色々と葛藤するが仕方なく浦部はトラックの荷台を開けて調べ始める。
中には木製のコンテナが両脇に積み上げられている。中身は不思議と気にならなかったが問題はその奧にある空間である。普通荷物は奧まで積み込むのが定石だが何かがいるように思えて仕方がなかった。人間でも動物でもない恐ろしい何かが。
浦部は荷台に入り扉を閉じると護身用にと依頼人から許可を貰って所持しているベレッタ92FSを懐のホルスターから引き抜いて弾倉を叩き込み、シルバーフレームのスライドを引き9mmパラベラムを薬室に進め、奥へ進めた。
するとその空間に鎖で雁字搦めに締められた棺桶が鎮座していた。しかもその棺桶自体現代の四角形ではなくファンタジーで垣間見るタイプのものだったのだ。蓋の中央には米粒程の黒曜石が水晶に包まれた装飾があり非現実的になっている。
「積み荷を持って逃げない…」
そう自分に言い聞かせながら南京錠を常に念のために持っている二本一組の針金を引き抜きピッキングし、解除して鎖をほどく。ここまで棺桶に変化はないが、その何もないところに潜む不気味な雰囲気が気持ち悪かった。
「…」
浦部は裏仕事を始めて以来に味わう恐怖を奥歯で噛みしめて棺桶の蓋を開ける。
中には仰向けに死んでいるかのような幼い少女がいた。しかし肩は呼吸で僅かながら動き、健やかに寝ているからまだ生きている。しかし浦部は逆にそれがおどろおどろしく感じた。何かの化け物ではないのか。
「おい!何してる!」
すると依頼主の監視要員なのだろうか厳つい男が二人ほど荷台に入り込んでくる。そして懇切丁寧に扉まで締め切った。それにより外からは見えないことを良いことに懐からマイクロウージーを抜いて向ける。
「今から向かう」
「残念だが、契約は破棄させて貰う。その棺桶を開けてしまった以上は。」
浦部と男達の距離は手が届かない。かと言って自分の持ってるベレッタ(ハジキ)では裁けない。どのみち契約は破棄されるため今回の仕事は終わったわけだ。しかし、人生まで終わるのは理不尽極まりない。
外はまだ暗い、日が昇るのを見る間もなく生き絶えるのかと思ったその刹那、少女は上体を起こし、目覚めると同時に呟く。その声はどこか心を引き寄せる何かを持っていた。
「血…あなたのを頂きましょうか。」
一番近くにいた浦部…ではなく監視要員の濱田に飛びかかり、マイクロウージーを構えていた腕を払いのけ、マイクロウージーを弾き飛ばし、壁にたたきつけ、ねじ伏せる。
それに注意を幼女に向けた安井の額に銃口を向け、躊躇いなく引き金を引く。
事切れた相棒を余所に、子供なのに飛びつかれた濱田は成すすべもなく助けを相棒に求めるもその声は届かず、じたばたとし、そのまま力なく息絶えた。
「いい子いい子…」
魂の抜けた男達の遺体の手首にかぶりついて何かを吸っていく。目の前にいるのは紛れもなく吸血鬼だ。そしてちゅるちゅると音を立てて飲んでいるものこそ血だ。寝ているときには気づかなかったが蝙蝠の羽がそれを裏付けるように少女の背中についていた。浦部は自分が運んでいたモノの正体を知り、警戒心を緩めることができなかった。
「ふう…久しぶりの直飲みは質こそいいけど量が少ないのが嫌ね…」
下っ端二人の血を飲み終える。彼らは殆ど絶命したようなものだろう。少女はハンドガンを持ってる浦部自身に近づく。こうして立って改めて特徴を見ると蝙蝠の翼に紫色が仄かにかかった白髪、そして灼眼と理解できる。浦部は何があってもいいように引き金に指を通す。弾は薬室に叩き込んだ分も含めて14発、フルメタルジャケット弾が詰まっているが、それでも心許なかった。
「そんなに殺気立てないで。紫の遣いである貴方の分はいいわ。そんなことより、ここから連れ出してくれない?」
少女は妙に大人の雰囲気を持ついたずらな微笑みを見せた。浦部は手の中の銀に光るベレッタに安全装置をかけて懐に戻す。少女は飛びかかってこない。
「殺さないのか?」
「下手な真似をしない今の所はね。安全なところに連れて行ってくれない?」
「…積み荷と共に逃げよ…か。」
こうなることを知っていてあの貴婦人がなぜやってみてと言ったのかと浦部は苦虫を噛む。
「何か不服でも?」
「いいや、こちらの話だ。早くここから逃げよう。…名前は?」
浦部は少女の瞳を見たまま凍り付いた。格別気まずいモノを見てしまったのではなく、かと言って不埒な物を見るたわけではない。ただ名前もわからなかっただけである。
少女は呆れて浦部に言い聞かせた。態度は見た目にも関わらずかなり大きいことからどこかのお嬢様か。
「名前も教えてもらってなかったの?まあいいわ。私はレミリア・スカーレット。伝統ある吸血鬼の末裔よ。以後私のことは敬意を払ってお嬢様で。」
レミリア・スカーレット…浦部は自身の脳内で反芻しながらその名前を理解し覚える。外国人か。それと敬意を示すのは依頼人に対してよくやっているので使い慣れているから問題はなかった。
「畏まりました。お嬢様。では逃げましょう。」
「分かったわ。ところで日傘は?」
「心当たりがありますので少々お待ちを。」
浦部はトラックから下り運転席に入る。運転席に鎮座している桃色の日傘こそ彼女のためのものであろうと思えた。それとさっき買った品物を取って日傘をレミリアに見せる。
「これですか?」
「まさしく。貴方が持っていて。必要なときは言うわ。」
「畏まりました。」
浦部は頷く。なるほど俺はしばらくこの吸血鬼の末裔の執事の役を演じなければいけないのか。と心の中で理解する。
その直後。到底二台には収まりきらないほどのマフィアの部下がレミリア一行に向かってくる。まるで裏切ることを想定していたかのような人数だ。
「追っ手です。こちらへ。」
浦部とレミリアは道路脇の林へ入っていった。それも束の間、各の武器で武装した愛国者が後を追っていった。
テコ入れ済み(2015・5・23)