少しずつ傾いていく貨物船のそばでヘリコプターの猛々しいエンジンは吠えに吠えていた。咲夜は手を振って呼びかけた。
「こちらです!」
しかし、一向に気づいてくれず、ホバリング高度は下がらない。
「こちらクルーザーからサクヤへ。応答せよ。船が傾いてきている。どこにいる?」
懐に入った小さな無線機から機長の声が聞こえる。斜度はだんだんと大きくなっていく。焦る気持ちを抑えつつ咲夜はそれを取り出し、叫んだ。
「船首にいます!早く乗せて下さい!ウィスキーさんも一緒です!」
「ウィスキー?あいつ死んだんじゃ…」
「まだ生きてます!ですが気を失っています。早く乗せて下さい!」
「分かった。」
ヘリコプターはギリギリまで降りてくる。もうすぐで自由の身だ。そうでなくても、それの一歩になる。咲夜は確信した。
そのとき、嵐の中に一発の銃声が聞こえた途端、右の二の腕に火箸が貫通させたような痛みが襲いかかる。銃声のした方向を見ると王がマカロフを構えていた。
油断したと咲夜が思うも束の間、隣でUSPのせき込む音がしたかと思えば王の眉間に紅の薔薇が咲く。
隣ではウィスキーが息を荒げて薄ら眼でUSPを構えていた。さっきの死んだ目とは違い輝きに満ちていた。
「See you,son of a bitch.(あばよ、クソッタレ。)」
それと共にガクンと船が大きく傾く、迷うことなく機内の白人男性と黒人男性は咄嗟にウィスキーと咲夜に手を伸ばし機内へと引きずり込んだ。
二人を収容するや否やヘリコプターは沈みゆく貨物船を離れていった。
「助かった…」
左腕から熱い血がとくとくと流れるのを感じながら咲夜はヘリに備え付けられている椅子に腰掛けた。機内は十二分に広く、男性が三人いた。自分たちを引き上げてくれた黒人白人コンビの他に日本人がいた。
「USBはあるか?」
「はい。」
その日本人にUSBを渡すと即座にファイルの中身を確認する。その間に肌の黒い男性はあの左腕の傷を薬で治してくれた。無駄のない正確な手つきだった。完治にさほど時間はいらないと黒人の男性は言った。ふと彼が背中を振り返った。そのとき白人の男性が身を横にして安静にしているウィスキーに輸血パックを繋いで応急処置を施していた。まばらながらも意識は戻っていた。咲夜はほっと胸をなで下ろした。その際白人が咲夜を呼んでウィスキーの横に来るように言った。隣に来ると虫の息でウィスキーは問い掛けた。
「サクヤ、なぜ命令を無視して俺を助けた。」
「貴方の娘に会うには情報量が少ないのですよ。もっと聞きたい話もありますし。」
ウィスキーは溜息を吐いて嗄れ声でつぶやいた。
「てめーなんか大嫌いだ。」
「私も死にたがりの迷惑な人の面倒を見るのは嫌いです。」
「」
咲夜は微笑んで返す。ウィスキーは疲労でそのまま眠りについた。
大荒れの北太平洋とはうってかわって、望月を過ぎた月が綺麗に浮かぶ静岡空港の端で、浦部とレミリアは待っていた。空港の警備員には浦部曰くCIAという組織が扮したお偉方のおかげで話をつけてくれていたという。それにしても五月蠅い、あの空飛ぶ鉄塊の放つエンジン音が非常に耳障りだ。
轟音を上げて旅客機が飛ぶと隣の浦部は口を開いた。
「こんなこと言うの何ですが…昼夜が逆転しそうです。」
「私についていたらそうなるわね。生きてる時間も違うんだし。」
「まぁ元の契約を拡大解釈すればギリギリ許容圏内ですね。」
浦部は髪をかきむしった。整髪剤で固めていたオールバックの髪も今では天然パーマと言っていい、というより天然ウルフカットに近いものになっていた。本来なら身なりを整えてほしいのが本心であったがそれよりも休みなくパチュリーや小悪魔といった自分たちのメンバーを優先してくれたから目を瞑ってやってるのが現状だ。それにあくまでも紫との契約でレミリアの側にいるのはついでのようなものだ。
「…今度あのスキマ妖怪に追加手当を請求してやろうか…」
「まぁまぁ、間違いは正せるからいいじゃない。まぁ限度もあるけど…あ、あれが”へりこぷたー”よね?」
レミリアの見上げた夜空に風を切りながらプライベートヘリは降りてきた。ダウンウォッシュに煽られてそれぞれの服は風に靡く。ヘリコプターが着地するとドアが開きイヤーマフを付けた黒い肌の人間、白い肌の人間が担架を担いで下りてくる。レミリアはその担架を不安な目で追った。
「あれは?」
「咲夜ではなさそうです。ほら。」
浦部が指差した方向にはヘリコプターのドアから顔を出した咲夜の姿があった。咲夜はレミリアを見つけると駆け出し、その胸に飛び込んだ。
「お嬢様!」
レミリアは黙って受け止め、咲夜の頭を撫でた。咲夜はレミリアの腕の中で主の無事と再会を嬉しんでわんわんと泣いた。
