君に見つけて貰うまでの物語 作:新世界
『我々に協力して下さいませんか?』
それは、いつだったか……この星に侵略してきた生命体を撃退し捕らえたとか言って暫くした頃だったか。
昔からよく変な夢を見ていた私は、それの一部が未来で起きている事に気付いていた。
必ず当たる訳でも好きな未来を見られる訳でもないけれど、私はそんな力と程よく付き合ってきたと思う。
一応未来予知ではあるからか、上手く使えないかと眉唾物と言われつつも物好きな者達によって研究チームが組まれ、私も気儘に研究に協力していた。
そんな時に見た未来の一つ……夢を見てる私の脳波を計測して把握した未来が、世界の終わりを示していた……らしい。
その時の夢はあまり覚えていないからなんとも言えないのだけど、古から伝わる伝承と通ずる部分もあり、世界が、星が滅びる事を上の人達は信じたみたい。
そういう傾向が星の至るところで発生している事も、その説を後押ししていたようで、人々を救う為のプロジェクトが始まったそうだ。
『新世界計画……ですか』
格好いい言葉を使っているけれど、端的に言えば……滅びる故郷を見捨てて新天地を目指そう、という計画だ。
私個人の考えで言えば、星が滅びるならばそれもまた一つの摂理として終わりを受け入れる……んだけど。
……まぁ、足掻く人の気持ちがわからないでもない。
終わるとわかってるものにしがみつき続けるよりは、可能性を信じて新たな道を切り開くのも、正しいのだろう。
『……わかりました。受けます』
熱心に頼み込んでくる担当者へと、私は是と返した。
私がやることは端的に言えばプロパガンダだ。
新世界計画という先の不透明な未来がまるで希望に満ちたものであるように歌い導く、というもの。
趣味で歌う配信をしている私に、絶望の未来を見た私に白羽の矢がたったのだという。
『それは良かった! 謝礼は望むだけご用意致しますので、ご安心ください!』
報酬は破格だったし、私はただ歌えば良いだけ。
私自身は新世界計画に懐疑的ではあったけれど、力になれるのであれば協力するのも吝かじゃない。
……まぁ、歌姫とまで祭り上げられて普段の振る舞いまで矯正させられたのは、流石に予想外だったけれど、終わってしまえば……そう悪い気分じゃなかった。
人の心を救って、計画が終われば後は遊んで暮らせる……そう思えば多少の苦労は目を瞑れた。
そうして数年、私の全面協力の甲斐があったのかはわからないけれど、殆どの人々は新天地を目指して旅立った。
私が知らないだけで混乱なんかはあったのかもしれないけど、宇宙船団は無事に旅立っていったように見えた。
星に残ったのは私のような変わり者や移住を拒否したものだけだ。
いずれは緩やかに衰退していくのだろう。
そんな折、報酬の一部をお気に入りの財布に突っ込んで、私は今テーマパークに遊びに来ていた。
新世界計画の始動と共に計画され、オープンした宇宙をテーマにした遊園地は、格安で様々なアトラクションがある事であっという間に大人気の施設になっていった。
食べ物も手頃な価格で、老若男女問わず一日中楽しめる、夢のような遊園地……。
流れる歌は私が歌う希望を謳った曲。
「ふんふん……♪ ふふん……♪」
流れるBGMに重ねるように鼻唄交じりに、テーマパークへと入場していく。
かつては賑わっていたチケット売場も閑散としたもの。
今は無料開放され、切られていないチケットが風に舞って飛んでいった。
キャストがいなくとも機能するように作られた空っぽの遊園地。
「……あっ、ポップコーンくださーい」
出来立てのポップコーンが排出される機械へと、なんとなく話し掛けながらお金を投入する。
傍目には出店のように見えるけれど、それは全て機械で制御され、精々ポップコーンの材料と調味料を補充するくらいで、全て自動で行われる。
ピッという音と共に機械の中で手早く調理が始まり、パチパチポンポンと特徴的な音が暫く響いた。
やがてチーンという音と共に排出された紙のカップに山盛りとなったポップコーンからは湯気が立ち上ぼり、ポップコーンとバターの良い匂いがした。
「はふっあむっ……うん、おいしっ」
久しぶりに食べる軽い食感とわざとらしいくらいの塩味に、思わず笑みが溢れる。
この流れに乗って、お昼ご飯は園内のファストフード店でハンバーガーだなと心に決めた。
ポップコーンを咀嚼しながら、私はゆっくりと辺りを見回していく。
自動で管理された無数のアトラクションが、私を待っている。
「歌姫やってた時は、ゆっくり回るなんて出来なかったからねぇ……今日は楽しむとしますか」
基本的にここに来るのはライブの時だけ。
後はオープンしたばかりの時宣伝としてアトラクションに乗ったりしたけれど……正直歌姫としての仮面を被ったばかりだったから、ヘマしないようにと気にするばかりで楽しめなかったし殆ど覚えてもいない。
だから今、逆に新鮮な気持ちでアトラクションを楽しめている。
……まぁ、そんなアトラクションの効果音やBGM、駆動音等の騒がしさに反して人は殆どいないから、違和感は凄いけれど。
「さて、お次は~っと♪」
遊園地の各地にあるマスコット、卵に犬の顔と手足をつけたような像を撫でながら、次のアトラクションへと足を運んでいく。
ジェットコースターに観覧車、メリーゴーランドにコーヒーカップ。
多種多様なアトラクションを楽しんで、お昼には予定通り無人のファストフード店でハンバーガーを頬張った。
ポテトにコーラも……しかもラージサイズ!
