「バ、バケモノだ! こいつら、死んでるのに動いてやがるッ!」
静寂に包まれていたはずの広場に、悲鳴が突き刺さった。
ジョナサンが「マナーの良い隣人」として配置したゾンビたちは、ただ立っているだけなら無害だった。しかし、異形の肌、呼吸をしない胸、そして虚空を見つめる瞳……。それらは生きている人間にとって、生理的な嫌悪と恐怖を煽るには十分すぎた。
恐怖は伝染し、暴動へと変わる。
パニックに陥った民衆が、近くにいた「静かなる隣人(ゾンビ)」に火炎瓶を投げつけ、石を投げた。
「ウウ……ア……」
額を割られたゾンビの瞳に、不気味な赤光が宿る。
ジョナサンが教え込んだ「規律」よりも深く、肉体に刻まれた吸血鬼の末端としての「自己防衛本能」が目を覚ました。
「ギャアアアッ! 腕を、腕を噛まれた!」
「逃げろ! こいつら、人を食うぞ!」
かつてジョナサンが「浄化した」はずの街は、一瞬にして阿鼻叫喚の地獄へと逆戻りした。
「ハッ! 傑作だぜジョジョ。お前がどんなに気取った『楽園』を演出しようと、種(人間)の本能までは書き換えられなかったようだな!」
混乱の渦中へ、ディオ・ブランドーが悠然と踏み出した。逃げ惑う群衆とは逆に、彼は獲物を見定めた狼のような鋭い足取りで、牙を剥いたゾンビたちの中心へと進む。
「おい、ツェペリ。ちょうどいい『標的』が用意されたぜ。俺の波紋の精度、このガラクタどもで試させてもらう」
一体のゾンビが、驚異的な跳躍でディオの喉元へ躍り出た。
かつてはディオの舎弟だった男だ。だが今のディオにとって、それはもはや知った顔ですらない。ただの「計算対象」だ。
「……呼吸、安定。心拍、正常。……衝撃波の伝達角度、四十五度」
ディオは瞬き一つせず、迫り来るゾンビの細胞の動きをハッキングするように見据えた。
吸血鬼の肉体は硬い。だが、波紋を一点に凝縮し、その「振動」を内部から共鳴させれば、どうなるか?
「波紋法……『点穴破壊(ドット・ブレイク)』」
ディオの拳がゾンビの胸板に触れた。殴るのではない。ただ、指先を添えるような、あまりにも淡白な接触。
だが次の瞬間、ゾンビの背中から眩いばかりの黄金の光が突き抜けた。
「……あ」
ゾンビが声を漏らす間もなかった。
波紋のエネルギーが血管を、骨を、そして石仮面によって変質した細胞を「理屈」で焼き尽くしていく。ジョナサンが与えた「保存の氷」が瞬時に沸騰し、蒸発し、ゾンビの肉体はドロドロの泥となって地面に崩れ落ちた。
「ふん……。出力不足だな。一秒遅い。……だが、殺傷効率は悪くない」
ディオは返り血の一滴すら浴びることなく、冷徹に次の「計算」を始める。
周囲には、ジョナサンの「慈愛」を体現していたゾンビ騎士たちが、醜い本能を剥き出しにして次々と集まってくる。
「来いよ、ジョジョのコレクションども。貴様らのような『お行儀のいい死体』を、俺がこの世から一匹残らず消去してやる……。計算通りになッ!」
狂乱する民衆と、襲いかかるゾンビ。
その中心で、黄金の火花を纏いながら不敵に笑うディオの姿は、救世主というよりは、冷酷な破壊神そのものだった。