城門を突破し、黄金の波紋を撒き散らしながら進軍するディオたちの姿を、最上階のバルコニーから見下ろす影があった。
ジョナサン・ジョースターは、手すりにそっと指をかけ、うっとりとした表情でその光景を眺めている。彼の瞳には、ディオたちが放つ執念や、タルカスたちが最期に見せた生の輝きが、この世で最も醜く、そして「目障りな光」として映っていた。
「……ああ、なんて眩しいんだろう」
ジョナサンは溜息を吐き、陶酔したように目を細めた。
「ディオ。君たちが放つその光は、泥の中で足掻く者の、下俗なエゴの輝きだ。それはまるで、僕が整えたこの静寂な夜空を汚す、不躾な星のようだね」
彼の脳裏には、ある不快感が渦巻いていた。
自分が管理者として作り上げた「完璧な白の世界」。そこにおいて、自分以上に「熱く」輝き、民衆の目を惹きつけるディオの存在は、ジョナサンにとって許しがたい「不純物」だった。自分こそがこの世界の中心であり、唯一の太陽(聖人)でなければならない。
「そうだ……。思いついたよ、ディオ。君たちは、そこに留まって輝くべきではないんだ」
ジョナサンは、まるで天に祈る聖者のように、ディオたちに向けて優しく右手を差し出した。指先からは、吸血鬼の冷気と、彼独自の歪んだ情熱が混ざり合った「白銀の霧」が溢れ出す。
「君たちは、『流れ星』に変えてあげよう。一瞬だけ激しく燃え上がり……そして、僕の視界から永遠に消えて、清らかな闇に還るんだ。それが、君たちという『汚れ』にふさわしい、最後のご奉仕だよ」
ジョナサンの指先が、ピアノの鍵盤を叩くように空を舞う。
次の瞬間、バルコニーから放たれた氷の礫(つぶて)が、大気との摩擦で青白く燃え上がり、文字通り「逆流する流星群」となって、地上を進むディオたちへと降り注いだ。
「さあ、おやすみ。ディオ。君のその熱いエゴも、僕が美しく冷やしてあげよう……」
地上で爆発する青白い炎と、逃げ惑う人々の悲鳴。
それを「天使の歌声」であるかのように聴きながら、ジョナサンはエリナを振り返り、優雅に微笑んだ。
「掃除の時間は終わりだ。……さて、次はお茶の時間にしようか、エリナ」
夜空から降り注ぐのは、慈悲という名の処刑――。
ジョナサンが放った「流れ星(氷の礫)」の群れは、着弾と同時に大気を凍らせ、地表を粉砕する無差別爆撃と化した。
「……計算しろ。一秒後の死を、十手先の絶望をッ!」
ディオは吠えた。
本来の彼は、ジョナサンのように天才的な格闘センスで戦場を支配するタイプではない。彼の真価は、冷徹な観察眼で敵の動きを読み、未来の「予定表」を書き換えることにあった。
「氷の落下速度、風力、飛散角度……。右三歩、一回転して左。そこが、この盤上で唯一生き残れる『空白』だッ!」
ディオの脳内では、降り注ぐ氷の礫すべてに軌道線が引かれていた。
彼は、ラグビーのフィールドで泥にまみれながら相手を抜き去った、あの強靭な脚力を限界まで爆発させる。計算弾き出した「安全地帯」へ、肉体を無理やり追いつかせる過酷な機動。
氷の礫が、ディオの髪を掠め、コートの裾を切り裂く。
だが、彼は一歩も止まらない。氷が爆発する火花の中を、まるでダンスを踊るように華麗に、かつ最短距離で駆け抜ける。
ディオは最後の一閃を紙一重でかわすと、倒壊しかけた建物の深い影へと滑り込んだ。肩で息をしながらも、その瞳は勝利の数式を見失っていない。
一方、後方の広場は地獄と化していた。
「うおぉぉっ! ダイアー、ストレイツォ、防げッ!」
ツェペリが叫ぶ。彼ら波紋戦士たちは、ディオのように「避ける」ことは不可能だった。仲間の頭上に降り注ぐ死の雨を、自らの拳と波紋で一つ一つ撃ち落とし、防御に徹するしかない。
「波紋……『稲妻十字・防壁』ッ!」
「……浄化の光よ!」
彼らが必死に仲間を守る防戦一方の状況で、ディオはすでに「単独」で包囲網を抜けていた。ツェペリたちの献身すら、彼は「ジョナサンの注意を逸らすためのデコイ(囮)」として利用したのだ。
「フン……。あいつらが掃除をしている間に、俺はあのお坊ちゃんの喉元へチェックをかけさせてもらうぜ」
ディオは影の中、ジョナサンの待つ玉座への最短ルートを走り出す。
その背後で、ジョナサンはバルコニーから、仲間を守るために泥臭く足掻くツェペリたちの姿を見て、悲しげに首を振った。
「ああ……。せっかく綺麗に消してあげようとしたのに、まだ『汚れ(友情)』に固執するのかい? ……ディオ、君はどこだい? 一番美しい流れ星になったのは、君のはずだろう?」
ジョナサンが、まだ「影」の中に潜むディオの存在に気づいていないその隙。
ディオは、城の最深部、ジョナサンの背後に繋がる秘密の通路へと、静かに、そして冷徹な殺意と共に足を踏み入れた。