「ちゅー……ぷはっ、んー……ジャンキー」
歌姫やってた頃は体型維持も必要だったから、ジャンクフードなんてろくに食べていなかった。
だからか、久しぶりに食べたジャンキーな味は、凄く美味しかった。
腹ごなしにゴーカートを楽しんで、お化け屋敷……とは名ばかりの宇宙人のビックリハウスを見て回って、気付けば空は紺色に染まり始めていた。
専用の道路をイルミネーションをつけたパレードカーが走り抜けていく。
「……綺麗ね」
レストランでハンバーグセットを頬張りながら、それを眺めていた。
がらんとした店内の雰囲気を気にする事なく、出来合いとは思えない程味の良い料理に舌鼓をうった。
パレードが続くなかデザートのいちごのジェラートまで楽しんだ私は、お腹を擦りながら席を立つ。
そういえば、この遊園地の目玉の一つ、サーカスはどうなっているのかと気になったから。
「んー、お昼ハンバーガーだったんだから、ハンバーグじゃないのを食べれば良かったなぁ」
確か動物の芸が中心の見世物だった気がするけど……実情が少し胸糞悪かった気もする。
知能を強化するとか体をつくりかえるだとか、かなり倫理から外れた話をよく聞いていた。
だからあまりサーカスに良い思いは抱いていないのだけど……もしも人がいなくなり、動物達が囚われたままであるなら……ちょっとそれは寝覚めば悪い。
様子だけでも見に行ってみようと、賑やかなBGMに包まれイルミネーションに照らされながら、遊園地の最奥へと足を進めていった。
「……うわぁ」
そこには想像以上の光景が広がっていた。
サーカスのテントの周りに無数の動物達が思い思いに寛いでいて……私の姿を確認した瞬間文字通り飛び上がり、派手な色合いのテントへと駆け込んでいってしまったのだ。
私の想像していた『囚われの実験動物』からかけ離れた光景に暫し呆然と佇むも、このまま立ち尽くしていても仕方ない。
実情を知る為、私はサーカスのテントへと足を踏み入れたのだった。
パチパチパチパチパチ
私は大袈裟に手を叩き、ステージ上の動物達へと称賛を送った。
彼等は私の想像の数倍賢い子達だった。
明らかに普通ではない賢さを見せる動物達に複雑な思いはあれど、芸の素晴らしさは確かなものだった。
玉乗り、火の輪くぐり、空中ブランコにナイフ投げ等々、多種多様なショーは、私を存分に楽しませてくれた。
「……それにしても、二本足で普通に歩いてる違和感凄いなぁ」
ただ、ブランコに掴まったりナイフを持ったりと、普通の動物では有り得ない現象に思わず苦笑いが漏れた。
幸いなのは動物達が楽しそうな事だろうか。
観客は私一人しかいないというのに、芸を見せる事が楽しくて仕方ないのか……或いはそう調教されているのか……笑顔を浮かべているように見えた。
無理矢理やらされているようにも見えないし……そもそも自発的に始めていたし……素人目だけど栄養が足りてないようにも見えない……どこかに自動給餌機でもあるのか、もしくは……。
「皆が騒がしいと思えば、お客さんでしたか」
そんな思考の途中、不意に声をかけられた。
目を向ければ、ピエロのような帽子を被った人が、此方を見つめて微笑んでいた。
話を聞けば、どうやら元々このサーカスの一員で、残ったうちの一人なのだという。
主に動物達の世話をして暮らしているそうだ。
「とはいえ、ご覧なったように、みんな賢いから僕の役目は殆どないんですけどね。自動給餌機への原料補充くらいなもんで……たまーにくるお客さん対応、みんながやっちゃうもんだからサ、メイクする時間すらないんですよね」
そう言って笑う彼に、自嘲の色はあまりなかった。
きっと彼はここでそういう日々を送る事に抵抗はないのだろう。
動物達を見守り続ける事が自分の役目だと、それがみんなを変えた自分達の責務だと、そう語っていた。
