少女達がSL広場に現れて数日後の夜、高級中華料理店では背広姿の男達で独占されていた。ここでは『愛国者』と呼ばれる大陸系マフィアの会合が行われている。内容は運び屋の契約だ。組織の内部でも上層の人間しか知らないものを部下には頼めない。それを脅しに揺すられたらたまったものではない。
そこで事情を知る気もない腕利きの運び屋、”
「どうかね?姑獲殺しさん、我がレストランの味は。」
机を挟んで向こう側にいる運び屋に幹部は問い掛ける。その佇まい、振る舞いは礼儀において受けるべき教育を受けきっていてほぼ完璧に近かった。
「恥ずかしながら料理には詳しくありませんが、それでも美味しいことは分かります。シェフは将来有望ですね」
上品に運び屋は答える。この丁重さが仕事にしっかりと反映されてのこの機会であろうかと組織の人間は思った。ここまでの徹底ぶりなら何を運ぼうが必ず達成してくれる。その荷物が放射性廃棄物だったとしても、だ。
「じゃろう?」
「話に移りましょう。お互いに約束事を決めておかないと後々トラブルになっては話になりません。」
「それもそうだな。」
男が指を鳴らすと部下は一枚の紙とボールペンを取り出し、皿の並ぶ机に置く。中には契約に関することが多く書かれている。男はそれを片手に語り始める。
「こちらが用意したトラックを新潟の直江港に運んでくれ。積み荷は木箱のコンテナで報酬は150万、別に荷物を確認してもらっても構わないが、封は開けないでくれ。その途端に契約は無しだ。尾行はない。護身用の
可能な限りの条件は整えた。あとは向こうの条件を聞くだけだ。
しかし当の本人はふと天井に何かがいる気配を感じたのか運び屋は視線を上に向けていた。
「わかったな。」
「畏まりました。こちらの条件としては支払方法は報酬は小切手で直江港に手配してくださると有り難いのですが…」
話題が山場を超えて下り坂になり徐々に進んでいく傍ら、運び屋が視線を向けた先の天井の端には紫色の断裂がありそれがすうっと失せ、ただの天井に戻った。
その断裂は高級中華料理店の裏路地に再び現れ、その中から一人の西洋人のような貴婦人が白い日傘片手に優雅な面立ちで歩いてくる。
彼女こそ先程の運び屋が感じた気配の正体である。その点で彼女はふと思った。能力を使って見ていたとは言え僅かな気配を感じ取ったあの運び屋の練度がどの程度か。
「彼にも頼む必要があるわね…」
何処か神頼みに近い雰囲気のある一言を口から漏らすと一世代前の携帯、所謂ガラパゴスケータイを片手に取り東京の繁華街がもたらすネオンの光が眩しく照らす人集りの多い道に消えた。
テコ入れ済み(2015・5・23)