに少しはぐらかして答えて壁に指向性のテルミット爆弾を設置してから他の木箱を漁る。中からはやはり密造銃や麻薬などの違法性の高いモノばかりであった。
「凄い量ね。」
「あそこは中継地点か何かだったんだろう。銃は使えるか?」
パチュリーは自信なさげにM1911のコピー品を手に取る。ガバメントの名で知られているそのハンドガンは45ACP弾を用いる。その弾はストッピングパワーに優れる分リコイルも中々なものだ。果たして魔法に頼りっきな魔女には扱えるのだろうか。
「知ってはいるわ。でもこれ粗悪品じゃないといいけど。」
ガバメントを二丁懐に放り込むとほら起きなさいと引きずり出した小悪魔の頬をぺちぺち叩く。
「ぁ…パチュリー様、無事だったんですねぇ…。」
「いつまで寝てるのよ。出るわよ。」
瞼をこすり起きる小悪魔を見て本当に暢気だなと浦部は呆れて何も言えなかった。
すると碓氷から英語で無線が飛んでくる。それを了解した浦部はすぐさまパチュリー達に怒鳴る。
「この車は事故るぞ!しっかりつかまってろ!」
無線により回収要請を受けた碓氷は改めて車のエンジンに火を入れる。
「さて、出発です!レミリアお嬢様!」
「分かったわ。」
レミリアはスライドを引いてベレッタを握る。浦部の持っていたそれに減音機(サプレッサー)を装着した。完全音を消すとは言わないが着けないよりはましの代物である。このときは何故か悠々と空を飛ぶこともできたし弾幕も放つこともできた。現に空中に浮いている。しかし自分が運ばれていたときと同様、パチュリーの周囲にもあの黒曜石の力が及んでいることなのは容易に想像がついた。その範囲に入ってしまえば魔力もへったくれもない。
「荷台よりここがいいわ!」
レミリアがこつんと足を降ろしたのは何と車のルーフの真上であった。揺れるのは当然知っているのだろうか。いや、彼女のような吸血鬼には何かしらの考えがあるのだろう。故に碓氷は反対もせずにただ注意喚起してアクセルを踏み込んだ。
「振り落とされないで下さいよ!」
碓氷の潜伏していた峠道は複雑に曲がりくねっており、さらにそこへクイックデリバリー自体の自動車の車高が高いために振り回されるようになる。そこを頭に入れてレミリアが車の上を選んだことを祈らんばかりにハンドルを巧みに回してコーナー一つ一つを裁いていく。
肝心のレミリアは驚いたことに揺れに揺れるクイックデリバリーの上でも異常なまでに安定していた。彼女はその余裕さから夜空を見上げた。望月の頃で奇しくも妖しく紅く輝いていた。頬を緩ませて呆れて呟く。
「パチュリーを助けるだけには少しばかり贅沢な時期ね。勿体ないわ。」
でもモチベーションが落ちることは無い。魔力が無くともあのガラクタがあるのだ。慌ただしく右に左に揺れる足場の上で静かに立つ。そのときに耳に着けた機械が車内の碓氷の声を届ける。
「もうそろそろ目的地です!」
「わかったわ。一発で仕留める。」
目の前に14tトラックが見える。そのトラックの中に浦部とパチュリー、小悪魔がいる。パチュリーとは親密な仲で特別な感情は無いと言えば嘘になる。しかし焦りは全くしなかった。
「前に。」
「畏まりました。」
レミリアのオーダー通り、ぐぐぐと少しずつ碓氷の車はトラックの前に出る。
「
「
くぐもった浦部の声を聴きながらレミリアは後ろに紅く染まった月を背負った気持ちで引き金を躊躇いなく、そして落ち着いて引いた。
咳き込んだ音はすぐに風で遮られてまばたきするのも束の間に運転手は頭に9mmのフルメタルジャケット弾を受けその人生にさよならを告げるや否や、トラックは荷台の右側に爆音と共に大きな穴を開けて右へ左へと蛇行運転していく。やがてトラックは横転し、アスファルトとの摩擦で火花をあげながらスライドしてようやく止まる。穴は上に向いていた。碓氷の車はすぐに止まった。
「もうちょっと大人しく止まってくれないのかしら。」
レミリアは理不尽な注文を今は動かない死人に要求しながら車を降りてトラックの穴の近くに歩み寄った。
テコ入れ済み(2015・5・23)