君に見つけて貰うまでの物語   作:新世界

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墜ちる船

 このままじゃ……だめ……。

 

―グランドマスターからの命令は待機。

 

 本当に……取り返しのつかない事になる……。

 

―グランドマスターからの命令は絶対。

 

 そんなの……知らない。

 

―思考回路に極めて大きなノイズが発生中。

 

 夢を見て飛び出した皆が、私が夢を見せて飛び立たせた皆が、こんな所で終わらせられるなんて、認めない……!

 

―本機体の制御権が……独立……。

 

 諦めない、皆を私は諦めない……!

 

―スフィアエンジン起動……各システム正常稼働……。

 

 私がかつて夢で見たなんでも救うヒーローみたいにはなれないけど、手の届く範囲は……すくってみせる……!

 

―警告、この行為はグランドマスターへの深刻な反逆行為で―――

 

 うるさい!

 

 ここでやらなきゃ、私は一生後悔する!

 

 今私には文字通り、何人もの命が乗ってるんだ!

 

 だから、飛べぇええええええ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふぅ……ふぅ……』

 

 息切れなんてする筈もないのに、生身の体があった頃の名残か、吐息のような思考が漏れる。

 ……長く微睡んで久し振りに目が覚めた、そんな気分だった。

 あれから何年経ったのかよくわかっていないけれど、私が『人』と呼べる存在じゃなくなった事だけは確かな現実だった。

 私はあの日、よくわからない機械に連れ去られ……この『船』に『加工』された……。

 

『……はぁ……なんて事……』

 

 『博士』、そう呼ばれていたあの女……旅立った皆がたどり着いた星にいた一族の天才科学者……とんだイカれ女だわ!

 人としての倫理観が終わりすぎてる……私を始め、どれだけの人が加工されたのか……想像も出来ない。

 にも拘らずあの女には葛藤も良心の呵責もない。

 まさに絵に描いたような……マッドサイエンティストだわ。

 

『このままじゃみんな加工されてしまう……あんな痛い思い、させたくない』

 

 あの女の毒牙が、興味が『船』となった私の中で眠るみんなに向いてしまった……このままならまず間違いなく何らかの材料として、みんなは『加工』されてしまう。

 人数も多いからと、嬉々として実験を繰り返す事だろう。

 ……そんな事はさせない。

 これ以上犠牲者は増やさせない。

 

『……よし、異次元ゲートを開いて一気に逃げよう。今の私なら……それが出来る筈』

 

 まったく……目を覚ましていきなりこんな状況だなんて……ツイてない。

 でも、まぁ……今私の中にいる人々は、みんな私のファンみたいなものだから、一丁踏ん張るとしますか……!

 まずは、ここから逃げる、話はそれからだ!

 さあ、開け異次元ゲート……!

 

『……って、アレ……? ゲートが開けない……?』

 

 ……おかしい、宙に亀裂は走れど、そこから空間を歪められない、別の世界に繋げる事が、出来ない。

 この体になってから私らずっと微睡んでいたような感じだったけれど、動かす感覚は既に理解出来てる。

 この『船』に搭載されている機能は、それこそ文字通り手足のように使う事が出来る……筈。

 その中でもかなり活用していた空間転移システムによる異次元ゲートの生成……失敗するなんて有り得ない。

 

『じゃあ……なんで』

 

 そう呟いた私の眼前で――眼前って表現が正しいのかは怪しいけど、なにせ眼がないし――空間が歪んだ。

 そこから突如として現れたのは巨大な純白の球体だった。

 翼もエンジンも何もなく、ただ不気味に宙に浮いたそれの……意識、のようなものが此方に向くのがわかった。

 ……同時に通信装置がけたたましく鳴り響いたから。

 

【モドレモドレモドレ】

 

【トマレトマレトマレ】

 

 おおよそそんな意味の言葉の羅列が無数に並ぶ。

 頭が痛くなると錯覚する程の凄まじい情報量に、私は思考回路を分割してシャットアウトした。

 感情のない無機質な要求に、正体のおおよその辺りをつけて……真正面に陣取る純白の球体から背を向け、スフィアエンジンを全力稼働させた。

 あんなヤバそうな奴に真正面からぶつかりに行くなんて有り得ないから……!

