暗闇もあって男達から振り切れたようで浦部は息を荒げて側道に出た。そこにマカロフを慣れた手つきで通常分解(フィールドストリッピング)し、辺りにばらまく。
田舎の側道を通る車は非常に少ない。幸い木製の納屋がありそこの鍵を針金でピッキングし、レミリアとともに中に入る。ここなら暫くは隠れられそうだが、悠長に過ごすわけにはいけない。持ち主はともかく、あの男達が特定するのは時間の問題だろう。
「大丈夫ですか?」
「ええ、これからどうするの?」
「体勢を立て直して、一気に東京まで走ります。」
「一息つくから、できたらよろしく。トマトジュース飲んで待っておくわ。好物なの。」
そう言ってコンビニの袋を漁り、ストローを開けてトマトジュースを飲み始める。元々浦部が健康志向を意識して買ったものだが今の主従関係じゃどうこう言える立場ではない上に吸血鬼はトマトジュースを飲むという発見をしただけでも執事を演じるにあたり大もうけ同然なのである。
ちゅうちゅうとトマトジュースを飲むレミリアをよそにペンライトを着けて、納屋を物色し始める。幸いにも海外製の大型バイクとその鍵、救急箱を見つける。国内の大型バイクには大抵185 km/hで止まるリミッターという速度制限装置があるのだが海外製のものにはない。追っ手を振り切るには丁度いい跳ね馬になる。最高とぼやきつつ浦部は救急箱を引き出して、手早く治療にかかる。応急処置が故に簡素だ。ジッポで傷口を軽く炙って消毒し、消毒液をふっかけ、包帯で巻く。指を動かすと怪我する前と疲労が増す事を除いては他は変わりなく動かせた。これで握る分にはましにはなった。あとはスーツに付着した血である。こればかりは丁寧に処分しないと喉元に刃を突きつけられるほどに致命的な証拠品に化けてしまう。
「変わった治療法ね。」
「それでも今の医療現場でやれば罵詈雑言必死でしょうね。」
レミリアはトマトジュースを飲み終えて丁寧に置くと頬を緩ませてシルバーフレームのベレッタを浦部に差し出す。
「貴方のガラクタよね。返すわ。あとで使い方を教えてよね。」
浦部は言葉も出さずに頷いた。弾をカウントしたところ14発残ってて一切の発砲が無かったことを悟った。ある意味それはそれで助かった。だがそれを受け取ることはなく口を開く。
「弾倉が入っていることを確認して上のスライドを引いて弾を薬室に…」
「ちょっと!なんで今なのよ!?」
レミリアは呆れて小声で突っ込んだ。彼女からしたら悠長にうんちくを語る前にこの現状を打破するべきだと考えているだろう。
「まだこの辺りにはいないように思えます。今の内に万が一のために覚えて頂きたいのです。」
「…わかったわ。で、そのガラクタはどう扱うの?」
「弾が薬室に入っていることを確認してから…」
即席であるが浦部による拳銃講座は1分の説明で終わった。内容もあまり少なく、教えたのは撃ち方、リロードについてだけだった。彼曰く常に引き金に指をかける様子はなかったから大丈夫だろうと判断した。
丁度そのときに無線から指示が聞こえる。当然愛国者に対してのだ。
「この区域をくまなく探せ!ここらに民家はないはずだ!散開!」
民家はない。となるとここらの地理に詳しい奴がいる。ともかくこの納屋がばれるのも時間の問題だ。
そう思ったそばから例の男達の声らしきものが聞こえてくる。所々に大陸系の言葉が混じる。
もうここともおさらばだ。いつでもエンジンがかけられるように大型バイクの鍵を握り、差し込むが捻らない。棚のヘルメットに目を付けてこれも借りていこうと言わんばかりに手に取り、バイクのミラーにかける。それをレミリアに差し出すが頭を横に振る。
「私は結構よ。」
あまり推奨することなくヘルメットを棚にもどしさっき入ってきた入り口をその場にあった針金で雁字搦めにし、入り口を封鎖する。それと引き換えにバイクを入れた際の内側の錠を最後の一組の針金でピッキングして開け、留め具を抜き取る。もうこれで今は鍵なしで開けられることは不可能になってしまった。
「ちょっと聞いていいかしら。その…私を連れ去った周りにいるあの男達何者?」
「この国の者ではございませんね。日本海側の港に送るつもりでしたのでたぶん大陸系かと。」
「大陸系…?」
レミリアは首を傾げた。お嬢様、一般常識
を知らないのか。浦部は大型バイクにまたがり、鍵を捻る。
バイクは大きな咆哮を上げて目覚める。それに気づいた男達が納屋の勝手口の扉を蹴り始める。正面の扉が開いてることを知らずに。
「お嬢様、後ろに乗っててください。あと振り落とされないようにしっかりと掴まっててください。」
「わかった。運び屋の腕前拝見ね。」
浦部はヘルメットを被るとハンドルを握り、スタンドを直す。レミリアはその浦部の後ろに乗る。日傘はバイクのパーツの隙間に仕込んだ、いつでも出られる。
「おい!正面の扉が開くぞ!」
「銃を構えて待て!開けるぞ!」
下っ端なのだろうか日本語で懇切丁寧に説明してくれた。浦部はエンジンをふかし、そのタイミングを見計らう。
「3、2、1、開けろ!」
納屋の扉が開かれる、それを待っていたかのように浦部はバイクのライトを光量の一番多いハイビームに切り替えて点灯する。夜の闇に突然の光による目潰しは効いたようで目を押さえて阿鼻叫喚している。その間に浦部を載せたバイクは国産のバイクに比べて殺人的と言われるほどの加速力で一気にその場から遠ざかる。後ろからは乾いていて無慈悲な56式自動歩槍の銃声が弾と共に飛んでくるがそんなモノはあたりも掠りもせず、バイクはテールランプの光を残して闇の帳へと消えていった。
するとがたいのいい男が周囲の男達に叫ぶ。
「撃ち方やめ!何してる!早く車に乗れ!追うぞ!別働隊に連絡して挟み撃ちだ!」
暫く一本道だ、それを良いことに男達は迷うことなく車に乗りバイクの後を追った。
テコ入れ済み(2015・5・23)