そんな彼がいるなら、この動物達は大丈夫だろうと、そう思えた。
「……っと、そうだ! お近づきのしるしに何か……んー、ガムしかないね。まぁ良いのサ。お客さん、ガムでもお一つどうぞ」
独特のイントネーションで言葉を紡ぐ彼は、そう言ってスティックガムを差し出してきた。
好意を無下にするのも忍びなく、私はそれに手を伸ばす。
そんな折、視界の端で先程見事なナイフ投げを披露した豹……かな、猫っぽい子が見えて……此方を見て何処か呆れたように目を伏せた。
なんだろう、と思いつつも差し出されたガムに手が触れて……。
バチンッ
「あいたっ!?」
突然指先に傷みが走った。
見下ろせば、差し出されたスティックガムからバネが飛び出し、私の指を挟み込んでいた。
……いつだったか流行したジョークグッズの一つだ。
やられた……そんな思いで顔をあげれば、そこには頬を吊り上げてニヤリと笑うピエロの姿があった。
「ほっほっほー! 引っ掛かったのサ! やっぱり人に悪戯するのは最高なのサ! 動物達も頭良いから反応良いけど……人にやるのはまた格別なのサ!」
私の指を挟んだままのおもちゃを手放し、ピエロはケラケラと楽しそうに笑って両腕を広げた。
くねくねと身を捩りながら歓喜に震える姿に、悪戯された怒りよりも気味悪さが勝って、私は一歩後ずさった。
……変な人に絡まれちゃったなぁ、という思いで。
そして、それはそれとして、不意に頭に浮かんだ疑問を私はそのまま口にしていた。
「……人に悪戯したかったなら、宇宙船に一緒に乗ってったら良かったですのに」
すると彼はグネグネとした気持ち悪い動きをピタリと止めた。
ニヤニヤケラケラと頬を吊り上げた邪悪な笑いを引っ込めて、呆れたようにため息を吐く。
半目で此方をを見つめる彼は、ひどくつまらなそうに首を横に振った。
本気で言ってる?そう言われて、私は思わず言葉に詰まった。
「あんな狭い宇宙船にぎゅうぎゅうに詰め込まれて、楽しい悪戯なんか出来るワケないでしょ。この遊園地で働いてたからわかるのサ。あんな先行き不透明な死出の旅に付き合って、趣味の悪戯も出来ないで……そうして死んでいくなんて耐えられないのサ! ……それに」
最後に目を伏せたピエロは、徐に視線を動物達のほうへと向けた。
せっせと片付けを続けているもの、片付けを終えて体を伸ばしているもの、片付けをせず仲間で顔を見合わせて何かコミュニケーションをとっているもの、我関せず寝入っているもの、そんなサボっているものを怒っているもの……。
動物として見ると奇妙な光景ではあったが……そこには営みといえるものがあった。
それをピエロは目を細めて眺めていた。
「……ま、取り敢えずボク達はいつもここにいるから、気が向いたら遊びにきてちょーよ! みんなも芸を磨くだろうし、ボクもまた、新しい悪戯でおもてなしするのサ! また会う日を楽しみにしてるのサ! またね、歌姫サマ!」
そう言って笑うピエロに、悪戯は勘弁して欲しいと返すと、より笑みを深くして笑っていた。
笑顔のまま彼は振り返り、その場を離れ始める。
そこで、未だに私の手の中にあるジョークグッズは、と声をかければ、彼は後ろ手にヒラヒラと手を振った。
お近づきのしるしサと肩を震わせて、ピエロは動物達と共にテントから去っていってしまった。
「…………ふぅ、まぁ、面白い人だったね」
一言ではとても表せない濃い人だったけど……まぁ、悪人ではないのだろうと結論づけて、スティックガムの形をした悪戯アイテムを手の中で転がした。
それ以降、私はたまにここに足を運ぶ事となる。
その度に動物達とは仲良くなっていき、彼は至極楽しそうに私に悪戯を仕掛け、満足げな彼と動物達とのサーカスを見て私も満足してその日を終える……カラフルで騒がしい日。
そんな、終わった夢の跡の嘘の国……空っぽの遊園地の思い出……変わり者の友人との日々。