そう思った矢先、突然、サイレンが鳴り響く。その後船内アナウンスで大陸系の言語で何かを言っている。
「緊急警報だな。咲夜が逃げ出した。至急確保せよだとよ。王にしてもボスにしてもゾッコンみたいだな。」
「あら、もうご主人様がいるのを知らないようですね。彼等。」
「みたいだな。」
改めてウィスキーは咲夜の服装を確認した。数年前に日本にいる友人の行きつけのメイド喫茶でみたあのわざとらしい華美なフリルやリボンの装飾にニーハイソックスを履いたわざとらしいものではなく、本当にメイドという業務に特化し身形になっている。そこにUSPと投げナイフが加わってミスマッチな姿になっている。幼さを残した10代程の彼女の面立ちは
「察しの悪い奴が多いな。横取りを目的としてるなら別だが。」
「多分そうでしょうね。いい迷惑ですけど。」
「人気者は辛いな。」
「全くです。」
咲夜は溜息を吐いて呟いた。まさか自分目当てでウィスキーを除いた目の前の船員達が血眼になって探し回っていると考えるとうざったさと呆れが内側から溢れ出てくる。しかしそういった苛立ちを堪えて咲夜はウィスキーの後を追った。その時に遠くで叫び声が聞こえる。
見つかった。
咲夜がそう判断するが先か、船員のMP5kが吼えた。
軽い拳銃弾の音だが当たれば元も子もない。黄泉の国に一歩足を進めることになる。まだ自分が三途の川の船頭に世話になるわけにはいかない。咲夜はくっと顔をしかめてお家芸の時を止めての投げナイフをしようと物影から飛び出した。しかし彼女の目の前では相も変わらず時は動いていた。
「なっ!?」
「Damm it!」
ウィスキーは怒鳴り向かいの通路に咲夜をタックルで押し込む。そして防水扉を閉める。
「何やってんだ馬鹿!」
「え、こ、これは…。」
どう弁明すればいいのか分からず咲夜は戸惑った。時を止める程度の能力でナイフと拳銃弾をお見舞いするつもりが、その時を止めることが叶わなかったからだろう。そのときにふと首筋をなぞり違和感に気づいた。
「もう少しであの世に…」
「この首飾りを外してくれませんか!?」
防水扉の後ろでは金属音がカンカンと鳴り響いた。強引にでも開けるつもりだろうが無駄なことだがウィスキー自身余裕もなかった。
「艦橋に出たら外してやる!」
すると下側の通路から船員がM37イサカを抱えて走ってくるのが咲夜の目に留まり、すかさずUSPの引き金を引いた。その咳き込む音と共に船員の胴体に薔薇を咲かせた。
「畏まりました!急ぎましょう!」
「クールに、そしてスマートにな。」
ウィスキーはため息交じりにそう咲夜に付け加えると先導していった。
その後向かってくる敵がいればウィスキーがM416の引き金を引き頭をぶち抜いて彼等の脳漿をぶちまけて、見落としがあれば咲夜がナイフとUSPで丁寧に処理していき、数が多ければ閃光手榴弾や煙幕手榴弾、あるときはボイラーの管や消火器を撃ち爆発させで混乱させてから一気に纏めて屠った。
咲夜は外の世界の乾き切った戦いに翻弄されていた。そこには美もへったくれもなければ、かつて日本にあった武士道、西洋にあった騎士道に通じるものが排された、あたかも業務的なものになっていたからだ。魂と魂のぶつかり合いは全くない。あるのは静かな空間の中に突き抜ける貫通音だけだった。弾に当たれば死ぬというのに、その死がどこから飛んでくるのかがわからない。
そんな中、二人は機関室に入っていった。中は狭く複雑に入り組んでいて、ウィスキーはハンドガンに切り替える事を余儀なくされた。
「離れるなよ?」
「存じてます。」
お互い死角を埋めあうように背中合わせに進む。すると照明が落ち、暗闇に陥る。
「焦るなよ。」
暗闇に目が慣れていく、これならライト無しでもある程度戦える。事実、直後に咲夜に掴みかかろうとする船員の眉間に鉛玉を送って断ったのだ。サプレッサーにより発射炎は隠れ、咳き込むような銃声だったため、向こうは察知できてないだろう。
ウィスキーはひそひそ声で問いかけた。
