君に見つけて貰うまでの物語 作:新世界
「…………わかりました」
「ローアさん、あなたをしんじます……ワタクシはどうすればいいのですか?」
「……りょうかい! 『レインバー』がったいシークエンスきどう!」
「スージー、いきます!」
ポップスターへと加速していく機械仕掛けの彗星、『ギャラクティック・ノヴァ』へとそれを越える速さであっという間に追い付いた『ローア』。
『レインバー』に搭乗したスージーと接続し、操作権を渡していた『ローア』こと『AI.N』は既にその選択を後悔し始めていた。
銀河を渡る旅で歳不相応に逞しく育ったスージーは、大胆な選択をとっていた。
『ローア』のおネガイの通りに『ギャラクティック・ノヴァ』を止める為に、破壊する為に、巨大な彗星の中に飛び込もう、と……すなわち。
「このまま、つっこみます!」
突撃である。
『ローア』のなけなしの武装、これまでの旅でアップグレードされた『レインバー』の武装、それらを総動員すれば不可能ではないと察したスージーの判断は早かった。
ぐんぐんと加速する中、攻撃するポイントを探り、標的を定めて、加速以外に使うエネルギーを武装に集中させ……。
『ローア』が苦言を呈する間も無く、それらは容赦なく無防備な『ギャラクティック・ノヴァ』の背面……から横にズレた発条のようなパーツへと殺到したのだった。
「ふぁいあー!」
ズドドドドド!
『ギャラクティック・ノヴァ』の周囲に取り付けられているパーツの中では比較的細めだったのが功を奏したのか、発条のようなそれは根元からバキリと折れ、『ローア』の横を通り過ぎた後に閃光とともに爆散していった。
その跡には誂えたかのように『ローア』のまま侵入可能であるだろう大きな穴が空き、スージーはそこ目掛けて『レインバー』のスロットルを全開にした。
そのままその穴に飛び込めば、『ギャラクティック・ノヴァ』内部へと侵入出来る。
上手くいった事に安心しつつも、『AI.N』は呆れたように内心でため息を吐いた。
『……結果的に上手くは行きそうだけど……なんだかなぁ』
全ては結果論……穴が空かなかったらどうしていたのだろうか。
とはいえスージーは『ローア』を操作出来ている事に加え、『レインバー』とは桁違いの火力に興奮し、瞳を爛々と輝かせている……水を差すのは憚られた。
元より、彼女のネガイを邪魔した負い目のある『AI.N』としては、自分の言葉を疑う事なく『ギャラクティック・ノヴァ』の破壊を目指してくれているだけで望外の状況だ。
このままのノリで、あの星を破壊して貰おうとスージーの操術に身を任せた。
「ここが……『ギャラクティック・ノヴァ』のなか……」
突入した内部は、見た目のつるりとしたイメージとは違いかなり凸凹とした機械的な光景だった。
どんな役割を果たしているかすらわからない無数の機械が乱立し、不気味な程に明るく、そしてそこかしこで充ちたエネルギーによってか様々な色で発光していた。
そんな機械の合間を潜り抜けているうちに、此方の進行を妨げるようにいくつかの機械が自立して襲い掛かってくる。
防衛用ロボットだろうそれらをスージーは的確に処理し、広大な彗星の内部を進んでいくのだった。
【内部一帯から凄まじいエネルギー反応がありますが、より強い反応のある場所が動力原、または制御中枢、ないしは重要な機関である事が予想されます。それらの破壊を推奨します】
「はい!」
元気よく返事をしたスージーが、飛来してきたロボットをまた撃ち落とす。
そんな最中、周囲の光景に『AI.N』は微かな違和感を覚える。
何かを、作っている……部品を組み合わせ、ベルトコンベアのようなもので運ばれている、そんな光景。
防衛ロボットを今まさに生産しているのかと思うも、今まさに襲い掛かってきているロボット群とはあまりにも毛色が違い、違和感は募るばかりだった。
「……よし、そろそろはんのうのあるところのちかくですわ! ローアさん、いきますよ!」
そんな思考はスージーの言葉に引っ込めざるを得なかった。
今は、目の前の事に全力を尽くす時……スージーの操縦をサポートするべく、『AI.N』は意識を切り替える。
スージーに頼んだのは自分なのだから、そんな自分は上の空ではいけない。
全身全霊で、この彗星を破壊する為にサポートをする、そう改めて心に刻み……強い反応のある地点へと飛び込んだのだった。
