君に見つけて貰うまでの物語   作:新世界

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はじめまして

『これは……ひどい……』

 

 ピンク色の髪の幼い少女は、ひどく衰弱していた。

 このままでは間も無く死んでしまうくらいに。

 私は迷うことなく、マスターの改造を免れた生命維持装置の一つにその子を放り込んだ。

 治癒効果のある液体に体全体を浸すタイプだ。

 

『生きているのが奇跡ね……』

 

 その子の現状はひどいものだった。

 意識はなく、健康状態は最悪……けれど何よりもひどかったのは、皮膚だった。

 異次元ロードの中で無防備に漂っていたせいか、放射線による被爆のような症状になりつつ、更に火傷を負ったような見るに耐えない状態。

 意識がないのがむしろ幸いね……恐らく目を覚ませば待っているのは地獄の苦しみ……鎮痛剤も投与しておきましょう。

 

『取り敢えずは様子見、というかこれ以上は何も出来ない』

 

 結局は船のAIでしかない私に出来る事はそう多くない。

 投与する栄養材の調整をするくらいかな……。

 流石に女の子の肌がこんな状態なのは、女として……元女として見過ごせない。

 あんまり詳しくないけど……たんぱく質とビタミンを多めに配合しておこう。

 

『さて……』

 

 異次元ロードを適当に飛び回り、マスターを探すつもりだったけれど……どうせ簡単に見つかるとも思えない。

 それならまずは、この子を安全な場所に届けるという目的の元に動いたほうが幾分か気持ちがマシかな。

 この子の遺伝子反応と近しい存在がいる星……世界……見つかると良いけど……。

 ……ただ、そんな事よりも、気になる事がある……凄く、大事な事。

 

『……なーんで()()の気配がするんだろう……』

 

 少女から、あのイカレ女の発明品の気配がする。

 人のオモイを歪ませる同類、そんな気配。

 ……『冠』に見入られていたマスターに似た気配。

 幸いなのはそれっぽいものを身に付けている訳ではないし、今は繋がりが途切れているらしい事だろうか。

 

『やれやれ、マスターと冠の事といい、本人はとっくに死んでるだろうに。遺したものがいつまでも災厄を振り撒くんだから本当に最悪……』

 

 あのグランドマスターはいつまでも……という思考が過る。

 新たなものを作り出す創造性……と言えば聞こえは良いものの、倫理も情も無視して自分の欲求のままに作るから、その全てが厄介なものばかり。

 データベースに残るのは……『杖』と付随する『泉』……『鏡』に私こと『船』、その後に作られたのが……『筆』と『剣』『槍』『盾』『冠』……らしい。

 恐ろしい……この世界にどれだけの厄ネタが転がっているんだか……恐らくはこの子の元いた世界にこれらのどれかがあって、影響を与えていたんだろう。

 

『……不安はあるけど、返さないという選択肢はない。まだまだ幼い子供だもんね。親元に早く返してあげないと……』

 

 むしろこの子に残る気配から辿れないかな……?

 同じ発明品であり、捜索や航行に特化した『船』である私なら出来ない事はないと思うんだけど……。

 …………いや無理か、気配が希薄過ぎるし結局途切れているからわからないや。

 その世界にたどり着いた時に正しいかどうかわかる可能性があるくらいで……。

 

『儘ならないわね』

 

 コポリ、少女の浸かる治癒液に、気泡が浮かび、消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ゴホッ……ゴホッ……ここ……どこ……?」

 

 目を覚ました少女は、そう呟いて不安そうに瞳を潤ませた。

 ……目を覚ましてしまうのは予定外だった……意識が目覚めると同時にバイタルに問題がなかった為に、治療中の患者のメンタルを優先して治療液は強制排出……簡単に乾かされた彼女は、開いたポッドの前で座り込んでいた。

 肌はまだ治りきっておらず、ひどいアザのような形で残ってしまっている……ただ、元の血色の良さを取り戻している部分もあるので、このまま治療を続ければ元の姿を取り戻すだろう。

 ……さて、このまま泣かせるのも忍びない……取り敢えずお話と説明をしよう。

 

【初めまして。私はこの『船』の制御AI.N……『天かける船ローア』です】

 

 ビリビリと部屋に響き渡る音に、ビクンと少女の肩が跳ねた。

 ……ちょっと音量ミスったな……マスターの時は意志があると気付かれたら面倒だと黙っていたせいで、音声の調整が疎かだった。

 ちょっと抑えて……よし、このくらいかな。

 少女は周りをキョロキョロと見回していた。

 

【失礼しました。私は貴女が異空間内で漂流していたのを発見し、救助致しました。既に命に別状はありません。完治するまで治療を続けさせていただきます。この船は人を安全に運ぶ為の船。貴女の安全は私が守ります。何か御要望はありますでしょうか?】

 

 堅苦しい言葉づかいは、人を守るAIと設定されているから仕方ないけど……目を覚ましていきなりこうつらつらと述べられて、彼女は大丈夫だろうか?

