君に見つけて貰うまでの物語 作:新世界
「……ふむ、そうか、『船』は墜落して、AI.Nは
『博士』は無数に浮かぶ画面に映し出されたデータを確かめながら、小さく頷く。
AI.Nの暴走の切っ掛けを確かめたかったものの、
それを少し残念に思いながらも、『博士』は得たデータの1つ1つを確かめていく。
どんな小さな事だろうと、見逃さないようにと目を皿にして。
「……ん? DM.1の思考回路にノイズ……? まあ元より想定外の存在だ、多少の異常は起こり得る、か。……0で管理出来てるうちは問題ないかな? 他の個体よりもしっかりとデータを収集していくとしよう」
ふと見たデータには、『船』を墜落させた最後の一撃、『船』のメインコンピュータを切り裂いたDM.1のデータが表示されていた。
有機生命体に取り付き、オモイ、ネガイを増幅させて、潜在能力を引き出す『博士』にとっても予想外の産物、DM。
同胞であった魔法派が信仰していたものから取り名付けたものでこれまで便利に使役していたが、ここにきて不安定な様子を見せ始めた。
とはいえ大本であるAI.0に問題は見当たらない為に問題はないと、『博士』は判断するのだった。
「それよりも『船』のエナジーをむさぼった無機生命体……エネルギー思念体のほうが正しいかな? このまま放っておくと『船』内部の有機生命体達の生命維持が出来なくなるから、先に救出と加工の工程を進めていこう。回収ドローンを派遣するとしよう」
思考を巡らせるのは、『船』の墜落の理由の1つ。
『船』が抉じ開けた異次元ゲートから現れた、エネルギー思念体の事。
船体に危害を加える事なくエネルギーだけを奪ったそれは、『博士』にとっても興味深い存在だったが、それよりもまず現状の対処が先だった。
材料が無為に消費される事は避けたいとの思いだった。
「それで思念体の対処だけど……少し興味深い反応があったから此方を害する事がなければ放置で良い。『船』の残りエナジーを囮にし、それでも此方のエネルギーを奪おうとするのであれば撃退または撃滅、可能ならば捕縛してくれ。なかなか良い研究材料になりそうだ」
眼鏡の奥の瞳には、新たな研究材料への興味が溢れていた。
しかし、元々の目的を忘れてもいない。
新たな画面を開き、『博士』は次なる発明、『冠』の設計図を満足そうに眺める。
つい、と指を這わせて、見開いていた目を細めた。
「……さて、これでやっと『冠』の作成に移れるな。後は経過観察を経て……ワタシの大望が叶う。さあ、さあ、材料はまだ届かない……なら基本設計だけはやってしまおう」
不意に逸らした『博士』の視線の先、『冠』の設計図の隣に鎮座する……巨大な設計図。
それは彼女の研究の終着点、究極の発明。
彼女曰く、万能の願望器にして、銀河の最後の希望。
彼女の名を冠した、ありとあらゆるネガイを叶える大彗星。
「ノヴァ……『ギャラクティック・ノヴァ』」
そう呟いて、ノヴァ博士は凄惨に嗤った。
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極彩色の空間、次元の狭間、異次元ロード。
そこに巣食うエネルギー思念体、丸みを帯びた体に羽根がついた姿、後に何者かに『ローパー』と名をつけられる存在。
その一体がふわりふわりとその空間を彷徨っていた。
その時、紫色のエネルギー体のローパーは、不意に見慣れないものを見つけた。
『…………?』
この空間には同族のローパーしか存在しえない。
仮に何かが迷いこめば、エネルギーを欲したローパーにどんなものだろうと全て食いつくされて消えてしまう。
故にそれはあり得ない存在だった。
赤と青のピエロ帽だなんて。
『…………』
ローパーの自我は薄いものの、多少の個体差はある。
そのローパーは好奇心が強い個体だったようで、そのピエロ帽へと羽をはためかせてて近付いていった。
なんでこんなものがあるのか、ローパーは頭を捻り体をくるりくるりと回しながら、無防備に。
そして、ピエロ帽が目と鼻の先になった時、それは起きた。
『ッ!????』
ただその場に浮いていたピエロ帽が、意志を持ったかのように動き、ローパーの頭を包み込んでしまったのだ。
一応目と口が存在するローパーは、視界が突然塞がれた事で羽をバタつかせて暴れる。
しかしその帽子はローパーから離れるどころか、むしろその体の全てを……バサバサと忙しなく動く羽こど包み込んでしまった。
やがてそれは丸くなっていき、赤と青の球体となって、一瞬半分以下の大きさとなり……。
『キャーッハッハッハッ!』
バサリッ
それは、一言で言えばピエロのような化け物だった。
色とりどりに輝く翼膜を広げて、赤と青のピエロ帽子を被ったそれは、裂けたような口から牙を覗かせて産声をあげた。
ゲタゲタと笑い声を漏らしながら、それは異空間の中で雄々しく羽ばたいた。
