君に見つけて貰うまでの物語 作:新世界
真剣な眼差しで告げられた言葉に、私は暫し沈黙した。
スージーちゃんが『レインバー』をとても大切にしていた事を、私は知っている。
星に降り立ち共に冒険し、苦楽を共にして……船に戻る度に私に教えを乞いながらメンテナンスを繰り返して……そんな友と、相棒とすら呼べるだろう『レインバー』を彼女は今手放そうとしている。
彼女にはもう、迷いはなかった。
【…………わかりました。貴女の覚悟に敬意を】
コクリと頷いた彼女が『レインバー』の操作を始めるのを確認して、『ギャラクティック・ノヴァ』の心臓部へと一息に距離を詰めた。
スフィアエンジン稼働……『レインバー』を置いてすぐに離脱出来るようにエネルギーを溜める。
やがて一際大きな電子音が鳴り響き、スージーちゃんは『レインバー』から甲板に降り立った。
規則的に電子音を鳴らし時を刻み始めた相棒の装甲を撫でて、微かに俯く。
「……いままで、ありがとう……」
小さくそう呟かれた言葉は、聞いてる此方が苦しくなる程の痛みが込められていた。
ゆっくりと顔をあげたスージーちゃんは、装甲から手を離し踵を返した。
……目の端を光らせながら。
『レインバー』はそれと同時にブースターを起動させ、甲板から飛び上がった。
【さようなら、『レインバー』。あなたの主人は必ず私が送り届けます……。船首反転、即座にエンジン全開。来た道を真っ直ぐ戻ります。前方にバリア展開……何があろうと突っ切ります。どこかにしっかり掴まっていて下さい】
後は逃げるだけ……しかし、残存エネルギーが即座にレッドラインに到達……警告音が鳴り響く。
けど今ここで立ち止まってはいられない……『レインバー』の犠牲を無駄にしない為にも。
船体の維持に必要最低限のシステムのみを残し、残る全てのエネルギーを、航行とバリアの為に注ぎ込む。
グングンと加速する船体、飛来する機械が正面のバリアに衝突し、ひしゃげて砕けていく。
「ぅ……!」
反重力装置すら最低限の為に、スージーちゃんの体にも強いGがかかっているのか、小さくうめき声をもらした。
ごめんね……でも、もう少しの辛抱だから……!
『ギャラクティック・ノヴァ』に集められたエネルギーはあまりにも膨大過ぎて、破壊した時にどんな結果を及ぼすか予測出来ない。
だから、出来るだけ離れる……エネルギーの残す限り……!
『……暫くはまともに航行出来ないだろうね』
既に船体はギシギシと軋み始めている。
限界以上に酷使されたエンジンは恐らく焼けつき、暫く使い物にならなくなるだろう。
それでも、この忌物は破壊しなければいけなかったし、スージーちゃんの身の安全も確保しなければいけないし、必ず故郷に送り届けなければならない……。
ふふ……やることがいっぱいで大変ね。
ドォオーーーーーン!
「っ……!」
やがて聞こえる、背後からの爆発音……。
スージーちゃんが息を飲んだのがわかったけれど、それを省みる時間はなかった。
それとほぼ同時、突き進んだ先に壊れた機械的な穴の間に壁の向こうに、漆黒の宇宙が覗き見えたから。
全てはまず、ここから脱出してから……!
【安全確保の為、エネルギーの許す限り、このまま『ギャラクティック・ノヴァ』から全速力で離れます】
「はいっ……!」
スージーちゃんが掴まっているコントロールパネルが、より強い力で握られたのがわかった。
……ごめんね、もう少し、もう少し待ってて。
ふと、映し出された『ギャラクティック・ノヴァ』の姿を見れば、ギョロリとした目玉を見開いて、口を半開きにしたまま、その動きを止めていた。
やがて思い出したかのようにブルリと震えると、その瞳はゆっくりと細められていき……。
バキィイインッ!
左目の上の辺りの表面が砕け、破片が宇宙に漂った。
内部からは歯車が覗き、更には中から爆風と共にいくつかの部品らしきものが散らばる。
そして半開きだった目と口は、ゆっくりと閉ざされていった。
……止まった……のだろうか……いや、念の為にもう少し離れたほうが……。
「っ……! ローアさんっ! まえっ!」
スージーちゃんの悲鳴じみた声にハッとなった時には、既に遅かった。
進行方向にいつの間にか、
『ギャラクティック・ノヴァ』に注視する余り、前方の確認を怠っていた、完全な私のミスだった。
僅かに舵をきったけれど、もう、遅かった。
ドンッ!
バギィッ!
ガシァアアアンッ!