 不安そうに様子を伺う彼女の顔色は……爛れている事を差し引いても悪い。

 周囲に人の気配すら無い事に気付いている様子で、胸の前で両手を握り締めている。

 ……うーん、完全に怯えてますねこれは……なら、こうしよう。

 

【……まずは御近づきのしるしに、歌を一曲披露させていただきましょう。私は歌えるAI、楽しく賑やかで安全な航海を約束致します。それでは……タイトルは『WELCOME TO THE NEW WORLD!』……お楽しみください】

 

 流れ出すBGMは穏やかで、賑やかで、希望に満ちた音楽。

 みんなを宙に旅立たせた、私の歌。

 この子がどこの星、世界、時間にいたのかはわからないけれど……そんな彼女を歓迎するのならこの歌が相応しい。

 この世界が……どうかはわからないけれど、私は、『船』は、貴女を歓迎し……守り、明るい未来に導いてあげる。

 

「…………わぁ……!」

 

 少女は、半目だった瞳を見開き、キラキラと輝かせた。

 感嘆の息が漏れて、その体は自然とリズムを刻み始める。

 その手応えに、心の中で強くガッツポーズを決めた。

 ……正直、声色に感情が乗らないのがちょっと気に食わないけれど。

 

【~~~♪ ~~~~~♪】

 

「…………♪ ………………♪」

 

 それでも、この子が楽しんでくれているなら……笑顔を浮かべてくれているなら……。

 既に人ではない身だけれども、まるであの頃に戻ったみたいに……ありもしない胸が温かくなるようだった。

 とても愉快な気持ちが込み上げてくる……ああ、やっぱり……歌は良い……大好きだ。

 たとえ今は、喉を震わせる感覚すらない、人型ですらない機械の塊だろうと……その気持ちだけは変わらなかった。

 

「……すごい、すごいいいおうた! ローア……さん? おうたじょうずなのね!」

 

 歌い終え、静寂を取り戻していた船内に、興奮気味なカン高い声が響いた。

 少女は手をうちならして、感動を伝えるように言葉を紡ぐ。

 その様子についほっこりしてしまう……いやはや、やっぱり子供というのは無邪気にはしゃぐ姿が一番良い……。

 それは、どこの世界でもどんな星でもいつの時代でも変わらないね。

 

「あ、えっと……たすけてくれて、ありがとうございました、ローアさん! わたくし、『ハルトマンワークスカンパニー』しゃちょうのむすめ、『スージー』といいますわ!」

 

 そう自己紹介してくれた少女は、未だ興奮冷めやらぬといった様子で少し早口で言葉を紡いでいた。

 ……スージーちゃん、ね、ふむ……それで『ハルトマンワークスカンパニー』……か。

 ……流石にデータベースには載ってないね……まぁ世界が同じとは限らないから期待はしてなかったけど。

 それにしてもお嬢様だったか……こりゃあ早く送り届けてあげないと親御さんも可愛そうだ。

 

【『スージー』様……承りました。これより貴女様をこの船の仮マスターとして登録させていただきます。何か御要望、提案等がありましたら、なんなりとお申し付けください……ただし、私でも貴女様の元いた世界は把握しておりません。故に尽力させて頂きますが、今暫くは治療に専念して頂き、そこから本格的な捜索に入らせて頂きたいです……それで宜しいでしょうか?】

 

「そんな……あ……えと、それなら……!」

 

 自分の不甲斐なさに落ち込みつつも協力を惜しまない事を約束すれば……少女は沈痛な面持ちになったものの、ふと表情を明るくさせた。

 そして語った、自分が何故次元の狭間で彷徨っていたのか。

 そして紡いだ、父の作り出そうとしていた夢のマシンの話を。

 それの元になった、お伽噺を。

 

「ユメをかなえる、ぎんがのはてのだいすいせいにおネガイすればいいのですわ!」

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