ローパーとは明らかに違う異形の姿……まるで悪魔のようなその存在はギョロリギョロリと二つの瞳を動かした。
『おっほっほっほっほっ!』
ピタリ、とある場所に視線を固定させたそれは、翼をはためかせ、一気に加速する。
その先には、閉じかけている歪な空間の裂け目……そこに体を折り畳んだそれは無理矢理体を突っ込んだ。
体を変形させながらその裂け目を通り抜け……その先に見えた光景にそれは笑みを深めた。
黒煙をあげて墜ちている船と、それに群がるローパーや黒い靄、そしてそれを見守るように佇む無数のドローンと純白の球体。
『キャハハハハハハハハハ!』
狂ったような笑い声をあげたそれは、その口を大きく……自分の体よりも大きく広げた。
ビキリ、空間が軋むような音が響き、それに気付いた白亜の球体が、深紅の一つ目を見開いた。
轟音、それの口から無造作に放たれたのは極太の光線だった。
無数のドローン、黒い靄、ローパー達を飲み込んだ光線は、純白の球体へと一瞬で到達する。
「…………」
けれどその光線は目を見開いた純白の球体の直前で、四方八方に飛び散りつつ霧散させられてしまった。
純白の球体は深紅の瞳を細めてそれを見た。
道化師のような姿をしたそれを、高濃度のエネルギーを放ち、容易く破壊を巻き起こすその存在を。
純白の球体、管理AI.0は判断する、創造主の指示の通りに、目前の『ローパー』の亜種を撃退及び撃滅、可能ならば捕縛する事を。
「…………!」
『キャーッハッハッハッハッハッハッハーッ!』
笑い声が響き渡る。
道化師と純白の球体がほぼ同時に光線を放った。
裂けた口から、深紅の瞳から、二つの光線は真正面からぶつかりあった。
余波が周囲のローパー、ドローン、黒い靄達を巻き込み、破壊していく。
「…………」
そんな凄まじい光景を墜落した『船』の甲板で、剣を持った黒い靄は、バイザーごしに見上げていた。
他の靄とは違い頭部には髪のようなものが逆立って生えていて、いつの間にかマントようなものを羽織っていた。
他とは違う姿に変わり果てていたのはDM.1と呼称された個体だった。
思考回路にノイズが発生している為に、事態が落ち着くまで待機を命じられている。
「…………?」
そんなDM.1のすぐそばに、小型の黒い靄がポトリと落ちた。
どうやら上空の争いに巻き込まれ、撃ち落とされてしまった個体のようだ。
DM.2、と呼称されているその個体はDM.1や他の個体と比べて小さく、性能も低い。
傷付いた今、その個体は恐らくそう間も無く力尽きる事だろう。
「…………」
DM.1はそう思考した。
しかし何の偶然か、幸か不幸か、その個体のすぐそばに小さな次元の裂け目が発生した。
上空での争いによって固定した筈の次元が不安定となり、僅かな隙間が小さな異次元ゲートとなって現れたのだろう。
そのゲートはすぐそばにあったDM.2を吸い込み……そしてそのまま消えてしまった。
「……………………」
それをDM.1はただ見ていた。
本来ならば連番の個体であり、仮に力尽きたとしてもそれはそれでサンプルになる為に確保しなければならなかったと、そう思考回路も判断していた。
にも拘わらず、待機命令が下されているからと、それを見逃す選択をとった。
その判断がノイズのせいなのか、それとも元になったツガイの生命体の残滓なのか、それは誰にもわからなかった。
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どう……なったの……?
私のエネルギーが一気に減ったと思えば、メインコンピュータがぶっ壊れて全ての機能が停止して……。
今……私は……?
……ああ、墜ちた、のか……。
殆どの機能が、ダウンしてる……エネルギーの残りも心許ない。
……このままだと、みんなが、危ない。
僅かな残存エネルギーを生命維持装置に集中……せめて、その命が失われないように……。
よし……これで、もう少しはもつ筈……。
それがどの程度救いになるのかは、わからないけど。
此方を害そうとする奴らに囲まれた状態で、そうしたところでみんなが無事でいられるかは、わからないけど。
それでも、諦めて何もせずに見捨てたくはなかった。
これが、今私が出来る精一杯だった……。
……意識が、薄れていく。
そもそもこうやって思考出来ている事が奇跡みたいなもの。
まるで眠りにつくような感覚で薄れていく意識が、また浮上するのかは……わからない。
でも……こうやって一度は目覚められたのだから、二度めがないとも思わない。
だから……奇跡を信じて今は停止……いや、眠りにつこう。
次はきっと……届く。
無理矢理開いた異次元ゲートの先、微かに見えた、不思議な形の星……星形の星に。
あの空の星に、届くと信じて。
私はまた、眠りにつく……。
深い、深い眠りに……。
………………。
…………。
……。
―機能停止。