「おのれ……ディオ……! 貴様は汚泥だ……ッ! ジョナサン様の作られた清らかな楽園を、再びそのドブネズミのような野心で汚そうというのかッ!」
ディオの波紋によって肉体を内部から焼かれ、膝をついたブラフォードが、形相を変えて吠えた。かつてジョナサンから与えられた「穏やかな微笑み」は消え、そこにあるのは、友を、そして理想を土足で踏みにじられたことへの凄まじい「憎悪」だった。
「……呪ってやる! 貴様は永遠に光を掴めぬ! 暗闇の中で、己の孤独に震えて死ぬがいいッ!」
ブラフォードの呪詛を、ディオは正面から浴び、そして恍惚とした表情で笑った。
「ヒャハハハ! それだ、ブラフォード! その歪んだ顔、その毒々しい声! ようやく『人間(ひと)』らしくなったじゃねえか。ジョジョの作った冷たい彫像(置物)より、今の貴様の方がよっぽどマシな面をしてるぜ」
「な……ッ!?」
「あばよ。その憎しみを抱いたまま、地獄へ戻りな」
ディオの指先が、ブラフォードの眉間に優しく触れる。刹那、凝縮された波紋が脳細胞を焼き、ブラフォードは呪いの言葉を遺したまま、一筋の煙となって夜風に消えた。
「さて……。もう一人のデカいのはどうした?」
ディオが視線を向けると、そこには「殺戮者」タルカスが立っていた。しかし、その様子がおかしい。彼はジョナサンから与えられた純白の甲冑を、自らの怪力で引きちぎり、ゴミのように捨て去っていたのだ。
「……フン。型に嵌められた戦いなど、もう飽き飽きだ。ジョナサン様の『正義』は確かに心地よかったが……俺の血は、もっと熱いものを求めていたらしい」
タルカスは、剥き出しの筋肉を波打たせ、まるでリングに上がる猛牛のように地面を蹴った。かつての、そして本来の彼である「野蛮な戦士」の目が、ディオを射抜く。
「ディオ・ブランドー! 貴様の波紋、俺の全身で受け止めてやる! どちらの『生』が上か、力比べといこうじゃねえか!」
「ハッ! 気に入ったぜタルカス! 理屈じゃねえ、そう来なくっちゃあ盛り上がらねえよなァッ!」
ディオは「計算」を捨てた。
襲いかかるタルカスの巨体を、真っ向から波紋を込めた肉体で受け止める。肉と肉がぶつかり合い、骨が軋む音。それは管理された城門の前で繰り広げられる、あまりにも野蛮で、あまりにも「生々しい」プロレスのような乱戦だった。
「オラァッ!」
ディオの右ストレートが、タルカスの分厚い胸板を凹ませる。同時にタルカスの剛腕が、ディオの肩を砕かんばかりに圧殺する。
「カカカ……! 良い! 良いぞ、ディオ! 体が焼けるようだ……俺は、今、生きているッ!」
最後の一撃。ディオはタルカスの懐に飛び込み、渾身の波紋をその心臓へ叩き込んだ。
「チェックメイトだ、タルカス!」
「……感謝……する……。久しぶりに……熱い、風が……吹いた……ぜ……」
タルカスの巨躯が、内側から発光し、崩れ去っていく。その最期の顔には、ジョナサンから与えられた「管理された微笑」ではなく、全力を出し切った戦士だけが浮かべる、晴れやかな満足感が宿っていた。
「……やれやれ、これだから人間って奴は効率が悪くて助かるぜ」
ディオは砕けた肩を波紋で繋ぎ合わせながら、一人残された城門の奥、ジョナサンの待つ玉座へと続く階段を見上げた。
「さあて、行こうか。……あのお坊ちゃんに、人間がどれだけ『汚くて熱い』生き物か、たっぷりと教えてやるために」