そんな再会の時に茶を濁すまいと浦部は車の中に入り、改めてオールバックを直し始めると、日系のアメリカ人が堅いトランクを片手に窓をノックして話したがりそうに見つめていた。事前に聞いていたCIAの人間だ。
「Are you Urabe?(あんたが浦部か?)」
「Yes,What's wrong?(ああ、何か用か?)」
「May I ask you a favor?(頼みがあるんだ)」
頼みごと、そう聞くと浦部は車の外に出た。日系は浦部よりも背が低く、社会人としては心もとない体つきであったが、サングラス越しの瞳は洗練された日本刀よろしくに鋭かった。
「What's It?(何だ?)」
「CIA was seeing your movements nowadays(CIAはこれまでのあんたの動きを見てきた).I looks like you took back she and her's friends from Patriot.(見たところ愛国者から彼女たちを奪還してくれたみたいだな。)」
レミリアのことを言っているのだろうか、だが彼らにはお見通しなのだろう。ここで嘘をついても仕方がない。浦部は首を縦に振った。
「Yeah.(ああ。)」
「Please research Patriot and tell me their conspiracy(愛国者を調査して我々に彼らの計画を教えてくれないか).Of course,your wages will be ready(勿論、報酬は弾む。). How do you that?(どうかね)」
所謂CIAとの共同戦線だ。しかし、調査は専門外なうえに今は既に運び屋としての仕事を
「I'm sorry,but I refuse it.(申し訳ないが、断らせてもらう。)I don't know about it(計画については知らないし),and having duty.(やることもある。) 」
「Um…Okay(ああ…分かった),I'll request your friend(あんたの友達にでも頼むよ).」
「That's a good idea(いいアイディアだ).Please do so(そうしてくれ).」
「And this her present from Mark(それと、これはマークから彼女へのプレゼントだ).」
「Mark?」
おそらく担架で運びこまれていた人間のことだろう、日系はトランクルームに箱を入れながら続けて話した。
「His injured is badly(ひどく怪我を負っていてね),Maybe he will die(もしかしたら死ぬかもしれない).If so(もしそうなれば),his trace about CIA must erase(彼のCIAにいた痕跡は消さないといけない。).This Hk416 assault rifle is it(このHk416突撃銃もそれだ。).Please take it and give Sakuya.(これを受け取って咲夜に渡してくれ)」
日系はそうぼやきながら箱を開けた。中にはカスタマイズされたM416が顔を覗かせていた。
「Are you right?(いいのか?)」
「Yeah(ああ),this is one of reward(これは報酬の一つだ).」
「Thanks,Have a nice day.(ありがとう、良い一日を)」
「You,too.(あんたもな。)」
日系は浦部と握手してヘリコプターに戻った。それとすれ違ってレミリアは浦部に問いかけた。
「どうしたの?」
「なんでもありません。咲夜さん、こちらに」
「どうしたのですか?」
トランクルームの前に立たせると咲夜はあっ…と言葉を漏らした。言うまでもなくその銃は彼女を外に出してくれたウィスキーの使っていた銃そのものなのだから。
「マークという人から贈り物だそうです。」
「マーク…。」
「咲夜、知り合い?」
咲夜は首を振った。
「いえ、存じません。ですが得物は頂いていきましょう。」
「それもそうね。浦部、行くわよ。」
レミリアは浦部の車の後部座席に乗った。咲夜も何となく察したかガンケースを閉じてトランクを閉じた。
「咲夜さん、自己紹介が遅れました、私、浦部正武といいます。以後お見知りおきを。」
浦部は一礼して後部座席に座るようにと扉を開けた。
「変な真似をしたら、わかりますよね?」
「貴方の主を預かっていても、疑われるのですね。」
苦笑いする浦部に咲夜は反論のしようがなく、信じるしかなさそうねとため息を吐きながらBMWに乗った。
「警戒する必要はないわよ。」
「畏まりました。」
咲夜はそのまま疲労で重くなった体の力を抜いてすやあと眠りについた。
テコ入れ済み(2015・5・23)