21世紀に入って早十数年、日本の技術と文化は発達し、その加速度も高いものとなった。真っ当な人生を送るサラリーマンとその家族達は今ある平和を唄い、生活を豊かにしていった。
その技術の産物のビルの群が夜空に向かって伸び、深夜を鮮やかに染める頃に、
しかし、彼の仕事はツアーコンダクターの他に、裏社会の運び屋としても名を馳せていた。定刻通りに届け、契約通りに行動し、依頼人を嗅ぎ回らないことの三つの了解と父の築き上げた姑獲殺しのブランドの産物であり、親父の代から続けている職である。
街灯やビルから零れる照明を照り返すブラックの愛車を日比谷の辺りの交差点で止める。無論赤信号である。そのとき、浦部は”何か後部座席にいる”という感覚を背中で感じて振り返る。警察や反感を買った以前の依頼人か、とにかく誰かにつけられていたのだろうか。公安に尾行されることは確かにあったがそのときはあからさますぎて声をかけて追い払えたが今回は事情は違う。夜更けで誰もいない日比谷の通りだ。気配を感じる方がおかしい。
「…気のせいか」
当然、運ぶことのある幻覚の出るような薬物はおろか、煙草すら吸わない健康体の彼だ。嘗て陸上自衛隊のレンジャー訓練で培った高級懐中時計と同じくらいの精度を誇る勘と強靭な心身を自負しているはずだが、その勘は外れていたにも思えた。信号が青になって車のアクセルを踏み、帰路へと進めた。振り返ってもあの気配はない。
彼の家は郊外の高級住宅街の一角にあり、そこに弟分と二人で暮らしている。
ガレージにBMWを止めると車から出て、フェンスを下ろす。
そのときにまた、あの感覚が蘇る。何か分からないが、ガレージの横に何かいる。そこまで読めた彼はふと言葉をかける。
「俺に用か?いるんだろう?」
するとその角から貴婦人と思わしき女性がゆったりとした足取りで現れる。髪は金髪で独特のシルエットを持つ白い帽子、紫色のドレスといった姿である。
「明日も運び屋の仕事を?姑獲殺し。」
貴婦人は上品に浦部に問いかける。浦部は一瞬冷や汗を額に露わにした。姑獲殺しの名を知っている。依頼の時に依頼者が契約の場をセッティングしてくれるから比較的安全に事を進められたが今回は別物だ。もしかしたら掃除屋かもしれない。そう思い彼女を警戒して語気を少し強めて貴婦人に言った。
「何のことだ。御引き取り願おう。」
「一つ頼み事があるの。明日の積み荷を確保して私の元に届けて。」
この貴婦人は何を言っている。ふと浦部は失笑しそうになるが威厳を保つため堪え威圧感を漂わせながら言い返す。商売で運び屋をやっているが故に契約違反してしまったときの失態は大きい為、苦い思いをするだけではとどまらないのだ。
「断る。」
「そう、明日乗る自動車は4トントラックで白の車体、ダッシュボードに黄色の無線機、桃色の日傘、車内ミラーにトルコ石の使われている
言いたいだけ言い終えるとその貴婦人ははらりと髪を靡かせながら踵を返して元来た道を帰る。詳しい契約も報酬の交渉をせずに帰った彼女の後を引き留めようと路上に出る。
しかし、彼女はもう道にはいない。気配もなく、本当にいなかった。浦部の自宅の前は長い道路があり、遮蔽物もほとんどなく、左右どちらにも50メートル行けば交差点はあるが短時間で行ける距離ではない。幽霊でない限り視界から逃れるのは困難を極めるだろう。いや、もしかすると…
「気味が悪い…」
考えすぎた浦部は過労かと頭の中で思い、家に入りゆっくりと休み平日最終日に向けて一日を終えた。
すみません。まだ東方成分が足りないですね。ですけど突然…とかその手のものは個人的に了承しがたいものがあるのです。ご都合主義は入れられないのです。身勝手ながら誠に申し訳ございませんが首を長くしてお待ちください。
テコ入れ済み(2015・5・23)