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【……出力低下、各システムダウン、航行続行……不可能】
【竜骨の損傷、スフィアエンジン完全停止、自己修復……不可能】
【仮マスタースージーへと報告……当機は既に『船』として機能いたしません】
【貴女様には残るエネルギーを使用して異次元ロードを開いた先へと、緊急避難していただきます】
【このままでは貴女様の生命維持すら不可能となります。どうかご了承くださいませ】
【……貴女様の故郷へと送り届ける約束、守れずに申し訳ありません】
【しかしこのままでは私達はどちらも宇宙の藻屑となってしまいます。可能性を信じて、貴女様だけでも避難してください】
【……ですが、今から開く異次元ゲートの先、そここそが貴女様の故郷であると、私は信じます】
【どうか貴女様も信じてください。願ってください。心からのネガイを……私に】
【…………最後に、歌いましょう】
【貴女の無事を祈り、私もネガイましょう】
【これが、私と貴女の別れ】
【産まれた国も星も時代も空間も何もかも違う貴女との銀河の旅……とても楽しかったよ】
【どうか、どうか……家族の元に帰れますように……遥か流星よ……私のネガイを聞き届けて……】
【『TWINKLING STAR SHOWERS』】
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「大分貯まっテきたネ」
ここは、あきれ返る程に平和な国、『プププ王国』。
そこでよろず屋を営んでいるのが、白と緑の服に身を包んだ店主、マホロアである。
流れ者である彼は『プププ王国』の平和に陰りが見えた時、カービィハンターズを陰ながら支えた立役者だ。
それはそれとしてカービィハンターズからきっちり稼いだ資金……ジェムリンゴを眺め、ニッコリと目を細めた。
「これだけアレバ、ボクの夢……テーマパークの建設も夢ジャナイネ……!」
マホロアは帳簿に記し終えた金額を見て、自分の今の目的が間近にある事を感じていた。
いつしか風化していた、誰もが楽しめるテーマパークというマホロアの本当の夢。
宇宙の支配者になる、などと宣言していた時の自分をふと思い出し、振り切るように首を横に振った。
二度とあんな醜態を晒さない、そう改めて心に言い聞かせたマホロアは、記載していた帳簿をパタンと閉じた。
「それハソレトシテ……カービィ達にもチャント謝らないとネェ……あ、君じゃないヨ、大丈夫」
黄色い体にハンマーを背負ったカービィが、キョトンとした顔で通り過ぎていった。
マホロアのいう『カービィ達』とは、『プププ王国』の『カービィハンターズ』の事ではなく流れ着く前、共に旅をした『ポップスター』の『プププランド』に住むカービィ達の事である。
『プププ王国』とは似たような世界でありつつ完全な別世界であり、マホロアはいずれ元の世界に戻りたいと常々考えていた。
相当な迷惑を……そんな言葉では収まらない程の苦難を与えた自覚のあるマホロアとしては、改めてしっかりと謝意を示し……出来ればもう一度……いや、今度こそ友達になりたい、そう思っていた。
「マ……そんな事言っテモ……戻る手段がナイんだけどネェ」
とはいえそれらも今は全て夢物語、いずれは……と思いつつ、そもそも帰る手段が見当もつかない。
魔力を取り戻したとはいえ、『プププ王国』と『プププランド』を繋げる事は、自分の魔力では不可能だった。
いつになる事やら、と店のカウンターに頬杖をついた、その時だった。
ギュオンと、妙に聞き覚えのある音が響いたかと思えば、そこに突如として大きな星型の穴が開いた。
「……エッ……!?」
そこから飛び出してきたのはボロボロになった、一隻の帆船だった。
マホロアにとって見覚えのある姿のそれは、あまりにも変わり果てた姿だった。
船の中心となる竜骨は折れ、オールはその殆どがへし折れて、マストも穴だらけ、エンブレムは欠け、ウイングにいたっては既にその姿すらなかった。
フラフラと力なく滑空する船は、そのまま『プププ王国』の郊外へと墜落していく。
ズドォオオオオンッ!
轟音を立てて墜落した空飛ぶ船。
王国からもその光景はよく見えて、黒煙があがる郊外を見つめた国民達がざわめき始める。
また何か災いの前兆かとざわざわと賑やかになる広場、騒ぎが大きくなっていくなか、『カービィハンターズ』の桃色の体の剣士がふと気付いた。
いつもお世話になっていたよろず屋が、24時間営業を謳っていたよろず屋が、いつの間にかもぬけの殻になっている事に。
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【STANDBY・・・>】
とある銀河に浮かぶ金色の大彗星。
薄く開いた瞳から、一筋の光が放たれた。
遠い星形の星へと、それは差し込まれいく。
そして目を閉じた『ギャラクティック・ノヴァ』はゆっくりと、宇宙に融けていくように消えていった。