「闇目は利くのか?」
「ええ、主は夜行性なので。」
適切にクリアリングを施しつつ、咲夜の応答に反応した。
「問題ない、フラッシュライトはつけなくていいからな。」
「畏まりました。」
これで暗所での敵味方の判別がつく上に向こうは視野をライトで確保して探している。居場所を教えているようなものだ。
「それにしても主はVampireか…。」
「その通りですわ。」
咲夜はさも当然のように答える。一体どういった世界に住んでいるんだ、見た目も似ているし名前も同じとなるとまさか…。
ウィスキーの思索に横槍を入れるように後ろからライトが照らされる、闇目に順応してしまった彼らの目にはいい目くらましになりお互いによろめき怯んでしまう。
「貰った!」
船員は手に持っていたフラッシュライトを備え付けたMP5が火を噴き、マズルフラッシュと銃声と共に9mmが吐き出される。
「Shit!」
ウィスキーは反射的に咲夜に抱き着き、キンキンと金属音が反響する中、ひたすらUSPの引き金を引いた。船員は糸の切れた人形よろしくに倒れ、血潮を床に広げていく
「銃声が!」
「近くだ!早く捕えるぞ!女の方だけでいい!ベト公は殺せ!」
船員が躍起になって駆け込んでくる。ウィスキーはそっと離れる。咲夜は無事らしい…。
「Are you right?」
「すみません、日本語で。」
「大丈夫か?」
「ええ、有難うございます。」
「急ごう、奴らもすぐに来る。」
ウィスキーはゆっくり立ち上がり咲夜と共に機関室を出た
もうじき艦橋に通じる通路に出れる。お互いの持っていた銃の弾も底が見えてきていた頃合いで安堵の表情を見せた。パイプで覆われた通路とはおさらばだ。咲夜達は通路に出て予めウィスキーが救援物資を置いておいた空になった倉庫で束の間の休息をとった。珍しくウィスキーは額から汗をかいていた。最も、咲夜も同じなのだが。どこか腑に落ちない、先ほどの目くらましを受けて以降、背中を見せてない。何かあったのか…
「銃撃戦は初めてだったか?」
「実のところは。」
「そうだろうと思った。吸うか?」
ウィスキーは煙草を二本シガーケースを振って出した。咲夜は吸うことを頑なに拒んだ。
「結構です。脂臭いとお嬢様に嫌われてしまいますし、長生きできません。」
「そいつはそうかい。」
咲夜の前でウィスキーは一本取ると使い込んだ金色のジッポに仄かな火をつける。咲夜はその火を興味深そうに見ていた。
「何だ?」
「いえ…どうして私を助けに…」
ウィスキーは紫煙を吐き出すと遠い目で呟いた。
「端折って話すと、お前さんの主の差し金さ。確か、レミリア・スカーレットだよな?」
「どこで知ったの?お嬢様は無事なの?」
咲夜の目の色が変わった。この状況下でも主を思う彼女にウィスキーは共感できる節があったか、黙って見つめた。もっとも、相手は祖国アメリカとそこに住む娘であったが。それと同時に先ほどの疑念が頭を過った。主レミリアと従者咲夜。まさか俺と日本の友人がよく楽しんでいたコンテンツのキャラクターそのものではないのだろうか。ウィスキーは思考が混乱しないように煙草を咥えこみ胸元の写真を出す。
「無事らしい、それとパチュリー、小悪魔も無事だと伝えてくれと言われてる。あとは咲夜、お前だけだ。」
「そうですか…その写真は?」
「娘の写真だ。自立もボーイフレンドも作っている。心配は要らないが…たまに愛しく思うんだ。」
「会えるといいですね…。」
「お前さんもな。さ、行こう。」
咲夜は立ち上がり、手持ちのナイフ、USPの弾数を確認する。やれやれとウィスキーもHk416をついて立ち上がった。もう外は目の前だ。
お久しぶりです。(業)です。
投稿が遅れてしまい、申し訳ございませんでした。
近況報告になってしまいますが春先に用事が立て込んでしまいまして、中々こちらに手を付けられなかったためこのような事態になってしまいました。
誠に申し訳、ございませんでした。
テコ入れ済み(2015・5・23)