ジョナサン・ジョースターの完璧な台本   作:みそそ

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死体置場の静けさ

ジョナサンは、ゾンビ化した父を連れ、かつて調査で訪れたことのある人里離れた廃教会へと身を隠していた。

窓の外では、彼にとっての宿敵となるはずの「朝日」が昇り始めている。しかし、教会の深い闇の中にいるジョナサンは、恐怖ではなく、かつてない万能感に包まれていた。

彼は手近にあった古い石板の破片を、指先だけで粉々に砕き、その断面を冷徹に観察する。

「……なるほど。これは呪いでも魔術でもない。きわめて論理的な、生命の『再構築』だ」

ジョナサンは自らの白く冷たい手を見つめ、脳内で考古学者としての知識を整理し始めた。

「石仮面の骨針は、人間の脳の未知なる領域……いわば『神の座』を物理的に刺激したのだ。それによって血液の巡り、細胞の代謝、思考の速度……そのすべてがリミッターを外され、数万年規模の進化を一瞬で遂げた。……僕は今、人間という不完全な器を超越したんだ」

彼は、椅子の傍らで「ウウ……」と力なく蠢く父ジョージの頭を優しく撫でた。

「父さんもそうだ。肉体は崩壊したが、細胞は今もなお僕のエキスによって『純粋な生存』を続けている。……かつての父さんは、ディオの素行に悩み、階級の維持に腐心し、常に心の平安を欠いていた。でも、今の父さんを見てごらん。なんと無垢で、なんと静かなんだ。欲望も、嫉妬も、怒りもない……」

ジョナサンの瞳に、奇妙な熱が宿る。それはかつての「黄金の精神」が、吸血鬼の圧倒的な力というフィルターを通した結果、歪み切った「選民思想」へと変質した瞬間だった。

「僕が理解したこの真理を、世界に広げなくては。……下層の民は飢えに苦しみ、上流の貴族は傲慢さに溺れている。誰もが『心』という不完全な装置に振り回されているんだ。ならば、僕が彼らを管理(リード)してあげよう」

彼は教会の暗闇の中で、独り、美しい旋律を口ずさむように語り続ける。

「僕が彼らを一人ずつ『浄化』し、この冷たくて静かな世界へ引き上げてあげるんだ。僕の手で、世界を一つの完璧な庭園(エデン)に作り変える。そこに汚れや争いは一切ない。……そう、それが僕に与えられた『紳士』としての新たな義務(ノブレス・オブリージュ)だ」

ジョナサンは、足元で蠢くゾンビの一体に優しく微笑みかけた。

「君はもう、パンを盗む必要はないよ。僕の一部になれば、永遠の安らぎが約束される。……ああ、なんて素晴らしい救済なんだろう」

教会のステンドグラス越しに、わずかに差し込んだ朝日の筋がジョナサンの指先に触れ、シュウと小さな音を立てて煙が上がる。

激痛。だが、ジョナサンは眉一つ動かさず、その「拒絶」さえも慈しむように見つめた。

「太陽……。強すぎる光は、時として真実を焼き尽くす。……分かったよ。僕は夜の太陽(月)となって、この世界を優しく、冷たく照らすことにしよう」

ジョナサンの背後で、かつて彼が愛した「人間賛歌」という言葉が、音を立てて崩れ去っていく。彼が目指すのは、賛歌されるべき人間のいない、完璧に管理された「死体置場の静けさ」だった。

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