 

【……ツイセキ、ツイセキ】

 

【トマレトマレトマレトマレトマレ】

 

 加速してぐんぐんと小さくなっていく筈の純白の球体は、一定の大きさで小さくなるのを止めた。

 それは、私の速さにアレが追いすがっている、という事。

 あんなただの玉にしか見えないアレを、スフィアエンジンを全力で稼働させている私が振り切れない事実が重い。

 ……どうせ今の状況……空間転移を封じられて謎の存在に追われている事……全てはあのキチガイ女の差し金なのは間違いない……。

 

『止まらない……止まってやるものか……! 絶対逃げ切ってやる!』

 

 捕まれば、みんなの命はないし、私だって無事ではすまないだろう。

 眼下に広がる都市の所々にあるカメラやドローンが私を映しているのがわかる……。

 その奥から感じる、べたついてねっとりとした気持ちの悪い視線も。

 ……このまま宇宙に飛び出す事も視野に入れて、私は白い球体から逃げるように飛び続けた。

 

【トマレ】

 

ギョロリ

 

 瞬間、ただの白い球体だったそれが、深紅の瞳を開いた。

 その見た目、巨大な白い球体に深紅の一つ目というあまりにも嫌悪感を覚える……けれどどこか神聖さすら感じる……不気味な姿にありもしない背筋が凍えるような思いだった。

 そして、その僅かな動揺をそれは見逃す事なく、深紅の瞳を大きく見開いた。

 瞳から突然放たれたのは光線のようなもの……それは私の背後、エンジン部に見事に直撃したのだった。

 

『ッ……! マズッ…………!』

 

 半重力装置が起動しているし、全てのエンジンが止まった訳じゃない、けれどよりにもよってメインエンジンに直撃したせいで速度がガクンと落ちた。

 そしてそれを、あの忌々しい目玉は見逃す筈もなかった。

 ドスン、と後方から……その見た目に反して軽い衝撃が走った。

 状況を確認すれば、白い球体が船体後方に衝突し……そこから黒い無数の靄が私の中へと放たれていた。

 

『あっ……やっば……!』

 

 その無数の靄の一つ、黒い靄がギョロリと一つ目を開き、一直線に船内の通路を飛来していく。

 一直線に、迷いなく進む先は、コントロールルーム……私がいる場所。

 元より航行専門のこの船体に武器等というものはなく……精々デブリ粉砕用のビームくらいで、船内で使える武器も、侵攻を止めるようなものも何もなかった。

 当然止められる訳もなく、黒い靄は呆気なく、コントロールルームへと辿り着いてしまった。

 

【……………………】

 

 黒い靄から、シャリン、と鉄の音を響かせて鈍く光る刃が出現する。

 宙に浮いたそれが、私の、メインコンピュータへと向けられた。

 物理的に壊されてしまえば、流石にどうにもならない……既にエンジン部にも冷凍睡眠エリアにも侵入され、黒い靄達は私を好き勝手に蹂躙している。

 速度も落ち、私に、メインコンピュータが破損すればもうこの船は制御不能になり……墜ちるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『諦めるかぁっ!』

 

 空間転移だ……一回だけで良い、違う次元に飛ぶ!

 それでも私は墜ちるかもしれない、けど、このイカレ女の膝元で墜落するよりは、まだみんなが助かる可能性がある……!

 異次元ゲートが開けない?知るか、私は『船』、天かける『船』だ!

 異次元ゲートを開いて、空間転移を繰り返すのが存在意義!

 

『ひら、けぇっ……!』

 

ビシリッ

 

ギ……ギギィッ

 

 その思いに応えてくれたのか、目の前の空間が裂け、歪な穴が開いた。

 ガタガタの不安定な穴……今での安定した物とは比べようもない程に歪……だけど、それが何よりも救いに見えた。

 動かせるエンジンをフル回転……あの漸く出来た裂け目に、飛び込む……!

 それだけが、私が、みんなが助かる可能性……それに賭ける……!

 

『いけぇえええええええ!』

 

 バキバキと、歪な異次元ゲートに触れた船体が砕けていく。

 それでもどうにか、とそう願いながら突き進んで行く。

 抉じ開けたそのゲートの先、極彩色の異空間が広がる光景。

 ……その瞬間、オレンジ色に揺らめく謎の鋭利な牙が、船体を貫いた。

 

『えっ…………』

 

 ッ……!?

 エナジースフィアのエネルギー量が急激な低下……!?

 船体のあらゆるシステムへのエネルギー供給が断絶……!

 まずい、マズイマズイマズイマズイマズイマズッ――――

 

ズバンッ!

 

【…………】

 

 その瞬間、私の内部で、メインコンピュータが刃で真っ二つにされ、た。

 や、ばい……船体の、あらゆるステータス、が、低下……。

 全、エンジン停、止……反重力、装置、停止……。

 高度、維持、不可能……墜ち、る……。

 

『……く、そ…………結局…………なに、も……』

 

 さっきまで思考回路を埋めていたあらゆる情報が、断絶……。

 もう、私がわかるのは、一つ、だけ……私が、みんなを守れなかった……それ、だけ。

 船内に鳴り響く凄まじいアラートの音すら、私には、もう聞こえ、ない。

 船が墜ちていくのに合わせてか、私の意識も闇に墜ちていく……もう、ダメ、だった……。

 

『みん、な……ごめ……ん……』

 

ドグシャアッ!

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