そこは広大な空間だった。
円形の部屋に太い柱が等間隔で囲うように並んでいる。
中心には透明な何かに覆われた巨大なハート。
あからさま過ぎて逆に怪しく思える程だった。
【……間違いありません。あのハートを壊せば『ギャラクティック・ノヴァ』は停止します】
しかし、『AI.N』は確信していた。
製造元が同じである故の直感とでも言うのだろうか。
ただし、事はそう簡単ではないようだった。
文字通り心臓部であるハートは透明な障壁に覆われ、生半可な攻撃は通じない……それが直感ではなく映像から解析出来る限りの情報だった。
【解析結果……周囲の柱からエネルギーがハート部分に集まっています。柱を破壊する事でバリアを解除出来る可能性が高い。柱のコアの破壊を目指す事を進言致します】
『ローア』の指示に、スージーは僅かに表情を陰らせた。
自分を救った『ローア』を信じていない訳ではない。
けれど、憧れのお伽噺の一つであった『銀河の果ての大彗星』、自分が帰れる可能性……そして自らの父が参考にして開発した夢のマシン……全てを自らの手で否定してしまうような気がして。
思わず、強く『レインバー』のスロットルを握り締めた。
「……はい!」
僅かに過った迷いを振り切り、スージーはスロットルを全開にした。
少なくとも、ネガイを言っていないにも拘わらず動き出した時点で『ギャラクティック・ノヴァ』という願望器はスージーのネガイを叶えてくれない。
そしてその行く先であろう星、『ポップスター』は道中いくつか見せてもらった映像に映っていたように、豊かな自然と穏やかな住民達の暮らす平和な星。
『ギャラクティック・ノヴァ』が『ポップスター』に被害をもたらすのか、そもそも行き先は本当に『ポップスター』なのか、確かな事はわからない。
「でも、もしもそうなったら……めざめがわるいですから!」
『ギャラクティック・ノヴァ』を呼び出そうと言い出したのは、呼び出したのは自分なのだから。
今は、『ローア』の語る可能性を信じて突き進むしかない。
スージーは柱に向かって飛び、上下に揺れるコアらしき部分にトリガーを引いた。
柱とすれ違いながらコアを撃ち抜き、背後で爆発音が響く中、次の柱へと狙いを定めたのだった。
「はかいさせてもらいますわ!」
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最後のコアを破壊した時、私は状況の悪さに気付いた。
透明なバリアが解除され露になるハート、後はそこにある程度の攻撃を加えれば破壊する事が出来ると思う。
しかしながら、そのある程度の攻撃、というのが現状なかった。
……端的に言えば、エネルギー切れだった。
「わっ!? ぶそうがぜんぶしようふか!?」
スージーちゃんの悲痛な声が響く。
これまでの道中でエネルギー効率を度外視し、破壊を優先した結果……スフィアエンジンの産み出すエネルギーを遥かに越えたエネルギー消費が連続してしまった。
故に、今や『船』を最低限動かすエネルギーしか残っていなかった。
破壊した後急いで脱出しなければいけない事を考えればギリギリ……時間をかければ勿論エネルギーは溜まるが……。
【柱のコアが再生を始めています。それに伴いバリアの再生が予想されます……心臓部を迅速に破壊しなければなりません】
時間を欲しているのは向こうも同じ……そして、あちらの方が条件が良い。
まだまともな妨害はないけど、時間が経てば経つだけ防衛ロボットが集まってくるだろう。
道中見えた生産している謎の機械も気になる。
……今ここで、バリアが再生されるまでに破壊出来なければ、ここにたどり着いた時よりも状況は悪くなるだろう。
「……………………わかった」
それを聞いたスージーちゃんは長い沈黙の後、レバーを引いた。
ガチャン、という音とともに私と『レインバー』の接続が解除され、唐突に船体操作権が私に戻る。
甲板に降り立った『レインバー』に乗りながら、スージーちゃんはその装甲を優しく撫でた。
可愛らしくデフォルメされた、首回りがもふもふの猫のステッカー……スージーちゃんが描いたデザインを私がプリントしたもの。
それを撫でながらじっと見つめたスージーちゃんは、意を決したように顔をあげた。
「『レインバー』をじばくさせます」